トランプ
「ということで、一応ありごとうございました。」
「いいってことさ、大事な部員が困っているようだったからね。」
無理やり入部させた部員がね。
「活動と言っても、俺は何をすればいいんですか?」
「あー、そうだね。どうせなら1人で出来なかったことをしたい。」
「と言うと?」
「これだよ。」
いきなり手を差し出してきたので見ると、そこにはトランプが乗っていた。
「まさか……」
「1人じゃ暇だったからね、これでもしようよ。」
「これでもしようよって、やっぱり真面目に活動なんてしてなかったんじゃないですか。」
やはりこんな部、存続させるのは間違っているかもしれない。
「まあまあ聞きたまえ。部活と言ったら活動時間が放課後だろ?」
「……そうですね。」
「うちの部活は人間観察をする部活で、人がいないといけない。」
「まあ、そうですね。」
「放課後は人がいない。」
「………………」
生徒会長に今からでも退部届けを出すと宣言してこようかな。
「でも他の部活を見ればいいんじゃないですか?多分まだ残ってますよ。」
「私もそう思っていたのだがね。文化部は気が散るからと追い出され、運動部は見てたら運動部の監督に怒られたんだ。私は人に怒られるのが何よりも嫌いでね。もう行きたくなくなったというわけだよ。」
この人はあまり好かれるタイプじゃないから煙たがられているのだろう。
「それで、トランプですか。」
「そういうことだよ。」
俺は例のごとく大きくため息をつくと、トランプのシャッフルを始めた。
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1時間半ほどトランプをして、(付き合わされて)0勝34敗。こんなに楽しくないのは初めてだ。学校始まって以来の天才と、しかもよりによって神経衰弱とは。勝てるわけが無い。
「そろそろ帰ろうか。」
「もう絶対こんなゲームしません。」
「ははは、私は久しぶりに楽しかったよ。」
「はいはい。良かったですね、」
次からはもっと頭を使わないゲームを俺が持ってこよう。
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図書委員の仕事だの、実行委員の仕事だの、人間観察部だの、俺の放課後はさながら運動部のような忙しさになった。
だがそのうちの一つももうすぐ終わりである。俺たちは3日後に体育祭を控えていた。
「この仕事ももうすぐ終わりだな。」
「そうだね、やっと解放されるよ。」
仲直りはしたものの、まだ少しだけ気まずさがある。一度こじれてしまったものはそう簡単に元に戻ることは無い。時間をかけるしかないだろう。
「もうやることと言ったら、当日の準備くらいか」
「そうだね。まあラストスパート頑張りますか。ところでさ、」
「なんだ?」
渡辺さんはなんだかモジモジしている。
「明日放課後また勉強見てくれないかな。」
俺は明日の予定を思い出した。実行委員の仕事はない。図書委員の仕事もない。だが、部活があった。
「あー、明後日でもいいか?」
「いいけど、なんか予定でもあった?」
「うん。部活を始めたんだよ。」
この言葉に渡辺さんはとても驚いたようだった。
「部活?!あの園田くんが?何部?」
「まあ、怪しさしかないしそもそもちゃんとした活動をしているのか分からないんだけど、一応人間観察部とかいう部活に入部したんだよ。」
「人間観察部?」
やはり想像通り意味不明といった顔をしてきた。当たり前だろう。俺だって人間観察部なんて意味不明なんだから。
「うん。人間観察部」
「何する部活なの?」
「…………えっと、主にトランプ、かな」
「へ?」
うん。意味不明だな。
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「ところで、今日は何をするのかな?」
「今日はすごろくです。」
そういうと俺は机の上に持ってきたすごろくを開いた。
「すごろく?」
「はい。すごろくなら頭を使うところなんてないでしょう。全部運なんですから。」
「ふーん。まあ、やってみようか。」
1時間後、、、、
こんなはずじゃなかった。この人にとってすごろくは運ゲーなんかじゃない。
毎回投げる時角度と力加減と高さを一瞬で完璧に計算して、毎回出したい目を出すなんて、人間離れだ。もはや精密機械の域である。
「まだやるかい?」
「降参です……」
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「それで、その人間観察部ってのは楽しいの?」
「楽しい?楽しいわけが無いだろ。どんなゲームだって1回も勝てないんだぞ?」
「でも、毎回これなら行けるってゲームを見つけてはウキウキしながら部活に行ってるじゃん。」
まあ、確かに、ほんのちょっとは楽しいかもしれないが。
唯はボソッと小さな声で言った。
「私も入ろうかな……」
「え?今なんて?」
「なんでもないよ。それより、この問題ってどうやって解くのかな?」
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「お前、お前はなんでいつも美少女と縁があるんだよ?渡辺さんといい倉本先輩といい、前世でどんな得を積んだんだよ?世界でも救ったのか?」
最近どれだけ自分が大変な思いをしているかということを伝えたつもりだったが、晃大からしたら羨ましいことだったらしい。
じゃあ一度変わってみてくれよ……




