立場
「それで、どういうつもりですか?」
「どういうつもりも何も、君には人間観察部を存続するための生贄になってもらおうと思ってね。」
随分と勝手な言いがかりだ。
「先生には咎められていないと聞きましたが。」
「先生達には、ね。学校は実績が欲しいが、生徒はそんな事関係ない。生徒会はどうやらこの部を潰したいようなんだよ。」
そりゃそうだろう。1人でこんな広い教室を占領しているなら生徒の不満も溜まるに決まっている。
「でも、先生方は立ち退かなくてもいいと言っている。しかし、生徒の不満は溜まる。そんな生徒たちの批判に先生は押し負けて、1人新しい部員を連れてこないと廃部にするなんてことを持ちかけてきたのだよ。」
「でも、なんで俺なんですか!」
「君はなんだか頭が良さそうだし、タイミング的にもちょうど良かったからかな。」
そんな適当な理由で……
「ということで、これに君の名前を記入してくれないかな?」
そう言うと倉本先輩は俺に入部届けを差し出してきた。
「絶対に嫌ですよ。」
「なぜだい?君は他に部活にも入っていないようだし、放課後の予定もほぼ無いはずだ。」
一体全体どこでそんな情報を仕入れてきたのだろう。普通にプライバシーの侵害だ。
「君はこれに名前を書くだけでいい。あとは……そうだな、時々顔を出せば大丈夫だ。たったそれだけなのだからいいじゃないか。人助けだと思って。」
また先輩はニヤリと笑った。
「それに、君は悩みがあるんだろ?手を貸すからさ。」
俺がうんと言うまで返してくれなさそうな雰囲気だ。純太はまた大きくため息をすると。
「……わかりました。入りますよ。」
妥協に妥協を重ねてそう言った。放課後やらなきゃいけないことがまた増えてしまった。
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次の日の放課後、実行委員の仕事中に早速アドバイス通りにしてみることにした。
俺は昨日言われた事を思い出す。
「今まで親しくしていた相手に急に冷たくするということは、何か君がミスをしたということだろう?」
「まあそうですね、」
「相手は君の至らなかった所を知っていて、君はそれを自覚していない。ここで、立場を逆にしてみよう。君が誰かに怒っているが、相手はなぜ怒られているか気づいていない。と考えるんだ。その場合、君は怒っていて口を聞きたくないけど、相手がそれを自覚していないという事実も、なんだかそれはそれでムズムズするしイライラするだろう?相手は自覚がないんだから。」
「そうですね。」
先輩は俺に指を指すと言った。
「つまり、その君に冷たく当たっている相手は君になんで怒っているか本当は言いたいが、口を聞きたくないから言えていない状況なんだ。だから、無理にでも会話する流れを作ればいいんだよ。そうすれば多分なぜ怒っているか教えてくれるよ。」
「なるほど、試してみます。」
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俺はわざとプリントを渡辺さんの方に落とした。
「ごめん、渡辺さん。それ取ってくれない?」
「あ、ああこれね。はい」
このまま無理やり会話へと持ち込む。
「ありがとう。ところでさ、最近様子が変だけどどうしたの?」
「そ、それは。」
「なんか悩みでもあるの?ちなみに俺にはあるよ。最近友達に冷たくあたられていてね。」
渡辺さんは少し反応すると、その後すぐに口を開いた。
「……んで」
「え?」
「なんで。」
「なんでって、何が?」
「私の事、友達って。でも、私とは仲良くないんでしょ!?」
すぐに前の記憶が蘇る。かなり印象に残っていたのですぐに思い出せた。あれ、聞かれてたのか……
渡辺さんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「違うんだよ。本当にそう思っているわけじゃない。あれは仕方なかったんだ。」
「仕方ないってどういうこと。」
俺はあの日のことを全て話した。
「……そう言うこと?」
「うん、」
「じゃあ、私と園田くんはちゃんと仲良いよね?」
「まあ、そうだね。今のところ二番目くらいに仲のいい友達だ。」
渡辺さんは久しぶりに笑顔を見せながら言った。
「そこは1番って言いなさいよ。」
思っていた100倍上手くいった。無理やり部活に入部させられなければ本当に感謝していただろう。
なんにせよ、上手くいってよかった。




