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策士

 あの一件から、私が【月夜の君へ】に触れても佐藤さんは現れなくなった。私にとっての数少ない友達。そんな人ともう会えないとなると、とても悲しい気持ちになった。

 そして、もうひとつ。園田くんのことだ。どうにかして仲直りしないと。


 あまりにショックで自分の中で全然話をまとめられていなかった。そのせいで思わず冷たくあたってしまった。


 それから学校で話をする機会をずっと探していた。しかし、なかなかタイミングが合わない。そして気づいた。いつもと園田くんの様子が違うのだ。

 なんだか、私を避けている気がする。

 前まではちゃんと挨拶をしてくれたし、時々目が合う事もあった。今ではそれがない。自分も今の今まであんな態度だったこともあっていきなり話しかけるなんて言うのは気が引けた。


 もしかしたら、嫌な態度のせいで嫌われた?そんな考えが頭によぎる。


 そうして唯一の話す機会である実行委員の仕事中、私は何とか話しかけようとしていたのだが、園田くんは黙々と仕事をしていてタイミングが掴めない。


 結局、そのまま何も話せずに1週間ほどすぎてしまった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


「それで、あなたは一体何者なんですか。」


「そういえば言っていなかったね。私は倉本朱里(くらもとあかり)。一応「人間観察部」の部長をしているんだよ。」


 なかなか面倒くさそうな人に目をつけられたものだ。


「人間観察部?なんですかその怪しさ全開の部活は。」


「まあ、部活と言っても部員は私一人しかいないし、そもそも私が勝手に部活を名乗って勝手に空き部屋を占領しているだけなんだけどね、」


「……それって、先生は良しとしているんですか?」


 そんなことをしていたら部屋をすぐにつまみ出されるだろう。


「いいんだよ。先生達は私に口出しできないからね。」


 口出しできない。ということは、どういうことだろうか。理事長の娘かなにかなのだろうか。


「なんでです?」


「それはね、人間観察部を部として認めないと言うなら私は一校しか受験しないと言っているのだよ。」


「どういうことですか?」


「どうやら、本当に私のことを知らないみたいだね。これでも一応。学校始まって以来の天才とか何とか噂されてるんだけどな。」


 ……学校始まって以来の天才。そんな現実から離れた言葉でも何故か目の前にいるこの人にはピッタリの言葉に思えた。


「それに、入学してからテストで失点したことないし。」


「……は?」


 入学してから失点したことない?さすがにそれは予想外すぎる。入学してからずっと学年一位という訳ではなく。そもそも失点がないなんてことが有り得るのだろうか?でもこの人は本当にやってしまいそうな雰囲気がある。今のところ半信半疑だ。


「それは、凄いですね。」


「そうだろう。すごいんだよ私は。まあそんなこともあって、私が一校しか受験しないと学校も困るんだよ。たくさん受かって貰って、たくさん実績を作りたいだろうからね。」


「なるほど。」


 それなら、先生も何も言えなくて仕方ないだろう。


「じゃあ、人間観察部って何をしているんですか?」


「ああ、その名の通りだよ。色々な人の行動を見て、何を考えてるのかとか、なんでそんな行動をするのかとかそんな事を想像してメモする。それだけだ。言ってしまえば、私の趣味のための自己満足部活だよ。」


 随分とハキハキとしている。自分の好きなことになると滑舌がかなり良くなるようだ。


「なるほど。珍しい趣味をしているんですね。」


「まあそうだね。おっと、いつの間にか質問者が逆になってしまったね。そろそろ私からも聞かせてもらうよ。あの霊は━━━━━」


 その時、キーンコーンカーンコーン。と、割り込むようにお決まりのチャイムがなり、昼休みの終了時刻を合図した。


「もう時間か、仕方ないな。明日また来るよ。あ、そういえば君の名前を聞いていなかった。なんて言うんだい?」


「園田、純太です。」


「園田純太ね。覚えたよ、じゃあまたあした。」


 明日、そう言って倉本さんは手を振りながら階段をのぼって行った。有無を言わせない。とはこのことだろう明日俺がまたここに来ることは確定しているらしい。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 その後、晃大に聞いてみることにした。


「なあ、倉本朱里って知ってるか?」


 晃大はすぐに答えた。


「知ってるも何も、この学校の有名人だろ。知らない方がおかしいって。」


 じゃあ知らなかった俺はなんなんだ。


「あ、ああ。それはそうだな。」


「倉本朱里っていったら、入学以来テストで1回も失点したことが無いっていう話だよな。 まじ信じられないくらい頭いいよな。」


「そうだな、本当にすごい。」


 どうやらあの話は本当だったらしい。頭がいいどころの話ではないな。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 次の日になっても、相変わらず渡辺は俺に冷たい。一体どうすればいいのだろうか。全く難しい話だ。


 嫌な気持ちを抱えたまま昼休み、約束通りに昨日の廊下の辺りにいると倉本先輩は現れた。


「やっ!園田くん。昨日ぶりだね。」


 昨日はいきなりだったから気にする暇はなかったが、改めて周りを見てみるとかなり注目されている。倉本先輩は有名なだけあって注目の的らしい。


「えと、昨日ぶりです。」


「うん。さっそく昨日の続きなんだけどさ、その霊ってもう成仏しちゃった感じ?」


「あー、はい。ちょうど目撃された日に。」


 それを伝えると倉本先輩はあからさまに残念そうな顔をした。


「あー、そうかーもう成仏しちゃったか、仕方ないね。1回話してみたかったんだけど。」


「それは残念でしたね。」


「聞きたかったのはそれだけだよ。」


「そうですか。」


 ふと、倉本先輩が俺の顔を覗き込む。


「時に園田くん。君、何か悩み事でもあるのかな?」


「え?なんでです?」


「何となく上の空といった感じだし、時々目を私から逸らし、どこか虚空を眺めているような目をしていた。あとは勘かな。」


 これ程短い会話でそれだけの事がわかるとは……さすが、人間観察部なんてものをやっているだけある。


「確かに悩み事ならありますね。」


「やっぱりね、どう?話してみる気は無い?」


「……いえ、人に話すようなことでは無いので。」


「そうかい?霊のことを教えてくれたお礼に、何かアドバイスでもしてあげようと思ったんだけど……」


 倉本先輩のアドバイス……確かに欲しいかもしれない。


「やっぱり話してもいいですか?」


「うん。いいとも」


「実は━━━━━━━━━━━━━━━」


 俺は友達に最近冷たくあたられているという旨を伝えた。


「……なるほどね。じゃ、放課後部室に来てよ。その時にアドバイスしてあげる。」


「今じゃダメなんですか?」


 まあ今日は実行委員の仕事も図書委員の仕事もないから大丈夫なのだが、


「だって、もうすぐチャイムがなるしね。」


 先輩がそう言った瞬間。チャイムの音が聞こえてきた。


「、そうみたいですね。」


 この先輩にはかなう気がしない。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 放課後になり、俺は人間観察部の部室の前に来ていた。全く、1人で使うにしてはかなり広い部屋だ。


 少し緊張して部屋に入る。部屋の中は教室として使われていた部屋の机を全て後ろに下げたような感じで、椅子がふたつだけ用意されていた。


「こ、こんにちは。」


「やあ園田くん。来たね。じゃあそこの椅子に座ってくれ。」


「あ、はい。」


 俺が椅子に座ると、倉本先輩が俺の前の椅子に座る。その時、とても嫌な予感がした。なぜなら、倉本先輩がニヤリと笑ったからだ。


 そして、俺の予感はよく当たる。

 いきなり教室に誰か人が入ってきたと思うと大声を出した。


「倉本朱里!約束通り。ここを立ち退いて貰うぞ!」


 メガネをかけたいかにも真面目そうな男子生徒。この人は俺でも知っていた。毎回の朝礼で目にしていたからだ。


 この学校の生徒会長。見た目の通り真面目で成績優秀、品行方正という言葉がピッタリ当てはまる優秀な人だ。そんな人が一体どうしたというのだろうか。


 倉本先輩が耳打ちしてくる。


「園田くん園田くん。話を合わせてくれ。頼んだよ?」


 頼んだよ?じゃないんだが?一体全体なんだと言うのだ。

 考える暇もなく、倉本先輩が口を開く。


「いや、立ち退かないよ。約束通り新しい部員を連れてきたからね。」


「は?!」


 何を言っているんですか?!と言おうとしたが、倉本先輩に口を無理やり塞がれる。


「何?!新しい部員だと?こんな部活に入りたい物好きが本当にいたのか?」


「ああ、いたんだよそれが。紹介するね園田純太くんだ。」


 生徒会長が俺の方を見る。


「君、本当にこんな部活に入りたいのか?」


 前を見ると、倉本先輩がこちらをとても怖い顔で睨んでいた。ここで否定したらあとが怖い……


「あ、あはは。はい実はそうなんです。」


 生徒会長はため息をついて言った。


「全く、仕方ない。約束は約束だ。立ち退きはしなくていい。」


「分かったら君が立ち退いてくれ。私達は活動があるのでね。」


 生徒会長は不満そうな顔を浮かべながら部室を後にした。

 ……どうやら、完全にはめられたらしい。



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