お見通し
本当に短い時間だった。予想ではもっと長い時間一緒に話すのかと思ったが、少し会話をするだけで終わった。でも、2人にとってはそれがちょうど良かったのかもしれない。この数年の思いを、数分に凝縮して一気に伝えた。2人にとってはそれで良かったのだ。
でもひとつ気がかりがある。佐藤さんは自分の気持ちを言わなくてよかったのだろうか。自分も好きだったと、伝えなくてよかったのだろうか。
チラリと、清さんの方を見る。
……いや、多分伝えなくてよかったのだ。口に出さなくても伝わるものがある。佐藤さんの思いが強かったからこそ、清さんがずっと佐藤さんのことを覚えていたからこそ、きっとそれは言葉よりも強い効力があったに違いない。
日が沈みかけて、赤みがかった空に照らされた校内はどこか寂しげな雰囲気を漂わせていた。
歩きがら考える。もしかしたら、霊になるということは悪いことという訳では無いのかもしれない。今日のことで思った。霊になるということは、未練を残して死んだ人に与えられたそれを叶えるためのチャンスなのだ。そう考えると、悪いこと、というよりいい事のように感じられる。
校門に差し掛かった時、清さんが立ち止まる。
「今日はありがとうね、おかげで数年越しのわだかまりか解けた。」
「いえ、やりたくてやった事なので」
「それでもありがとうと言わせてくれ。僕は今日報われたんだから。」
清は少し純太の方を見てから言った。
「君のわだかまりも解けることを祈っているよ。」
ドキッとする。どうやら全てお見通しらしい。俺のわだかまり、俺の事を縛って離さない過去。それを解くチャンスはやってくるのだろうか。やってきたとしても、それに向き合うことが俺にはできるのだろうか。
まあでも、どんな形であれ、俺はきっと無理やりにでも向き合うことになるのだろう。
「じゃあ、俺はここで。」
そう言うと分かれ道で2人と別れ、1人駅へと向かった。
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「なあ、なんで月曜日、今日は図書室に来るななんて言ったんだ?」
あの一件から、渡辺が【月夜の君へ】を触っても佐藤さんは現れなくなった。つまり、陰陽師ごっこは成功したということだ。
「その日は大事な日だったからだよ。」
「なんで?」
「なんでもいいだろ。」
ふーん、と言うと晃大は思い出したように話題を変えた。
「そういえば、お前渡辺さんと喧嘩でもしたのか?」
「……別に、喧嘩したって訳じゃない。」
「じゃあ前まであんな仲良さげだったのにツンツンされてんだ?」
それがわかったら苦労はしない。
「さあな」
「まあ、よくわかんないけど早く仲直りした方がいいぞ。」
「わかってるよ、そんなこと……」
今日もこの後実行委員の仕事がある。……気まずい。正直、この状況で2人きりになんてなりたくない。
憂鬱な気持ちでいるうちに放課後となった。今目の前には渡辺さんがいる。この前のことで無理に話しかけようとしても、無視されるか軽く受け流されるだけだということがわかったので、自分から話しかけるのは辞めることにした。
仕事に集中しているうちにその日の作業は終わり、そのまま解散となる。
そんなことが1週間ほど続き、結局まあり話せないままでいる。その間、渡辺さんが何か言いたげな顔をしていた気がしたが、気のせいだろう。
「はあ、」
今日もこのまま話せなそうだ。昼休みに思考を巡らせながら廊下を歩いていると、突然大きな声が聞こえてきた。
「やっと見つけた……おい、そこの君!」
誰のことだ?俺はキョロキョロと周りを見渡す。
「君だよ!」
おかしいな、明らかに俺の方を向いて言っている気がする。でもそんなわけないよな、俺にはあんな美人の知り合いは渡辺以外にはいない。
「君だって言っているだろう!」
俺の肩を叩いてきた。
「お、俺ですか?」
「そうだよ、君だよ。」
うちの学校はネクタイの色で学年が決まる。この人のネクタイが赤色なところを見るに、おそらく3年生。つまるところ上級生だろう。
「えっと、なんの用でしょうか?」
「君、先週の月曜日、放課後、図書室にいたよね?」
「え?」
見られてたのか?まあ、全てが解決した後だったから良かったが。
「いや、いませんでしたけど……」
その人はフフフと笑うと続ける。
「しらばっくれても無駄だよ。私は見てしまったからね、君ともう1人が本に触れた途端に、強い光とともに女の人が現れるところをね。」
……ここまでガッツリ見られているのは想定外だ。
「それに、君はなんだか嘘ついてるような顔をしてるしね。」
見られてしまったのなら仕方ない。どうせもう終わったんだ。白状してしまおう。と言うか嘘ついてそうな顔ってなんだ?俺は手を上げて言った。
「降参です。確かに、俺はその時図書室にいました。どのくらい見てたんですか?」
「いきなり人が現れたとこくらいかな。その後すぐ帰ったし。」
なるほど、つまり清さんとは会っていないのか。
「そこで、ここ1週間考えてみたんだけどさ、やっぱりあれって霊、だよね?それでさ、君たちは霊を成仏させてあげようとか考えてたって感じだよね?あってる?」
おっと、全てお見通しのようだ。この人を前にすると、何故かこちらの考えが全て筒抜けになっているような気がする。とても不思議な雰囲気をまとっている人だ。
「まあ、はい。合ってます。」
「やっぱりね。」
そう言うとその人はニヤッと笑った。




