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来週の月曜日

 トラブルに見舞われたが、今日も図書室に集まって、佐藤さんを呼び出した。

 しかし、昼休みから渡辺の様子が変だ。話しかけようとしてもどこかに行ってしまうし、目が合ったら目を逸らされるし、今も佐藤さんとずっと話している。やはりよく男子に言い寄られる渡辺からしたら、いきなり友達を名乗る男なんて警戒する対象なのかもしれない。純太は誰にも聞こえないように小さな声でため息をついた。


「なあ、そろそろ本題に移ろう。」


 佐藤と話していた渡辺が少し気まずそうに


「そうだね。」


 と言った。

 純太は1呼吸おくと、話の概要を伝えた。清の話が出てきた途端に渡辺は驚いた顔になる。


「じゃあ、渡辺さんは清さんの姪っ子なんですか?」


「そうだよ。清おじさん。」


「そうですか、あれからかなり時が経ったんですね…」


 渡辺は続ける。


「それでさ清おじさん、来週帰ってくるからさ、ここに呼ぼうと思うの。」


 そう言うと佐藤は驚いた顔をもっと大袈裟にして、言った。


「ええ!そうなんですか?!」


「うん。いいかな?」


 もちろん!と即答されると思ったが、そうではなかった。佐藤は少し複雑そうな顔をすると考え込むような仕草を作る。


「いいんでしょうか……」


「え?」


「1度彼を傷つけて、その後彼の前から姿を消した私が、いきなり現れていまさらあれは全部嘘だったなんて言ってもいいんでしょうか?」


 佐藤は下を向いたままだ。


「それは、あまりに都合が良すぎます。」


 都合がいい。確かにそうだ。清さんからしたら昔自分を振った女がいきなり目の前に現れたかと思うと、昔のことは全部病気のせいで、本当はあなたが好きだった。なんて聞かされ、その後にその女は満足して成仏してしまうのだ。とんだ迷惑である。

 なんで昔のうちに言ってくれなかったんだなんて言われるかもしれない。そう思うと、佐藤さんの心配も分からなくもない。


 でも、この話で悪い人間なんていないんだ。だから、自分に責任を感じる必要は1ミクロンもない。


「でもさ━━━」

「でも!」


 純太が喋ろうとすると割り込むような大きい声が聞こえた。声の主は渡辺だった。


「でも、会いたいんでしょ?清おじさんに。だから霊にまでなって残ってるんだよね?」


「それは…………」


 佐藤の声は震えていた。


「どうなの?」


「そうですけど……」


 それを聞くと渡辺は緊張した顔を緩めて、声を元の大きさに戻して言った。


「じゃあ良くない?伝わるよ。だってさ、会いたいっていう気持ちだけで霊になっちゃったんだから。あなたが本気で清おじさんのことが大好きだってことはちゃんと伝わると思うの。だからきっとわかって貰えるよ。」


「そう……でしょうか?」


「うん。」


 渡辺は首を縦に大きく振った。それを見た佐藤は堪えていたものが溢れたように涙を流しながら言った。


「本当は、本当は私、清さんに会いたいです!あんな終わり方、絶対に嫌です!」


 それだけ言い残すと、涙を流した佐藤はその場から消えた。

 しばらくの沈黙のあと、ずっと黙って立っていた純太はようやく口を開いた。


「じゃあ来週は……」


 渡辺は純太の方を振り向くと、手でグッドポーズを作り、笑いながら言った。


「決まりだね!」


 まったく、さっきまでの気まずさはどこへ行ったのやら……

 明後日から週末、作戦は来週の月曜日だ。


「ところで、どうやって清さんをここに連れてこようか。」


「あー、確かにそうだね。まー、まずはやっぱり説明しないとダメだよね。佐藤さんのこと。」


「そうだな。」


「あとはどうやってここまで連れてくるか、だよね。」


 確かに、卒業生とはいえ、もう部外者となった大人を学校へ入れていいのだろうか。


「そこは先生に聞いてみよう。」


「そうだね。まあ、今日は疲れたし、明日にしようか!」


「ああ。そうだな。」


 問題は山積みである。

 翌日、先生に確認を取ったところ、卒業生はアポさえ取れば放課後に学校に入ることができるらしい。これで問題はひとつ解決だ。あとは佐藤と会ってくれるように説得して学校へ来てもらうだけである。

 そして、その日は珍しいことが起きた。


 昼休みでのこと、晃大は人気者で皆に囲まれてしまうため、純太はいつものようにひとりで弁当を広げようとしていた。

 そんな時、ガタッと自分の机に衝撃が走った。誰かが机をくっつけてきたらしい。その方を見ると、渡辺がいた。


「どうしたんだ?」


「あのさ、もし良かったらなんだけど...一緒にお昼食べない?私達、その………友達、だからさ。」


 渡辺は恥ずかしそうに目を逸らしながらそう言った。例のごとく、耳元が赤くなっていた。

 お昼に誘ってくれるなんて、やはり自分の心配は杞憂だったようだ。


「いいよ。一緒に食べようか。」


「う、うん!」

 

 男子だちの嫉妬の視線が痛かったり、鈴木が憎たらしいものを見るような目でこちらをチラチラと見てきたので落ち着かなかったが、これはこれでいいかな、なんて純太は考えていた。


 案の定、晃大が俺の所へやってきて、


「なあ純太。どうやって渡辺さんを落としたんだ?」


 なんてことを聞いてきた。


「あのさ、そういうんじゃねーから。」


「ふーん。ま、いいけどさ。楽しそうでよかったよ。」


「余計なお世話だっての。」


 ここまで充実していると思ったのは久方ぶりの事だった。

 放課後は2人で教室に残り、実行委員の仕事をしてから帰った。





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