②三匹のキツネの物語 ─ラブ編─
【キツネのムー】(2)
(②三匹のキツネの物語──ラブ編──)
山ぶどうの香りにつつまれるいつもの林の中、キツネたちは恋の季節です。いつもの三匹が一緒にいないのですが、どうしたのでしょう。
「ヤァナ〜」
「ヤァナ、どこだいー?」
西からテオがヤァナを呼んで、ムーがやってきます。
南からもヤァナを呼んで、ムーがやってきます。
ヤァナは、ふしぎそうな顔で二匹の呼んでいる声をきいていました。
「お母さん、二人が呼んでるの。どうしたのかしら?」
ヤァナのお母さんは安心させるように、ほほえみながら言いました。
「気にしなくていいのよ。そういう日なの」
それだけよ、と付け加えて行ってしまいました。
変なお母さん。と、ヤァナはまた、ふしぎ顔。頭の中はハテナでいっぱいなのでした。
ムーとテオはヤァナを呼びつづけてヘトヘトになって、山のてっぺんではち合わせになりました。二匹とも、上から探そうと思ったからです。
「探してるときに限って、見つからない……って、あっ!」
「テオ!」
「ムー!」
さあ大変です、二匹は恋がたきなのです。でも、二匹はともだちなので、
「じゃあ……」
「決とうだ!」
そのときでした。山の神様が降りてきたのです。
「ちょっと待ちなさい。ヤァナのおむこさんは、キツネのスモウで決めなさい」
「「キツネのスモウ???」」
二匹は顔を見合わせました。
山の神様は、
「そのままの意味じゃよ。君たちがスモウをとって、勝った方がヤァナをめとることができるのじゃ」
「わかった、ありがとう、山の神様!」
「よし、かかってこい!テオ!」
ムーとテオのスモウが始まりました。
「はっけよーい」
「「む!」」
「のこったのこった!」
山の神様の合図で二匹は組み合い、汗を流しました!
と、そこで、
「なにしてるの?」
ヤァナが山のてっぺんが騒がしいのに気付いて、やってきたのです。ふしぎな気持ち。ヤァナは山の神様に打ちあけようとして、やめました。そうなのね、今日は、そういう日なのよね──?
「のこった、のこったあ!」
山の神様のかけ声はつづきます。
二匹の男の子ギツネはスモウで、もう、汗びっしょりでした。
ヤァナはお母さんの言ったことを信じて、よく分からないなりに、二匹を見つめていました。本当は、わたしもスモウにまぜてほしい。ちょっと、そう思ったのだけれど。
スモウは日が暮れるまでつづきました。長い長い『決とう』でした。
決着は、ムーに決まりました。おしくもテオは負けてしまいました。ですが、二匹とも、すがすがしくしているのでした。
二匹はキツネの友情のあく手をし、山の神様にお礼を言いました。
「今夜はうたげじゃのう」
テオよ、しょげるでないぞ。といって、山の神様は三匹それぞれに『何か』を授けました。ヤァナにはお嫁入り道具とその衣しょうを、ムーには沢山の果物と木の実を、テオは山の神様からのじき伝・モテる秘けつ&決とうに勝てる秘密をこっそりと教えてもらいました。
「なあ、テオよ。ヤァナだけが女の子ではないからの、しょげてはいかん」
山の神様はテオにそっと優しく寄りそってくれました。テオはそんな言葉にはげまされ、元の元気をとりもどしました。実は、少し元気がなかったのでした。
「ありがとうございます、山の神様」
テオはそう言って、家族のもとへ帰ってゆきました。
───結婚式の日になりました!
ヤァナはそれはそれは、きれいなキツネになってムーの横でほほえんでいました。ムーは誇らしげにしています。
「おめでとう!ヤァナ、ムー!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
ワイワイと山中のキツネたちが集まって、大えん会になりました!
山の神様が雲の上からそれを見守っています。
「それっ、お祝いのあめじゃー!」
あらあら、なぜだか分かりませんが、山の神様は雨を降らせたがりました。
でも、負けじとお日様もピッカピカ。きれいな虹が見えますよ。
これって、なんて言うんでしたっけ……?
あ!みなさんにはもう分かっているようですね。
(②三匹のキツネの物語──ラブ編──)
おわり。