表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

第八章 “破壊者”の咆哮

 岩土の通路を進んで行くに連れて左右の幅と天井の高さが段々と広がって行った。大体、倍位の幅に成った辺で、岩土の通路は終わり、その先は規則的に“光る石”が配置されている石材の通路の様だ。だが、岩土の通路より石材の通路は径が小さい。字矢は 約一メートルの段差を登り、石材の通路に入った。単眼ナイトビジョンの電源を切り、眼から外す。注意しながら先に進んだ。所々に干乾びた何かの死骸が通路の床に転がっている。暫く直進すると、十字路、いや、交差の中心に身を置き周りを見回すと、通路が広い範囲で碁盤の目状になっている。その碁盤のマスに当たる石壁には、それぞれ一面にだけ縁に鋲打ちされた鋼の開き扉が有る。マスに当たる部分が全て小部屋になっている様だ。字矢は、直ぐ近くに有る右に見える鋼の開き扉の前に来ると、四十五口径自動拳銃を右手に構えて、左手で扉のレバーに手を掛けた。見る限り鍵穴は無く扉自体も錆びてはいない様だ。レバーを回してゆっくりと押し開く。軋んだ音と共に扉は開いた。部屋の中には誰も居なく、何も無い。罠が無いか、ナイフの背で床を叩いて確認しながら、部屋の中央まで入った。中を見回すと、天井の隅に拳大の金網の付いた孔が三つ並んでいる。どう見ても通気孔にしか見えない。扉の内側と扉側の壁には、貫抜を通す金枠が有り、扉の傍らの床には鋼の貫抜が置いて有った。明らかに部屋の内側から開かない様にする為の物だ。字矢はこの部屋に陣を取る事に決めた。目的不明の部屋では有るが都合が良い。だからと言って必ずしも安全と言う保証は無いし、部屋の外、碁盤の目状の通路の床にも所々干乾びた何かの死骸が転がっている。気味の良い物では無い。だが、この場を逃したら諸々の準備が出来る様な場所がこの先、無い気がしたからだ。字矢は扉を閉めて貫抜を通すと、バックパックを降ろし、“PBM”と三十発近く残っている九ミリパラベラム弾、携帯用電工工具キットを取り出した。“PBM”を起動。コンソールパネルを操作して火薬・弾丸の順で処理する設定にして待機状態にする。工具キットに有る、電工用ペンチとプライヤーを使って、九ミリパラベラム弾を分解する。分解すると同時に薬莢の中の火薬を直接“PBM“に投入する。次にバラした弾丸の方を投入する。バラして投入する作業はカートリッジを作製する都度繰り返す。スナイパーライフル用のカートリッジは一度に一個、四五ACP弾は一度に二個しか作れない。字矢は警戒しつつ、改めてこの根気のいる作業に挑む。より多くの材料を必要とするスナイパーライフル用のカートリッジを優先に二種のカートリッジを作製し続けた。その待ち時間を利用して水筒の水を飲み、携帯軍用食料を食べた。予備のガスマスクに予備のフィルターカートリッジを取り付ける。鼻と口に当て、改造ヘルメットに合体、透明バイザーを降ろした。その後、残り最後の九ミリパラベラム弾で、四五ACP弾を作製している最中、

「…眠い…駄目だ…寝ないと無理だ…。」

急に睡魔が襲う。以前、居眠りした時のあの“鳥”の顔が目に浮かぶ。だが、思い出してゾッとするより遥かに眠気の方が強い。この眠気自体がこの部屋の“罠”では無い事を祈った時には、既に字矢は壁に背を預けて、熟睡していた。

…………………………。

「?!」

ビクッ!となって飛び起きた字矢は、咄嗟に四十五口径自動拳銃を構えて、周囲を見渡す。特に異常は無い。危険生物の姿も無い。最後の四五ACP弾も既に完成していた。字矢は落ち着きを取り戻すと、二丁の銃と全ての各予備マガジンに弾を装填した。更に直ぐ使える様にスナイパーライフルを組み立て、スリングで肩に掛ける。“PBM”を始め諸々バックパックに収納する。忘れ物が無いか確認すると、バックパックを背負い、扉の前まで歩く。扉の貫抜を抜くと部屋の端の床に置いた。四十五口径自動拳銃を右手に構えて、左手で扉のレバーに手を掛けた。レバーを回してゆっくりと引く。軋んだ音と共に扉は開いた。警戒しながら部屋から出ると、直ぐに周囲を確認した。異常は無い。特に気になる音なども無い。通路の床に転がっている干乾びた死骸も、特に変化は無い。字矢は足元に注意しながら碁盤の目状の通路の中央近くまで行くと、双眼鏡で先の方を確認した。すると、この碁盤の目の空間に入って来た時の通路の先は壁で行き止まり。一マス越えて、双眼鏡で左右を確認すると、左右両方に先に続く通路が見えた。字矢は左の通路を進む事にした。通路は直進が続いた。規則的に配置された“光る石”のお陰で明るいが、ライトで床の石材を照らしながら進む。暫く進むと、通路は右に折れていた。猶も進む。

 暫く進むと、通路の奥から引きずる様な足音が聞こえて来た。字矢は自動拳銃を通路の先に向けたままその場で立ち止まる。足音が段々大きくなるに連れて、足音の主の姿が現れて来た。字矢は何処かで見た覚えが有る。

「あの時の熊ゴリラと同じ奴か?」

二本足で立つ通路の天井ギリギリの大きさのその生物は、字矢が橋の上を全力疾走する前に、双眼鏡の録画モードで撮影した時に映っていた生物に似ていた。たが、目の前のそれは、全身血塗れで、片腕が肩の辺りから無く、その断面からは血が滴り、低く小さな呻き声を上げ、片足を引き摺りながら近付いて来る。字矢が自動拳銃の引金を引こうとした瞬間、その片腕の無い血塗れの熊ゴリラは、うつ伏せの状態で床に倒れた。

「ウッ?!」

字矢は熊ゴリラの背中を見て絶句した。背中のほぼ中央に大きな円い穴が空いている。血で真っ赤では有るが、骨がむき出しで、内蔵も飛び出て垂れ下がっていた。字矢はナイフで熊ゴリラの頭を突っ突いた。動かない。息絶えた様だ。

「この先に何かいるのか…。」

字矢がナイフを収めたその時、通路の奥から何が吼える様な大きな音が聞こえた。咆哮は遠くからでは有るが、通路全体に響いた。

「間違い無く何かいる。それにこの叫び声、何処かで聴いた様な気がするが…。」

引き返して反対側の通路に行こうかと思ったが、今の何とも複雑な咆哮がどうしても気になる。字矢は敢えて先に進む事にした。四十五口径自動拳銃を構えて、警戒しながら進む。石材の通路は直進だが、途中から緩い下り坂になっていた。その坂を下って行くと、段々と石材の通路に岩土が混じり始め、進むに連れ通路自体の幅や高さも不規則になり、遂には“光る石”が混じる岩土の通路に変わっていた。下り終わった岩土の通路は、右に緩いカーブになっている様だ。明るいとは言え、先が見える訳では無い。咆哮の主が何処から現れるか判らない。字矢は額と背中に冷や汗を感じていた。緩いカーブを猶も進む。すると、

「ウッ、響くなぁ…。」

通路の先から再びあの咆哮が聞こえて来た。 而もより近くからだろうか、先程よりも鮮明だ。そして、字矢は思い出した。

「そうだ、ミーティングの時の映像だ。時空発信機をぶっ壊した奴のだ。」

字矢は駆け足で進んだ。カーブを曲がり切ると、広い空間に出た。幅が八メートル以上、天井の高さ二十メートル以上の広間と言うよりは幅広の通路である。字矢のいる場所から約五十メートル先で何かの生物が蠢いていた。此方に来る様子は無い。字矢は双眼鏡で確認する。見ると、背中には折り畳んだ翼・身体・四足は所謂ドラゴンのそれで有り、全身、赤銅色である。ただ、首とその上は管状の型をしている。その管状の頭を地面に横たわる血塗れのサイの様な生物の腹に突き刺していた。管状の頭から首に掛けてその表面が波打っている。あたかも血や内臓を吸い込んでいる様に見えた。

「?!」

その”管頭ドラゴン”の左前足の指の付け根に何か巻き付いている。気になる字矢は双眼鏡を目に当てたまま歩みを進め、約二十メートル距離を縮めてしまう。その巻き付いている物は、明らかにVVRケーブルであり、ケーブルと左前足の表皮の間には、サーキット板や金属片も見て取れた。

「間違い無い。奴が”破壊者”だ!」

字矢は興奮して思わず大きな声を出してしまった。すると、管頭ドラゴンの首の波打ちが止まった。サイの腹から頭を抜いた管頭ドラゴンは、字矢の方を向いた。双眼鏡越しに見た字矢は虫酸が走った。その顔、いや、管の先の穴、その円い穴の中心に向って無数の針状の歯が生えていて、その全てがウネウネと蠢いていた。更に良く見ると、管の左右側面にそれぞれ四つ、計八つの黒い目の様な物が見える。まだ距離は有る。字矢は双眼鏡をベストのフックに戻すと自動拳銃を構える。管頭ドラゴンが地を這い迫って来た。自動拳銃をぶっ放す。管頭ドラゴンは怯んだのか動きを止めた。そして、上体を起こして後ろ足と尻尾で立つと管状の頭から空気を吸い込む様な形で首を後ろに引いた。字矢は自動拳銃をホルスターに戻すと同時にスナイパーライフルを構えると、管の穴を狙撃した。七・六二ミリNATO弾は針歯の一部を破壊した後、管上部を貫通する。管頭ドラゴンは後ろに仰反りながら、低く不気味な奇声を上げた。それでもあの咆哮に比べれば遥かに音は小さい。

「冗談じゃない!近くであの叫び声、それどころか、口から変な物でも吐かれたら面倒だからな。」

体制を整えた管頭ドラゴンは、再び地を這い字矢に迫って来る。字矢は管頭ドラゴンの両前足、両肩を立て続けにスナイパーライフルで狙撃した。管頭ドラゴンは再び動きを止めた。その隙にスナイパーライフルのマガジンを入れ替える。上体を起こして後ろ足と尻尾で立つ管頭ドラゴンの後ろ足の両膝を、スナイパーライフルで狙撃。管頭ドラゴンの身体は、狙撃により緑色の体液だらけになってはいるが、それでも動きは止まらない。更に今尚、上体を起こして管先を字矢に向けている管頭ドラゴンの管上の首を狙撃。七・六二ミリNATO弾は管に対して垂直に貫通した。管頭ドラゴンは堪らず管先を左右に降り出した。その時、字矢は、あの黒い目の様な物を狙撃。七・六二ミリNATO弾は黒い目の一つを破壊して貫通し、反対側の黒い目も破壊した。管頭ドラゴンは不気味な奇声を上げながら字矢の方を向き直ると、両前足を振り回しだした。更に背中の翼を広げようとするが、途中で左右の壁に翼がぶつかる。幅の広い通路では有るが、管頭ドラゴンの大きさでは、翼を広げる事が出来る幅では無い様だ。勿論、幅広通路の壁側を向けば、翼を広げる事は可能だ。しかし、管頭ドラゴンにはそんな知能すら無いのだろう。未だに不可能な位置で翼を広げようと藻掻いている。その隙に字矢は幅広通路の壁まで走る。側面からスナイパーライフルで残りの黒い目を立て続けに狙撃。更に反対側の壁まで走り、同じく狙撃した。八つ全ての黒い目を破壊すると、管頭ドラゴンの両前足と背中の翼の動きは止まり、フラつきながら前のめりに倒れた。大きな音と共に地面が揺れる。字矢はスナイパーライフルを構えたまま近付いた。管頭ドラゴンの管先、つまり口から体液でドロドロでは有るが、恐らく電子部品の一部と金属片、それと短い配線の束と思われる物が吐き出されていた。

「ハァー…ハァー…何とか倒せたか。ヘッ、この化物、発信機の部品まで喰っていたのか…。」

字矢はその場で、スナイパーライフルのストックを地面に着けて杖代わりにすると、片膝を着いた。身体が疲れたと言うよりは、撃っても死なない化物に気疲れしていた。

「黒い目の様な物…急所だったのか?コイツも急所を破壊しないと殺せなかったって事か。この先、他にも急所見つけないと殺せないヤツがまだいるのか?だとしたら厄介だなぁ…。」

 落ち着くと字矢は周囲を確認した。正面・背後そして頭上とも異常は無い。バックパックを降ろした。中から予備の七・六二ミリNATO弾を取り出すと、スナイパーライフルの空きマガジン全てに装填。次にL型ハンドライトの電池を交換すると、バックパックを背負った。スナイパーライフルはスリングで肩に掛け、四十五口径自動拳銃を構えた。管頭ドラゴンとその餌食になったサイは動く事は無さそうだ。二体の死骸を極力避けながら進んだ。

 幅広の通路は進むに連れて段々と狭くなり、有る場所を境に天井の高さが約三メートル位まで下がっていた。字矢は、今まで同様に警戒しながら進む。その“光る石”混じりの岩土の通路は暫く続いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ