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第七章 暗い金属の質感

 一本道だが、途中、左に折れ、更に暫く進むと今度は右に折れていた。今の所、特に異常は無い。そのまま道なりに進む。すると、正面と左右に続く十字路になっている。而も交差している床から区切った様に砂利道になっている。其の前まで来た。正面の先には橋が有り、其の先に通路が続いている。十字路の左右からだろうか、微かに複数の呻き声と不気味な笑い声が聞こえる。字矢は双眼鏡を録画モードにすると、砂利道に足を踏み入れ無い様に、忍び足で左側の壁に身を寄せると、左の角から双眼鏡を持った手だけをほんの数秒出し、左側通路奥を撮影して直ぐに引っ込めた。右側通路奥も同様に撮影した。周囲を警戒しつつ、十字路から少し離れた。幸い何かが近く足音は無い。気付かれてはいない様だ。録画した映像を確認する。左右それぞれ二秒前後の映像だが、静止させれば十分確認出来る。再生して左側通路奥の静止画像を見た字矢は、自分の顔が引き攣るのを感じた。そこには、人の腰位の背丈の全身灰色・真っ赤な大きな両目・耳まで裂けた口・尖った耳の小人型の生物が多数、その間をうろつく二体の二本足で歩く熊ともゴリラとも見える大きな生物、右側通路奥の静止画像には同じく小人型の生物が多数と 其の小人どもの真上の中空に、大きな人の顔の形をした青白いガスの塊が三体浮いていた。

(耳の尖った赤目の小人宇宙人の大軍、二本足で立つ熊ゴリラ、其れに何だコレ?“ムンクの叫び”顔のユラユラしたガスの塊見たいな奴、あんなの銃で倒せるのか?)

これだけの数の敵を相手になどしてはいられない。とは言え、床は砂利だらけで音を立てずに抜けるのも不可能だ。字矢は双眼鏡の再生を止めて通常モードに戻すと、先に有る橋を双眼鏡で確認した。橋自体には破損等は無さそうだが、見ただけでは強度は不明だ。橋の下は此処からでは見えないが、落ちれば命は無い高さと考えておくべきだろう。橋の先の通路入口の周りに見える断崖の壁面は、それ自体が青く輝く何かの結晶の様に見える。此処は牽制しつつ、一気に駆け抜けて逃げるしか無い。だが、橋が崩壊するかも知れない。先の通路がどうなっているかも判らない。目の前の砂利道も何か罠が有るかも知れない。引き返しして他の通路を探すかとも思ったが、其れだって安全という保証は無い。

(危険生物と言うか、得体の知れない化物の巣食う場所だ。何れは覚悟する時が来ると思ってはいたがなぁ…。)

字矢は双眼鏡をベストのフックに固定すると、右手に四十五口径自動拳銃、左手に九ミリ自動拳銃を持つと、右腕を腹の前に並行に出して四十五口径自動拳銃の銃口を左に向けて構え、左腕を腰の後ろに並行に廻して九ミリ自動拳銃の銃口を右に向けて構えた。字矢は意を決した。十字路の少し離れた所から更に離れた。そして、銃を構えた両腕はそのままで、正面橋の向こうの通路目掛けて一気に走り出した。十字路に差し掛かると同時に二丁の自動拳銃を乱射した。砂利の上を駆ける音と複数の不気味な叫び声が背後で聞こえる。振り返る事無く、十字路を駆け抜け、橋の前辺りで、今度は右手の四十五口径を左脇から廻して銃口を後ろに向けて乱射、左手の九ミリを右脇から廻して銃口を後ろに向けて乱射した。不気味な叫び声がトーンを変えて更に響く。既に弾切れでスライドが開いた状態の二丁の自動拳銃をしっかり握り締めながら腕を振り、全力で橋の上を駆け抜けた。橋を越え通路の入口に入る。其の通路は石材で出来た通路の様だ。字矢の身体が通路の中に入って間もなく、片足が沈む感じがしたかと思うと、石の床の一部で“ゴツン”と音がした。

「ゴツンって!何か踏んだか?」

字矢は走る速度を緩めると、スライドが開いたままの二丁の自動拳銃を無理矢理それぞれのホルスターに収めた。十二ゲージショットガンを抜くと同時に、身体ごと後ろに振り向いた。見ると追っては居ない。橋が中央から二つに分かれていた。滑車と鎖が動く様な音を立てながら、此方側の半分は上に折れる様に動いて遂には通路の入口を完全に塞いだ。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」

字矢は異常が無いのを確認すると、息を切らしてその場に膝を付いた。流石に息苦しい。ガスマスクを外した。カビ臭いかと思ったが予想に反して、洗剤の様な臭いがする。身体に異常は感じ無い。通路の床は石材のみの様だが、天井と両壁は石材と輝く青い結晶が規則的に混在している。通路は暫く真っ直ぐ続いている様だ。ライトで十分見える。字矢は此処でバックパックを降ろした。単眼ナイトビジョン電池交換、二丁拳銃マガジン交換と全ての銃及び、全ての銃の予備マガジンに弾を装填した。思ったより使っていない。各種予備の弾はまだ十分有る。単眼ナイトビジョンはマウントアームごと軍用迷彩服の空きポケットに収めると、字矢は改造ヘルメットの透明バイザーを降ろした。ほんの十数分だが休んだ。未来に来て初めての様な気がする。呼吸が落ち着くと、ガスマスクを装着、バックパックを背負い立ち上がると、九ミリサブマシンガンを構えた。そして、ライトで足元を照らしながら注意しつつ先に進んだ。

 暫く進むと、無く広い空間に出た。通路同様に石材と青い結晶で出来ている様だが、等間隔に太い石の角柱が天井を支えている。特に気になる音は聞こえ無い。字矢は双眼鏡で先を確認した。正面奥に扉らしき物が見える。その扉の前にボロボロ布と錆びた金属が纏わり付いた白骨死体が複数倒れているのが見えたが、その時、床の異常にも気が付いた。 双眼鏡をベストのフックに戻すと、近場の床を確認した。すると、床に約一メートル四方の四角い穴が開いており、その上に幅約五十センチメートル・長さ約ニメートルの鋼板が穴の半分を隠す状態で穴の上に置かれていた。更に穴の手前の一部の石材が、約十センチメートル床に陥没していた。字矢は陥没している石材を避け、足の踏み場に注意しながら、床の穴に近付いた。そして、ライトを照らして中を覗くと、この穴が罠だった事に直ぐ気付いた。深さ約三メートルの底には、棒を立てる為の穴が複数有り、更には、細かく折れている棒状の物や槍の先端の様な物が、底に複数散乱している。その全てが錆びていた。かなり以前に壊されていた様に見える。周囲を良く見ると、角柱の陰で見えない場所を覗いても同じ状態の破壊された床の罠が複数点在していた。穴の無いルートを探すかとも思ったが、まだ生きている罠が有るかも知れない。字矢は必要以上に動き回らず正面奥の扉を目指す事にした。穴の上に渡して有る鋼板は見る限り錆びて無い。鋼板の上をサブマシンガンのストックで軽く叩いてビクともしないのを確認すると、鋼板の上を無事渡る事が出来た。周囲を警戒しつつ足元の石材に注意しながら進み、次に現れた動線上の穴も同様に鋼板の上を渡る。転がっている白骨死体を極力避けながら正面奥の扉の前迄来た。双眼鏡で見た時は扉の手前、左右に有る石柱に見えたが、正面奥の扉の方が奥に凹んだ位置に有り、向かい合う状態で左右それぞれの壁に扉が有った。その左右の扉は無視して、正面扉を確認した。見たところ、縁に鋲打ちされた鉄製の両引き戸の様だ。全体に黒錆が施されているが、傷だらけで所々赤錆が見えていた。鍵穴は見当たらない。幸い取手は錆びて無さそうだ。取手を引いて扉を動かした。開けづらいかとも思ったが、以外と簡単に開いた。開いた瞬間、視界が濁っていた。それでも若干明るい。ライトを付けたまま中に入ると、そこは、円筒状で天井の高い部屋だ。天井には同じ大きさの大きな“光る石”が四個配置されている。その“光る石”の真下に枯れ草と土が混ざった様な物が積まれていて、崩れない様にする為か、金枠に囲まれている。それが四つ塔の様に立っていた。この澱んだ空気、大体何か予想が付いた。バイザーとガスマスクをしていなければ、扉を開けた瞬間、大変な事になっていただろう。この部屋の中では、間違っても銃は使え無い。字矢はサブマシンガンをホルスターに収めると、大型軍用ナイフに持ち替えた。この部屋には入って来た開き戸以外に、出入口が無いのを確認すると、四つの塔を警戒しながら調べた。と言うのも、この部屋に入った時から目に付いていた物が有ったからだ。枯れ草混じりの土から多数の白い結晶が見えていた。これ程ガスが充満していると言う事は、恐らく枯れ草だけで無く、糞尿混じりの土。白い結晶の見た目からしても此れが硝石である事は間違い無さそうだ。

「硝石を作るのが目的の部屋か?火薬使うのか?この時代の人も。まぁ何にしても此れで火薬の原料が揃った。金属片も有る。弾、作れるなぁ。」

字矢は硝石の塊を数個抜き取ると、部屋を出て開き戸を閉めた。硝石を石の床に置いてナイフで適当な大きさに砕くと、此れもまた空いている麻の巾着袋に入れてバックパックのポケットに収納した。正面扉の左右の壁に有る開き扉も同じく縁に鋲打ちされた鉄製だ。字矢はサブマシンガンを構えるともう片方の手で左の扉を開けようとした。取手は回す事は出来たが、鍵が掛かっているのか、それとも錆が酷いのか原因は判らないが、開ける事は出来なかった。諦めて右の扉を開ける事にした。警戒しながら取手を回して引いた。此方の扉は難なく開ける事が出来た。そこには通路が続いている。この通路も石材の床と床以外は、青い結晶と石材の混在で出来ている様だ。字矢は足元に注意しながら先に進んだ。今思えば、もしノートとペンが有れば、図面や地図を書きながら進んでいたかも知れない。だが、実際、不規則な構造をしている上に、銃でないと倒せない様な危険生物が何処から襲って来るか判らない様な地下空間だ。単独行動で地図を書きながら進むなど不可能である。

 暫く直進すると、また十字路と遭遇した。ライトで先の方を照らして見ると、等間隔に十字路が有る様だ。気になる音は無い。もしかしたら、広い範囲で碁盤の目の様な通路かも知れない。だが、字矢は可能な限り、直進する事にした。もし行き止まりならば、戻って調査する事にした。十字路の左右の道にも注意しながら、先に進む。十字路を十個越えると、通路は右に折れていた。更に進むと階段が有り降り進む。二十段程の階段を降りると、通路の様相が又もや一変している。字矢はサブマシンガンのストックでその壁を軽く叩いた。次にナイフの背でも軽く叩いた。どうやら、天井・壁・床共に黒錆加工された鋼の様だ。だが硝石の部屋の開き扉と異なり、その表面は傷一つ無く綺麗である。鋼の通路に光る物は無い為、先の方は闇である。字矢はライトの光りだけで、先に進んだ。暫く直進が続く。字矢は現役の自衛官の時から個人的に、黒錆加工された鋼特有である黒鉄色の暗い金属の質感が何とも落ち着く感じがして気に入っていた。その為か、こんな状況で有りながら、字矢は久しぶりに気分が良かった。

 猶も進んで行くと、少し広い場所に出た。約六メートル四方で通路と同じ鋼で出来ている部屋だ。ただ右側の壁が無い。無い壁の縁から奥行約十センチメートルの鋼が約三十センチメートル高くなっている。その無い壁の向こう側に青く輝く結晶の壁面が見えている。字矢は高くなっている鋼の縁に身を近づけて下を覗いた。この鋼の部屋が高台になっている様で約十メートル下に通路が見える。両壁が青い結晶で床は土の様だ。部屋の奥には先に続く通路の入口が見える。この部屋が安全という保証が無いのは勿論だが、字矢はこの場で“PBM”を使用することにした。バックパックを降ろすと、“PBM”と硝石、硫黄、木炭の入ったそれぞれの麻の巾着袋を取り出した。それと麻の巾着袋に入った二つの“光る石”も取り出した。青い結晶の光りが有るとは言え暗い。明かりとして利用する事にした。その二つの“光る石”を部屋の中央に置いた。転がる様子は無いが念の為、入っていた麻の巾着袋をストッパー代わりにして置いた。用心の為、必要な物を取り出したバックパックは直ぐに背負った。“PBM”はプロテクトツールケースと一体になっているが、バックパックに入れて余りある程の大きさだ。それだけにこれ程コンパクトにも関わらず、内蔵簡易AIが金属片の質を判断し、溶解・弾丸形成と“PBM”内蔵の雷管部と合わせて薬莢形成、可燃物の質を判断して、粉砕・調合、場合により“PBM”内蔵の薬品使用により科学反応起こして、火薬又は火薬の代用品を作成、最後に此れ等を組み立ててカートリッジの完成。金属溶解時の高温に耐える事も含め、この作業を全て“PBM”内で行うのだから優れ物と言う他は無い。ただ何分小さいので、一度に投入可能な材料の量と一度に完成するカートリッジの数が少ない。数を熟すとなると、時間が掛かるのは必至だ。字矢は無い壁の反対側の壁の前に陣取ると九ミリ自動拳銃を手に警戒しながら作業を開始した。“PBM”の液晶モニターの指示に従って、材料を投入して、作成するカートリッジを選んだ。スナイパーライフルのカートリッジは三発しか使って無い。余裕が有る為、他のニ種類のカートリッジを作る事にした。先ずは九ミリパラベラム弾。簡易AIから最終確認の表示がモニターに現れた。字矢は“ОK”を押した。すると、“PBM”が作成を開始した。字矢の腕時計で約二十五分後に九ミリパラベラム弾が三個完成した。

「外屋敷と試しでやった時より早いなぁ。まともに火薬の原料を揃えたからか?」

字矢はカートリッジの種類を交互に作る事にした。次は四五ACP弾だ。四五ACP弾は一度に二個しか作れない。九ミリパラベラム弾と同様に同じ手順で行う。完成を待つ間、軍用携帯食料と水を急ぎ口にした。そして、約二十五分後に完成した。続いて九ミリパラベラム弾を作成。次の四五ACP弾の材料を投入して“ОK”を押すと、字矢は今までの疲労の為か、壁に背を預けて眠ってしまった。

「?!」

字矢は何かの気配と羽音で目を覚ます。その瞬間、戦慄した。目の前に大きな鳥の顔。傍らの床に置かれた九ミリ自動拳銃に右手の指が触れる。握るとその鳥に向けて乱射した。当たらなかったのか、それとも九ミリパラベラム弾が通用しなかったのかは判らないが、鳥は奇声を上げて無い壁から飛び去った。

「ハァー…ハァー…ハァー…クソッ…眠っちまったのか…。」

荒い呼吸と鳥肌が漸く治まると、字矢は周囲の確認をした。“PBM”と背中のバックパック、身に付けている装備は全て無事。鎖片と各種火薬の原料が入った麻の巾着袋が通路入口の方に飛ばされたが、中身は無事。だが、照明代わりに使っていた二つの“光る石”が見当たらない。

「…あの鳥か、クソッ、バックパックから出すべきじゃ無かったぜ…帰還の目処が立ったら何処かで手に入れないとなぁ。」

字矢は気を取り直してカートリッジ作製を続けた。この後、銃を片手に警戒しながら又、居眠りしない様に注意しながら、九ミリパラベラム弾を九個、四五ACP弾を八個まで作製して止めた。各種材料も殆ど残って無い。字矢はL型ハンドライトの電池を交換した後、ライトは使用せず、軍用迷彩服のポケットから単眼ナイトビジョンを取り出して改造ヘルメットに取り付けた。“PBM”を始め、荷物を全てバックパックに収めた。透明バイザーを上げて、単眼ナイトビジョンを片眼に当てて電源を入れる。バックパックを背負い、九ミリサブマシンガンを構えると、部屋を後にして先に進んだ。

 鋼の通路が続く。一本道だが、右に左に折れていた。更に暫く進むと、左右の壁側に両開き扉が等間隔で奥まで見える直線通路の前まで来た。その扉は全て、縁に鋲打ちされた鋼鉄製の様だ。だが、その全てが対角線上、✕状に細長い鋼板が打ち付けられていた。封印されている様にも見える。字矢は無視して歩みを進めた。すると、左右に有る最初の扉を過ぎた時に、通路に大音響が鳴り響いた。全ての扉の内側から何かが激しく鋼鉄の扉を叩いている様だ。

「あぁ…いよいよホラーの世界だなぁ…。」

こんな所に長居は無用。字矢は走り出そうとした。だが、その時、通路から衝撃を感じると共に金属を劈く様な不快な音がした。右側奥の扉を突き破って何が通路に飛び出して来た。見るとそれは、液体の様な物が形を変化させながら通路の中心の中空に浮いていた。

「ヤローーーーッ!!」

字矢は反射的に叫びながらその液体に向って、サブマシンガンをぶっ放した。すると、液体は呆気なく床に落ちた。他の全ての扉から猶も叩く音が聞こえる。字矢は全力で走ると、落ちた液体を踏まない様に飛び越えた。何とか踏まずに済んだ。更に疾走した。既に左右に開き扉はもう無い。行き着いた先は、上に続く鋼の螺旋階段だった。

「登りか…仕方ねぇ。」

幅の広い大きな螺旋階段では有るが、字矢としては単眼ナイトビジョンでは見辛かった。そこで、サブマシンガンはホルスターに収めて、単眼ナイトビジョンは再びマウントアームごと軍用迷彩服のポケットに収納した。右手に九ミリ自動拳銃、左手にL型ハンドライトを構えると、螺旋階段を登り始めた。警戒しながら登る。幸いにも途中に危険と遭遇する事無く、螺旋階段の上まで来た。鋼の通路はまだ続いていた。暫く進むとT字路の前まで来た。字矢は感だけで悩む事無く右に進んだ。程無く、通路は直進の緩い下り坂になっていた。床は鋼だけで、滑り止めの為と思われるギザギザが彫られている。緩い下り坂が終わると、床のギザギザも無くなった。猶も直進すると通路は右に折れていた。更に進むと、通路はある地点から線で区切ったかの様に岩土の通路になっていた。而も天井と両壁には大きさも形もバラバラな“光る石”が不規則に突き出していた。字矢はライトを消して、胸に固定すると、両手で自動拳銃を構え直して、更に先に進んだ。

 緩く上下左右にうねりが有る凸凹な通路を進むと、天井の高い広い空間に出た。此処も変わらず“光る石”が沢山生えていて明るい。空間のほぼ中央、床に何かの死骸らしき物の傍らに、人が一人立っていた。その人物は頭以外、所謂騎士の甲冑の様な物を身に纏い、手には諸刃の剣、もう片方の腕には盾、耳の辺りまで有る髪は銀髪だが、顔を見る限り若い男の様に見える。ゆっくりと空間の中央に向って歩く字矢に、床の死骸を見ていたその男は気付いて振り向いた。字矢は直ぐに右手の自動拳銃を下に下げて、左の掌を男に向けた。

「待て、敵じゃない。」

言葉が通じるとは思えなかったが、字矢は、敵意が無い事を示した。男は字矢を見ると、驚いた様子でその青い眼を大きく開き、一瞬、たじろいだ。

「@%$&*#$*……+=$&*……。」

男は何かを呟くと、その驚きの表情が怒りの形相に変わる。そして、

「%&#@###&##‘+*%%!!」

男は何かを叫びながら、盾を前に構え、剣を振り翳して、字矢に迫って来た。

「問答無用って訳か!」

字矢も叫びながら、自動拳銃を全弾ぶっ放した。スライドが開く。男は銃の音に驚いたのか、後ろに飛び退いた。だが、無傷の様だ。

「何だ?!」

字矢は目を疑った。九発の九ミリパラベラム弾は男の数センチ前で停止したかと思うと、中空に浮いたまま小さな稲光を発しながら暫くライフル回転をした後、地面に落ちた。 男はそれでもまだ怯んでいる。字矢は右手親指で自動拳銃のマガジンリリースレバーを下に押して空のマガジンを地面に落とすと、装填済のマガジンをグリップ下から入れた。スライドレバーを押す。スライドが閉まると、再び発砲しようとしたが、既に気を取り直した男の剣が迫る。字矢は大型軍用ナイフを左手で抜くと、同時に九ミリ自動拳銃をホルスターに戻す。横に動きながら男の剣を左手のナイフで受け流す。隙かさず男の腕を掴んで足を払おうとしたが、男は水平にした盾を横に薙いで此れを防いだ。字矢は後ろに飛び退いてかわすと、右手にも大型軍用を手にした。そして、二本のナイフで男の剣と盾を迎え討つ。この後、暫く二人の戦闘が続く。字矢が男の“盾”を破壊する迄は…。───────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 L型ハンドライトの光で岩土の通路を進んでいた字矢だが、軍用迷彩服のポケットからマウントアーム付きの単眼ナイトビジョンを取り出すと、改造ヘルメットに取り付けた。ライトを消して、ナイトビジョンを目に当てる。

「あの若作りの騎士野郎と遣り合っている時に、此れ外しておいて正解だったぜ。ナイトビジョン壊されたら洒落にならないからなぁ。まぁ、奴は俺が蜂の巣にした挙げ句、土石の下敷きだ。もう二度と会う事は無い。」

字矢は四十五口径自動拳銃を両手で構えながら、緩い下りの通路を猶も進む。

「そう言えば、残りの九ミリパラベラム弾、もう使わないよなぁ。バラして“PBM”で他の弾に作り変えたいが…。」

字矢は、何とか落ち着いて陣を取れる場所を探す事にした。

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