第三章 非合法プロジェクト
自動ドアの向こうは横に細長い小部屋になっていた。此処で、この棟に入る為の最終的なセキュリティーチェックを行う様だ。全身スキャンと石島の顔認証が完了すると、先に有る自動ドアが開いた。 石島と字矢が部屋に入ると早速、
「お疲れ様です。」
その声はその部屋に居た複数のスタッフからであった。部屋にはパソコンが有る机が並び、壁際には複合プリンター等のOA機器が並んでいる。アクリルの扉を仕切りにその奥に部屋が見える。その奥にはタワー型のコンピューター立ち並ぶ部屋が有り、左側に上階と地下に続く階段とエレベーター、右側には扉が見て取れた。
「みんな、お疲れ様。彼は私の友人だ。後で紹介するよ。外屋敷主任は地下かな?」
「はい、主任からお話は聞いています。地下でお待ちですよ。」
「そうか、有り難う。柿崎、付いて来てくれ。」
石島と字矢は奥の部屋からエレベーターで地下三階まで降りた。するとそこもまた、先に自動ドアの有る小部屋になっていた。ドアの横に有るパネルに石島はセキュリティーカードを翳した。パネルに緑色のランプが点灯すると、次に網膜スキャン行う。程なく二つ目の緑色ランプが点灯すると、その自動ドアが開いた。そこは五段しか無い階段の上に両開きの自動ドアが突き当たりに有り、それ以外は何も無い壁も床も白い部屋であった。その階段の右横には、眼鏡と“無造作ミディアム”の黒い癖毛が目立つ白衣の男が立っていた。男は石島と字矢を見ながら、
「お待ちしておりました。準備は出来ています。」
石島は字矢の肩を軽く叩きながら、
「主任、友人の柿崎字矢だ。柿崎、うちの技術主任の外屋敷恭介だ。」
「外屋敷です。柿崎さん、来ていただき有難う御座います。宜しくお願い致します。」
「こちらこそ宜しくお願いします。」
平静を装っている字矢で有るが内心ではこの建物に入る前から警戒はしていた。勿論、石島の事を信用はしているが、仕事の内容をまだ聞いていない以上、何も考えずにただ付いて行くのでは、ド素人と変らない。道場を出る時の木道の言葉が字矢の頭には常に有った。
「先ずはアレを見せようか。」
「分かりました。では此方へ。」
外屋敷は白衣のポケットからリモコンを取り出すと同時にはそのボタンを押した。すると、先のドアが左右にスライドして開いた。三人は五段階段を上がり、その先の部屋に入った。
「今まで居た部屋が前室、この部屋が検疫ルームだ。もし此処で危険な微生物や毒物、その他の危険物が検知された場合、それ等を取り除く処理が完了しない限り、どちらにも進む事は許されない。」
天井と周りの壁自体がセンサーとなっていた。程なく、スキャンが開始された。光の帯が頭頂から足先へ、更に足先から頭頂へ走るとスキャンは終了して、その先のスライドドア横のパネルにOKサインの緑ランプが点灯するとスライドドアが開いた。外屋敷は中に入ると、
「問題無い様ですね。どうぞお入り下さい。」
ドアを潜ると、再び五段階段が有り、降りるとそこは今までの部屋と異なり、かなり広い円筒形の部屋になっている。但し、部屋の一部分が機材やらコンテナ等が遠くに見える隣の格納庫らしき部屋と繋がっていた。二階層上まで吹き抜けになっていて、その天井にはレール可動式のクレーンアームが複数設置されている。このレールも隣の格納庫まで続いている。そして、よく見ると部屋の隅、三ヶ所に高さ約七メートル、直径約一・四メートルの円柱状の装置が上から見ると、正三角形の角の位置に配置されている。床には、危険表示の黒と黄色のトラジマの帯が装置と装置を繋ぐ様にペイントされていた。石島は、その円柱状の装置を見ながら自慢げに、
「柿崎、これが何か解るか。」
「えっ、解りませんよ。何ですか、これ?」
字矢は親しげではあるが、困った様な笑みで応えた。
「こいつで未来に行く事が出来ると言ったらどうする?」
石島の作り話の様な現実離れした 有り得ない話に字矢は一瞬、思考が止まってしまった。だが直ぐに気を取り戻して、
「いや、いや、真逆いくら何でも冗談ですよねぇ。」
“何をバカなことを“と言わんばかりに呆れた様に言う字矢に、石島と外屋敷の二人は無言で微笑みながら字矢を凝視する。
「…………」
「…………」
「…まじっ…すか?」
字矢は二人を何度も見回しながら 動揺しながら確認の言葉を発すると再び思考が止まった。
「本当だ。但し、何処にでも、何時の時代にでも行ける訳じゃ無い。そこまで万能では無いがなぁ。」
更に続けようとする石島に再度気を取り直した字矢が遮った。
「ちょっ、ちょっと待って下さい。つまり俺にその未来に行けと言う事ですか?」
「その通りだ。話が早いな。」
石島は期待通りと言わんばかりに満面の笑みで字矢の肩を軽く叩きながら答えた。
「詳しい事はコントロールルームで話そう。」
石島がそう言うと、外屋敷が二人を入って来た扉の方へ促した。三人は検疫ルームを通り前室に戻ると、前室の側面に有る別の扉から階段で一階層上に上がった。階段を上がり切ったその広い部屋の奥の壁一面に、沢山のモニターが配置され、その下に有る横長の机の上には、複数のワイヤレスキーボードとマウスが並んでいる。それ等とリンクしている複数のコンピューター本体は、机と壁の間の有る様だ。その横長の机の前の椅子には数人のスタッフが座って何やら作業をしていた。石島は、部屋のほぼ中央に有る打合せ用のテーブルと椅子が有る方へ歩きながら、
「こっちだ。資料を見ながら話そう。」
字矢はテーブルを挟んで、石島と外屋敷の向いに座った。テーブルの端に一台のパソコンが有り、資料映像などを映しながら打合せを行う事が出来る様だ。外屋敷は既に起動しているそのパソコンのマウスを操作した。すると、画面上に金属らしき球体の静止画像とその仕様表が映し出された。
「ゴホッ、ゴホッ、極力簡単に説明する積りだ…。」
その画像を見ながら石島は咳払いをした後、一言ことわりを入れてから説明を始めた。
「さっきも言った様に未来に行けるとは言え、この時空転送装置が完成した段階では、今の設定で何年先のどの場所に行けるかは全く不明だった。試しに予備機の設定を真逆にして過去に繋がるかやって見たが、何も起こらなかった。つまり現時点の研究では、設定その物を変更したところで、時間を越える事自体出来なくなってしまうと言う事だ。そこでだ、先ずはこの球体を未来に転送した。転送先が人の生きられる場所かどうかを確認する為にだ。」
困惑な様子で画面を見ながら聞いている字矢に、外屋敷と石島が交互に説明を続ける。
「この直径三十センチ程の球体は言わば発信機の一種です。本来なら現代と未来をリアルタイムで通信を行うのは不可能です。先程お見せした時空転送装置は膨大な電力を消費する上に、長時間の起動は装置自体も持ちません。球体は時空転送装置で転送された後、装置が完全に停止する数十秒の間に、極めて単調な信号を発信し続けます。その位小さな信号ならば受信可能です。もし、この球体が水中や地中又は真空の場所、或は著しく気温が高過ぎる又は低過ぎるなど、人間が生存不可能な場所に到達した場合、信号を発信しない仕組みになっています。」
「つまりこの球体は転送先が探索可能な場所か確認する為だけの物だ。まぁ、未来の人間に拾われたら、それはそれで面倒では有るが…気にしていたらプロジェクトが進まないからなぁ。幸い球体から信号は送られて来た。」
「次に簡易AI搭載の探査ロボットと時空発信機を一緒に未来へ転送しました。」
画面が切り替わり、探査ロボットと時空発信機の静止画像と仕様表が映し出された。探査ロボットのサイズは幅と高さは約百センチ・奥行き約百二十センチ、上部の胴体にはカメラ・各種センサー類と左右に腕の様な物を掴む為のメインアームが有る。下部はまるで戦車の様な形状をしており、キャタピラで走行する様だ。その戦車の前面中央辺りから三本の細い先端に計測用センサーが装着されたサブアームが生えている。時空発信機は高さ約六十センチ・太さ約三十センチの六角柱にクレーン車のアウトリガーの様な脚が六本付いた。発信機と言っても球体とは別物である。外屋敷が話しを続ける。
「探査結果は、この探査ロボットを回収して記録された情報又は回収したサンプルなどを確認して始めて解ります。直接過去には行けませんが、送られた未来から現代に戻す事は可能です。時空発信機はその為の物です。詳しく理屈を言うと難解な上に長くなるので割愛しますが、時空転送装置に予めタイマーで起動時間をセットします。時空発信機と探索ロボットにもタイマーが搭載しています。このタイマーは探索ロボットが未来に到達後、設置時間が探索ロボットから時空発信機に送信され、三つの装置のタイマーがリンクします。その後、カウントダウンを開始して、タイマーが“0”になると、未来と現代で時空発信機と時空転送装置が起動、探査ロボットを現代に戻す事が可能になります。」
「探査ロボットの簡易AIの判断によって、転送された時空発信機は安定した状態で設置される。それと、探索ロボットにもタイマーが有るのは、起動前に時空発信機の有る場所に戻る為だ。最初に転送した時は、戻れるかのテストのみ行った。無事に戻る事が出来た。二度目は念の為、予備の時空発信機も転送した上で、周辺を探索した。その時の映像がこれだ。」
石島はマウスを操作した。すると、画面にライトに照らされた地下の洞窟の様な空間が映し出された。映像が動く。洞窟と言っても凸凹の茶色い土の壁面と地面が見て取れる。ただ地面は土と土の間に不規則な間隔で黒い金属板も見えていた。映像の最後には、転送した二機の時空発信機が六本有るそれぞれの設置脚の高さを絶妙に変えて凸凹の地面に対して発信機を垂直に安定させていた。
「この時の探査ロボットは無事に現代に戻り、今の映像と空気のサンプル・土のサンプルを回収する事が出来ました。空気の成分比率は、人間が普通に呼気して問題無い物でした。微生物等に関しても、危険な類の物は皆無でした。この後、引き続き探査を行う為、探査ロボットを未来に転送しました。ですが、タイマー設置時間に時間転送装置が起動したにも関らず、探査ロボットは戻っては来ませんでした。」
「そこで、原因を調べる為、予備の探査ロボットと三機目の時空発信機を転送した。勿論、予備の探査ロボットの簡易AIには原因調査と機材故障の場合は、可能な限り修理作業を優先する様にプログラムに変更した上で、その後、この予備の探査ロボットと最初の探査ロボットは無事に現代に帰還した。それは良かったのだが…。」
「解析の結果、先に転送したニ機の時空発信機の破損が原因でした。その破損は探査ロボットの装備では修理不可能なほど酷い物です。」
外屋敷が今度はキーボードを操作した。画面に映し出されたニ機の時空発信機とも、外殻を何か強い力で引き裂かれ、中の機械や配線類がボロボロの状態で飛び出し、ショートする度にバチバチと火花を放っていた。石島が画面を指差しながら、
「酷い有り様だろう。早速、最初の探査機の映像を確認したら不気味な鳴き声みたいなのが入っていたが、その声の主は映ってはいなかった。それと、こんな物まで映っていた。」
石島がマウスを操作した。今度は最初の探査機の映像が未来に取り残された時の映像が画面に流れる。時空発信機が設置された場所から約五十メートル離れた土の岩壁に黄色く光る石の様な物が五、六個埋まっていた。位置も形も不規則では有るが、少なくとも探査機の計測では、岩壁から顔を出している部分から推測出来る大きさは、平均で長さ三十センチ前後、太さ十五センチ前後予測された。更に探査機は、大きさだけで無く、センサー類が内蔵されていると思われる。数本のアームを輝く石に当てて何やら計測している様であった。そして、問題の不気味な鳴き声の様な音、それは狼の遠吠えと、カラスが威嚇する時の激しい鳴き声、毒蛇が威嚇する時の鳴き声、その全てが合さった様な音と破壊された時空発信機の物と思われる耳を劈く金属音が輝く石の映像のバックに流れていた。音が収まってから、漸く探査機は時空発信機の設置していた場所に戻るべく、方向転換したが、生物らしき物の姿は無く、定位置に戻った時には無残に破壊されたニ機の時空発信機が映っているだけで有った。その映像に合わせて画面右下に小さく三行で“発信機修復不可能”、“タイマー同期エラー”、“警戒スリープモード”の文字が表示されて、映像は終わっていた。字矢は黙って最後まで映像を見ていた。だが、破壊された時空発信機が初めて映し出された辺りから困惑の表情は消えていた。寧ろ楽しそうな表情ですらある。石島に向かって字矢が口を開く、
「石島さん、要するに探査に邪魔な生物を見つけ出して、退治して来いって事ですよね?」
石島は字矢を見て微笑みながら、
「勿論、それも目的の一つだが、不可能であれば無理する必要は全く無い。それよりもだ…。」
石島は再度マウスを操作して、“光る石”の所まで映像を戻すとそこで静止させた。
「柿崎、お前に頼みたい仕事は、この石を最低でもニ個は掘り起こして回収して来る事だ。システムのタイマー設定時間は二時間だ。つまりカプセルポッドは現地に到達してから二時間後に帰還の為の起動を開始する。実質現地での作戦行動は帰還準備も含めて二時間以内だ。最初は探査機にやらせようとして何度か試したが、無理だった。岩壁から掘り起こす事自体、本格的な力仕事の上に微妙な力加減が必要だからなぁ。元々土建作業が可能な設計にはなって無いし、それ用のロボットを開発している時間も無い。結局は人の手でやらざるを得ないんだ。」
「この石、まさか、放射性物質じゃないですよね?だとしたら回収どころか見える所に突っ立っただけで被爆ですよ。」
「探査ロボットにはガイガーカウンターも標準搭載しています。計測結果は基準値よりも遥かに下でした。つまり放射線は寧ろ皆無と言えます。」
「とは言え、実際に人を送り込むとなると探査機の計測だけでは心許無い。実は既に人間で確認済みだ。空気の状態、それと被爆しないか、或は他に危険な微生物なんかが身体に付着・侵入しないか等、その辺りを確認する為だけに外屋敷主任が一度だけ未来に行って自ら実験台になった。ここの責任者の俺が行くと言ったのだが、主任技術者のけじめだと言い張ってどうしても譲らなくてなぁ…」
外屋敷はマウスを操作した。画面には正十二面体の本体、その中段の角と下段の角の間の縦辺に当たる五ヶ所にアウトリガーの様な脚が付いた装置が映る。仕様表にカプセルポッドと記載されているその装着は、アウトリガーも含めて、上下左右約三メートルは有る。一部分が外に向かって上から下に開くハッチで、ハッチの内側は階段になっていた。そこから人が出入り出来る様だ。ハッチの無い部分には数個の覗き窓が有る。
「今、課長が言われた件の調査結果ですが、全て問題無しでした。私はあえて防護服やガスマスクの類は装備せずに、このカプセルポッドに搭乗して未来に行きました。カプセルポッドには時空発信機と検疫システム、医療キットそれと周囲を警戒する為のセンサーが内蔵されています。私は未来に到着後、警戒センサーが危険表示をしていない事を確認して、カプセルポッドのハッチを開けて外に出ました。“光る石”はその場から直線で約五十メートル先に既に見えていました。カプセルポッドを背に立ち、数回深呼吸をしてから直ぐにカプセルポッドに戻りました。謎の危険生物は現れる事無く、帰還設定時間になるとカプセルポッドとともに現代に戻る事が出来ました。」
「無事戻って来てくれて本当に安心したよ。俺としては、直ぐに休ませてあげたかったが、そう言う訳にも行かなくてなぁ…。」
「えぇ、ある意味戻って来てからが本番ですからねぇ。先ず、カプセルポッドに搭載されている検疫システムで体温・発汗を検査して異常が無いか、危険な微生物の付着・感染が無いかを確認しました。問題無かったので、ポッドから出て、検疫ルームに入りました。」
「検疫ルームの検査・治療設備の操作は全て上のコントロールルームで行う。先程通った時は何も無い様に見えただろうが、床には寝台と生命維持装着・壁には薬品や補助装着が収納されている棚と各種スキャンシステム・天井には施術を行う多目的アームが内蔵されていて、必要に応じて姿を現す様に出来ている。そこで主任は各種スキャン系の検査と血液及び体液検査を行った。結果は体内組織、血液・体液共に異常無しで、被爆も感染もしていない。身体に付着していた細菌やカビは現代でもごく普通にいる問題の無い物だった。それとウイルスの類は付着していなかった。」
“光る石”の場所が少なくとも人が生存可能な場所なのは理解出来た。たが、字矢は今頃になって肝心な事を聞いて無い事に気が付く。
「ところで、今から何年先の未来ですか?」
石島と外屋敷も忘れていたと言う表情をした。外屋敷が答える。
「申し訳ございません。コントロールシステムには“+63225”と表示されています。つまり、今から六万三千二百二十五年後の何処かと言う事になります。それと、これも言い忘れていましたが、一度行った未来の同じ時間には行けないと言う事です。コントロールシステムの表示は“+年・月・日・時・分・秒”まで有りますが、リアルタイムで進み続けています。時空発信機が破壊された時も原因を突き止める為、その同じ時間に強制的にシステムの時間を合わせようとしましたが、駄目でした。詰まり、例えば、一回目の探査から帰還、一週間後に二回目の探査を行ったとします。その二回目の未来は秒単位で、一回目の未来の一週間後の未来と言う事になります。」
「六万年以上も先…。」
字矢は“六万三千二百二十五“と言う数を聞いてから後、外屋敷の声は耳に入って無かった。その気が遠くなる数字を聞いて目が点になり放心状態となっていたからだ。
「柿崎、五千万だ!」
「えっ!」
石島のいきなりの言葉に、字矢は訳も判らず反応した。
「今回のミッションの報酬、五千万円出す。但し、公には出来ない金なので、受け渡し方法は目下検討中だ。柿崎、報酬を手に入れてもバカ正直に確定申告とかしないでくれよ。うちの会社が叩かれる事になるからなぁ。」
「そんなに貰えるんですか…。」
字矢は石島の今の言葉を聞いて、改めて会社ぐるみの非合法なプロジェクトだと思い知らされた。本来ならば、この場から早々に立ち去る所だが、それでも石島を疑う気にはなれなかった。たが、そんな事以上にこの現実離れしたミッションに内心、高揚感が高まり続けている。席を立つ積もりなど毛頭無かった。
「私が未来に居たのは十五分間です。而も、実際にこの身を外気に晒したのは、ほんの二分程度です。残りの十三分はカプセルポッドの中で帰還時間になるまで待機していただけです。」
外屋敷が未来に行った時の事を再度話し出した。真剣な表情で話しを続ける。
「“光る石を”回収するだけとは言え、柿崎さんの場合、カプセルポッド内に居る時間も含めれば、確実に二時間はあの場にいる事になります。時空発信機を破壊した者の正体も不明のままですし、何時また現れるか分かりません。勿論、それなりの装備は此方でご用意はしますが、果して通用する相手かどうか…。また、一連の時空転送システム自体、柿崎さんが未来に行った後で故障しないとも限りません。来て頂き本当に有り難いのですが、今一度よくお考えになって下さい。」
今の外屋敷の話しを受けて、石島は改めて字矢の顔を真正面に見ながら真顔で語り掛ける。
「柿崎、只の元自衛官では無いお前にしか頼めないと思って依頼した。だが、聞いての通りだ。万が一の事が有れば生きては帰れない。嫌なら断ってくれていい。それでも報酬は五千万、間違い無く払う。」
字矢は高額な報酬が、石島が自分を信頼してくれている事も然ることながら、口止め料も含まれている事を今になって解った気がした。
「本当に凄い額ですね。確かにあの“未来に行ける装置”、特許を取って世の中に出したら、そんなもんじゃ済まない程の価値が有るのは想像付きますが…。」
石島が遮る。
「いや、この装置自体を売り物にする気は無い。利益を得るのが企業の最大の目的とは言えだ、こんな物を公にすれば、一時的に話題にはなるが、倫理的リスクがあまりにも大き過ぎる。それこそタイムマシンなんか持っていると知られたら欲に狂った奴等や、面倒臭い思想を持った奴等に俺たち関係者の命が狙われる可能性も有る。会社の上層部・経営陣とも同じ意見だ。だから存在自体極秘だ。其れはそうとして…。」
石島は改めて字矢に聞いた。
「柿崎、どうする?」
字矢は真顔で、
「こんな面白そうな仕事、断る理由なんか有りませんよ!地下の洞窟見たいな場所とは言え、俺も六万三千年後の未来がどんな所か楽しみですよ!」
「よし!決まりだな!ミッション開始は明日だ。それまでに今日は必要な装備品の準備を行う。早速、上の階に移動しよう。」
石島は話しながら立ち上がった。字矢と外屋敷がそれにつられて一緒に立つと、三人はエレベーターの方へ歩いて行った。が、石島が急に立ち止まり、
「おっと、忘れるところだ。みんなに紹介しないとなぁ。」
そう言うと石島はコントロールシステム、先程この部屋に入って来た時に見たモニターやキーボードが有る辺りにいるスタッフ達の元へ歩いた。字矢と外屋敷も其れに続く。
「みんな一寸いいか。彼が今回のプロジェクトに参加してくれる、友人の柿崎字矢だ。宜しく頼む。」
「柿崎字矢です。宜しくお願いします。」
スタッフ達も一礼して挨拶した。三人はエレベーターで建物入口から直ぐの最初に入った事務室に行き、そこの職員達に同様の紹介と挨拶を済ませると、エレベーターで上の階に移動した。