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第二十二章 高度な魔法陣

 結界維持の為、フォイウーは腕を組み、肩幅に足を開いて不動の如く立ち尽くしていた。その結界が、この広間の存在を外部から悟られない様に偽装している。落下した機材類は、今も発見された時と変わらずであった。

「来たか。」

何かを察したフォイウーが口を開くと同時に、広間のほぼ中央で強い光と共に強風が渦巻いた。その光と強風が収まると、そこには六人の人物が姿を現した。イルヴィニの一団と字矢である。

フォイウーは、一団に歩み寄りながら、

「無事で何より…いや、違うな、エズは残念だ。我等ハイエンシェントの力不足だ。すまない。」

ドヌヴォは革の兜を脱ぐと、白髪交じりの“九分刈り”頭を掻きながら、水臭い事を言うなと言わんばかりに、

「何言ってやがる。一般のハイエンシェントならともかく、シュイファ達でも手に追えない状況なら仕方がねぇ。それによ、全滅免れただけでも万々歳だ。エズの野郎は、寿命だったんだよ…。気にするな。」

「あぁ、その通りだ。それに此れが無ければ、本当に全滅していた。」

ドヌヴォの言葉に賛意を表したゲルキアンは、早速、仮の封印でグルグル巻の『邪眼のナイフ』をフォイウーに差出した。

「封印である筈の“鞘“は紛失している。頼めるか?」

「勿論だ、預かろう。」

そう言うと、フォイウーは片手で受け取った。所詮は仮の封印、先程までゲルキアンが所持していた間は、若干の“邪気“を放出し続けていた。だが、ハイエンシェントであるフォイウーが手にした途端、その“邪気“も完全に消えていた。

「アザヤ、お前が乗って来た乗り物はアレか?」

「そうだ、あの一番大きい奴だよ。それにしても酷い有り様だな…。あの高さから、当然か…。」

落下した機材類を見ながら聞いてきたイルヴィニに、字矢は無惨な姿に成り果てたカプセルポッドを指差しながら答えた。すると、イルヴィニはフォイウーの方を向いて、

「誰も来てないよな?」

「当然だ。心配無用。我が結界に抜かり無し。」

「そうだよな。」

「あんたがこの場所を守ってくれていたハイエンシェントか。ユルザから聞いている。アザヤ・カキザキだ。有り難う。」

「アザヤ殿、よくぞご無事で。我はフォイウーと申す。」

ドヌヴォ、エホリマ、シャルの三人もまた、落下した機材類の確認をしていた。ドヌヴォがイルヴィニに向かって、

「乗り物って事は、先ずはコイツを“乗れる”様に修復魔法で治すとするか。」

「魔法で修理出来るのか?!」

字矢は思わず聞き返した。

「あー、いやいや、側って言うか、全体の“形“だけだ。複雑な中身は無理だ。」

「中身まで完璧に治されてたまるか!私の魔法の意味が無くなるだろう!」

何故かプンプンしながら怒るイルヴィニ。

「そ、それでは皆さん、早速作業を始めましょう。」

シャルがその場を取り繕うかの様に、皆に声を掛けると、

「ちょっと、待ってくれ…。」

字矢が皆に向かって話し出した。

「銃の使い方、今ここで、俺が教えていいか?」

「ユルザから頼まれたのですか?」

シャルが聞き返すと、

「いや、頼まれてはいないが…。ユルザは、アンタ等が地上で銃をもっている所を、人に目撃されるのではないかと気にしていた。だが、俺はそれほど問題だとは思わない。銃の偽装など、どうとでもなる筈だからな。」

「そう言う事であったか。」

フォイウーが納得の笑みを浮かべながら話し出した。

「ユルザも律儀であるな。なに、物理的な偽装が困難で有れば、我等ハイエンシェントが迷宮内で受け渡しする事も可能だ。」

「いいのか?戒律違反にならないのか?」

ゲルキアンが心配そうに尋ねると、

「大丈夫だ、問題無い。」

フォイウーが答えると、

「そう言う事なら…。」

「アザヤ、使い方、教えてくれ。」

「ぜひ頼む。」

エホリマ、イルヴィニ、ゲルキアンは字矢に向かって順に話した。

「分かった。九ミリとアサルトライフルは、ユルザからの借り物だ。返す序にコイツ等を使おう。予備カートリッジも十分有るからな。」

字矢は左右の手で、身に付けている二丁の銃をそれぞれ指差しながら応えた。

「丁度、乗り物を直す時間があるな。よーし、それじゃ、イルヴィニとゲルキアンは銃の使い方を教えてもらえ。エホリマとシャルは俺の手伝いだ。」

「あいよ。」

「御意。」

ドヌヴォの指示で、二人は早速作業に取り掛かった。ただ、手伝いと言っても道具も無い中、最低限の石や瓦礫を除去するだけの作業である。

「端の方でやろう。フォイウーの近くだと銃は使えないからな。」

「どう言う事だ?」

字矢は、怪訝な表情でイルヴィニに尋ねた。

「我等ハイエンシェントの半径三メートル以内では、如何なる可燃物も発火せぬのだ。」

代わりにフォイウーが自ら答えた。

イルヴィニを先頭に、三人は広間の端に移動した。字矢は先ず『神使いの腕輪』を返す事にした。イルヴィニが表面の模様を指でなぞると、字矢の左腕にある『神使いの腕輪』が宙を浮いた状態で外れた。字矢が左腕を避けると、イルヴィニは、そのまま自分の左腕に装着した。

「銃は種類によって使えるカートリッジが異なる。先ずは九ミリ自動拳銃だ。使用するカートリッジは…。」

字矢は銃の指導を開始した。使用する銃弾の説明から始まり、弾倉の装填、安全装置の入切りなど基本的な動作を教えると、自ら少し離れた壁に撃って見せた。続けて、イルヴィニ、ゲルキアンも実際に九ミリ自動拳銃を手にして、一連の動作を練習した後、二人で交代しながら、壁に向かって試し撃ちを繰り返した。本来であれば、耳栓をしなければ五月蝿くて耐えられない程の銃声すらも楽しんでいる。

「これだけ片付けば十分だ。お前らも教えて貰え。」

ドヌヴォの指示でエホリマとシャルも字矢たちに合流した。ドヌヴォの手にする『修道全集』は光を放ち続けていた。宙空に浮いた状態で、修復中のカプセルポッドは、程なく“形”だけの修復を終えた。まだ多くの土砂が残っている凸凹な地面に若干傾いた状態ながらも、アウトリガーの様な足でしっかりとその場に着地している。

「おう、おう、やっているなぁ。」

『修道全集』を懐に納めながら、ドヌヴォも合流した。イルヴィニ達は九ミリ自動拳銃と同様に、アサルトライフルの取り扱い指導を受けた後、今は試し撃ちをしていた。それを見ていたシャルが思い出したかの様に、

「それにしても凄い武器ですね。以前、ユルザに見せられた時と違い、実戦では迫力が違いましたね。」

すると、エホリマが楽しそうに、

「あぁ、さっき、アポレナの手下が出やがった時の事かい?みんなビックリし過ぎて、固まっていたからねぇ。」

「ハッ、ハッ、ハハッ、そうだったな。それによ、レグレの野郎、何も出来なくて泣きベソかいてたぜ。あのツラ思い出しただけでも笑いが止まらねぇ…。」

「あの騎士野郎、“レグレ“って言うのか?」

ドヌヴォの言葉に字矢が反応した。

「えぇ、アポレナ王妃配下の一人です。」

シャルが答えると、字矢が、

「極悪非道な王妃様の部下か。その王妃の事は、ユルザから聞いている。だが、今はまだ遣り合う時では無い事も。」

「あぁ、その通りだ。だから俺たちも今はまだ、迷宮内を探索しながら、王妃一派の動向を日々探っている段階だ。」

ゲルキアンがアサルトライフルのマガジンに、弾を込める練習をしながら答えると、

「時々、奴等の妨害をしながらねぇ。」

エホリマが楽しそうに付け加えた。

「それにしても、何だ…。」

ドヌヴォが字矢の顔を見ながら話し出した。

「『若作りの騎士野郎』とは良く言ったもんだ。気に入ったぜ。レグレの野郎、実際のところ、年齢不詳だしな。」

「そうそう、アタシが子供の頃から国王軍に居たって言うから、いい年のオッサンだよ。絶対!」

アサルトライフルの試し撃ち終えたイルヴィニが、興奮気味に話すと、エホリマが感心したように、

「イルヴィニ、アンタよくそんな事知っているね。」

「うん、前にユルザから聞いた。」

一団が一通り取り扱いの練習を終えた辺りで、フォイウーが声を掛けて来た。

「そろそろ頃合だな。」

「おう。」

ドヌヴォがフォイウーに返事をすると、

「アザヤ、ありがとう。これでアタシ等も銃で戦える。」

「あぁ、本当に助かる。礼を言うぜ、アザヤ。」

イルヴィニとゲルキアンが礼を言うと、他の三人も字矢に感謝の言葉を述べた。字矢は照れながら、

「俺の方こそ世話になりっぱなしだ。この位、たいした事じゃ無いさ。」

九ミリ自動拳銃はホルスターごとイルヴィニに、アサルトライフルはゲルキアンにそれぞれ託された。

字矢と一団は、広間の中央へ移動した。更にイルヴィニが足場の悪い中、カプセルポッドの近くまで歩み寄る。本来で有ればカプセルポッドを中心に、杖で地面に魔法陣を描きたい所では有るが、到底可能な状態では無い。そこでイルヴィニは魔法陣自体も魔法で描く事にした。その場に片膝を付いた姿勢で、閉じたままの『正魔導書』の角を地面に当てる。イルヴィニの行動を凝視していた字矢は、広間全体の空気が変わるのを感じた。隣で同じく凝視しているドヌヴォに尋ねる。

「本当にこれで戻れるのか?」

「簡単に言えばな、道具に使われている材料自体が持っている“記憶”見たいな物を利用する。俺たちも前に敵が使っていた弩、その弩は、敵を倒した時には既に壊れてしまっていて当然、武器としては使い物にならなくなっていた。だが、そのガラクタを元にある魔法をかけて、その敵が何処から来たか探った事が有る。まぁ、その応用だな。」

「随分と都合のいい話しだが…本当に出来るなら助かる。」

念じていたのか暫く動かずにいたイルヴィニであったが、その左手が動いた。手にする『五元の杖』の先端も地面に当てる。すると、地面の凸凹に関係無く、カプセルポッドが中心になる位置で、魔法陣らしき物が地面に現れた。それは蒼白く輝く“線”で描かれている。『正魔導書』を地面から離すと同時に立ち上がるイルヴィニ。『五元の杖』は上半分だけが“輝く魔法陣”の内側に有る状態で地面に置かれたままである。次にイルヴィニは『正魔導書』をカプセルポッドに向けて翳した。すると、動力が死んでいる筈の出入口ハッチが完全に開いた。搭乗可能な状態である。

「よし!準備出来た。アザヤ、これで帰れるぞ!」

イルヴィニは振り向きざまに、明るく叫んだ。

「あっ、あぁ…。」

字矢は若干緊張しながら答えると、慌ててスナイパーライフルをバックパックに収納可能な程度に分解した。バックパックのファスナーを開けていると、

「アザヤ殿…。」

フォイウーが近付きながら声を掛けて来た。

「それは、“光る石”どうして?」

見るとその手には、野球ボール大の“光る石”が二つ有った。

「“発光石“回収がアザヤ殿の本来の目的と知り、我が用意した。幸い、この広間にも沢山有るが故。」

「ありがとう。でも誰から?」

「なるほど。アザヤ、フォイウー達ハイエンシェントは、どんなに遠く離れていても“神通力“で、お互いの意思疎通が可能なのです。」

事情を察知したシャルが解説した。

「じゃ、フォンシィンと?」

「如何にも。」

字矢の問に、フォイウーは笑顔で答えた。字矢は有り難く二つの“光る石”を受け取ると、分解したスナイパーライフルと共にバックパックに収納した。

ゲルキアンは字矢に向かって、右手を前に出しながら、

「本当に助かったぜ、アザヤ。達者でなぁ。」

字矢はゲルキアンと硬い握手をすると、一団を見回しながら、

「ありがとう。俺にとっては、みんな命の恩人だからな。もう会えなくなるのは残念だ。」

「そんな事言うな!絶対また会える。いや、会いに行く!」

「イルヴィニ、流石にそれは無理だよ。」

エホリマが諭す様に優しく制した。ドヌヴォは“輝く魔法陣“の中心に有るカプセルポッドを再度目視した後、

「名残惜しいが、何事もねぇうちに…。」

「そうだね。」

エホリマが字矢を見ながら同意すると、

「あっ、あぁ…。」

返事をした字矢は、イルヴィニに向かって右手を差出した。その手をイルヴィニの右手がしっかりと掴んだ。硬い握手をしながら字矢はイルヴィニに向かって、

「ヘンリエットとユルザ、そしてフォンシィンにも宜しくと伝えてくれ。」

「分かった!任せろ!」

イルヴィニの元気で力強い返事に、安堵の笑みを浮かべた字矢は、足元に置いて有るバッグパックを背負った。輝く魔法陣の上を歩いてカプセルポッドに乗り込むと、バッグパックをシート下のコンテナに収めた後、出入口の真向いのシートに座り、シートベルトを締めた。イルヴィニ達からは、真正面に出入口越しの字矢の姿がはっきりと見える。字矢は改めてヘルメットとガスマスクを装着し直すと、右手で準備完了の合図を出した。それを見たイルヴィニが、地面に置いて有った『五元の杖』を左手で拾うと、右手の『正魔導書』と交差する形で前に翳した。すると、カプセルポッドの出入口ハッチがゆっくりと閉まり始めた。ハッチが完全に閉まると同時に、『五元の杖』と『正魔導書』そして、イルヴィニの両腕に有る『神使いの腕輪』が全て光り出した。何時しか、イルヴィニの表情は険しい物になっていた。その両眼は、瞬き一つする事無くカプセルポッドを睨み付けている。イルヴィニの眉間の皺が更に深くなったその時、魔法陣の輝きが一瞬、目を覆うほど強くなり、広間全体に強風が吹き荒れた。その強風が緩やかになり出した時には、広間内にカプセルポッドの姿は無く、“輝く魔法陣”も跡形無く消えていた。

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