表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/23

第二十章 合流地点へ

 アジトを出発してから字矢は、直ぐにヘルメットとガスマスクを装備した。ユルザも例のスーツを完全装着している。更に武装は、左太腿のホルスターに五十口径大型自動拳銃、腰には刃渡り三十センチ程度の諸刃の剣、手には銀色に輝く銃砲="携行ハイブリッド・レールガン"を装備している。通常のレールガンとしての機能以外に、複数の内蔵センサーにより、半径約二キロメートル以内に存在するサイキック・ゴーストを即座に探知する事が可能である。また、敵の組成に自動、且つ瞬時に周波数を合わせる事が可能な”静電気”を放出する機能がある。これによりサイキック・ゴーストと遭遇した場合、倒す事は不可能なまでも、逃走の成功率は格段に上がるのである。

二人は岩土の凸凹な通路を、『神使いの腕輪』に導かれながら一時間ほど歩き続けた。だが、今のところ魔物にも人にも一切遭遇してはいなかった。

「アザヤ、気を付けて、何か変だわ。」

「あぁ、やっぱ、都合良すぎだよな。」

二人は足元や周囲を警戒しながら、先へ進んだ。左右の分岐を右へ曲ったところで、通路の上下左右の幅が急に広くなっていた。平均で直径約十メートルは有る。

先程まで何も聞こえなかったその通路の奥から、急に複数の足音が聞こえて来た。二人は直ぐに近くの通路左側に有る凹みに身を隠し、様子を伺う。すると、奥の方に複数の人型の姿が見えて来た。程無く、革や布製の衣服に手には小型の弩、同じ服装で手には刃物、ハンマーや斧を手にしている革パンツらしき物を身に着けた筋肉ムキムキ男、それ等が多数現れた。そして、その大群の中心には、高さ約三メートルの巨大な一枚の“広葉樹の葉“が立った状態で大群に合わせてユラユラと前進していた。

「何だ、あのデカイ葉っぱ?!」

「嘘でしょう?!“広葉中心突出木トゥリー・イン・リーフ”だなんて…。」

二人は小声で話している。

「いい、アザヤ、あのデカイ葉っぱを絶対攻撃しちゃダメよ!あの葉っぱは、”トゥリー・イン・リーフ”と言う魔物で、刺激を与えると周囲に居る生物を、転送魔法の様な物で転送する習性が有るの。本当にこの世の何処に飛ばされるか分からないわ。」

(もう、何でこんな時に限って、百年に一度会うか会わないかの”超レア”な魔物と遭遇するのよ!而もアイツが居る限り、レールガン使えないじゃない!)

トゥリー・イン・リーフは飛び道具の威力を激減させる能力も持ち合わせている。それでも尚、携行ハイブリッド・レールガンの攻撃力は凄まじい物が有る。ただ、問題なのは、射出時に強力な”光”を発してしまう事だ。その”光”による刺激で、トゥリー・イン・リーフは本能的に転送の魔力を発動するのは確実である。百戦錬磨のユルザと雖もそれだけは避けたかった。

「ユルザ、周りの奴等は人間なのか?」

「えぇ、間違い無く人間よ。でも迷宮に巣くって散々人殺しをやっている連中よ。話しの通じる相手じゃないわ。迷わず倒すのよ。」

「了解!」

二人は凹みから出ると同時に、字矢はアサルトライフル、ユルザは大型自動拳銃で、大群の前衛を撃ち払う。気付いた大群が一斉に二人に襲い掛かる。だが、銃とユルザの剣技の前では敵では無い。更にトゥリー・イン・リーフの背後に連なる大群も一斉に前に出たて来た。それを迎え撃つ最中、トゥリー・イン・リーフの中心から”葉の無い多数の枝の有る幹”が生えて来た、それを見た字矢は、

「なに?!“広葉中心突出木トゥリー・イン・リーフ“、そう言う事か!」

「怒っているわね、マズイわ。」

革と布の汚い衣服の男が、トゥリー・イン・リーフの表面をナイフで何度も突き刺している。更に他の男は、前方に突き出たその幹に、筒状の何かを括り付けた。

「ユルザ、奴等、葉っぱの“木”に何かしているぞ!撃っていいか?」

「ダメよ!あれ、爆雷筒だわ!」

「爆雷筒?爆弾か?」

「逃げて!」

ユルザは目の前のムキムキ男を踏台にすると、大群を一気に飛び越え、ナイフの男と爆雷筒の男の首を諸刃の剣で跳ねた。迅速の速さで字矢の元に戻るユルザから風を切る音がした。次の瞬間、字矢の体が宙を舞う。ユルザに蹴り飛ばされたのだ。字矢は大群から離れた所に左半身から地面に落ちた。痛みを堪えながらユルザの方を見ると、男達と共に”緑色の鈍い光”に包まれていた。

「アザヤ、行って!『神使いの腕輪』が必ずイルヴィニに会わせてくれ…。」

大きく響いたユルザの声は、途中で途絶えた。同時に強い光が瞬き、風が舞続けた。その最中、字矢の目に立ち尽くすトゥリー・イン・リーフの姿が。爆雷筒の事を思い出すと咄嗟に地面に伏せた。次の瞬間、通路内に爆発音が響き、全身に爆風の圧を感じた。字矢は爆風が止むと、直ぐに立ち上がり辺を見回した。

「………。」

ユルザと大群の姿は無い。

「クソッ!…ユルザ、無事でいてくれ。」

辺には焼け焦げた木片と葉肉片が散乱していた。結局、男達の目的は不明だが、奴等の仕掛けた爆弾に依ってトゥリー・イン・リーフも死滅した事になる。

字矢は通路の先を見た。三方に分岐している。その内、翳した時に『神使いの腕輪』が輝いたのは、右の通路だ。歩みを進めようとしたその時、

「?!」

背後に何かの気配を感じた字矢は、振り向きざまに二本の大型軍用ナイフを交差させる形で構えた。その直後、二本のナイフは粉々に砕けた。咄嗟に後に飛び退く字矢。目の前には両手持ちのハンマーを振り降ろした、一体のムキムキ男が呻きながら立っていた。

「…ヤロー!!」

ナイフを破壊されて頭に来た字矢は、リスクを顧みず、背中から瞬時にバックパックを外した。ムキムキ男のハンマーが横薙ぎで襲い来る。だが、既に字矢は男の懐に。相手の神経節を封じる体術技で、男を瞬時に難無くねじ伏せた。仰向けに倒れた男の顔面に、四十五口径自動拳銃が火を吹く。五発の四五ACP弾は、ムキムキ男を確実に絶命させた。

「コイツだけ転送を免れたのか…。」

幸い紛失すること無く無事なバックパックを背負い、更にアサルトライフルも肩にかけながら、

「ナイフが無いとキツイなぁ…。ん?!」

字矢は、ムキムキ男の死体の腰ベルトに、一本のナイフが有る事に気付いた。それは”木製の鞘”に収められている。直ぐに腰ベルトから木製の鞘ごとナイフを取り外した。柄の所には、真横に一筋の線の入った球体の様な物が付いている。鞘から抜いて見ると、銀色に輝く軽く孤を描いた片刃のナイフだ。長さも丁度良い。字矢は、右手でその“球体付きナイフ”を構えながら、『神使いの腕輪』の導く方へ歩み始めた。

一見、問題無い様にも見えるが、この時、既に字矢は異常な行動をしていた。”木製の鞘”を拾わず、銃も構えていない。この“球体付きナイフ”を手にした判断が、この後の結果を左右する事を、字矢が知る由も無かった。



「やたらと出食わすな!」

ゲルキアンの大剣が、歩く骸骨を横薙ぎで三体同時に砕いた。

「魔法を使う迄もない雑魚ばかりなのは幸いだがなぁ…。」

ドヌヴォの殴打棍も、歩く骸骨の頭をかち割る。地面に崩れ落ちた骸骨共からは紫色の霧が立ち上がっては消える。

青く輝く鉱石で出来た通路を進むイルヴィニ達は、先程から多数の敵と遭遇しては、それらを殲滅していた。そして、今、残りの一体である巨大斧を手にするムキムキ男=狂戦士バーサーカーを、シャルの放った四本の矢が絶命させた所で、戦闘は終了した。

呼吸を整えたドヌヴォが辺を見回しながら、

「マズイなぁ。合流地点の先まで来てみたが、それでも見当たらねぇかぁ…。」

早速、バーサーカーの死体を漁っているエズが、

「おっ死んじまったんじゃねぇか。」

「ユルザが一緒なのですよ。そんな筈は…。」

シャルが異を唱えながらも、顔を曇らせていると、

「諦めるな!大丈夫だ、『神使いの腕輪』がこの先だって、光っているぞ!」

イルヴィニが右腕を突き出しながら、明るく叫んだ。その声に元気付けられたエホリマが、

「そうだね。とにかく、『神使いの腕輪』を信じて探すしか無いね。」

一団は、『神使いの腕輪』が輝く方へと進んだ。魔物や人の気配は無い。暫く進むと通路は岩土と“光る石”混じりの通路へと続いた。更に進むと分岐が複数有る広間に出た。

「?!」

先頭を歩くゲルキアンが、地面に横たわる人らしき物を発見した。イルヴィニの『神使いの腕輪』が一際強く輝く。それに答応するかの様に横たわる人型の左腕も輝いていた。紛れも無くもう片方の『神使いの腕輪』で有る。皆、急ぎ駆け寄る。

「見つけた、見つけたぞ!コイツがアザヤだ!」

イルヴィニが何故か自慢気に叫んだ。字矢は歩き続けた挙げ句、地面に仰向けの状態で倒れていたのだ。ドヌヴォが『修道全集』を字矢に翳した。一瞬鈍く光る。

「死んじゃいねぇ。気を失っているだけだ。」

「ユルザは?ユルザがいないぞ!」

エズは焦りながら叫ぶと、

「確かに、見当たりませんね…。」

シャルが残念そうに応えた。

「ユルザの事は分からないが、この男が倒れている理由は分かった。寄りにも依ってこんな物を…。」

ゲルキアンは、字矢の右手に握られているナイフを見ながら呟いた。更に、

「間違い無い、『邪眼のナイフ』だ。『神使いの腕輪』が無ければ死んでいた。」

ドヌヴォがゲルキアンの顔を見ながら、

「取り敢えず、ツラぁ拝まないとなぁ…。」

「あぁ、『邪眼のナイフ』に触らなければ、問題無い。」

ゲルキアンの了解を得たドヌヴォは、字矢のガスマスクを外し、ヘルメットのバイザーを上げた。一団はユルザとの打ち合わせの際、万が一の時の為、字矢の装備の外し方を教えられていた。それだけでは無い。いつでも会話が出来る様に、全員『翻訳の指輪』も装備する様にと指示されていたのだ。

「先ずは『邪眼のナイフ』の呪いを解く。少し時間をくれ。」

そう言うと、ゲルキアンは懐から八角形の鏡と、象形文字が彫られた数枚の金属札を取り出した。早速、解呪に掛ろうとしたその時、

「ヒャー、ハッ、ハッ、ハハッ、わっ、笑いが止まらねぇ…。」

広間の中央から、いきなり大きな笑い声が響いた。

「!?」

皆、一斉に声がした方を見た。笑い声の主はエズだった。エズはいつの間にか移動していた。誰も居ない先の通路に向かって何か叫んでいる。

「汚ぇなりの女だなぁ、乞食かぁ、アーッ、ハッ、ハッ、ハッ…。」

「エズ、何を言っているのですか!!」

シャルの静止を無視して、エズはレイピアを振り回しながら更に奥へ走り出す。追うシャル。だが、

「止せ!シャル、手遅れだ!」

既に前に出でいたイルヴィニが叫んだ。いつに無く真剣で鋭い声だ。足を止めるシャル。イルヴィニは続けて、

「ドヌヴォ、練っているか?」

「あぁ。だが、高等魔法だ。時間がいる。…いよいよ、腹括る時が来たなぁ。」

イルヴィニの問に答えたドヌヴォ。頬に冷や汗を流す二人は各々『正魔導書』、『修道全集』を既に手にしていた。

「みんな、悪いが全滅の覚悟はしておいてくれ!」

「いや、まだだ!」

イルヴィニの叫びをゲルキアンが制した。

「呪いを解けば、この男の手から『邪眼のナイフ』を外せる。このナイフが有れば全滅は無い。それまでお前ら二人の魔法で、時間を稼げ!」

「よーし、エホリマはゲルキアンのサポートだ。護符も全部ゲルキアンに渡せ!シャル、イルヴィニの後に付け!」

「あいよ!」

「御意!」

ドヌヴォの指示でエホリマとシャルも動いた。

相変わらずレイピアを振り回していたエズだが、ヘラヘラ笑い出した後、苦しそうに白目を剥いた。手から離れた『大天使のレイピア』が地面に落ちたと同時に、エズの体が空中に浮いた。地面から二メートル程の宙空で静止すると、仰け反る形で腰の辺りから体が二つに折れ、両手足は非ぬ向きで捻じ曲げられた。全身の裂けた皮膚から鮮血が吹き出す。出血は直ぐに止まり、全身の皮膚・筋肉・内蔵の順で蒸気の様な物を発しながら徐々に溶けて行く。中途半端に血肉が残った骸骨と化したエズの体は、尚も蒸気の様な物を上げながら、叩きつけられるかの様に地面に落ちた。

目の前の光景に、改めて一団に戦慄が走る。ドヌヴォの『修道全集』が鈍く光ると同時に、五人の身体も一瞬だけ青く光った。

「これで精神に直接入り込む呪いは防げる筈だ。イルヴィニ、行けるか!」

「あぁ、完成だ!」

イルヴィニの叫びと同時に、左手に持つ『正魔導書』と、右手で構えている『五元の杖』の双方が青く光った。そして、エズの骸の先、誰も居ない空間を睨みながら、

「さぁ、姿を現せ!サイキック・ゴースト!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ