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第十五章 落下地点にて

 地盤沈下により、字矢が乗って来たカプセルポッド始め、時空転送発信機、探査作業ロボットが約二十七メートル下の空間に落ちてから一日以上は経っていた。明るく広いその空間の中と外、更には、カプセルポッドの周りにも複数の人が立っている。皆、額当てに侍の鎧、段平と脇差を腰に携え、手には十手が握られている。字矢が現代に帰還する為に必要な機材は、司法局の侍達に発見されていたのだ。

「頃合いだ。各々方!注意されよ!」

カプセルポッドの周りにいた内の一人で、“月代と、束ねて後ろに垂らした”黒髪が妙に目立つ司法局南区域一条廻り侍頭=ロクスン・エヴァンズは、空間全体に聞こえる様に叫んだ。

間も無く空間の最も広く空いている場所に、いきなり二人の人物が現れた。音も無く、風も無くである。一人はハイエンシェントの男である。橙色の髪は“ライオンの鬣”の様に見える。上半身は裸、両手には肘まで有る篭手、下半身は古代中国の武将の様な出立ちである。そして、もう一人は極めて異質のである。各関節に当たる部分は硬い防具状になってはいるが、身体の線がハッキリ判る程の“女性用紅色超極薄軍用宇宙服”と言った感じの物で全身を包んでいた。頭部を包むヘルメットも首のジョイントで気密されている。前面は全て放射線等を完全に遮断する黒い透明バイザー、後頭部から首の下辺りまで流れる装甲は、髪の毛と錯覚しそうな形状をしており、両耳辺りの少し出っ張った装甲から下に伸びているセンサー類は、遠目で見ると大きな耳飾りと見間違えそうである。

ロクスンは鬣のハイエンシェントを見るなり、

「先ずは結界を!」

「承知!」

鬣のハイエンシェントの男─ラグザスタン所属のハイエンシェント=フォイウーは、両手の指で複雑な“印”を組んだ。三眼が一瞬だけ赤く光る。此れは、この空間の存在が気付かれないよう、又、誰人も侵入しないように、神通力を以って“結界“を施したのだ。フォイウーがこの空間内に居る間は“結界”は有効である。極薄軍用宇宙服の女はヘルメットに手を掛けた。金属の部品が動く音と共に空気圧が抜ける様な“プシュー”と言う音がした。ヘルメットが下の方から前後に開くと、女はヘルメットを脱いだ。髪は紫色の“ハンサムショート”、青い瞳に紫の唇と生気の無い真っ白い肌。美女だが明らかに人では無い。

ロクスンは足速に二人の元に来ると、

「ユルザ殿、申し訳ない。信頼出来るのはラグザスタンしか無い故、無理を承知でご連絡した次第。」

「ロクスンさん、何水臭い事言っているのよ!変な奴等よりも先に見つけてくれて良かったわ。流石、南区域廻りの御侍さん達ね!」

極薄軍用宇宙服の女─クィーン・ヴァンプにして、ラグザスタンを束ねる者=ユルザ・ソホヴァーは、似つかわしく無いほど気さくに応えた。いや、普段から可也気さくである。ロクスンは安心した様子で、

「忝ない。そう言って戴けると助かり申す。」

「おう!天井と床を突き破って落ちて来た様だな。而も何層も上から。」

フォイウーは天井に開いた穴を見ながら、寧ろ楽しそうに話した。

「恐らくは、”岩や土”で構成されていた階層が崩れて、その衝撃で元々脆くなっていた各階層が立て続けに崩落した様です。それと、此等の得体の知れ無い伽羅倶梨の類、魔法を用いて調べたところ、一番大きい物は人が乗る乗り物と思われます。」

ロクスンはフォイウーと共に天井を見上げなから話すと、カプセルポッド始め、土砂や瓦礫に半分埋もれている機材類の方に目を向けた。

ユルザとフォイウーは、埋もれているその機材類に近く。見ると、カプセルポッドのアウトリガーは折れ、窓も割れ、出入口のハッチは開いたまま非ぬ方向に曲がっていた。探査作業ロボットは、アーム部分の確認出来るが、胴体部分は原型が判らないほど破損が酷い。時空転送発信機も似た様な状態である。フォイウーは、三つの機材全てに右掌を翳して確認した。

「此等の道具類、見た目だけでは無く、中身も壊れている。間違い無く動かない。」

「ウフフッ…。フォイウー、此れ見て何か気付かない?」

ユルザは楽しそうに問いかけた。

「んっ?…そうか!ゲルキアンが言っていた…。」

「う〜ん!そうよ!私達からしたら、懐かしくて堪らない装備を身に付けている、人間の仲間よ!」

「然し、何故、こんな所に?」

「何処からとか、目的とかは判らないけど、あれじゃない?乗って来た機材が深い穴に落ちて、帰るに帰れ無くて、迷宮内を彷徨い歩いている。そうよ!そうに違い無いわ!」

「だとすれば、彼の者、いつ力尽きてもおかしく無い!」

「必ず見つけ出して助けないとね!」

ユルザはロクスンが立つ所まで戻ると、

「ロクスンさん、任せて。この場は全て私達ラグザスタンで預かるわ。記録は残さないでね。それと、迷宮内でもし、”変わった武器”を持って、”変な格好”をしている人を見つけても、絶対に接触しないでね。直ぐにいつもの方法で私達に知らせて。」

「心得申した。この場の記録は抹消します。穴の開いた各階の通路に至る道は、全て封鎖済みです。それと、“変人”の件、急ぎ司法局本部に戻り、区域廻りの侍全員に通達を出します。」

「…彼の者、“変人”にされてしまったか…。」

フォイウーがぼそっと呟いた。

この場にいる侍達に再び号令を出そうとしたロクスンは、急に思い出したのか、

「そう言えば、ユルザ殿、ティボル卿のご様体は如何か。同区域、四条廻り・五条廻りの侍達が偉く心配しておりました。負傷した者もおりましたが、命が有るのはティボル卿のお陰と。」

「えぇ、徐々にだけど良くなっているわよ。少しでも早く回復させる為に、今は敢えて眠らせているけどね。必ず復活するから心配しない様に伝えて。」

「忝ない。彼の侍達も安心するでしょう。」

「本当に申し訳無かった。”破壊の輩”を仕留めるのに時間が掛かり過ぎた。たが安心してくれ、我等ラグザスタン、破壊のハイエンシェントが現れし時、その邪念を即座に感知し、居場所の特定及び追跡が可能となる術を編み出した。二度と被害者を出さないよう努める!」

フォイウーは近づきながら悔しそうに話した。

「そうそう、そのツィーグーイェンとか言う悪いハイエンシェント、後で判ったのだけど、人々を襲う前に、一般のハイエンシェントを何人か殺していたって、ディンガンが言っていたわよね。」

「なっ、何と!!」

ユルザのハイエンシェントがハイエンシェントを殺したと言う話に、ロクスンは驚きを隠せない。

「そうだ。ディンガンの旦那が一般のハイエンシェントの中でも、仕切り役的な奴を見つけて問い正して判った。それでも面子を気にしているのか、本当に知らないのか、具体的な人数や殺された経緯は話さなかったそうだ。元々、横の繋がりの希薄な連中だ。其れも此れも長老不在が原因だ。前長老が亡くなってから、後を継げる器のハイエンシェントが誰もいない…。」

フォイウーは増々悔しそうに話した。

「思い出して良かったわ!ハイエンシェントの頭数が減ったと言う事は、それだけ人間がサイキック・ゴーストと出食わす確率が高くなったと言う事よ。ロクスンさん!司法局も魔法習得者・掃討士を中心に対策強化した方がいいわ。でないと、いつの間にか御侍さんの数が減っている!なんて事に成り兼ね無いわ。」

本来、“幽霊ゴースト”の類は、例え存在しても“生者”に干渉する事自体、不可能である。正常な生者が相手で有れば、寧ろゴーストの方が逃げて行くのが常である。だが、生前、“何らかの超能力者サイキック”だった者の“怨霊”で有れば、話は別である。此れには、死の間際に“サイキック覚醒”した者も含まれる。強い“負の感情”の中で死を迎えた超能力者の魂が“サイキック・ゴースト”と化す。物理攻撃は勿論、通常魔法も一切通用せず、抑々姿すら現さずに一方的な殺戮の為に彷徨い続けるのである。その底知れぬ怨念は、高等な魔物でさえも“即死”させる程の脅威である。この恐るべき怨霊と正面から対自し、その怨念おも物ともせず、確実にその魂を消滅出来るのは、この世の超越者・生き神であるハイエンシェント達だけなのである。

「重ね重ね忝ない。心得申した。では、我等は司法局本部に戻ります。後の事、宜しくお願い致します。」

「任せろ。」

「気を付けて。」

既に正魔導書を手にした侍を中心に、侍達が集まっていた。ロクスンもその中に入る。

「では、御免!」

ロクスンが挨拶を終えると、正魔導書を手にした侍が念じ始めた。程無く、侍達の身体が一瞬、強い光に包まれると同時に強い風が舞う。光が消え、風が止んだ時には侍達の姿は消えていた。フォイウーとユルザは侍達を見送ると、

「某は結界維持の為、此処に残るとして、ユルザは直ぐに戻らねばならぬなぁ。」

「えぇ、ディンガンとシュイファはサイキック・ゴースト退治、ヘンリエットはアポレナ王妃が隠している化物探しで不在。今は、アジトで結界を張っているフォンシィンと動けないティボルの二人だけだからね。」

ユルザは背中の物入れから、人の掌ぐらいの大きさの小さな羅針盤を取り出した。それを見たフォイウーは、

「…ユルザ、それ…使うのか?」

それは、『薄情者の羅針盤』と呼ばれる呪われた品である。

「そうよ。私だって、由緒正しき生粋のクィーン・ヴァンプですからね。呪われた道具の魔力ぐらい使えて当然!この羅針盤を使えばアジトまで一飛びよ!」

ユルザはフォイウーから少し離れると、片膝を着いて『薄情者の羅針盤』を床に置いた。更に極薄軍用宇宙服の左手甲部分に取付けられている平型の丸い宝石を『薄情者の羅針盤』に近づけた。平型の丸い宝石と『薄情者の羅針盤』が茶色く光る。

「それじゃ、フォイウー、後よろしく!」

「承知!」

程無く、ユルザの身体を茶色い霧が渦を巻きながら包む。暫くすると渦を巻く茶色い霧は収まり、ユルザの姿は消えていた。

腕を組み仁王立ちするフォイウーは、目を瞑り考えながら、

「非ぬ所に飛ばされて無ければ良いが…。」

フォイウーの心配は的中した。ユルザは、隔離迷宮内の全く的外れな場所に転送してしまった。結果、フォイウーが居る場所から地道に走って帰還するよりも、倍の時間を掛けてアジトに帰還する事となった。

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