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二十数年前だっただろうか……魔族との対立、他国との戦争。
ーー色々な戦場をあっちへこっちへ渡り歩き……いや渡り歩かされ、いつの間にか英雄として讃えられていた。
正直嬉しかった。
父と母からは才能がある子として育てられ英才教育なるものもしてくれた。
その恩返しが出来たのだからーー。
さらに言うと本の中の英雄に憧れていた私は肩を並べるくらいにはなったのだから。
……まぁそんな喜びは長くは続かなかった。
王から与えられた爵位に、英雄ともてはやされていた私は。
恨んだ者からの毎日のように狙われ、生き残った魔族からも狙われ、渡された領地に魔物を放たれ、村に火を付けられ、終いには親の首が玄関に置かれていた。
まぁそこで限界を迎えたんだっけ……。
私は、2~3年で、何も情報がない状態から、親を殺した犯人を見つけだして殺し、魔族を絶滅させたりした。
全て終わったあとは、王に頼んで、爵位を返して、私を死んだことにしてもらった。
そして、知り合いが領主をしている遠くの田舎でのんびり暮らすことにした。
ーーそこからは特に何も無く平和な毎日を過ごしていた。
農作業や料理を村の人から教えて貰って。
お礼に魔物退治や盗賊から守ったりして。
気になるあの人に告白して。
村一優しくかっこいい男を旦那として迎え、夫と一緒に隣町で商売をするようになり、私の誕生日の時に初めての夜を過ごし、起きたら朝ごはんを作り楽しい生活を過ごした。
1年後には元気で可愛い娘も生まれた。
ほんとに何も無く幸せなただただ時間が過ぎていったーー。
大きくなった娘に勉強教えたり、料理を教えたり、告白の手伝いをしたり、と爵位を貰って豪邸に住んでいた。
苦しく辛いあの頃が嘘みたいに思える、こんな生活いつまでも続かないかなーと思い、色んな事があって、娘の成人が近づいてきたある日、事件が起こた。
夫と一緒にいつもの様に町の方へ採れた野菜とかを売りに行く途中の山で、突然崖が崩れて、そのまま谷へ落っこちてしまった。
夫一緒に血を流しながら荷物の下敷きになる。
何とか動こうと思ったけど体が言うことを聞いてくれない……。
最後に村に遺した娘の顔が浮かんだが、そこで力尽きてしまう……。
もし生まれ変わるなら次こそは幸せな人生を送りたいな。
…………………………。
んん……………………。
「良かった!生まれたよ、元気な女の子、2人によく似てるよ、ほら」
「ほんとね似てるわ、とっても、ほら目とか特に」
声が聞こえる、でも視界がぼやけてどういうことなのか理解できない、私はどうなったの? ここはどこなの? 体もうまくうごかない。
怖いけど落ち着いて考えられるようにしよう。
不安に駆られながらしばらく視界がボヤけて音もよく聞こえない生活を過ごした。その間の食事は液体のものだった。
「ねぇあなた、最近メアが私をじっと見て動かないのよ、何かあるのかしら」
この時期になれば視界が良くなり、声も聞こえたりし始めて、ようやく自分が赤ちゃんになったことに気が付いた。
それよりお母さんの顔、どこかで見たことあるんだよね。
「うーん、赤ん坊ってそういうもんじゃないのか、それともサリーに見惚れてるんじゃない」
「もう、ティモンたら恥ずかしじゃないやめてよ」
ん、サリー? 私の生前の名前と同じ? それにティモンは夫の名前だし、確か娘の名前はメアで……
あれ、偶然かな? 偶然だよね、じゃないとおかしいもんね。とお父さん顔を見るとティモンとすごく似てる。
かららんと扉を開ける音が聞こえ、その音に反応してそちらを向く。
「やっほー、サリー遊びに来たよ」
金髪の元気な女性とその女性に抱えられた同じく金髪の赤ちゃんが家に入ってくる、あの人も前世の村の人に似ているな、確か名前はエラッタでその子供が娘の幼なじみの男の子のま、ま……
「エラッタ! マリスくんおはよう」
そうそうマリスくん。
すごくかわいいんだよね、おめめがくりくりで、大きくなってもメアにいつもくっついて。
そうして昔懐かしい記憶を思い出すたびに血の気が引いていく。
薄々感じていた。記憶を持ってる時点で、伝説や物語で有名な転生であると確信していたが、過去に戻っているし自分の娘に転生してるのはおかしいでしょ!!!