表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

第1話・婚約破棄

「グウェン・ステファノ! 悪辣非道な貴様は私の妃に相応しくない! 婚約は破棄する!」


 王太子ドノバンが私を睨みつけながら叫んだ。彼の傍らには男爵令嬢キャンティがいる。ピンクブロンドをふわふわさせた愛くるしい子だ。


「貴様が私の可愛いキャンティをいじめていたことは、すべて知っているのだからな!」

 と、ドノバンが言えば、キャンティが、

「怖かったですぅ」

 と、わざとらしく身をすくめてドノバンにすがる。貴族の令嬢とは思えない言動だけど、仕方ない。彼女は男爵の再婚相手の連れ子で、半年前まで庶民だったのだから。


 今夜は学園のプロムパーティー。誰もが着飾り、パートナーと共に参加する。婚約者が同学年にいれば、当然パートナーを務めなければいけない。たとえ仲が悪かろうが、それが『常識』だ。

 けれど私の婚約者は『常識』を知りながらも私をパートナーに選ばず、お気に入りの恋人を選んだ。

 そのあげくに、婚約破棄宣言。


 生徒も教師も、この騒ぎに巻き込まれたくないと考えているらしい。私たちを遠巻きにして、ひそひそ言いあっている。

 そんな中でただひとり、ドノバンの従者であるリカルドだけが私のとなりに並び立ち、

「殿下。そちらのご令嬢のお言葉が事実かの確認はなさったのですか」と疑問を呈してくれた。


「無論だ」ときっぱりと答えるドノバン。「グウェンに破られた制服や壊されたアクセサリーなどを私が確認した」

「ステファノ公爵令嬢がそれらを壊した証拠は?」

「モノが存在するのだ。十分な証拠だろう!」


 ドノバンの自信満々な態度に、周囲のひそひそ声が大きくなる。彼はそれを賛同と思ったのだろう、ますます意気揚々と、

「私の婚約者の座は今このときをもって、真実の愛で結ばれたキャンティ・ハーヴィーへ。卑劣ないじめをしたグウェン・ステファノには罰を与える。卒業後はただちに娼館で最低ランクの娼婦として働くように」と、宣言をした。


 まったく、呆れてしまう。

 証拠もなしに私を断罪するのだから。ドノバンの頭の中にはおがくずしかつまっていないのかもしれない。王太子だというのに。


 もっともこれがテンプレだから、仕方がないのかもしれないけれど。


 ここは乙女ゲーム『きらめき略奪プリンセス』の世界なのだ。キャンティは主人公で、ドノバンは第一攻略対象だ。世界は彼女を中心にまわっている。キャンティが正しく頑張れば、王太子をゲットできるようになっているのだ。


 そして私は、婚約者を略奪される『いじわるな』悪役令嬢だ。ハピエンルートなら断罪されて娼婦に堕とされる。バドエンならドノバンと結婚。私にとってはどちらのルートも、最悪極まりない。



 ◇◇



 自分がゲームの悪役令嬢に転生していると気づいたのは、十歳のときだった。物心がついたころからこの世界に違和感を抱いていて、流行り病で死にかけたことをきっかけに、前世を思い出したのだ。


 このとき私はまだ、誰とも婚約をしていなかった。ゲームの舞台は八年後の王立学園。今なら未来を変えられる。そう思った。


 ゲームはひととおりプレイしたから、だいたいのことは知っている。だけど私、グウェン・ステファノと王太子ドノバンがどうして婚約したかは明かされていなかった。仕方ないので、政略結婚だろうと当たりをつけて、時間をかけて対策をとった。


 まずは同じ公爵位である、ヒュフナー家の三男クルトと婚約。

 両親は私の嫁ぎ先は嫡男以外は不可と決めていたようだけど、自ら出会いの場を作り、彼に助けてもらえるシチュエーションを演出し、一目惚れしたと泣いて訴えたら、なんとか婚約が成立した。

 よかった、両親が私に甘くて。


 そのあとは、婚約者のために立派なレディになりたいからと主張して、隣国の淑女養成学校に入学した。人里離れた山間部にある全寮制で、完全男子禁制。父親ですら入れない。

 これでドノバンに出会う機会はなくなったと、一安心。


 ところが。ゲームは私が設定を変えることを許さなかった。

 入学した一年後、帰省した際にドノバンに遭遇。塩対応したにも関わらず、彼は私に一目惚れをして無理やり私の婚約者の座に収まった。公爵令息はといえば、私を奪われた上に、『天賦の才があるから』との理由で遠い国の魔術師養成学校に留学させられたのだった。


 クルトには申し訳ないことをしてしまった。

 けれど、これでよくわかった。ゲームの強制力は強く、ドノバンは自分勝手なクズだ、と。


 このとき私は十二歳になっていた。ゲームが始まるまで六年、舞台になる王立学園入学まで四年。私はゲームのラスボスを頼ることにした。


 ラスボスは王族への復讐を企てている。そのための手段は選ばないというひとで、狡猾で豪胆だ。この世界には魔法が存在するけど九割の人間は初歩の生活魔法しか使えない。残り一割が魔術師を名乗れるだけの魔力と技術を持つのだけど、ラスボスはこの一割になるために十歳にして悪魔に魂を売り渡したらしい。


 膨大な魔力を手にした彼は、そのことを誰にも知られないようひそかに闇の魔術師に師事して、技術を磨いたみたいだ。


 ゲームの最後で、主人公がドノバンからの好感度が規定に達していれば聖女として覚醒する。そして王都を混乱の渦に陥れようとしていたラスボスと対決をして、勝てばハピエン。負ければ私が真の聖女として覚醒してバドエン。


 ゲームの強制力に負けた、私がゲーム(運命)に抗うには、ラスボスの力に頼るしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ