15
しばらくした後に牧場からの扉を開け、彼らは帰ってきた。
どんな話をしてきたのかな…。でも私が踏み込むと決定的な別れのきっかけになってしまう気がして、怖くて何も言えなくなってしまう。
前からこんな風だったかな。怪我が治ったら、必要な知識を少し手に入れたら、お別れするはずだったのに。いつの間にか欲張りになっていたみたい。
そんな思いは振り払い、最後まで笑顔で過ごせればいい思い出になれる。
そう思い直し、牧場のことを考える。
最近は茶の種も、牧場近くの街で手に入る様になった。土地に精霊の加護があるのか、詳しくはわからないけど、最短で出来るカブの品質が上がっている事がわかった。お店に並ぶ種は初期値のものらしい。少しでも品質が上がる様に、種メイカーという物をクラフトで作れるように、材料を集めつつ食物を育てている。
桃の着ぐるみを着たようなモンスターが現れる場所があり、たまに桃を落とす。それらを売ると雑貨屋に商品が新しく入りましたというメッセが浮かび、木の苗が買えるようになった。木が大きくなると夏にだけ実るらしい。
今はゲームの中では春。たまにモンスターの落とす果実を口にすると、甘いのに爽やかな酸味もあり美味しいのだ。今から植えて置けば、夏に桃が食べれるだろうか。
そんな現実逃避をしているとシルが、近くまで来ていた。
「シル…? どうしたの…?」
「あのさ……。ずっと話さなくてはと思いながら、言えなかったんだけど……。ずっと君達と一緒に過ごして行きたい。駄目だろうか……」
私は、彼が去ってしまうと諦めていたからだろうか。驚きに目を瞠る。
「言いたくなくて……、認めたくなくて伝える事が、出来なかったのだけど…。僕の命を狙ってるのは…、血の繋がった兄なんだ…。隣の国なのにも関わらず、僕は命を落としかけた。僕にとっての安息の地はあの世界にはないんだ……」
深い息を一つつき、言葉を続けるシル。
「足掻き続けてもいつかは見つかり、命を落とす……、そう思っていたんだ。最後の時まで、隠れていても好きな事をしようと思った…。でも、君が開放してくれたんだ。僕が死ぬ事が役目だというあの世界から解き放ってくれた」
シルは、泣きだしそうな、すがるような…、なんとも表現し難い表情を浮かべていった。
「私も記憶がないまま過ごしてきて、色々教えてくれる。側にシルがいてくれて、すごく嬉しかった。ずっといて欲しかった。でも、わがままなんだろうなとも思ったんだ…。雨夏が来てくれたから、いなくなっちゃうと思ってた…。ずっと一緒にいてくれる…? 私の我儘じゃない?」
見も知らない場所で、一人ぼっちで意識を取り戻し、私不安だったのかな。でもシルや雨夏が居てくれて、意識から外せてて、本当に楽しかったの。涙がポロポロと止まらない。
泣きじゃくる私の涙を舐め取る雨夏と「もう大丈夫だから」そう繰り返すシルのぬくもりに包まれて、泣きつかれて意識を手放した。