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8.あれは自分!

 風呂から上がると、二人は大きなTシャツを羽織った。

 実は、風呂から出てきてすぐに物質創製魔法でパジャマを出せるか試してみたが不発。

 色々試してみたところ、最低限の下着と無地の白Tシャツが何とか出せたので、それで妥協した。



「じゃあ、明日のことだけど」


「出来れば、転移魔法の移動範囲を広げたいのよね。でも、お金も稼がないとイケないし。なので、私とツカサで二手に分かれて行動できないかしら?」


「了解。そうしたら、ボクが王都方面に出来るだけ歩く」


「じゃあ、私は商業ギルドに行って、フリマについて聞いてみる。許可が必要かどうかとか、税金のこととか。お金は絶対に必要だし」


「そっちは任せた。でも、何を売るの?」


「取り敢えず、ノートと鉛筆と消しゴムかな? ロバートさんが欲しがってくれたし」


「たしかにね。他には?」


「ええとね。ちょっと待ってて。お願い、出て!」



 カツミが物質創製魔法を発動した。

 生活必需品レベルしか出せないとの話だが、一応、最低限とは言え下着と無地のTシャツが出せるくらいだ。


 それで、カツミは、

『恐らく、女神ピルバラナとしても、割と基準を緩くしてくれているに違いない』

 と考え、今、頭の中にある物を出すべく試してみた。



 チャレンジは成功した。

 カツミの掌の上には、錠剤の入った数本のビンが出て来ていた。



「それって?」


「常備薬ってことで、一般大衆薬だけど出してみた。PTP包装シート(プラスチックとアルミで挟んだシート)入りだと、まともにプラスチックが入るから、PTP入りの薬を敢えてビン入りにしちゃったけど」


「でも、それだけと保存を考えないとイケないよね?」


「たしかに」


「でも、ちょっと待ってて。多分、辞書機能には……」



 ツカサが、ステータス画面を開き、辞書機能を確認した。

 自分が使える生活魔法の範囲を確認したのだ。


 そして、ツカサは軽く頷くと、薬入りのビンに手をかざし、

「状態保持!」

 劣化防止の魔法を発動した。

 一応、生活魔法の一つとして劣化防止の魔法が使えるようだ。



「これで良し」


「そんなことも出来るんだ!」


「出来るっぽい。これならPTPにしなくても錠剤を長期保存できると思う」


「だね。ありがとう」


「じゃあ、今日は結構疲れたし、そろそろ寝ようか」


「そうね」



 この部屋にはキングサイズのベッドが一つだけ。

 これに二人で寝ることになる。

 ただ、余程疲れていたのか、ツカサはベッドで横になると、瞬時に眠ってしまった。



 一方のカツミだが、なかなか寝付けずにいた。

 見知らぬ世界に来て、それ相当に精神的にも体力的にも疲れているはずなのだが、気が張っていたからだろう。



 隣に自分の身体が寝ている。

 何とも不思議な光景だ。



 ふと、ツカサからイイ匂いがしてきた。

 カツミからすれば、本来の自分の匂いなのだが、今はツカサの身体になっている。

 なので、元々の自分の身体を第三者……いや、異性として捉えているのだ。



 急に、下半身が反応して来た。

 しかも、何故かジンジンするような感じがするし、まるで股間にも心臓があるかのようにピクンピクンと脈打っている。

 気になって触ってみると、サイズアップした上に、硬くなっていた。



「(ナニコレ?)」



 どうも身体が落ち着かない。

 それに、ツカサの方に手を伸ばしたい。



「(私、ナニ考えてるの?)」



 ただ、何故か衝動が治まらない。

 これは、正直マズい。



「(あれは自分、あれは自分、あれは自分……)」



 そう自分に言い聞かせ、カツミは、この衝動を抑えようとした。

 しかし、それで下半身の反応が治まるわけではない。


 TSさせられて、トイレ事情は確かに辛かった。

 ただ、それ以上に、現在進行形の生殖絡みの生理現象の方が厳しいのではなかろうか?



「(でも、そうだよね。あれは自分なんだから、自分で汚しても、別に責任問題とか関係無いし……)」



 意思が本能に押され始めた。

 しかし、カツミは、

「(ってダメ! それじゃ、ホテルで食事とか言って私をラブホに連れ込もうとした永塚と大差ないじゃない! とにかく、頭を冷やさないと!)」

 と再び自分に言い聞かせ、ベッドから出た。



 もし、カツミが地球時代で男性だったなら、この状態を処理する仕方を、当然、知っていたはずだ。


 しかし、カツミは女性だったし、女性の記憶しかない。

 ついでに性知識は乏しい。


 なので、カツミは、

「水、出て!」

 浴槽にプールと同程度の水温の水を張り直すと再び全裸となって、頭を冷やそうと浴槽に浸かった。

 これくらいしか思いつかなかったのだ。



「(想定外ね。身体が男性でも私は中身が女性だから、性同一性障害みたいな状態になると思っていたんだけど。そうじゃないんだ)」



 女性に……ましてや自分の身体に下半身がまともに反応するとは……。

 これは、カツミとしても意外だったようだ。



「(でも、お風呂に入っていた時には、こんな風にならなかったのに、何で今頃? とにかく無心に……。あれは自分、あれは自分、あれは自分……)」



 風呂に入っていた時は、石鹸やシャンプー、リンスを魔法で出すこととか、ツカサの髪を洗うことの方に意識が行っていた。

 それで、たまたま反応しなかったのだろう。



 時間はかかったが、身体の反応は治まって来た。

 そして、再びベッドに入ると、ツカサとは反対の方を向いて眠りにつこうと、ひたすら頑張るのだった。

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