5.ある意味、似た者同士!
それから二~三分後、カツミがトイレから出て来た。
ただ、この時のカツミの表情は、些かブルーだった。
やや、落ち込んでいる感じである。
「まさか、チン〇ンからおしっこが出るところを直視することになるとは」
生まれて初めて、男性性器から尿排泄される現場を見たのだ。
しかも、それが自分自身の排泄行為である。
それなりに衝撃映像だったのだ。
ただ、飽くまでも現在進行形なのは、
『落ち込んでいる』
であって、
『オチ〇コ出てる』
ではない。
語呂が似ているが、
『オチン〇出てる』
は、飽くまでも直前にトイレの中にいた時の話である。
「そんな、いちいち言わないでくれよ。ボクの方が恥ずかしくなる」
「そうね。あと、トイレットペーパーは魔法で出しておいたから」
「ああ、有難う」
「それでね。した後にペーパーで拭いたんだけど、そうしたら先っぽにペーパーのカスが付いちゃって」
「いや。おしっこの場合は拭く必要無いから」
「そうなの?」
カツミは、男性のシモについての知識が無に等しい。
女性は拭くのに男性は拭かないとは……。
カツミにとっては、これは衝撃的事実だったようだ。
「そう言えばさ。同期で研究所から早々と異動になったヤツで、永塚ってのがいたのを覚えてる?」
「いたねえ、そんな人」
「あと、平太もそうだったな。アイツ等、カツミのことを狙ってたんだよ」
「そうだったの?」
「実際、永塚にはデートに誘われたんだろ?」
カツミが疲れたように溜め息を吐いた。
何か、イヤな思い出でもあるようだ。
「そう言えば、そんなこともあったわね。ただ、ああ言うフザけた人種は絶対に受け入れられない」
「たしかに、口だけで責任感の無いヤツだったけど」
「あの時は映画見て、その後ホテルで食事って言うから付いて行ったんだけど、そうしたらコンビニでパンとか買い始めて」
「はっ?」
「ホテルで食べるんじゃないのって聞いたら、『だからラブホで食べるんじゃん』とか言い出して」
これにはツカサも目が点になった。
さすがに初デートで、それは無いだろう。
「ホテルの食事ってそう言うことかよ!」
「それで、アホかと思って私はソッコー帰った」
「ただ、永塚は初デートでカツミと一発ヤッたって言ってたからさ。それで、経験無いって言われて、あれっ? て思ったんだよ」
「ナニそれ?」
「まあ、最低なヤツだったってことだ。ちょっと悪い。ボクもトイレ」
今度は、ツカサがトイレに入った。
そして、ドアを閉め、鍵をかけたその直後のことだ。
「うわー!」
ツカサが大声を出した。
慌ててカツミがドア越しに聞く。
「どうかしたの?」
「ゴメン。つまめなくて驚いただけ」
「別に、しゃがんですればイイだけだから」
「なんか、違和感……」
「あと、した後はチャンと拭いて……」
ここまで言ったところで、カツミは重要なことに気が付いた。
今、ツカサは『カツミだった身体』を触り放題、見放題なのだ。
「ちょっと待って。絶対にアソコを見ないで!」
「それはムリだよ」
「あと、ペーパーで拭くのもちょっと待って! ペーパー越しでも、私の大事なところがツカサに触られるのは抵抗ある!」
「でも、した後は拭くんじゃないの?」
「私が拭くから」
「いや、それはそれで、ボクが超恥ずかしいんだけど!」
「私だってイヤだし!」
カツミがトイレのドアを激しく叩いた。
ただ、こう近くにいられると、ツカサとしても、出るモノも出なくなる。
「ボクの(男性としての)身体は見られたし触られたじゃん!」
「別に見たくも触りたくもなかったわよ!」
「こうなっちゃったんだから仕方ないじゃん。あと、そこにずっと居られると気配で出にくいんだけど!」
「じゃあ、出さないで!」
「そしたら膀胱炎になるじゃん! この身体がそうなってもイイのかよ?」
「……それは困る」
さすがに自分の身体が病気になっては困る。
カツミもイヤイヤだが観念したようだ。
一旦、トイレの傍から離れた。
少しして、ツカサがトイレから出て来た。
ただ、恥ずかしそうな雰囲気ではあったが、特段、カツミとは違って落ち込んでいる感じではなかった。
別に、
『落ち込んでいる』
が、男性の身体限定の、
『オチ〇コ出てる』
に語呂が似ているのは、ここでは多分、関係ない。
「なんか大をするならともかく、小だけで座って用足しするのって違和感があるな」
「私だって、立ってするのは違和感あったけどね」
「まあ、お互い、少しずつ慣れて行くしかないな」
「そうね」
「一応、見るのも触るのも最小限に留めたから」
「あっそ」
カツミは、不機嫌顔だった。
何気に頬が膨らんでいる。
ただ、TSした際、トイレ事情以上にキツイものがあることに、この時、まだ二人共、気が回っていなかった。
それこそ、まだまだ軽いジャブ程度でしかないのだ。
「でも、実はボクも女性の身体を見るのも触るのも初めてなんだよね」
「嘘? もしかして童貞?」
「実は……。カツミと一緒」
「処女と童貞を同列にしないでよ」
「いや、同列でしょう?」
「でも、入社当時、彼女がいたんじゃないの?」
「いないけど?」
「えっ?」
今度は、カツミが驚愕の表情をツカサに見せた。
どうやら、彼の中では、ツカサには過去に彼女がいたことになっていたようだ。
「全然、相手がいなかったし」
「いやいや。同期の子で小宮山さんっていたでしょ?」
「あの美人ちゃん?」
「彼女、ツカサのことをイイって言ってて。なんか、孤高な感じに魅かれたとか」
「マジ?」
「それで、たしか入社した年はツカサの誕生日が土曜だったじゃん?」
「そうだったかな?」
「それで、小宮山さんがツカサを誕生日デートに誘うって言ってたんだけど、先約があるって断られたって。それで、ツカサには凄い美人の彼女がいる説が定着してたのよ」
ツカサの目が再び点になった。
そもそもツカサは前世で、一度も彼女ができたことが無かったし、彼女いる説の存在は初めて聞かされた。
「たしか、あの時は研究室の教授が還暦を迎えてさ。それで、記念パーティをやったんだよ。卒業生も呼ばれて。そこに行ってたんだ」
「じゃあ、先約って彼女じゃなくて?」
「研究室の会合! でも、だったら、アプローチしておけば良かった」
「いや、そもそも先約があるとしか言わなかったのが悪いんじゃない? 研究室の会って分かっていれば、小宮山さんから再度お誘いがあったと思うよ」
「勿体無いことしたぁ!」
ツカサは、愕然とした表情で床に両手両膝をついた。
実は、ツカサも小宮山のことをイイと思っていたのだ。
当時、言葉足らずだった自分に、今になって後悔するとは……。
さすがにツカサも、しばらく立ち直れそうにないと思った。




