4.ちょっとも何も、これ!
「それにしても、本当にたくさんの荷物を運んでいるんですね?」
ツカサが、腹に手を当てながらロバートに聞いた。
この時、ツカサは、結構空腹だったのだ。
なので、本当は空腹を満たすため、物質創製魔法でおにぎりを出したかった。
唯一魔法で出せる食料だ。
しかし、魔法で出したおにぎりを他人にあげてはならないと女神ピルバラナに釘を刺されていた。
それで、ここでは我慢しておにぎりを出さずにいた。
ロバートの目の前で食べると、ロバートにあげざるを得ない展開になる可能性が高いと判断したのだ。
「アチコチ回りながら、売れそうなものを現地調達しておりますので」
「そうなんですか」
この時、カツミは、ロバートのことを最初に警戒したことを、申し訳なく感じていた。
そもそも、これだけの荷物を運んでいるのだから、自分達よりもロバートの方が、圧倒的にリスクは大きい。
カツミとツカサが善人であると言う保証が無い状態で声をかけたのだから。
なので、本当にロバートは善意だけで声をかけてくれたのだ。
だからと言って、何も分からないこの世界で、警戒心を怠ってはならないが……。
❖ ❖ ❖
それから一時間後、馬車が街に到着した。
ツカサとカツミが馬車を降りた。
「ロバートさん、有難うございました」
「こっちこそ、イイモノを安く売っていただいて有難う。そこが、この街だと一番安い宿だ」
ロバートが指さした宿は、他の建物と比べると少し古びた感じがあった。
しかし、ロバートが勧めて来るのだから、そんなにヒドイところではないだろう。
「何から何まで有難うございます」
「王都に来た時には、是非、ロバート商会に寄ってくれ。」
「はい。そうさせていただきます。では、失礼します」
「じゃあ」
ロバートの馬車が出発した。
その姿を、ツカサとカツミは、しばらく見送っていた。
「本当に助かったね」
「そうだね。でも、この身体、もうちょっと鍛えないとマズイな。この世界で生きて行けるくらいの体力はつけないと」
「でも、私に身体なんだからムチャさせないでよね!」
「分かってるって。でも、これって高校時代のカツミの身体だよね?」
「そうね」
「運動とか、していなかったの?」
「ええと……」
カツミがツカサから目を逸らした。
間違いなく、当時のカツミは、ろくに運動せずにいたんだろう。
「じゃあ、カツミ。一先ず、入ろうか?」
「なんか、二人でラブホにでも入る気分」
「全然違うけどね」
「まあね。ただ、どうする? 別々の部屋に泊まった方がイイ?」
「システムによるんじゃない? 人数単位での請求なのか部屋単位での請求なのかで考え方が変わるからね」
日本の場合、宿泊代金を人数で計算するのが普通だが、国によっては人数問わず、一部屋いくらになるケースもある。
当然、このディルビウム世界でも、国によってシステムは異なるだろう。
「そうね。でも、同室になったとしてもHなことはしないからね!」
「そんなつもりは無いよ。さすがに、自分にやられたくない」
「たしかに、私も自分を汚したくない」
「なんか、それってボクの身体が汚らわしいみたいに聞こえるんだけど?」
「ゴメン。そう言う意味じゃない」
取り敢えず、二人はロバートに勧められた宿に入って行った。
安宿なので、多くの期待はしていない。
キチンと雨風が凌げれば、それでイイ。
「済みません。二名宿泊ですが」
「同室ですか? 別室ですか?」
「料金の方はどうなります?」
「二人部屋だと二人で一泊銀貨五枚。別室だとそれぞれ一泊銀貨三枚だね。あと、夕食付きだと一人銀貨一枚追加、朝食付きだと小銀貨七枚追加になるよ」
「では同室でお願いします。三泊素泊まりで」
「じゃあ、銀貨十五枚ね」
一先ず、これでチェックイン。
当座の食事は、おにぎり一直線にする予定だ。
部屋にはキングサイズのベッドが一つ。
今夜は、これで二人一緒に寝ることになりそうだ。
部屋に入ると、
「ちょっとトイレ」
早速、カツミがトイレに入った。
しかし、その数秒後、
「キャー!」
カツミの悲鳴がこだました。
「どうかした?」
「だって、これ!」
トイレのドアが開き、ズボンとパンツを下ろした状態でカツミが出て来た。
この時、彼は赤面しながら股間を指さしていた。
「これとか言われても、そこから出るんだからさ」
「そうだけど、触ったこと無くて」
「えっ? でも、見たことくらいはあるだろ?」
「初めて見る」
「嘘? もしかして、地球時代は処女だったの?」
「そうよ、悪い?」
ついさっきまで四十歳女性だった人間のまさかの回答。
一瞬、沈黙が流れた。
カツミの容姿は別に悪くは無い。
会社の同期の中でも、カツミのことを狙っていた男性社員が複数人いた。
なので、ツカサにとっては、かなり意外なことだった。
「別に悪くは無いけどさ。とにかく、キチンと照準をセットしないと便器の外に出ちゃうから。親指と人差し指でつまんでさ」
「ちょっと、ヤダ!」
「でも、触らずに出したら、間違いなく便所の中に撒き散らすよ!」
「うう……」
「じゃあ、ボクがつまんであげようか?」
「私の手を、そんなモノに触らせないで!」
「あのね。だったら、腹をくくってつまみなよ。どうしてもって言うなら、魔法で手袋か何か出せばイイじゃん?」
「そ……そうね」
一先ず、
『直接触れなければイイ』
と思ったのだろう。
カツミは、腹をくくってトイレに戻って行った。




