2.ミスしないで欲しかったけど?
突然、ツカサとカツミの周りが、一面真っ白の空間に変わった。
この世界に来る直前に居たところに雰囲気が似ている。
そして、二人の目の前には、土下座する三級天使の姿があった。
また、その後には中学生くらいに見えるカワイイ系の女性が立っていた。
「私はディルビウム世界を統治する神で、ピルバラナと申します。この度は、この三級天使がお二人に大変ご迷惑をお掛けしました」
そのカワイイ系女性の言葉だ。
まさか、この娘が神だったとは……。
正直なところ、ツカサには、この神からは威厳も崇高さも感じられなかった。
「神……女神様?」
「神に性別はありませんが、私は、この姿が落ち着くので女性の姿をしています。女神と呼んでくださって結構です」
「分かりました。それで、ええと、今置かれた状況は、夢じゃないですよね?」
「全て現実です。先ず、お二人は地球で核の炎に包まれて即死し、その埋め合わせとしてディルビウム世界に十七歳の姿で転生していただきました」
「でも、ボクと石上さんって、互いに入れ替わってますよね?」
「そうです。その辺ついては、この三級天使、サクラに説明してもらいます」
土下座していたサクラが頭を上げた。
ツカサもカツミも、サクラの顔に見覚えがあった。
それもそのはず。
サクラは、二人が転生直前に会っていた三級天使だったのだ。
ただ、今まで上長から相当強く叱られていたのだろうか?
サクラは涙目になっていた。
「大変申し訳ございません。転生させる際に、お二人の魂を間違えて逆に入れてしまいまして……」
「ええと……。元に戻せるんですよね?」
「ゴメンなさい!」
「このままだと、ボクも石上さんも違和感しか無いんだけど」
「本当にゴメンなさい!」
これは、元に戻せないという意味だ。
ツカサもカツミも、それが読み取れないほどバカじゃない。
しかし、納得は出来ない。
何故、自分達がこんな目に……とは思う。
「キチンと説明してもらえますか?」
「はい。通常、異世界転生は不慮の事故等で命を奪われた者達への救済処置として行われます。携わるのも、本来は一級天使以上の者になります」
「でも、アナタは三級天使と言われてましたけど?」
「はい。ですので、本来は担当外なのですが、今回は何十万人もの転生者が急遽発生したため、作業を急ぐために三級天使にも声がかかったんです。三級天使達にも、かなりの数を任されまして……。それで、数をこなさなきゃって思っていたら、つい……」
つまり、その時のサクラは、転生させることが目的ではなく、数をこなすことが目的になってしまったと言うことだ。
それで最悪のミスを犯した。
「でも、何故、二人の魂が入れ替わったまま元に戻せないんですか?」
「既に魂を今の身体にロックしてしまいましたので、仮に私達がお二人から魂を抜き出しても、戻る先は今の身体になってしまうんです」
サクラが、再び額を地に擦り付けた。
もはや謝る以外に道は無いと言うことか。
「一応、お二人の魂を元の身体に戻す方法が無いわけではありません」
こう言ってきたのは女神ピルバラナ。
「本当ですか?」
「はい。ディルビウム世界の某所にカナエマンネンと言う樹木が存在します。その実を食すれば、何でも一つだけ私利的な願いを叶えることが可能です」
ツカサもカツミも、
『カナエマンネンってフザケタ名だな』
とは思ったが、ここでは、敢えて突っ込まなかった。
下手に突っ込んで、話がこじれるのを避けたかったのだ。
「では、二人でその実を食べれば良いと言うことですね?」
「はい。但し、ディルビウム世界の中だけの事柄に限られます。例えば、地球で生き返るとの願いは叶えられません。また、魂の入れ替えだけでしたら、片方が食するだけで構いません」
「そうですか。でも、それって何処に生えているんですか?」
「残念ながら、ディルビウム世界に暮らす他の者達の手前、生息地を教えることは出来ません。彼等の中にも夢を叶えるべく自力で探している者もおりますので。ですので、お二人で探していただくことになります」
いくら天界側に落ち度があったとは言え、何でも願いを叶える実に関する情報は、この世界に住む他の者達と公平でなければならないと言うことであろう。
しかし、ツカサもカツミも、この世界の新参者である。
先ず生活基盤を作るところからのスタートだし、そもそも、常識も何もかも違う世界で生きて行くだけでも大変なことだ。
ならば、若返り、言語能力、アイテムボックス以外にも何か特別な能力が欲しい。
それに、間違いなく被害者である。
何らかの埋め合わせくらいは要求したい。
「転生特典を増やしていただくことは可能でしょうか?」
「そうですね。今回はお詫びと言うことで、お二人のステータス画面には辞書機能を搭載します。あと制限付きですが、物質創製魔法と転移魔法、それから一通りの生活魔法を与えます」
「物質創製魔法もですか?」
「はい、ただ、おおよそ生活必需品に限定させていただきますけど。それと、生活に必要だからと言って、お金とか家が出せるわけではありません」
「そこは、一般常識の範囲内でと言うことですね?」
「まあ、本来は、そうですね。あと、ディルビウム世界には、現時点でプラスチックやビニールが存在しませんので、それらがマトモに入っている製品はNGとします。
食料も出せるようにしますけど、済みませんが、おにぎりだけに限定します。食に関して、余りアナタ達だけを優遇し過ぎますと、他の転生者達から苦情が出る可能性がありますので。
また、魔法で出したおにぎりを他人にあげてもなりません。自分達で食べる分だけにしてください。
それと、転移魔法も制限があります。このディルビウム世界の中で、過去に行ったことがあるところにしか移動することが出来ません。
それから、辞書機能はステータス画面の中に辞書機能のボタンがありますので、そこをクリックするよう念じれば開きます。ただ、飽くまでも辞書としての機能しか持ちません。ニュース速報はありませんし、問題解決方法の相談は受け付けておりません」
与えられた魔法は攻撃系ではないが、別に魔王と戦うわけではない。
それどころか、制限アリとは言え、無から有を作り出せるのは、ツカサ達にとって非常に有り難いと言えるだろう。
勿論、どのレベルなのかは、後で検証する必要はあるが……。
特に、おにぎり限定とは言え、食料が出せれば飢えずに済む。
これは、非常に助かるし、かなりの経費節減にも繋がる。
転移魔法も使い方次第だし、この世界のことを何も知らない二人にとって、辞書機能も非常に助かるアイテムだ。
「色々と有難うございます。辞書機能は助かりますし、あと、飢えずにいられることには感謝致します」
「では、お二人がカナエマンネンの実を無事入手できますことを祈っております。それと、この世界では名字で呼ぶのは一般的ではありません。互いに名前で呼び合うことを推奨します」
女神ピルバラナは、そう言うと、三級天使サクラと共に、姿を消した。
天界に戻られたのだろう。
そして、その直後、ツカサ達の周りが真っ白な世界から、元の風景に戻った。