13.初営業!
転移終了。
ここからカツミは、足早に王都チバニアンに急いだ。
この国では、国内移動の際、防壁に設置された門を通る際に、特に税がかかるわけでもなければ、何らかの審査を受けるわけでもない。
屈強な兵士達が門の近くに配置されているが、それは、魔獣が入って来ないように目を光らせているだけだ。
カツミは、門を通り抜けると、ロバート商会を探した。
道行く人達に場所を訪ねながら、何とかロバート商会に辿り着いた時には、既に昼を過ぎていた。
「済みません。ロバートさんは、今、いらっしゃいますでしょうか?」
カツミが、近くにいた店の中年女性に声をかけた。
「代表に何の御用でしょうか?」
ただ、その女性は明るい笑顔を向けているのだが、カツミには少し近寄りがたい雰囲気が感じられた。
恐らく、営業スマイルを作りながらも、カツミのことを警戒しているのだろう。
初めて見る顔の平民が、いきなり店主であるロバートを名指しして来たのだから、それが当然の反応かも知れない。
「グリポスクスに向かう途中で、ロバートさんの馬車に乗せていただいた、カツミと言う者です」
「では、もしかして、あのノート、鉛筆、消しゴムを安く譲ってくれた方ですか?」
「はい」
その女性の雰囲気が変わった。
さっきまでとは打って変わって、友好的だ。
「あれって便利ですね。修正履歴が残らないので、お役所対応の記録には使えませんけど、プライベートな記録とか、学校教育には都合が良いと思います。あれって、何処で手に入れたんですか」
「自分達のところで作っています」
「そうなんですか?」
「はい。もっと入手したいのでしょうか?」
「ええ。できれば王都で売り出せればと思いまして」
これはラッキー。
思わず、カツミは、心の中でそう叫んだ。
ロバート商会に来たのは、ノート、鉛筆、消しゴムを皮切りに他の商品も売り込むため。
それが、コッチから切り出す前に向こうから飛び付いて来たのだ。
同時にカツミは、
『現金な女性だな』
とも思ったが、今、カツミにとって重要なことは、ロバート商会に適正価格で商品を卸せるかどうかのみ。
ただ、カツミは就職して以来、ずっと研究所に勤務していたため営業は専門外だった。
勿論、営業の『いろは』なんてモノは知らない。
そんな状態での営業初チャレンジである。
「必要量を発注していただければ、何時でも卸すことは可能です」
「本当ですか?」
「ただ、価格をどうしようかとは思っております。安過ぎれば儲けがありませんし、高過ぎれば、いくら便利でも買わないでしょう」
「そうですね。では、ロバートにお譲りいただいた額の1.5倍値で大量に卸すことは可能でしょうか?」
「大量であれば可能です」
「えっ?」
この時、店の女性は、カツミがロバートに売った額の1.8倍額くらいを落としどころに考えていた。
この国では、日本とは大きく違っていて、純利益ではなく売り上げに対して一律5%の税がかかる。
なので、彼女は、カツミが、もっと高値を言ってくると思っていたのだ。
そうでなければ、原材料費などを考えると商売が成り立たないと踏んでいた。
そもそも、この世界では、あのノートに使われている紙と同レベルの上質な紙は貴重なのだ。
まさか、物質魔法で出しているなんて思っていなかったし、通常は、仕入れ値及び税金がペイできる卸値に設定しなければならない。
それで彼女は、最初に、1.5倍額を提示して交渉に臨むつもりでいたのだが、いきなり可能と言われて驚いてしまった。
一方のカツミは、価格交渉などしたことが無い。
むしろ、1.5倍額と言われて、
『ラッキー』
と思っていた。
「ただ、ロバートさんがいないところで勝手に決めて大丈夫なのでしょうか?」
「申し遅れました。私、ロバートの妻のエレナと申します。ロバート商会の副代表を務めております」
たしかに副代表なら、この程度の案件であればロバートに相談なしに決めても問題無いだろう。
だったら、他のモノ(生理痛に効く鎮痛薬)も売り込む。
それに、幸い、相手は女性だ。
「これは失礼しました。では、ノートが一冊小銀貨1枚、鉛筆が一本銅貨5枚、消しゴムが一つ小銀貨1枚で如何でしょうか?」
「分かりました。それで、いつ頃、どれくらい卸すことは可能でしょうか?」
「ノート200冊、鉛筆400本、消しゴム200個まででしたら、今、ここで卸せますよ」
「ここで? でも、荷物持ってませんよね?」
「収納魔法が使えますので」
「そう言えば、ロバートもそんなことを言っていたわね。では、それ、全部買います」
「ありがとうございます! では、コチラに出させていただきますね」
カツミは、早速、アイテムボックスからノート、鉛筆、消しゴムを出す……振りをして、物質創製魔法で、それらのモノを作り出した。
そして、それらを順に、近くの机の上に並べた。
「本当に収納魔法が使えるんですね。これだけの量が手ぶらで運べるって便利ですね」
「そうですね」
「では、大銀貨六枚、渡しますね」
「ありがとうございます」
カツミは、エレナからお金を受け取ると、すぐさまアイテムボックスの中に収納した。
これなら盗まれる心配が無い。
しかし、ここからグリポスクスの商業ギルドに支払う税金が発生する。
そのため、この大銀貨六枚が、全てカツミ達の純利益になるわけではない。
これは、何処の文明世界に行っても同じことになるだろうが……。




