1.入れ替えは特典に入ってないよね?
異世界に転生した人間のTSですので、バレちゃったシーンはありません。恐らく地球上で入れ替わり、周りにバレないようにしながら生きるパターンを望む方も多数いらっしゃるかと思います。できれば、そのような話を書いてみたいとは思っておりましたが、そこまで話を広げると話が盛り沢山になり過ぎて自分の中でストーリーがブレそうに感じましたので、異世界転生で逆転TS企画ものを書いてみました。
ふと目が覚めると、上原ツカサは路上で倒れていることに気が付いた。
しかも、そこは舗装がされていない、地面が剥き出しの道路だった。
近くに民家も無い完全なる過疎地帯。
一応、遠くの方に街らしきものが見えるが……。
ツカサは、四十歳の独身中年オヤジで婚姻歴無し。
某製薬会社勤務の合成研究者だった。
ちなみに、頭皮は最近、少し薄くなり始めていた。
「ここって? たしかボクは石上さんと一緒に会社から帰る途中だったんじゃ?」
今日は、たまたま同期の女性、石上カツミと帰りが一緒になった。
カツミは薬理系の研究者で、昨年、課長職に昇進していた。
年齢はツカサと同じ四十歳で、彼女も婚姻歴無しだった。
ただ、この時、ツカサは自分の声に違和感を覚えた。
いつもの声と違うのだ。
別に喉は痛くないし、風邪をひいた時とは感覚が違うのだが……。
「それにしても、なんか変な夢を見たな。自称天使が出て来て……。」
ふと、ツカサが身体を起こすと、すぐ近くには、一人の男性が倒れていた。
見た感じ、高校生くらいか?
ただ、その顔は、何処か見覚えがあった。
「もしかして、コイツ、高校生時代のボクに似てないか?」
他人の空似とはよく言ったモノだ。
……と、この時、ツカサは思っていた。
「こんなところで寝ていたら風邪をひくぞ!」
ツカサが、自分の若い頃のそっくりさんの身体を揺すった。
「ん……ん-ん」
「目が覚めたか?」
「ええ……って、えっ?」
「どうした?」
「アナタが、若い頃の私にそっくりだったので驚いたのよ。って、あれっ? ちょっと声が変」
その男性が喉をさすった。
しかし、痛みや腫れなど、これと言った違和感は特に無い。
ただ、声がいつもより低く感じただけだ。
「大丈夫か?」
「ええ。起こしてもらって有難う。私は石上カツミ」
「えっ?」
「そんな驚いた顔をして、どうかしたの?」
「まさかとは思うんだけどさ……。ボクの名前は上原ツカサ」
「えっ?」
困惑するカツミ。
しかも、頭の中に、最悪なシナリオが浮かんできた。
「ボクは、〇〇製薬の合成研究者なんだけど……」
「嘘でしょ?」
「マジなんだけど。もしかして、同じ会社の同期で、去年課長に昇進した石上さん?」
「たしかに、〇〇製薬で課長だったけど……。本当に上原君?」
「うん」
予感的中。
カツミは、その場で頭を抱えた。
「冗談でしょ?」
「残念ながら冗談じゃない。あとさ、自称天使が出てくる夢を見なかった?」
「見た……」
一先ず、二人は、ついさっきまで起きていたはずのことを、互いに確認することにした。
とにかく、急いで状況整理がしたかった。
「たまたま、石上さんと帰りが一緒になって、駅に向かっていたら、西の方から光る何かが飛んでいるのが見えて……」
「そうね。それで、反対方向からも光る何かが飛んでいて、それらが上空で互いにぶつかったのよね。そうしたら、もの凄い光で一面覆われて……」
「その直後かな? 二人して周りが一面、真っ白な空間にいて、三級天使って名乗る女性が目の前にいたんだよ」
「そうそう。たしか、三級天使の名前はサクラだったんじゃない?」
「そう言ってた」
「あと、『某国が核弾頭付きの大陸間弾道ミサイルを撃ち上げて、それが迎撃された』とか言ってたわよね」
つまり、二人は同じ空間に飛ばされ、一緒に自称天使と会っていた。
それから、あの強烈な光は核ミサイルの爆発だったと言うことだ。
しかも、よりによって、二人がいた辺りの上空で。
それが事実なら、助かるはずが無い。
「それで、たくさんの人が死んだんで、天使達総動員で転生作業を行っているとか言ってたよね?」
「あと、私達の行き先はディルビウムって名前の異世界で、転生特典は十七歳に若返ることと、アイテムボックス、それから当座の軍資金とか言ってなかった?」
「言ってた。あと、ディルビウム世界の全ての人語を読み書きできるとか」
「そうだった」
「ってことは、あれって夢じゃなかったってこと?」
「さすがに二人が全く同じ夢を見るとは思えないしね」
一応、二人が同時に同一の夢を見る可能性が完全なゼロとは言い切れない。
しかし、二人で同じ経験をしたと捉える方が、一応、合理的だろう。
だとすれば、あれは現実だったと考えた方が良い。
「あとさ。まさかだけど、ボク達、入れ替わってない?」
「ええとね。それって最初に思った。まさかじゃない気がする」
二人の間に、しばらく沈黙が流れた。
異世界に飛ばされ、しかも男女で身体が入れ替わると言う、いきなり訳の分からない状態になったのだ。
さすがに言葉を失っていた。
放心状態である。