05・酒とスキルの検証1
ミンガルさんから教えてもらった大衆飲み屋はそれなりの大きさの店だった。西部劇で見かけるようなウエスタンドアを通って中に入ると夕方になりかけという時間帯のせいか比較的空いていた。三十人は軽く入れそうな店だが客は三人程で静かな雰囲気でお酒を飲んでいる。
私は店の端にあるテーブル席に座る。ここからなら店を見渡す事が出来る。お眼鏡にかなう女性を見かければすぐに向かう事が出来るだろう。
「いらっしゃい。何にする?」
「取り敢えずエールとつまみをくれ。今日は閉店まで飲み潰れたい気分なんだ」
注文を聞きに来た年配の女性店員にそう言って注文する。エールは飲んだ事ないから飲めるか少し心配だ。というよりヤクザに追われる関係で酔った状態でいる事を避けていたから五年間はほとんど飲んだ事がない。精々成人式の後にアル中で死ぬ一歩前までビールを飲んだ事か会社の飲みに付き合って行ったくらいだ。
「はいよ。取り敢えずエールね。つまみは少し時間をもらうよ」
「構わない。時間をかけていいから美味いものを頼む」
すぐにやってきたエール。先ずは一口飲む。ふむ、果物の様な香りがするな。味はいまいちと言えるがこれはこれで上手いしアルコールもそれなりの様でちょっと酔って来る。これは安くて酔いたい人には打ってつけだな。
一口二口と飲み続ける。そこまで量は多くないため直ぐに空になってしまった。二杯目を頼むが次はもう少し味わいながら飲むとするか。
「お? 見ない顔だな。新入りか?」
「街の住人ではないし今日来たばかりという点ではそうだな」
「なら旅人って事か? ここは安く飲める酒が沢山あるんだぜ。その分味は落ちるがつまみと合わせて飲めばそれを補ってあまりある」
「ほう、それは楽しみだな。それと今はもう旅人ではないんだ。今日冒険者登録を行って以来を軽くこなしてきたところだ」
「お! そうなのか! 俺もそうなんだよ」
話しかけてきたのは私より若い、二十代後半くらいの男だ。体格は良く武器は剣と盾。一人という事は単独若しくは様々なパーティーの助っ人を主な活動としている前衛タイプの冒険者って言った所か?俺を見る視線が体全体をさりげなく見るように動き、無意識なのか何が起きてもいい様に何時でも立ち上がり武器を取れるようにしている。ただの若者ではない、経験と実績を積んだ強者だな。
そんな男は私と同じ席に座りエールを頼んでいる。常連の様で動作に無駄がない。男の舌がイカれていない限り先ほど言ったつまみの話は本当だろう。期待が高まる。
「俺はバースって言うんだ。そっちは?」
「マサルという。よろしくな」
「こちらこそ!」
私達は互いに名前を教え合いエールを飲みかわす。その後はつまみが来るまで少し話した。バースは4等級の冒険者らしくこの街では最上位の冒険者の一人の様だ。普段はソロで活動していてたまに他のパーティーの支援目的で参加する事があるらしい。予想通りの強者だったわけだがこれはある意味ではチャンスと言える。4等級という事は実力はあり、性格にも問題は無いと判断されたという事だ。有事の際に庇ってくれたり助けてくれたりしてくれるかもしれない。
そこでふと、スキルを使えるのではないか?と思い至った。別に女性に行う必要はない。とは言えそれを行うには相手の事を知らないとな。私は『鑑定』を発動して相手のステータスを除いてみる。
名前:バース
状態:ほろ酔い
体力:S
魔力:B+
筋力:A+
耐久力:B
俊敏力:B
魔法耐久力:C
適正属性:火、風
スキル
・剣術
・棒術
・槍術
・気配察知
・限界突破
・詠唱短縮
・千里眼
・耐性[毒][麻痺][呪い]
・思考加速
・ダメージ鈍化
思わず吹き出しそうになる。流石は4等級冒険者。一部私を超える実力を持っている。……この場合、彼の能力が低いのかそれとも私が高いのか、おそらく後者なのだろうなと思いつつ確認を終える。どうやら軽く酔っているようだし多少変な動きをしても大丈夫だろう。
『魔薬調合』
スキルを発動してみたがどうやらスキルは発動する事で使い方が分かるようだ。……ほう、魔力で生み出すのか。これは便利だ。早速作ってみる。「軽い多幸感を得られるだけの薬」と、魔薬とも麻薬とも言えないただのエナドリの如き粉が完成した。これはこれでありだがなんか変な気分だ。
『魔薬注入』
次に作った粉をバースの飲んでいるエールに入れる。これは私の周囲2メートルほどの場所に転移させるスキルの様で私はジョッキの中に入れる。粉だし直ぐに溶けてくれるだろう。とは言え溶けるには少し時間が必要だろうし話をして時間を稼ぐことにしよう。
「そう言えばこの街の最上位冒険者はバースの他にどんな人たちがいるんだ?」
「俺以外? そうだな……。他はパーティーを組んでいる奴らばっかりだな。俺のほかに三つある。一つは【炎槍】の異名を持ちパーティー『紅蓮』のリーダーであるカガス。二人目、というかパーティー全員で最上位冒険者という扱いの『アウター』。最後に三人組パーティー『黒騎士』ダーラスだな。全員知っているけど全員言われるだけの実力は備えているな」
「成程」
正直横文字だらけで覚えきれそうにないけどその時はミンガルさんとかに詳しく聞いてみるか。それに、これだけ話せば粉も溶けているだろう。丁度良くつまみが届きバースはお代わりを注文し残っていたエールを飲み干した。空になったジョッキは店員さんが運んだため多少の違和感を感じてもバレる事は無いだろうな。
さぁ、私のスキルの効果を確かめさせてもらうよ。