第一話 転生と転倒
初投稿です! 暖かな目で見守ってください!
ドタドタ、ドタドタと音が聞こえる。ボンヤリとする耳と脳で音の正体を模索し、それが足音だと気付く。
目の前の真白いドアが開く。
「ハァ……ハァ……健太!大丈夫か健太!」
「健太……」
父親と母親が自分の名前を呼ぶ。『大丈夫』と返事を返そうとするがもう声が出ない。
自分、白崎健太は生まれた時から虚弱な体質だった。
中学生の頃まで入院と退院を繰り返し殆ど学校には通えず、高校になってやっと人並みに生きれる様になったかと思えば、今こうやって死にそうになっている。
予兆はあった、しかし無理をして押し通してきた。やっと掴んだ普通の生活。手放せなかった。
そうやって過ごして来た数年間。自分はその代償を今払っている。
正直重すぎる代償だとは思う。しかしこれは自分で選んだ選択、その結果。だから不満は無い……でも。
でも、もう少し生きたかった。ジワジワと熱の抜け落ちていく体で遠くに親の声を聞きながら、そう考えていた。
ーーーふと目が覚める。辺りを見渡してみれば、そこは豊かな森。穏やかな木漏れ日が首の裏をやんわりと温める。
頭上には見上げても見きれないほど大きな木がそびえ立っている。
「こんにちは、人の子よ」
「 !? 」
誰も居なかった筈の場所に突然人影が現れる。その人影は目の前に佇み、こちらに微笑みかけている。
近くにいる筈なのにボンヤリとしか姿が見えず、じっと観察していると何か大きな物を見上げているような感覚を覚える。
「……えっと、こんにちは。貴方は誰なんです……いや、なんでございましょうか」
「私は世界樹の精霊ユグドラシル。神の親戚みたいな物です。とは言え、そこまで畏まらなくても大丈夫ですよ。私にとってあなた達は我が子の様なものですから」
目の前の人影は自分の事を精霊と名乗っている。普通なら一笑に付して終わるところだが、この状況がその言葉に説得力を与えている。
「いやいや、精霊なんて初めて見ましたので…………そんな畏れ多い」
「お願いします。我が子らに傅かれると少々悲しいのですよ」
「解りました、、、俺の名前は白崎健太。ところで、そちらの姿がよく見えないんですけど……」
「おや、すみません。誰かと話すのは数年振りなのですよ…………っと。これで見えるはずです」
目の前の人影がグウと揺れ、ピントを合わせたように姿がハッキリと見えるようになる。
腰まで届く若草色の髪と模様の入った茶色い着物、肌には年輪や木目の様な筋が走り、顔に穏やかな表情を浮かべている。
美人、と言うよりかは自然豊かな景色を人の形に落とし込んだような、そう言った印象を受ける。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ちゃんと見えるようになりました」
「それは良かった。ゆっくりお茶でもしながら……と行きたいのですが、ここは人の子が長居するには余り良く無い場所。手短に話すとします」
「はい」
「貴方は死んでしまいました。本来ならまっさらな状態で生まれ変わるところなのですが、私の都合でこちらに呼ばせて頂きました」
「…………やはり、俺は死んだんですね……」
体が冷えて行く感覚、俺と言う存在が体から抜け出て行くあの喪失感。死んだと言う確信があったからだろうか。死んだと知らされても俺の心は落ち着いていた。
目の前の精霊は深く頷きを返す。
「はい、残念ながら。そして、死んだ貴方には本当に申し訳無いのですが一つ困り事を解決して欲しいのですよ」
「困り事?」
「ええ、それも特大の」
一瞬言葉を詰まらせ、こちらを申し訳なさそうに見たあと、言葉を続ける。
「数百年に一度現れる魔性の王、魔王です。私、世界樹はホワイトボーンと言う世界で神の真似事をしています。魔王も今まではあなた方の世界から呼び出した勇者が倒して来ました。しかし今代の勇者は彼女を寝取られてから宿にずっと籠もっているのですよ……」
予想とは別ベクトルで特大の困り事が来た。
人間関係のほぼ全てが病院と高校の俺には相当キツイぞこれ。
「えっと…………それは俺じゃなくても解決できるような気がするんですが。いや、かなりデリケートな問題で、同じ文化圏の人間を派遣するべきなのは解りますけど」
「実は私、生きている人の子と連絡する手段がないのですよ。それでも今までは何だかんだ上手く行っていたのが災いしてしまいましたね」
何というか…………話を聞く限り異世界は割とヤバい状況にある気がするのだが、全く焦っている様子が無い。
何か嫌な予感がする。
「話を聞く限り、俺がその引き篭もった勇者を宿から連れ出して魔王を倒させる、もしくは俺が勇者になって魔王を倒せば良いんですかね?」
「そうです。異世界へ行き、その2つのどちらかを成して頂きたいのです」
「なるほど……ところで異世界は大丈夫なんですか?勇者が実質不在な事を考えると相当マズイ気がするんですが」
「大丈夫ですよ。まだ魔王が復活するまで何年か有るので」
「結局有りますね」
割と余裕あった。
「そろそろ出発の時間ですね。それともう一つ、貴方が成し遂げたあかつきには願いを叶えましょう」
「それは凄い。ところで俺に勇者的なパワーはあるんですか?」
「それに関しては、すみません。今代の勇者に多くの力を与え過ぎ、余り多くの力を与える余裕がありませんでした」
申し訳なさそうに軽く手を合わせ、頭を下げる世界樹の精霊。緑の髪がふわりと揺れる。
チート的な物が無いのは残念だが、もう一度人生を歩めるだけでも正直満足だ。
「全然大丈夫です。貰えるだけでも十分有り難いんで」
「人の子よ、ありがとう。最後にこれを」
そう言うと何かを差し出して来る。
鞘に納められた剣、古風な見た目のソレは不思議なくらい手に馴染む。
それともう一つ、木でできた飴色の飾りだろうか。手に取りじっくりと眺めようとするが、飾りはみるみる内に手の中に沈み、右手の甲に不思議なアザを残して消えてしまう。
それは月桂樹の冠の様な、じっと目を凝らさなければ見失ってしまう様な薄いアザだった。
「………………?これは?」
「私が作り上げた剣。それとそのアザは貴方が勇者であると示す証、勇者たる力の源。」
世界樹の精霊が腕を振るう。床から湧き出した木の葉が渦を作り中に光を宿す。
渦と光はどんどん大きくなり、やがて人が通り抜けられる程の大きさに成長する。
これが異世界へ行くためのポータル的なものなのだろう。
「お行きなさい人の子よ。貴方の2度目に幸運がありますように」
「ええ、行ってきます」
渦の前に立ち、目を閉じる。視界を瞼の黒が覆う。
ドキドキと胸が高鳴る。自分は今から異世界へ行き、冒険をするのだ。
そして目的を果たせば、願いが叶う。
願いはもう決めた。健康な体になって自分の死んだ時間に舞い戻り、続きを生きる。
瞼を開ける。渦は変わらずそこにあり、サァサァと急かすような葉擦れの音を鳴らしている。
軽く助走を付け、勢いよく渦に飛び込むーーーー「人の子よ、飛び込むと危ないですよ」
体が渦を通過し切る直前にそんな言葉が耳に入る。
精霊様、それもうちょい早く教えて下さい。人類の殆どは勇者未経験なんです。
プチ設定集
ホワイトボーン
元々は真っ白な大地がただ広がっていたのを、神がどこからかやってきて海や生命、色を作り上げファンタジーな世界にした世界。
白い大地から生まれた事から名前が来ている。
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