第3話
久々の更新になりましたが読んで頂きありがとうございます。
「ほら、便利でしょ」
夕食の準備の為の火起こしをキサラは魔法でサクッと点けてみせた。ライターのないこの世界では本来なら手間の掛かる作業になる。
こちらでもシチューはあるようでキサラはハヤトに野菜の皮むきを任せて他の調理をする。手慣れた様子で料理をするキサラはどこか生き生きしているように見えた。
夕食も終わり、テントで寝るキサラと外で寝るハヤト。テントで寝るようにキサラは誘ってくれたが年頃の少女と狭いテントで過ごすのは気が引けるので断った。
外で横になっているとポツリと水滴が顔にかかる。雨が降り出してきた。
「いいから中に入りなよ」
食事の片付けをしていたキサラが呆れた声で言う。雨が降り出して来たので入れてもらいたいがやめておく。
「……」
「なに、私と一緒が嫌なのね」
怪訝な顔を浮かべ、ハヤトを睨む。キサラには年頃の少女だと自覚を持ってもらいたい。
「違う。良いから嫌なんだ」
なにを言っているのか。
「訳のわからないことを言うわね」
仲間になって2日で解散は避けたい。空気を読んでくれませんか。
「隣りで寝るのが狼だったらどうする?」
「嘘っ、貴方狼だったのね」
例え話をしたつもりなのにキサラは驚いた声を出す。2人はまだ互いのことを良く知らない。
「ち、違うんだ……」
なんでそうなる。ハヤトは弁解しようと一歩前に踏み出した。
「いやっ、待って、近寄らないで!」
肩を震わせキサラは持っていた鍋を地面に落とし後退りする。
「そんな……」
ショックを受けハヤトは膝を地面に落とす。関係が崩れてしまった。解散だ。こんな事なら素直にテントに行くべきだった。
「このくらいでいい? さっさとテントに入って。まったく、手が掛かるわね」
鍋を拾い、冷めた声でキサラは言った。あまりにキサラの演技が迫真だったのでハヤトは簡単に騙されてしまった。すっかりテンションの下がったハヤトは隣りで寝るキサラのことなど気にならず、すぐに眠りについた。
カイラ村に着くと2人はハインツのいる道具屋に向かった。
「帰ってきたか」
「しばらく戻らないから挨拶に寄っただけだよ」
「そうか。横にいる嬢ちゃんは」
「レンブルクで仲間になったキサラ。魔法が使える」
「可愛い嬢ちゃんだな。そうそう、西の森でスライムが湧いてるから近づかない方がいいぜ。村長が冒険者ギルドに依頼を申請に行ってるから直に冒険者が来る」
いない間に村では異変が起きていた。西の森と言えばハヤトが転移してきたところだ。まあ、関連性は低いだろう。
「そうだ。俺も冒険者になったんだ」
ハヤトはギルドで貰ったギルドカードをニコニコしながらハインツに見せる。
「それならお前に任せてもいいか?このままだと村も危ないから早めに手が打てると助かる」
「そうなるとギルドに行かないとならないが近場のギルドはどこにある?」
「レンブルクだな。俺があとで村長に話しをするからギルドに寄らず直接退治に行ってくれ」
「わかった。ハインツの頼みならなんでもするよ。キサラもいい?」
「困っている人を見逃せないわ」
キサラが冒険者になった目的の1つである。こうして2人は西の森にスライムを倒しに行く事になった。
先に討伐に来ていた冒険者たちは森の入り口に大量発生しているスライムに手を焼き立ち往生していた。
「気持ち悪いわね」
何匹いるだろうか。スライムたちは思い思いにぴょんぴょんと飛び跳ねて楽しそうにしている。とは言ってもスライムに知能は持ち合わせていない。
キサラは右手を前に出し呪文を詠唱する。すると手の平に光が現れ直ぐに炎の塊に変わった。ハヤトはスライムに攻撃するのを忘れ、その光景をじっとみつめていた。薪に火を点けたときと威力が違い、本格派の魔法に目を奪われた。
「サボってないで自慢の武器で早く戦いなさい」
「すまない。余りにも美しくて……」
「もう、馬鹿ハヤト」
初めて魔法を見た感想だったがキサラは自身が褒められたと思い照れて頬を赤く染めていた。流石に次々と魔法を放ち倒しているキサラに悪いのでハヤトもスライム倒していく。
もう、何匹倒したかわからない。気付けば森の奥深くまで入り込んでいた。2人は肩で息をしだいぶ疲れが溜まっていた。
「キサラ、大丈夫か?」
「まだ余裕はあるわ。あっちの方に見える大きなスライムが親玉に見える。あれを倒してしまいたいわ」
キサラは疲れたときに疲れたと言わないタイプのようだ。こういうとき女性の方が頼りになるとしみじみと思った。2人は残る体力を振り絞り巨大なスライムの元に向かう。
攻撃を打ち込んで見ると先程までのスライムと違いハヤトの攻撃にピクリともしない。それもそのハズ。ハヤトの武器は自身の能力に依存するもので、そもそもこの森で拾ったただの木の枝だ。レベルの低い魔物を倒すことは出来ても強い魔物に効くわけが無い。
それでも現状の攻撃手段をハヤトは他に持ち合わせていないので闇雲に攻撃を続けた。幸いこちらにも攻撃が効かない。持久戦なら任せろだ。キサラは後方からスライムに魔法を放ち援護する。無謀な攻撃を繰り返していたがある時ハヤトの打ち込んだ攻撃にスライムが反応を示した。
何かある。頭で考えを巡らせながらも手は止めずスライムに攻撃を続ける。しかし、先程のようにスライムにダメージを与えることは出来ていない。
不甲斐ないハヤトに気付いてかどうかわからないがキサラは休む事なく魔法を放ち続けている。キサラの魔法もスライムの表面にダメージを与えてはいる効いていない。巨大なスライムに2人は成す術が無かった。
待てよ、コレなら行けるかも知れない。ハヤトはスライムに魔法が当たると同時にそこを目掛けて攻撃をした。
手応えがあった。
「キサラ、攻撃の糸口がみえた。俺の武器に魔法を撃って貰えないか?」
「わかったわ。細かいコントロールは出来ないから間違っても焼失したりしないでよ」
「そのときは墓前にビーを供えてくれ。向こうに栓抜きが無いといけないからあらかじめ開けて置いてね」
「まったく、終わったら酒杯を挙げに行きましょ。もちろん、ハインツさんの奢りで」
「いいね、それは楽しみだ」
会話が終わると2人の表情は真剣な顔に戻っていた。この攻撃が最後の手段になるだろう。
キサラは右手に集中し魔法を創る。先程までの豪快な炎と違い、繊細で密度の高い炎を。
「あとは任せたわ。祝福の神アーシャのご加護があらんことを」
ハヤトの持つ枝は炎の魔法を纏いチリチリと音を鳴らし燃えている。炎は握っている手の付近まで広がり女神の加護がなければ熱く握ることは出来ないだろう。
チャンスはニ度無い。枝が燃え尽きる前にトドメを刺さなければならないからだ。
覚悟を決めハヤトは巨大スライムの核を目掛けて一撃をぶち込んむ。
「いっけぇぇぇ!」
炎を纏った枝は巨大スライムの核を覆う体液を溶かし中に入っていく。
「ハヤト!」
あと一歩のところだった。ハヤトの放った一撃はスライムの核部分まで届き枝は燃え尽きてしまった。
「まだだ!」
ハヤトはぽっかりと開いた巨大スライムの体に両腕を突っ込み核を引っぱる。
「キサラ、魔法を撃ち込んでくれ!」
「そんな、ハヤトまで燃えちゃうよ」
加護によって護られていることを知らないキサラは決心がつかない。
「大丈夫だから、ね」
このままだとハヤトは巨大スライムの体に飲み込まれてしまうかもしれない。キサラは右手を広げ意識を集中させる。
「お願い。狙いどおりにいって」
放たれた炎は巨大スライムに接触すると同時にバンと音を立て煙をあげた。周囲は飛び散ったスライムの体液と煙でカオスな光景になっている。
祈るようにキサラはハヤトと巨大スライムのいるであろう場所を見つめる。まだ視界は開けない。
「ハヤト!生きているなら返事をして。でなきゃ私……」
膝をつき涙を浮かべ少女は祈る。
「でなきゃ私?」
知っている声が聞こえキサラは顔を上げた。そこには顔は煤で汚れ、服は燃えて形を保っていないが目の前にハヤトが立っていた。
「なんで生きてるの?」
呆然としてハヤトに尋ねる。あの状況で生きているはずはない。しかも、体に外傷がないように見える。
「大丈夫っていったろ。服はボロボロだけどね」
焼け焦げてしまった服をつまみハヤトは笑みを浮かべている。
「そんなの……新しいものを買ってあげるわよ。心配したんだから……」
「ありがとう。キサラがいてくれて良かったよ。1人だったらスライム イン ザ ハヤトになってた」
「勝手になってたらいいわ。馬鹿」
そうは言っても、ハヤトが無事でいてくれたことが嬉しくてキサラは笑っていた。
巨大スライムを倒し、村の危機を防ぐことが出来た。ハヤトの右手には燃え尽きてしまった枝の感触がまだ残っている。
「ありがとう、枝さん。君との冒険はずっと忘れないから」
拳をぐっと握り胸に当て、異世界に転移して来てからの日々を思い返す。そこにはハヤトと枝の温かい日常があった。
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ハヤト・ムツキ 男 無職 22歳
レベル6
HP:55/55 MP:35/40
攻撃力:35
防御力:35
速 度:30
知 力:15
精神力:40
幸 運:35
S P:12
スキル:女神の加護、遮断Lv1、
薬草鑑定Lv1、スライムキラー
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ステータスを確認するとレベルが上がっていた。今回は、スライムを大量に倒した為【スライムキラー】が追加されている。ただ、大事にしていた武器を失ったので再び無職に戻った。
スライムの核を持って村に帰ると村人たちは2人を歓迎した。緊急事態で、ギルドを正式に通していない依頼となったが村長が話しをつけてくれていたようで報酬はギルドから貰える。依頼人から直接依頼を受けたので全額を貰えても良さそうだがしっかり中抜きはされる。今回はランクをGからFに上げてくれるので大目に見ることにした。
「ありがとうな。お前らのお陰でこれからも商売が出来るぜ」
ハインツはハヤトに抱きつき感謝を伝えた。
「俺もこっちに来て最初に世話になったからお互い様だ。今夜の飲み代はハインツ持ちだから安心してくれ」
「ハインツさんご馳走様です」
ハヤトとキサラは目を合わせハインツの返事を待つ。今日1番の勝負どころだ。
「狙いはそれだったか。いいだろう。好きなだけ飲ませてやる!」
3人は道具屋を後にし酒場へと繰り出した。
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