文化部の愉快な日常
とある学校の一室、そこには数名の男女が集まっていた。
ホワイトボードを背に、いくつかの書類を机へ並べている少年がパソコン部部長の六星明日太。
その隣で何やらスマホで調べ物をし、ブツブツと何かを呟いている少年が科学部部長の降須考路。
そして六星の配布した資料に落書きをする少女が美術部部長の重麗夜だ。
彼ら彼女らは、とある中学校にある文化部の部長をしている。その面々がこうして集まっているのは定例会を行う為だ。
今はその用事も大半が終わり、残すは部の運営に関する相談……と言う名の、愚痴大会だけとなった。
「――よし、重用事項の伝達はこれで終わりだな」
「お疲れ様だ明日太、疲れてるなら……これを飲むと良い」
様々な書類を読み上げ終わった六星は苦労人らしく、顔には披露と僅かな達成感が浮かんでいる。
そんな彼に、降須はニヤつきながらメロンソーダのような飲み物を渡したが……六星は眉を潜める。
六星の経験上、降須がこうしてニヤつきながら渡した物には碌な物が無い。
「――今日は一体何を入れたんだ……? 」
「少し元気になるオクスリが入ってるだけさ、効果は保証するぜェ? 」
対する降須はニコニコしながらそう言い放つ。
降須が所属する科学部は部員が自分しか居ない為、部費を一人でどんな物にでも使う事が出来る。
つまり他では使わない変な器具や薬品を買いたい放題使いたい放題にしているのだ。そのやりたい放題振りは、顧問の先生であっても全ての購入物を把握出来ていない程だとか。
『少し元気になるオクスリ』とは言っているが、絶対にそれだけの代物ではない。なんたって渡されたメロンソーダモドキは泡立っている。それも激しく、異常なレベルで。
一見すれば何の変哲もないメロンソーダに見えなくもないのだが、これは降須の趣味だ。
恐らく見た目と中身は一切別物、死なない程度にではあるが常識外の薬を入れたのだろう。
降須はこれで真実を隠し通せたと思っているのかもしれないが、六星は降須の『まぁ常人であれば少々効き過ぎるかもだが……多分大丈夫だろう。死にはしないさ、うん』と言う小声を聞き逃さなかった。
今飲むと倒れる事を確信した六星は、渡されたメロンソーダを定例会後に飲む事にした
「そんな事より聞いてよ!! 絵乃ったらまた私の仕事を――」
今日も麗夜は絵乃についての愚痴を言い、降須は適当にスマホをいじっている。
彼らの定例会は重用な連絡事項が言い終われば、こうしてお互いの愚痴を言ったり聞いたりするのが常だ。
そしてそれは六星も例外ではないらしく、彼にしては珍しく部活で起こったことの愚痴を話し始めた。
「ずっと二丸が部室でずっとゲームをしてるんだが、先生が来たらどうするんだろ……」
「その時は優秀な部長がどうにかしてくれるでしょ? 」
「それにも限度ってものがさ? いくら俺でもあれは庇いきれないぞ……」
そうして雑談を繰り広げていた文化部部長達だったが、そこに一人の少女が乱入する。
閉じられていた部屋の扉が勢いよく開かれたのだ。扉を開けた人物はは塗江絵乃、重が部長を務める美術部の副部長をしている。
「おい、クソ女! 今日は皆で絵の具買いに行くって話てただろ? 皆待ってるんだからさっさと来いよ!! 」
「全く、心に余裕が無い奴はうるさいなぁ……」
「何だと!? このんやろぉ……!! 」
一見すれば噛み合ってないように見える二人だが、彼女らは何だかんだ仲良くやっているらしい。
睨み合う二人が歩調を合わせて部屋を去ると、入れ替わるように新たな人物がここを訪れる。
今度現れた人物はパソコン部副部長、枝楠倉美だが、彼女は本来ここに居る人物では無い。何故なら本来は定例会に参加している六星に代わり、部員を纏めているいるはずだからだ。
「六星くん……助けてぇ……」
だがその枝楠 が半泣きでここに現れたと言うことは、枝楠には対応出来ない事が部で何か起きたと言う事だ。
六星が頭を抱えながら話を聞くと、どうやら二丸がゲームをしていることがバレたらしい。六星がいない間に先生が来てしまい、誤魔化しも効かず……
「言わんこっちゃない……枝楠、どうにか出来ると思う? 」
「出来たら六星くんを呼びに来てないよっ!! 」
「……分かった。考路、ここの後片付け頼んだ」
「おっけー」
六星は枝楠を引き連れ、対応に頭を悩ませながら部屋を退出した。
そうして部屋で一人残された降須。
彼は適当なタイミングでスマホを置き、気だるそうに部屋の片付けを始めた。
と言っても、いつも通りに書類を適当な棚へ入れて戸締まりをするだけだ。
だが今日は降須の作ったお手製メロンソーダモドキがある。
慌てて出ていった為に、渡された六星はその存在を忘れていたが……これが後に悲劇を生むことになる。
降須は部室で捨てようとしていたが、この飲み物の“臨界点”はもうすぐ。それを過ぎると美味しく飲めなくなってしまう。
それに折角丹精込め作った物を捨てるのは勿体ないし、降須には『生産者は生産者なりの責務を果たさなければならない』と言うモットーがある。
降須は目を瞑って深呼吸をし、覚悟を決める。
「……飲むか――」
後日、降須と六星は揃って始末書を書かされていた。
その理由はメロンソーダモドキの引き起こした爆発だ。降須は甘味と血流を良くする為に、ニトログリセリンを混ぜていた。
そして少量の炭酸も。
つまりやや過剰に二酸化炭素が抜けているように見えた飲み物のその実態は、微小な爆発を繰り返す非常に危険な代物だったのだ。
そして時間が経ちすぎていたこと、そして傾けたことが止めとなって爆発を引き起こした。比較的小規模ではあったが、ガラスが割れる等の被害が少なからず出ていた。
六星も始末書を書かされているのは、彼があの部屋を確保していたからだ。
二丸の事があった後に戻ってみれば
「何でこんな事に……」
「ハッハッハッ! なーに科学に失敗と爆発は付き物さ!! 」
「うるせぇ!! 後を考えろ後を!!! 」
「ハッハッハッハッ!! 」
彼らの青春と日常はこうして流れていく。
時に爆発し時に発火し、その多くで始末書を書きながら……
Q.そうはならんやろ
A.(フィクション何だからこう)なっとる! やろがい!!
今回の小説で挿絵を描いてくれた&キャラを貸してくれた人はこちら→@surumaid428