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月と地球と宇宙人  作者: 会員壱号
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第二話 人類の誕生

 天の川銀河太陽系第三惑星『地球』。


 その色は青く、水と緑に囲まれた美しい星だ。未だ候補に成りそうな知的生命体は生まれていないが、数多くの命が宿る可能性の塊。


 この星が生まれたのは約45億年前と言われているが、さしたる注目はされていなかった。


 当初はマグマの海に覆われ、灼熱の星と呼ばれており、命が溢れる様な星になるとは思われなかったのである。


 そんな星を約650万年近くも見守った男が居る。


 「また人類らしきものが生まれたか。今度は滅びないで、きちんと繁栄して欲しいが……」


 その男――グレイ・アダムスキーは、今も感慨深く窓から見える『地球』を宝物の様に見つめている。彼がこの星を見守る任務に着いてから約650万年。


 脳が肥大化し二足歩行を始めた生命体は、いくつか生まれていた。だがその結果は虚しく、大した時間も掛からずに滅んでいる。今までその結果を見たグレイは、独特な分析をし始めている。


 「今まで誕生した候補は、あの毛むくじゃらの尻だけが剥げている生き物だけだ。ふむ……仮呼称を『サル』としよう。見た限りでは、あの生物が一番可能性がある。だがこの星での二足歩行の生物は、それだけで不利になってしまう。僕たちが住んでいる母星や、この基地の様な所ならともかく、あの足場の悪い大地を二本足だけで行動するのは、かなり面倒だろう。例えて言うなら……そう、自動車も2WDより4WDの方が力強いのと、原理は一緒だ」


 グレイはそう言って、上手い事を言ったと自画自賛する。そして、それを一日一回送る報告書に書き記し、本部に電子メールを郵送する。


 「しかし知的生命体を見守る仕事が、こんなに暇だとは思わなかったな」


 そう言ってグレイは窓の先にある地球を眺め、次にこの星の地面を見つめる。目の前の色鮮やかな星と違って、グレイが住居としている場所は何もない灰色の星だ。地表はゴツゴツとした岩で出来ており、目の保養にもならない。


 そんな場所にグレイは、母星であるケプラーで作られた『超技術的宇宙移民船ツッキー』で降り立ったっている。その移民船ツッキーは彼の居住区となっており、いざという時には、そのまま宇宙船として運用も出来る優れ物だ。


 しかし、そんな超宇宙的技術があっても解決出来ない問題はある。


 「まさか知的生命体候補が生まれるまで、増加の人員を寄こさないとは思わなかった」


 ――そう、グレイは任務に就いてから、ぼっちになり寂しかったのである。




 天の川銀河太陽系管轄監査管理士官グレイ・アダムスキーの仕事は、次の知的生命体候補を見守り管理する事だ。それは宇宙の財産となる人類の保護と調査ををしており、その権限と責任は大きい。

 

 彼の母星であるケプラーでも、何百億年に一度しか行われない名誉ある任務である。つまりそんな任務を任されるグレイ・アダムスキーは、間違いなく優秀な存在であり未来明るきエリートだ。


 そしてそんな彼が青き水の星、地球を見て呟く。


 「……暇だ」


 天の川銀河太陽系管轄監査管理士官は、間違いなく名誉ある仕事だ。


 たがそれは同時に知的生命体候補が現れるまでは、見守ることしか出来ない事を意味している。一部の心無い存在からは、妬みや嫉みを込めて『栄誉ある閑職』などと呼ばれたりする事もある。


 そして今日もグレイは、ただ見守るだけで一日が終わると思っていた。


 垂れ流すテレビの映像の様に、地球に生きる動物や植物を見つつ食事を取り――さて寝るかと思い立った時だ。グレイが住んでいる宇宙船兼住居の窓は、高性能なレンズになっており、地球の様子を窓から眺める事が出来る。


 だがそんな窓から今日は、緊急事態を表すエマージェンシーの文字が現れた。それはグレイにコンタクトを取る警告で、その事に彼は気がつく。


 「なん……だと……」


 慌ててグレイが地球の様子を見る。レンズの先に見える地球の光景は、彼の想像を絶するものが映っていた。


 「ウホウホ、ゴフゴフ」

 「ウホホ?」

 「ウホ! ウホ!」


 そこには『火』を使うサルが複数いたのである。


 「よっしゃー!」


 グレイはこの移民船に誰もいない事を良いことに、大きな叫び声を上げ部屋の中を走り回る。


 そしてアホみたいに『ヨッシャ、ヨッシャ!』と叫びながら、食料がある保管庫から酒瓶を持って来て栓を抜き、お気に入りのグラスへと注いでいく。


 「あのサルは、きっとチート持ちのサルだったに違ない」


 そう呟いてグレイは、グラスに注いだ酒を一気に飲み干す。


 気分は上々、意気は揚々。彼のその様子はまるで、今までハイハイしか出来なかった赤ん坊が、やっと一人で立った事を見届けた――そんな父親の姿だ。


 『火』それは人類の文明の明かりであり、知的生命体候補が最初に得られる権利。


 『火』に煽られ『火』に守られる。


 『火』を操り『火』を持て余す。


 そうして知的生命体候補は文明を発展させ、いつかはこの宇宙に飛び出すのだ。それを手伝える事が、何よりもグレイは嬉しい。


 「しかも自分たちとは違うルーツを持つ、知的生命体候補だ……こんなに嬉しい事はない」 


 それはまだ本当に小さな『火』に過ぎない。それは赤ん坊が躓く様に、ちょっとした事で消えてしまう事もあるだろう。もしくは、この小さな『火』がいつか、あのサル自身を焼く事だってあるかもしれない。

 

 だがそんな存在だから愛おしいのだと、それを防ぐために自分が居るのだと――グレイはそう考えている。


 「だからどうか……このサルが無事に育ってくれますように」


 グレイがそう願った、この日。サルから生まれた知的生命体候補、後に『ホモ・サピエンス』と呼ばれる地球人類の祖先――原人が誕生した瞬間であった。


 それはグレイ・アダムスキーが、母星ケプラーからこの地に来て約650万年。こうして彼の物語と苦労は、ここから始まるのである。 

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