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グレースネヘス  作者: たつG
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09 3日目:改革の始まり

09 『3日目:改革の始まり』


寛人たちが洞窟に戻り、中央の部屋に入ると、楓・晴花・玲奈・胡桃が帰りを待っていた。

玲奈はサッカー部のマネージャーで、愛想がよく部の先輩と付き合っている。

胡桃は演劇部で普段は寡黙だが、スイッチが入ると人が変わる。

四人はたき火の周りに身を寄せ合いながら座っていた。


「千佳ちゃん。」


寛人たちの姿に気づいた楓は泣きながら千佳に抱き着いた。


「どうしたの楓。それにみんなも。」

「私、千佳ちゃんたちが出て行ってから、不安で仕方なかったし、

私はこのままで良いのかすごく悩んだ。」


突然のことに千佳は驚いたが、楓は泣きながら答えた。


「俺たちは部屋に戻る。千佳たちも話が終わったら休むんだぞ~。」

「分かってるよ。」


聖也が千佳に声を掛けると男子たちは部屋に戻った。


「私も部屋に戻ります。」

「先生も行ってたんですか!?」


後ろにいた先生に気づいた玲奈はびっくりした。

菊池はあまり気にせず、眠そうに部屋へ戻っていった。


「昨日たき火の近くで美郷たちが話しているのを聞いて、四人で話し合ったの。

そして、私たちも戦場に出ようって決めたけど…。」

「でも怖くて、踏み出すことができなかった。」


晴花の言葉に続けて、楓が鼻をすすりながら千佳に訴えかけた。

千佳も落ち着かせるように、楓の頭を撫でていた。


「美郷ちゃん、私たち今日から付いて行く。」

「ありがとう、みんな。男子たちも歓迎してくれると思う。

でももう今日は休みましょ。」


美郷は胡桃の言葉に感動しつつも、戦闘の疲れもあったので、

みんなに部屋に戻ることを促した。


「そうだよね。千佳ちゃん疲れてるのにいきなり抱き付いてごめん。」

「良いよ楓。起きたらまた話聞くよ。」


千佳は楓にやさしく対応した。

六人はそれぞれ部屋に戻っていき、次の戦いに備えて休息をとった。



―7時間後・寛人たちの部屋―


「ふぁあ~。聖也と将文起きてたのか。」


寛人が寝ぼけ眼で見渡すと、聖也は日課のストレッチをして、将文は画面を立ち上げてみていた。


「お前たちもストレッチやった方が良いぞ。」


聖也が二人にストレッチを勧告した。


「でもストレッチは夜にやった方が良いと聞くぞ。」

「マジで?もう日課になっちゃってるからいいや。」


寛人に言われてショックを受けたが、聖也はストレッチを続けた。

将文は相変わらず画面を見ていて、少し表情がにやついていた。


「将文は何見てんだ?」

「ステータス画面見ながら、改めて自分は覚醒したんだなぁって。

それだけじゃないよ。ライブラリーの項目が増えたから、どんなものがあるのかって。」

「面白いものはあったか?」

「昨日会ったブライトさんが載ってたよ。功績も色々とあって、やっぱりすごい人なんだね。」


将文は画面を閉じて話したが、その目は一夜目の恐怖からは考えられないぐらい、

好奇心に満ち溢れた子供のようだった。


「そろそろ飯にしようか。」

「そうだな。」


三人は部屋を出ていくと、純がこっちに向かって来ていた。


「どうした純。俺らに用か。」


聖也が尋ねると、純は少し複雑な表情だった。


「乾くんに言われてた歴史書を夜に呼んだんだけど…。」

「飯食いながらでいいか。」

「良いですけど、まずはあまり人に聞かれないように。」

「分かった。飯食ったらこの部屋に集合な。」


聖也は純の表情と声色から察し、食事の後に純から話を聞くことに決めた。

純はそのまま寛人たちの部屋に入り、三人は昼飯を食べに行った。

たき火の近くに行くと、キャンプ場で見る簡易的な調理場ができていた。

調理場では女子数名が調理をしていて、その奥で大輔が何かを焼いていた。


「乾くんたちおはよー。今ご飯の準備するから座っててね。」


三人に気づいた玲奈が声を掛け、たき火の近くに座るよう促した。


「分かったけど、大輔は何やってんだ。」

「いや~。こういうの見ると肉をブロックで焼きたくなって。」


大輔の手元を見ると拳二個分ぐらいある肉の塊を棒に刺して、グルグル火の中で回していた。


「その気持ち分かる!俺にも食わしてくれ!」

「もちろん!もうすぐ出来るから、待ってろ。」

「調理の邪魔なんだけどね。」


聖也と大輔は変な調理場あるあるでテンションが上がり、将文もそわそわと楽しみに待っていた。

玲奈はそんな男子たちをからかうように言った。

寛人はお腹が減っていたので、出来上がるのをぼーっと待っていた。

程なくして料理も肉も完成したので、寛人たちはがっついた。

食事の後は例のごとく報奨金の半分をメンバーで均等に割った額を受け取った。


「そう言えば昨日の分も使ってないけど…、あとで街に行ってみるか。」

「そうだな。一度街に行ってみたかった。」

「僕は昨日買い物で付いて行ったから、案内するよ。」


三人はそんな雑談をしながら、部屋に戻った。

部屋では純が座って待っていた。


「純、待たせた。話を聞くよ。」


聖也に促され、純は読んだ歴史書の内容を話した。


「乾くんと咲田くんは少し読んだから知っていると思うけど、

魔王は50~60年に一度復活し、その度に僕らのような<ウィザラー>が異世界から現れる。

<ウィザラー>は魔王討伐に成功すると元の世界に戻るが、その人数は毎回バラバラで、

前回なら5人、その前は7人、多いときは二桁を越えていたらしい。ただ…。」

「ただ何だ。」

「ただ、全員戻れたのは、記録が残っている1000年で一度もなかった。

それと、戻れた<ウィザラー>に共通していたのは、みんな特殊な力を持っていたらしい。」

「特殊な力っていうのは、覚醒の事か。それより全員戻った試しがないって…。」

「毎回結果が変わるから、今回は違うかもしれない。

でも戻るには覚醒がキーになっている気がするけど、現状どうすれば覚醒するのかはわからない。」

「純の言う通り、覚醒の条件は分からない。

ただ、戻る要素が運任せとなると、みんなの生きる気力に関わってくる。」


みんな顔が曇った。寛人が言うように、今みんな必死で生き抜こうとしているところに、

水を差したくなかった。

少し沈黙が続いたが、純が続けて話し始めた。


「それと、今回みたいに知り合い同士が集まったパターンは稀で、

大体は、国も年齢もバラバラで、家族連れもいたりした。」

「前回の義勇兵一覧を見たらそんな感じだったな。」

「そうなるとやはり文化や考え方の違いが大きく、まとまることなく<ウィザラー>内で分裂することが多々あったらしい。」

「分裂してどうなるんだ?」

「分裂して洞窟内で義勇兵を続ける者、王国軍と共に生活する者、街に行き戦いを辞めた者と別れた。

これが最初に着いたときにベッドの数が少なかった理由だと思う。

それと、少なくとも戦いを辞めた者は一人として戻った者はいなし、

街に言った後にどうなったかも記録には残っていない。」

「やっぱり戦うことが覚醒する条件なのかなぁ。」


再び沈黙が続いた。黄泉がえりの試練というのはやはりハードルの高いものだと実感した。


「色々不確定のまま、みんなに戦場に出ろとは言えない。

当分は今のまま生活をして、進展があればみんなに打ち明けよう。」


寛人が提案すると、みんなそれに賛成した。

小一時間の話し合いは終わり、四人で部屋を出た。

聖也と寛人と将文は、この後街に行くことを伝え、

中央の部屋に出たところで純と別れた。


「昨日解毒剤が必要になったと聞いて、今後必ず他の状態異常攻撃をする魔物が現れると思う。

きっと万能薬の様なものがあると思うから、それの研究をしようと思う。

あとはいざって時に戦力の底上げになるように、みんなの装備品を強化しときたい。」


純は別れ際にそう言った。


「何か手伝うことあるか?」


聖也が聞き返すと、


「万能薬の研究は一人で出来るから、街に行ったときに武器強化のヒントがないか探してください。」


純のお願いに聖也はすぐYESと答えた。

そして三人は街へ歩いて向かった。


20分も歩くと街に着いた。

街は丘の麓から天辺にかけて発展しており、特に大きい壁で囲まれているわけではなかった。

ただ所々に見張り台が立っていた。


「そう言えば、昨日の封印石があった場所、チェックポイントになってたな。」


聖也が思い出したかのように言ったので、確認すると正にそうだった。


「じゃあ中間に増えてたのは、アンドリューっていう英雄が壊した封印石の跡か。」


二人が話していると、将文が二人を呼んで指差した。


「寛人くんと聖也くん、転移したらあの空き家に着くんだ。」


指差した方には平屋が1軒他の家に挟まれていた。

それ以外の建物は2階以上の木造の家が建ち並んでいた。

反対側には兵士の宿舎と思しきデカい建物が、何棟も建っていた。


「そう言えば城みたいなものはないんだな。」

「王様がいる城は、ここから更に20キロの所にあるらしい。」

「それはさすがに遠いな。」

「まぁ武器強化について探るか。」


三人は一先ず鍛冶屋を目指すことにした。

街の中は兵士がそこら中にいて、かなり活気づいていた。

丘の中腹まで歩くと鍛冶屋があり、聖也が職人に話しかけた。


「お兄さん。武器強化の素材って教えてもらえますか。」

「武器強化?すまないがここでは製造と修理しかしてない。他当たってくれ。」


その職人は武器強化と聞いて、全くピンと来ていなかった。


「もしかして強化って、あの装置でしかできないのか。」


職人の反応を見て、聖也が言った。

そうだとするとどこに行こうかと三人は悩みながらうろうろしていた。

すると、露店で宝飾品が売られていたので、商人に尋ねた。


「すみません。この宝飾品ってどこで?」

「これは魔物を討伐した兵士から買い取った。珍しいものもあるから見て行きな。」


聖也の突然の質問に、商人は答えてくれた。

宝飾品を見たが、買えなくはないが全員分を揃えるとなると骨が折れる金額だった。


「この石って、どこで手に入るの?」

「石は<セイルザツ川>の向こう側だから、今は魔王の陣地だ。」


魔王の陣地となると取りに行けないので、宝飾品は諦めたが、

こっそり写してライブラリには登録しておいた。

街の中で武器強化素材の探索をするのは止めて、お金をどう使うか話し合った。


「僕はいろんなものを食べたい!」


将文は開口一番に提案した。


「まずはそうなるよな。」


二人とも賛成だったので、屋台を歩き回った。

元の世界では見慣れない食材がたくさんあったが、特に違和感を感じるものは無かった。

白身魚のフライが特に美味しく、しかもその魚は<スウェイトル湖>で捕れるものだった。

食べ歩いて満腹になると、三人はどうするか悩んでいた。


「もう洞窟まで戻るか。」

「最後に本屋寄っていいか、使える本がないか探した。」


寛人が本屋へ行くと話すと、二人とも同意して、本屋へ向かった。

本屋はそれなりに広く、小説とか伝記ものなどの読み物や画集といったものまで取り揃えていた。

寛人は鉱物と植物の図鑑を手にして購入した。


「何買うの?」

「石と植物の図鑑。純に渡せば何かあるかもしれない。」


寛人が図鑑を買うと三人は街を後にし、洞窟に戻った。

洞窟ではすでに夕食の準備が始まっており、図鑑を純に渡したら、

三人は洞窟前の休憩所で待っていた。

休憩所にはすでに全員座れる分の席が用意されており、

男子たちはご飯が来るのを座りながら待っていた。

程なくして、洞窟の中から良い匂いが近づいてきた。


「お前らも手伝えよな。」

「ちょっと置く場所開けてくれる。」


実久と深琴がダルそうに運びながら愚痴っていた。

男子たちは悪いと言いながら、運ばれてきた食事を眺めていた。

メニューはハンバーグとパスタとスープとサラダだった。

運び終わるとみんな席に着き、一緒に食べ始めた。

日を重ねるごとに美味しくなっていくメニューに男子一同感動した。


食事が食べ終わり、寛人たちは準備をしようとしていたら、楓がみんなを止めた。


「聞いて欲しい。今元の世界に戻るために必要な課題を一部の人に負担してもらっている。

もちろん今はみんなで生き抜くために一丸となって基盤を整えているけど、

もう私たちも覚悟を決めるときなんじゃないかと思ってる。

私と晴花ちゃんと玲奈ちゃんと胡桃ちゃんは今日から参加することに決めたので、

他に私たちと共に戦いに参加する人はいませんか。」


楓は全員に訴えかけたが、反応は薄く、静閑とした。


「行きたい奴が行けばいい、俺は行かねぇ。」


竜輝はさっと立って部屋に戻っていった。

他のメンバーも声には出さなかったが竜輝と同じ気持ちのようだった。

でもその中で、巧太が、


「僕行くよ。」


っと賛同した。続いて大輔と勇樹も賛同した。


「ありがとう。飯塚くん、筑摩くん、高島くん。」

「じゃあ参加する奴は準備出来たらここに集合してくれ。」


寛人が声を掛けると一同解散していった。

その中で寛人は省吾を捉まえて、参加を打診した。


「省吾。お前とは師範の下で一緒に剣道を習ってきたから分かるんだが、

絶対に戦いでお前の剣道は役に立つ。俺たちと一緒に来ないか。」

「うるせぇ、知ったような口を聞くな!俺に構うな!」


省吾は怒鳴り返したが、初日と違い、今寛人は最前線で戦っているメンバーの中心なので、

周りの目は一層冷たく感じた。

居た堪れなくなった省吾は洞窟とは反対の方向へ出ていった。


「省吾!」

「寛人止めとけ。今は何言っても無駄だ。」


引き留めようとした寛人の手を聖也が掴んで止めた。


「そのうち帰ってくるさ。それより準備をしよう。」


彰も寛人の肩を叩いて、準備に集中するように促した。

準備が終わって洞窟の前に出ると、純が立っていた。


「どうした純?」


寛人が声を掛けた。


「僕はまだ戦いに行く決心がついてないけど、これをみんなに。」


そう言って純は何か入った袋を渡した。


「これは?」

「街で買った食料と木の実を合成した栄養食です。

体力回復の効果があり、腹持ちもいいので、疲れた時に食べてください。」

「ありがとな。」


純にお礼を言って、参加メンバーは砦に向かった。

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