08 2日目:小隊の始まり
08 『2日目:小隊の始まり』
大型のゾンビはその大きな手を薙ぎ払った。
攻撃速度は遅いが、振る度に凄い風圧が襲ってきた。
「さっきの突風の正体はこれか。」
「寛人どうする。この風ではまともに近づけない。」
「(どうする。まずあの手をどうにかするのが先か。)
聖也、奴の足を狙って足止めを、将文は奴の攻撃を受け止めてくれ、
止まった手を俺が切り落とす。」
「分かった。」
三人は大型ゾンビの攻撃をかわしつつ、反撃のタイミングを窺っていた。
しかし、将文が地面から新しく湧くゾンビを発見した。
「みんな、下からゾンビが這い出てきている。」
「くそっ、こいつ<ペラ>だから、倒さないとドンドン敵が湧くぞ!」
湧いてくるゾンビを寛人と聖也で討伐し、将文が風圧を防いでいたが、
次第に追い詰められていき、遂に大型ゾンビの攻撃は将文を捉えた。
一撃目は堪えたが、二撃目は堪えられず、将文は飛ばされてしまった。
ディフェンダーを失った、寛人と聖也は風に妨害され、攻撃も儘ならなくなった。
「うぉりゃあー!」
その時、後方から槍が飛んできて、大型ゾンビの左膝を捉え、槍は後方に戻っていった。
すると左膝は凍結し、ゾンビはバランスを崩して四つん這いに倒れた。
「お前ら大丈夫かー。」
寛人と聖也が振り向くと、彰たちが向かって来ていた。
「サンキュー、助かった。」
「二人とも伏せてくれ。」
「へっ?」
聖也の挨拶もそこそこに、秀吉は二人にそう言うと、手に持った拳大の石を鎚で打った。
石は勢いよく二人の方へ向かって来て、進む毎に分裂していった。
寛人と聖也が伏せると、後ろから向かって来ていた魔物たちにヒットし、
コアを破壊された数体は消滅していった。
「危ねーぞ、秀吉!」
「伏せろとは言った。悪気はない。」
「俺らもさっき覚醒したばっかだから、怒んなよ。」
彰たちは二人の元へ駆け寄ってきた。
「千佳ちゃんの叫び声とともに通信が切れたのだけど、千佳ちゃんは無事なの?」
「千佳ならあそこで気を失っている。」
聖也が指さした木の近くに千佳はうずくまっていた。
菊池が駆け寄り、千佳の状態を確認した。
「後藤さん、大丈夫ですか!後藤さん!」
「…先生、来てくれたんですね。」
「みんなも来てるから、安静にしててね。」
菊池の問いかけに、千佳は目を覚まし、自らを治療し始めた。
すると、倒れたゾンビが立ち上がろうとしていた。
「そうはさせるか!」
彰は再び槍を投げ、今度は左手と地面を突き刺した。
大型ゾンビの左手と地面が氷で引っ付き、必死で剥がそうとしていた。
「今しかチャンスはない!俺と彰と秀吉でデカいのをやる。
聖也と英水さんと先生は雑魚の殲滅を。」
寛人がそう叫ぶと、寛人と彰と秀吉は大型ゾンビに駆け寄り、
聖也と美郷は弓で湧き上がるゾンビを討伐していった。
菊池は千佳の近くで剣を構えた。
「後藤さん。私が必ずあなたを守るから、安心して休んでください。」
「はいっ。」
ぼんやりとした意識の中、千佳が菊池の背中を見つめていると、菊池の剣がダブって見えてきた。
それは錯覚ではなく、菊池がゾンビの攻撃を防ぐともう1人の菊池が現れ、ゾンビを切りつけた。
「先生が二人。」
「わっ、本当だ。」
横を見て、もう1人の自分に気づいた菊池は腰を抜かしそうになった。
分身の方は本体の事を気に留めず、一心不乱に戦闘していた。
菊池本人もそれに倣って剣を振るい、自然とコンビネーションが生まれていった。
「雑魚は大丈夫そうだが、俺たちはどうする。」
「まずあの厄介な腕を斬り落とす。」
寛人がそう伝えると、頭上から大型ゾンビの手が降りてきた。
剥がすのを辞めたゾンビが、近づく三人を押し潰そうとしたのだ。
三人は咄嗟に避けたが、手の後は窪み、潰されたら一溜りもなさそうだった。
その威力に驚いていると、次の攻撃が来た。
「鬱陶しんだよ!」
避けたところで、彰が直ぐに槍を投げた。今度は右手と地面が張り付いた。
「彰助かった。だけど体力が回復するまで、スキルは使うな。動けなくなるぞ。」
「分かってる。」
そう言いながらも、彰は槍に支えられながら、何とか立っていた。
「秀吉、右手を頼む。俺は左手を斬る。」
「分かった。」
寛人の言葉に返事すると、秀吉は右手手首のあたりにフルスイングをぶち当てた。
右手の氷に少しひびが入ったが、有効打にはならなかった。
秀吉は集中し、さらに力を込めてフルスイングをした。
すると氷とともに右手は砕け散った。
そのタイミングで寛人は左手に辿り着き、肘のあたりに斬撃を飛ばした。
腕はあっさりと斬り放され、支えがなくなったゾンビはうつ伏せに倒れた。
「よし、最後は右肩だ!」
右肩の近くにいた秀吉は、肩に鎚を思いっきり振り下ろした。
すると肩のコアが剥き出し状態になった。
走りこんでいた寛人は、大型ゾンビの頭を踏み台に高くジャンプし、
コア目掛けて、剣を振り下ろした。コアは破壊され、大型ゾンビは声を上げた。
「よし、漸くややったぞ。」
寛人は安心して膝をついた。
しかし、大型ゾンビは消滅することなく、斬られて腕で反動をつけ、
目の前にいた彰に噛みつこうとしていた。
「間に合わねぇ!」「彰っ!」
寛人と秀吉が叫んだタイミングで、大型ゾンビの脳天に矢が刺さり、2個目のコアが砕けて、大型ゾンビは消滅した。
「間に合ってよかった…。」
美郷が彰を助けるために放った一発は、大型ゾンビを消滅させたが、
自分への攻撃は躱しきれずに、美郷はその場に倒れた。
「美郷ー!」
彰は美郷に駆け寄った。
美郷を攻撃したゾンビは更に美郷に追い打ちをかけようとしていたので、聖也がとどめを刺した。
彰は美郷を抱きかかえた。まだ息はしていた。
「彰くん、早く美郷さんをこっちに。」
まだ立ち上がれない千佳が、彰を呼んだ。
彰もすぐさま千佳の方へ美郷を運んだ。
「まだ息をしているから、間に合うと思う。」
「後藤、頼んだ。」
彰から美郷を預かると、千佳はすぐにスキルで美郷を包み、治療を始めた。
その間、他の面々は残りの敵を殲滅していたが、<ペラ>を討伐していたので、時間はかからなかった。
戦い終わったメンバーは千佳のもとに近寄り、美郷の回復を見守っていた。
「ごめん、遅くなった。」
今までいなかった将文が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「将文か。大丈夫だったか?」
寛人が将文に気づいて聞いた。
「いや、一度蘇生して、森のチェックポイントから走ってきた。
それよりあの大きなゾンビは?」
「美郷がとどめを刺したけど、本人も重症だ。」
将文の質問に彰がいつもより暗い声で答えた。
将文は彰や秀吉たちがいることに驚いたが、今の状況を見て、声を出し留めた。
暫くすると、千佳の治療が終わった。
「傷はほとんど治った。今は意識を失って寝ているだけだよ。」
千佳がそう言うと、一同ホッとした表情になった。
「菊池先生もいたんですか。」
将文は菊池の存在に気づいて驚いた。
「生徒たちがこんな状態にならないように来たのだけど、まだまだ力不足ね。」
「そんなことはありません。私は先生に助けられました。」
「後藤さん…。」
千佳に励まされ、菊池は目を潤ませた。
「今回の<ペラ>はコアが2個あったのに、1個壊して油断してしまった。」
「そんな敵は初めてだし仕方ない。俺も前半にスキルを使いすぎて後半は役に立っていなかった。」
「そんな事はない。彰のおかげで被害は最小限にできた。」
「秀吉…。」
寛人を皮切りに、さっきの戦いの反省会が始まった。
そんな内に美郷が目を覚ました。
「美郷!」
彰はすぐに美郷を抱きしめた。
「美郷ごめん。またお前を死なせるとこだった。」
「良いんだよ。私もその覚悟で戦いに参加したのだから。
それよりもっと強くなって、いつもの頼れる彰になってね。」
「あぁ分かった。約束する。」
彰は更にぎゅっと美郷を抱きしめた。
「コホン。お二人さんもういいか?」
聖也が彰の肩を軽く叩いて声を掛けた。
「すまん。取り乱した。」
彰も周りの熱い視線に気づいて、慌てて美郷を放した。
「八人も揃っていろんな戦い方ができるようになった。
そこで改めて、みんなのスキルを確認したと思う。」
聖也はそう切り出すと、ステータス画面を開き、みんなの覚醒スキルを確認しだした。
「まず俺は、ロックオンしたポイントに必中の攻撃を当て、寛人は斬撃を飛ばす。
彰は投げた槍のヒット箇所を凍結させ、秀吉は打った物体を一定距離ごとに分裂させる。
千佳は治療対象の悪化を遅延させ、将文はガードした敵に重力を与える。
英水さんは敵のコアの場所を特定でき、最後先生は分裂する。っとそんなところか。」
「秀吉と先生のスキルは雑魚向きで、彰と将文は大型の敵と戦う時に役に立ちそうだ。」
覚醒スキルの説明を聞いて、寛人はぼそっと言った。
「八人もいると統率するために、リーダーが必要になる。
そこで俺は最初に戦うことを決意し、状況判断もできている寛人を推したい。」
「俺か?」
「俺もその案に賛成だ。俺にはまだ戦闘の経験が足りない。」
寛人は聖也の提案に驚いたが、彰はすぐ賛成した。
「先生いるから。やっぱり先生が…。」
「いやいや、私はまだこの世界では自分の事で精一杯で、どうすればいいのかも判断できない。」
寛人は菊池に振ろうとしたが、菊池は手を振って断った。
「安心しろ、俺たちは絶対にお前を信じるし、何かあれば俺がサポートする。」
「…分かった。」
聖也の熱い推しに、寛人はしぶしぶ承諾をした。
「そうと決まれば、リーダー次はどうする?」
「リーダーはいい、寛人のままで。
俺たちが隊長から受けている指令は<ペラ>の殲滅だ。
残り何体か分からないが、さっきみたいに所見の敵に遭遇したら、
まず英水さんのスキルでコアを見つけ出して欲しい。」
「分かった。」
「隊列は俺と秀吉が先頭で、その後ろに彰と菊池先生、将文、千佳、最後尾に聖也と英水さん。
将文は基本千佳を守るようにして、大型の敵が来たら、スキルで動きを弱めてほしい。」
「分かった。」
「とりあえず今は以上だ。次の<ペラ>を探しに行く。」
美郷も動けるようになり、みんなで深呼吸をして、指令を再開した。
リーダーを決め、役割を明確にしてからは戦闘がスムーズになり、危険な場面は少なくなった。
途中大型2体に囲まれる場面があり、多少の犠牲はあったが、
全員で力を合わせ、<ペラ>を1体ずつ確実に討伐していった。
「2時の方向に月マークがあるわ。」
「今まで見たことないけど、もしかして敵の拠点とか…。」
地図上の菊池が言った方向に月マークが出ていた。
それを見た将文が恐る恐る口にした。
「分からないが、みんな慎重に進むぞ。」
「了解」「はい」
寛人の指示に従い、みんなゆっくりと近づいていった。
「かなりの敵がいる。」
先頭の秀吉がレーダーを見ると、たくさんの点滅が表示されていた。
更に近づくと目視でも大量の敵を確認できた。
「ヤバい。あの大型が3体もいるぞ。」
「今の俺たちの戦力では無理だ。見つかる前に引き返そう。」
寛人の指示で道を引き返そうとすると、寛人たちから北東に数十メートル離れたところから、
馬の走る音がし、敵の塊に向かっていく人が見えた。
寛人は一瞬目が合った気がしたが、その人は脇目も振らず突っ込んでいき、
その更に数十メートル後ろから、一個小隊が続いていった。
どちらも寛人たちが見たことない人だった。
「あの大きい剣を持った人、一人で突っ込んでいくぜ。」
「あぁ。少し隠れて見よう。」
寛人そう言って草木に隠れ観察していると、
大剣を持った兵士は雑魚たちを薙ぎ払い、馬の上からジャンプすると、
二撃でコアを確実に破壊し、大型1体を撃破した。
「あっという間に大きいやつを倒した。」
「俺たちとは桁違いの強さだ。」
寛人と聖也は感動が口に漏れた。
後から追いついてきた小隊も雑魚を確実に仕留めていき、
残りの大型もあまり時間も掛からないうちに撃破していった。
その奥には青白く光る石があった。
「あれ、もしかして封印石じゃないか。」
聖也が言った。そうしているうちに大剣を持った兵士が石を破壊した。
「そこにいるのは分かっている。出てこい。」
大剣を持った兵士が寛人たちの方を見て叫んだ。
寛人は立ち上がり、言われたとおりに近くへ行った。
他のメンバーも後ろについていった。
「どこの隊の者だ。」
「第17番隊に所属している<ウィザラー>です。」
大剣を持った兵士の質問に、寛人は素直に答えた。
「お前たちが今回の<ウィザラー>か。私はブライトだ。」
「ブライトってあの英雄の人ですか。」
兵士の名前を聞き、千佳は思わず声を出してしまった。
他の面々も英雄たちの名前を思い出し、驚きの表情を見せた。
「様を付けろお前たち。私は第14番隊隊長のトビアスだ。」
ブライトの後ろから小隊を引き連れていたのは、第14番隊の隊長だった。
「それは構わない。まさか俺より前にいる部隊があるとは思わなかった。」
ブライトは少し感心した様子で、寛人たちに言った。
「いいえ、私たちはマルギット隊長からの指令で<ペラ>を討伐していき、
たまたま発見しただけです。」
「改まらなくてもいい、魔王討伐戦では必ず<ウィザラー>の助けが必要となる。
歴史がそう言っている。」
寛人は英雄からの称賛に恐縮しながら答えたが、ブライトは少し笑いながら返した。
「それより今日の目標は達成した。」
「やはり先ほどの石が封印石ですか。」
「あぁそうだ。なのでお前たちはもう砦に戻ればいい。笛も間もなくなる。」
「分かりました。それでは失礼します。」
「またどこかで会うだろう。」
寛人たちに挨拶を済ませると、ブライトたちは更に西へ進軍した。
寛人たちは言われたとおりに砦に戻ると、間もなく終わりの角笛が鳴った。
報酬を受け取ると一行は洞窟へ戻った。
〔寛人RP10〕
〔聖也RP15〕
〔将文RP17〕
〔彰・秀吉RP18〕
〔千佳・美郷・菊池RP19〕




