表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレースネヘス  作者: たつG
6/41

06 2日目:パーティーの始まり

06 2日目:パーティーの始まり


寛人と聖也がに到着すると、鏡の前で千佳が体育座りをしていた。

千佳は聖也と同じテニス部で、1年の3学期に千佳が聖也に告白をして付き合い始めた。

少しうとうとしていた千佳は、物音に気付き顔を上げ、

聖也を見るや否や涙顔で聖也に飛びついた。


「聖也のバカ、もう帰ってこないんじゃないかと心配したんだから。」


聖也は泣きじゃくる千佳をそっと抱いた。


「悪かった。でもどうしても俺はお前と元の世界に戻りたかった。

もちろん他のやつらも一緒に。」


熱い二人を横目に寛人は部屋を出ていこうとした。


「疲れたから、俺は先に部屋に戻るぞ。」

「寛人も心配してたんだよ。」

「分かってる。」


千佳は顔だけ寛人の方に向けてそう告げた。

寛人はふっと笑って、部屋を後にした。

寛人が出ていった後も、聖也は千佳を抱きしめ続けた。


「聖也、ちょっと重いよ…」

「あっ、悪い、安心したら眠くなった。」

「もう。…部屋まで肩貸すよ。」


そう言って千佳は聖也の肩を担ごうとしたが、聖也は腕を放した。


「いいよ。そんな姿をみんなに見られるのも恥ずかしいし。

それよりこれを先生たちに渡して欲しい。」


そう言って聖也は報酬が入った袋と集めた宝飾品を千佳に渡した。


「これは?」

「戦いの報酬と戦利品。これで食料や必要な道具を揃えればいい。」

「いいの?二人が頑張って手にした物なのに。」

「いいよ。俺はみんなと帰りたいし、寛人も同じ気持ちだって。」

「…分かった。先生たちに渡しておくよ。」


二人は鏡の部屋を出て、中央の部屋に向かった。

階段に差し掛かった時、聖也が思い出したように千佳に言った。


「そうだ。近くの街の本屋で、前回までの魔王討伐の記録が載っている本を買っておいて。

きっと今後の参考になると思うから。」

「分かった。分かった。もう他に思い出したことはない?」

「もうないかな。」


聖也は階段を降りると一直線で自分の部屋に戻った。

中央の部屋は誰もいなくて、シーンとしていた。

部屋の中で寛人はすでに眠っていた。

聖也も横になるとすぐに眠りについた。


―7時間後―


寛人が目を覚ますと、聖也もすでに目が覚めており、

ベッドの上でストレッチをしていた。


「起きたか、寛人。」

「あぁ。(ぐぅー)」

「飯食いに行くか。」


二人が部屋を出て、洞穴に差し掛かったところで、

ちょうど荷物を持った楓が前を通り、二人に気づいた。


「乾くんと咲田くん起きたんだね。千佳ちゃんから聞いたよ。

二人とも本当にありがとう。」

「いいってことよ。それより何持ってんだ?」


楓の抱えているものが気になった聖也は聞いてみた。


「これ?みんなが集めた資材だよ。

空いてる部屋を倉庫代わりに使うことにしたから、そこに運んでるところ。

あっ、二人の食事はバスの前に準備してあるからね。」


そう言って楓は荷物を運びに行った。

寛人と聖也はバスの方へ向かうと数人しかいなかった。

たき火の前では美郷が大きな鍋の前で食事番をしていた。

美郷は弓道部のエースで清楚で品もある。彰と中学からの同級生で、中学卒業後から付き合っている。


「乾くんと咲田くん。おはよう。

二人のおかげでちゃんとした食事を摂れるようになったから、

本当に感謝してる。」

「いいよ、それより俺らめっちゃお腹がすいてんだ。」

「そうだよね。すぐ準備するから待ってて。」


そう言って美郷は大鍋からシチューを装って、パンと一緒に二人に渡した。

二人はシチューを一口食べると、そのおいしさに感動した。


「めっちゃ美味しい!」

「あぁ、すごく美味しい。英水が作ったの?」


味に感動した寛人が美郷に尋ねた。


「楓と玲奈と三人で作ったの。調味料も揃ってないから、苦労したんだよ。」


二人はがつがつと目の前のシチューとパンを口に放り込み、

あっという間に平らげてしまった。

食事中も楓たちが荷物を運んでいるだけで、誰も現れる気配がなかった。


「みんなはどうしてるんだ?まだ部屋に引き籠ってるの?」


聖也が美郷に尋ねた。


「いいえ、二人が寝ている間にみんあで集まって、今後どうしようか話し合いをしたの。

その中で高島くんが戦わなくても、生き抜くための用意をした方が良いって。」

「勇樹がそんなこと。」「そうだな。」


聖也は少し驚いたが、寛人は今の環境を考えると当然の決断だと思った。


「それで、戦わなくても自分たちで生きていけるように、

女子は街で高く売れるものを聞いて、それに必要な材料集めと装置を使った生成をしていて、

男子は自分たちで使う家具や道具を作ろうってなって外に出ていったよ。

今使っている木製のお皿とスプーンも男子たちが作ったものだよ。」

「そうなのか。綺麗にできてるから、買ったもんだと。」


聖也は良くできた皿とスプーンを眺めて感心した。


「洗っておくから、そこに置いといていいよ。

男子たちは洞窟の近くにいると思うから。それとこれ。」


そう言って美郷は報酬を入れていた袋を聖也に渡した。


「これって?」


聖也は美郷に尋ねた。


「これもみんなで決めたことなんだけど、貰ったお金の半分は二人に返すって。」

「別によかったのに。でも、サンキューな。」「ありがとう。シチュー本当に美味かった。」


聖也と寛人は美郷にお礼を言って、洞窟の外へ行った。

美郷が言った通り、洞窟から少し離れた開けた場所で、

男子たちは日曜大工をしていた。


「おっ、聖也と寛人じゃねーか!」

「彰!お前の未来の嫁の手料理、めっちゃ美味かったぞ!」

「だろ?それより、こっち来い!これ見てみろよ!」


二人に気づいた彰が、二人を急かした。

見に行くと歪だがしっかりとしたテーブルが組み立てられていた。


「いいので来てるじゃん。」


聖也はその出来栄えを素直にほめた。


「だろ?道具は街の大工に使わないものを借りて、材料は材木屋から切れ端をもらって、

みんなで2時間かけて作った大作なんだぜ!設計は全部巧太だけどな!」

「戦うことができない俺たちには、今これが精一杯だけど、

それでも絶対に生き抜くことを誓ったから。」


ハイテンションの彰とは反対に、ローテンションな秀吉が木を研磨しながら言った。


「その気持ちだ大事だと思う。俺も諦めるかって思いがあるから何度やられても立ち向かえる。

それでこの机はどうやって運ぶんだ?」


寛人は熱くキメつつも、冷静に彰たちにツッコんだ。


「これ移送できないか?」

「移送できてもあの通路は通らないだろう。」

「じゃあ転がしていって、洞窟の前で使うか。」


彰が楽観的にそう言うと、みんなで机を立て、洞窟前まで転がしながら運んだ。

あとは引っこ抜いただけの切り株を、根っこだけ整えて、それを椅子にして机の周りに置いていった。

そこはちょっとした休憩所になった。

聖也と寛人が休憩所で休んでいると、洞窟から千佳が出てきた。


「聖也ここにいたんだ。言われてた本買ってきたよ。」

「おっ、サンキュー」


千佳は聖也に頼まれていた魔王討伐の歴史書を渡した。

聖也は早速本を開いた。


「そんな本読んでどうすんだ?」


寛人が聖也に尋ねた。


「昨日砦について食事をしている時に、横にいた兵士に話を聞いたんだ。

数十年前も魔王討伐戦があって、その時も俺たちと同じ存在の人たちがいたらしいんだ。」

「そうだったんだ。それで?」


寛人は少し驚いたが、聖也の話に興味を持った。


「それで、前回は50人ぐらいいたらしいが、それだと部屋のベッドの数が合わないし、

あと魔王討伐後は5人しか生き残ってなかったらしい。」

「5人だけかぁ…。」

「だから、ベッドの数の謎や、生き残るためのヒントがないかと思って、千佳に頼んだ。」


まず目次で気付いたのが、前回の魔王討伐戦が53年前にあり、その前は60年前と、

大体50~60周期に魔王討伐戦があり、どの戦いにも<ウィザラー>という義勇兵が参加していたことだ。

前回の魔王討伐戦のページを開くと、そこには参加した義勇兵の名前と似顔絵が載っていた。


「前回は国籍もバラバラだし、顔見ても年齢層もバラバラっぽいな。」

「俺たちみたいに修学旅行中の高校生ではなさそうだな。」

「このマークが付いているやつが生き残りらしいが、聞いたことある名前はないな。」


二人は続いて戦いの頭から読んでいったが、

二人とも普段あまり読書をしないタイプだったので、

中盤にも届かないところで読むことにくたびれた。


「あぁ、もう無理。今日はお終いだ。」

「俺ももう限界だ。」

「俺たちには本は無理だ。…そう言えば、純って文学部だし、こういうのも好きかもしれない。」

「純に事情話して頼んでみるか。」


そうと決まると、聖也はすぐに純へ連絡を取った。


「純、今どこにいる。ちょっと話したいことがある。」

「今は合成装置前にいる。僕も乾くんと咲田くんに用があったから。ここで待っているよ。」

「分かった。すぐに向かうわ。」


通信を切ると二人は早速合成装置の部屋に向かった。

部屋の中にいると何人かの女子に混ざって、純は素材の分量を量っていた。

聖也は純を部屋の隅に呼んで、本の話をした。


「…そうなんですか。今夜中にも本を読んでおきます。

僕からは二人に渡すものが。」


純は本を受け取ると装置の方へ何かを取りに行った。

戻ってくると見たことがない武器を持ってき、二人に渡した。


「これは?」


寛人が純に尋ねた。


「二人が持ち帰った宝飾品をライブラリに登録すると、

武器と合成できる石があったので、二人の武器を強化しておきました。

残りの宝飾品は合成には使えないので、二人にお返しします。

僕にできることはこれだけです。」

「そんなことはない。武器も本も俺では気付けないことがあるから、助かる。」

「咲田くん…、ありがとう。」


そう言って、寛人と聖也が武器を受け取ろうと手を伸ばした時、

純が右手に浮かび上がっていた模様に気が付いた。


「二人とも右手の模様はどうしたの?僕にはそんなのないけど。」


純に言われ二人は右手の甲を見ると、見慣れない文字とそれぞれの武器マークが4つ描いてあった。

それまで二人とも全く気付いてなかったので、いつ出てきたかも検討が付かない。

試しに文字を翻訳機能を使って見ると、それぞれの覚醒スキル名だった。


「もしかして、昨日覚醒したときに付いたんじゃないか?」

「そうかもしれない。」

「覚醒って何?」


寛人の覚醒という言葉に興味を持った純が尋ねた。

寛人は昨日の晩に起こった出来事を純に話した。


「すごい!そういうのもあるんだ!

ちょっとマニュアルに何か増えていないか確認してみる。」


そう言って純はマニュアルを閲覧し始めた。すると何かを見つけたようだった。


「やっぱりあった。ゲームではよく新機能を見つけると、

その新機能の説明が増えていることがあるんだけど、

思った通り、覚醒についての説明が新たに増えてる。」


純は少し興奮気味でマニュアルを読んでいった。

一通り読み終えると二人に説明した。


「覚醒条件に付いては書いてないけど、手の模様については記載があったよ。

スキル名の下のマークは、使用できるスキルの残回数で、使うと一つ減り、30分で一つ回復するらしい。

あと残回数と体力は比例の関係にあって、ゼロになると行動不能になると書いてる。」

「行動不能か。それは気を付けないとな。」


純の説明を聞いて寛人は昨日の戦闘の急激な体力消耗を思い出し、

行動不能もあながち嘘ではないだろうと考えた。

二人は改めて純から生まれ変わった武器を受け取って、

早速洞窟の外で試しに使ってみることにした。


「とりあえず、あの木を狙ってみるか。」


聖也は弓を構えると、真正面の木を狙い撃った。

聖也の狙いから少しずれたが、矢は木の深くまで届いた。

聖也は昨日との威力の違いに自分でも驚いた。

その後ろでズドンと木の倒れる音がした。

振り向くと寛人が細い木を真っ二つにしていた。


「お前、その威力。」

「俺もびっくりした。表面を傷つけるぐらいだと思っていた。」


二人で驚いていると、横の方からガサガサっと音がして、人が現れた。


「大きい音がしたから来たんだけど、これ聖也と寛人がやったのか。」


現れたのは翔太だった。

翔太は陸上部で県でもベスト4に入る実力者だが、やる気がいつも足りないと怒られている。


「いや、木を切ったのは寛人だ。」

「でも、あの木の穴は聖也だろ?

すごいなぁ。一夜の戦いでこんなにも変わるもんなのか。

俺には真似できねぇわ。」


その後も音を聞きつけた男子たちが集まり、その威力を称賛した。

日が沈もうとしているところで女子たちから連絡が入り、

夕食の準備が出来たから、洞窟まで戻ってくるようにだった。

洞窟の前に戻ると2台目机ができており、その上に夕食が準備されていた。


「もう2台目できていたのか。」

「1台目でコツを掴んだっぽいから、2台目は早かったぞ。

なんか筋肉も付いてきた気がする。」


聖也の言葉に、彰が自慢げに答えた。

夕食も昼間のシチューと比べてもかなり手の込んだものができていた。


「作ったお薬を売って材料や道具をきちんと揃えたから、かなりの自信作よ。」


美郷が嬉しそうに披露した。


「薬の量も出来もすごくいいって商人に褒められて、お金も少し余裕が出来たから。」


美郷の横で千佳が自慢げに話した。

机2台だと全員で座るとキツキツなので、立食で食事をした。

食事の席で聖也は、昨日自分たちが体験したことを話した。

マップの話や魔物を操る魔物の話やあと覚醒の話。

それと取得した宝飾品から純に武器の強化をしてもらったこと。

戦いの話なので目を背ける生徒もいたが、生き抜くためのヒントになると信じ、

聖也はすべてを話した。


「俺たちはそろそろ砦に行く。」


そう言って、寛人と聖也はマップを広げ転移しようとした。


「待って!」


千佳が二人を呼び止めた。


「私も行くって決めた。二人がボロボロで帰ってきた姿を見て、

サポートできることがあるんじゃないかと、今日ずっと考えてた。」

「でもまた怖い目にあうことになるぞ。」

「いい、その時は聖也がちゃんと私を守って。」


そう言われて聖也は少し戸惑い寛人の顔を窺った。


「俺は回復役がいてくれるのは大きいと思う。」

「…だそうだ。」

「ありがとう二人とも…。準備してくるね。」


そう言って千佳は武器と防具を揃えて、二人の元に戻ってきた。

三人揃うと砦に転移した。


「(僕もこのままじゃいけない!)」


―<オベルウィンク砦>の三人―


砦に付いた三人は早速隊長を探し始めた。


「いたっ、あのテントの前。」


千佳が体調を見つけ、三人は隊長の元に向かった。

テントの近くまで付くと、隊長も三人に気づいた。


「お前たちか。今日は一人多いな。

悪いがすぐに作戦の説明をするから、整列してくれ。」

「待って~。」


隊長の話が終わるか否かのところで、後方から三人に呼び掛ける声が聞こえた。

振り向くと将文が追いかけてきていた。


「将文、来たのか。」

「昔寛人くんに助けてもらったのに、また助けてもらうだけなんて出来なかった。」


息を少し切らしながら将文はそう言った。


「そんなの気にしなくて良かったのに。」


寛人はそう言いながらも嬉しそうな顔をした。


「四人かちょうどいい。隊列は四人組が基本となるから、お前たちは四人で行動するように。」

「分かりました。」


隊長の指示に聖也が返事をし、四人はテント前に整列した。


「今日も再び<ハンデウィーズ森林>で奴らを迎え撃つことになる。

そして今日は<ハンデウィーズ森林>を突破し、

<アイグネル草原>まで進軍することが最終目標である。

作戦は昨日と同様に、1~6番隊が北東から、13~18番隊は南東から敵を攻め、

7~12番隊は<フェルベル丘>での残党狩りと、砦周辺の警護を担当する。

今日は昨日以上に激しい戦いが予想される、気を抜かず必ず勝利すること!以上だ。」

「ウィー!」


隊長の言葉で士気を高め、一行は<ハンデウィーズ森林>を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ