05 1日目:覚醒の始まり
05 『1日目:覚醒の始まり』
寛人が目覚めると。そこは洞窟の鏡部屋の中だった。
左手を見ると数字が19に減っていた。
寛人はゆっくり立ち上がると、バスがある中央の部屋へ向かった。
バスの前には灰島と菊池と生徒数名が固まっていた。
「咲田。漸く戻ったか。お前が最後だ…。
他の生徒たちは各自の部屋に閉じこもっている。」
昼間と違い、明らかに生気の抜けた灰島が顔だけあげて、戻ってきた寛人に告げた。
その場にいた他のメンバーも灰島同様、生気が抜けたようだった。
寛人は聖也を見つけて近づいた。
「聖也。さっきは助けられなくてごめん。」
「いいんだ。助けられたところで、あそこでは俺たちは無力だった。」
聖也は他のメンバーよりは覇気があったが、
それでも数分前に背中を預けていた聖也とは、大きく変わっていた。
「私たちは準備が順調に進むにつれ、この試練をゲームなんだと勘違いをしていた。
だがこの感覚はとてもリアルで、恐怖を感じると足がすくみ、斬られると痛みがあり、
死んでいく感覚はとても恐ろしかった。」
灰島は中央のたき火に当たりながら話し始めた。
「この試練は神が死にゆく私たちに与えてくれた最大のチャンスなのかもしれないが、
その壁は高すぎて希望の光が見えない。
私たちはもう死ぬ運命を受け入れ、抵抗せずこの苦痛から逃れる術を見つけるべきなのかもしれない。
本当にお前たちには申し訳ない。」
灰島がこっちの世界に来て初めて涙を流した。
周りの生徒もつられて涙を流した。
先生たちを残し、生徒たちは各自の部屋へ戻っていった。
寛人はベッドの上で天井をボーっと眺めていた。
寛人には助けられなかった仲間がやられていく姿と、自分たちとは違い、
復活することなくあの大地で生命を終えた兵士たちの最後の姿が頭から離れなかった。
「…やっぱり、俺は諦めることができない。」
寛人は同室の聖也と将文に告げ、部屋を出ていこうとした。
「どこ行くんだ。」
「…戦場に戻る。」
聖也の問いに寛人はそう答え、部屋を後にした。
部屋を出た後、まだたき火の周りにいた灰島と菊池の方へ向かった。
「先生。俺は生きて元の世界に戻ることを諦めることができません。
それに一つしかない命をあの戦場で散らしていく人がいることを分かっていながら、
何もしないでジッとしていることもできません。」
寛人は真剣な眼差しで灰島と菊池を見ながら語った。
「今の私は、先生と呼ばれる資格もなければ、君を止める権利もありません。
好きにすればいい。」
「私もあなたを引き留めたいが、まだ自分の事で精一杯です。
一つだけ言えるとすれば、それでも自分を大切にし、あまり無茶はしないでください。」
先生たちの言葉を聞いて、寛人は軽く会釈をし、
「行ってきます」とだけ告げて、その場から転移していった。
少したって聖也が部屋から出てきた。
「咲田は行きましたか。」
「はい、たった今戦場へ向かいました。」
「…そうですか。(寛人、無事に戻って来いよ。)」
聖也はたき火の前で火をじっと見つめながら、思い耽った。
―<ハンデウィーズ森林の寛人>―
寛人は森林に着くとまずライブラリを確認した。
ライブラリにはさっき倒した魔物の情報が載っていた。
それを確認したのちに第17番隊の探索を始めた。
森林での戦いは、戦力は王国軍が圧倒的に有利ではあったが、
無尽蔵に出現する魔物相手に一つ決め手に欠けていた。
マルギットを見つけた寛人は、近くに駆け寄った。
「隊長。列を離れて申し訳ありません。ただいま戻りました。」
「そうか。お前は戻ってきたのか。」
恐怖を克服し戻ってきた寛人の姿を見て、マルギットは笑みを浮かべた。
「今我々王国軍は無尽蔵に現れる魔物に手を焼いている。
そこでお前に指令を授ける。<ペラ>を探し出し、それ討伐をしろ。
この近くには少なくとも5体はいるだろう。」
「すみません。<ペラ>とは何でしょうか。」
「<ペラ>とはやつらの司令塔のようなもので、そいつが今戦っている魔物を生み出している。
見た目は今戦っている魔物とそれほど変わらないが、上位種の証として宝飾品を身に着けている。
<ペラ>は危険察知能力があり、大人数で行くとすぐ逃げられる。よって単独で行ってもらう。
怖気づいたのならまた逃げればいい、時期に我々が討伐するであろう。」
「いいえ。その指令引き受けました。」
マルギット会話を終えると、寛人は<ペラ>の捜索を開始した。
位置の確認のため寛人はマップを表示した。
「(ここが今の現在地で、第17番隊が戦っていたのはこの場所か。
この戦場で逃げ回りながら仲間を増やすには…。多分このラインより後ろにいるに違いない。)」
寛人がマップを見ていると右下にレーダーが表示され、
上側に赤い点滅が表示された。その赤い点滅は寛人の方に向かってきているようだった。
寛人は咄嗟に木の上に隠れると、その下を魔物が通過していった。
「(このレーダーは近くの敵を表示する機能があるのか。これは使える。)」
寛人はそのレーダーを頼りに戦場よりかなり前に出ていくと、
一つの点滅から別の点滅を発生させている箇所を見つけた。
そこへゆっくりと近づいていくと、宝飾品を付けた魔物がいた。<ペラ>だった。
更に近づき攻撃範囲内まであと少しの所で気付かれ、魔物2体を差し向けられた。
寛人は呆気なくやられた。
「(あと少し近づけたらやれた。次はいける。)」
洞窟で蘇生した寛人はすぐに森林へ戻った。
さっきと同じようにレーダーを頼りに<ペラ>を探し出し、
接近戦を試みたが、またしても同様に見つかってやられた。
「くそっ!(剣ではだめなのか。同じ位置で気付かれてしまう。
そう言えば案内人は蘇生箇所を変えれると言ってた。
時間短縮のためだ、ポイントを<ハンデウィーズ森林>に変えよう。)」
寛人は蘇生箇所を<ハンデウィーズ森林>に変えると再び線上に戻った。
寛人の叫びは洞窟内で反射し、バスの前にいた聖也はそれに気づいた。
「寛人、戻ってるのか。」
聖也が鏡の部屋を確認しに行ったが、寛人はすでに転移していた。
聖也は鏡の前で思い耽った。
―<ハンデウィーズ森林の寛人>―
蘇生箇所を変えて以降も寛人は何度も同じように魔物にやられた。
左手の数字を見ると15まで下がっていた。
それでも寛人は諦めずに指令を遂行しようとしていた。
再びレーダーでの探索をはじめ、<ペラ>を見つけ出した。
またも同様に見つかったが、今度は魔物の攻撃をかわし、<ペラ>を追いかけた。
だが<ペラ>の動きは早くどんどん離されていく。
「(俺はまた届かないのか。また無駄に命を消費してしまうのか。)
そんなのは嫌だ!諦めないと決めたんだ!うおぉーーーー!届けぇー!」
寛人の剣は空を切ったが、刃は青白く光り前方に斬撃を飛ばした。
斬撃は<ペラ>を捉え、コアを破壊した。
「やっと、1体目完了だ…。」
すると寛人に通知が届いた。
『おめでとうございます。咲田寛人。あなたは覚醒しました。
覚醒に伴い、覚醒スキルが解除されました。
あなたの覚醒スキル名は<ササンク・アサイ・トリネ>です。』
それを確認すると寛人は蓄積された疲労から膝をついた。
だが後方からは先ほど攻撃をかわした2体の魔物が迫ってあり、
その攻撃が寛人を捉えようとしていた。
「寛人っ!」
その言葉に寛人は反応し、1体は返り討ちにしたが、
もう1体の攻撃は躱しきれない体制だった。
「間に合えー!」
一杯に引いた聖也の矢は光を帯び、敵のコアを貫通していった。
「すまん。遅くなった。腹括るのに時間がかかった。」
「いや、お前は絶対に来ると思ってた。」
二人は熱い握手を交わした。
寛人は聖也に指令の話と新しく見つけたマップの機能について説明した。
「俺も寛人の名前がマップの下に出てきたから、それ目指してきた。」
「それと俺にこんな通知が来た。」
寛人はそう言ってさっきの通知を見せた。
「それなら俺も似たような通知が届いた。
俺の覚醒スキル名は<ゲラナイ・ウムブロ・ドストネ>だって。
何の意味があるのやら。」
聖也も通知を見せた。どうやら覚醒した本人にしか届いていないようだ。
「おい、ステータス欄のシークレットだったところが更新されてるぞ。」
聖也がステータスの更新を発見した。
シークレットには覚醒スキル名とスキル詳細が表示されていた。
少し休憩すると寛人が立ち上がった。
「<ペラ>はまだいる。隊長の予想だとあと4体。」
「覚醒した俺たちには余裕でしょう。」
「あぁ」
二人は普段の元気を取り戻した。
それから二人はレーダーでの探索を続けた。
2体目以降は<ペラ>の周りに常に護衛が付くようになったが、
互いの覚醒スキルを使いながら、2体目、3体目、4体目と順調に<ペラ>を討伐していった。
しかし、最後5体目の<ペラ>の周りには、10体以上の魔物が護衛を行っていた。
「寛人、さすがにこの数はきついぞ。」
「あぁ。それに夜通し戦っているから体力も付きそうだし、
あの覚醒スキルを使うたびに、体力を奪われている気がする。」
「それは俺も感じていた。」
二人が話している間に護衛の魔物1体に発見された。
「やばい、気付かれた。」
「迎え撃つしかなさそうだな。」
そう言って二人は立ち上がり武器を構えたが、
立っている事が精一杯で、1体の攻撃を凌ぐことしかできなかった。
次第に他の魔物も接近してきた。
「もうダメだ。」
「聖也しっかりしろ。」
二人とも何とか猛攻を凌いでいたが、ついに魔物に囲まれてしまった。
聖也が力尽き、地面に膝をついた時だった。
「目標発見!一同突撃!」
「ウィー!」
更に周りを囲んでいた王国軍が、護衛を含め魔物を討伐していった。
「<ペラ>4体の撃破。ご苦労だった。」
マルギットが寛人の肩を叩き褒め称えた。
安心した二人はその場に座り込んだ。
「もうすぐ今日の戦いが終わる。<ペラ>が所有していた宝飾品は君たちが持って帰ればよい。
倒した者が倒した敵の戦利品を手にするのは、我が軍の鉄則だ。
売るなりなんなりすればよい。きっと君たちの役に立つ。」
そう言ってマルギットと兵士たちは前進していった。
寛人と聖也は倒した<ペラ>の元に戻り、宝飾品を集めポケットにしまった。
そうしているうちに角笛が鳴った。戦の終わりのようだ。
日が暮れてから始まった戦いは、朝日が出る直前まで続き、
段々と昇る太陽の日差しは、やがて森林の中も照らしていった。
さっきまでの戦いが嘘かのように、神秘的で美しい森がそこにあった。
二人がその光景に見惚れていると前進していた王国軍が戻ってきた。
「お前たちまだいたのか。生き残った者は砦に戻れば報酬が受け取れる。
気が済んだら砦に戻ればいい。」
兵士たちはそう言うとどんどん砦へ戻っていった。
「俺たちも戻るか。」
「そうだな」
二人も砦に向かい、討伐報酬を受け取った。
兵士が言うには王国軍の損害は全体の1割にも満たないらしく、
序盤の戦いとしてはまずまずらしい。
兵士たちの話を聞いていると、聖也が遠征前に食事中に話した兵士を見つけ近づいた。
相手も聖也に気づいたようだ。
「おっ、昨日の<ウィザラー>じゃないか。どうした。」
「すみません。昨日の話に出た歴史書って、どこで手に入りますか。
気になったので読んでみたくて。」
「あぁそれなら近くの街の本屋に行けば簡単に手に入る。」
「ありがとうございます。」
「いいってことよ。それじゃまた今夜の戦場で。」
兵士は手を振りながらそのまま街の方へ帰っていった。
「俺たちも洞窟に戻るか。」
「あぁそうしよう」
二人は洞窟へ転移した。
〔寛人RP12〕
〔聖也RP17〕




