41 12日目:突破の始まり
41 12日目:突破の始まり
―<ブランフ街>正門前の寛人たち―
「寛人、来たぞ。こっちの状況は。」
「翔太か。かなり手強いが、なんとかコアを4つ破壊した。」
聖也の元を離れた翔太が、C班に合流した。
C班の相手は刀の騎士で、寛人の言う通り、両足首と左肩と右膝のコアを破壊していた。
「これで全員が揃った。作戦は特にないが、何とか隙を作って…。」
「寛人、あれが来る!」
晴花の叫びを聞いて刀の騎士を見ると、騎士は両腕を右斜め上に構えると、勢いよく振り下ろした。
すると、寛人の様な斬撃が一直線に飛んできたので、翔太と寛人は慌てて回避した。
「翔太、さっきの攻撃だけは気を付けろ。コアを4つ破壊してから使うようになった。
あれは俺のスキルより飛距離はないが、威力は同等だから、食らうと一溜りもない。
今までも何人もやられた。」
「お前のスキルと同じ威力かよ。それはヤバいな。」
翔太は寛人の話を聞いてぞくっとした。
寛人と同じであるならば、その威力は想像が容易かったからだ。
だがあの技も連発できるようなものではなかった。
技を放った後、刀の騎士は動きが止まり、腕をだらんとさせていた。
「今行けばやれるんじゃないか。」
「そう思って何度か仕掛けたが、半分は返り討ちにあった。」
一見すると隙だらけのようだが、近づく者に反応し、攻撃を仕掛けてくるようだった。
それでもさっきの斬撃が次に飛んでくるまでの時間があるため、攻め時は今だった。
「翔太は援護を頼む、みんな行くぞ!」
寛人の掛け声で、近距離メンバーは刀の騎士へ近づいた。
刀の間合いに入ると、みんなは慎重になり、まずは将文がじわじわと近づいて行き、攻撃を誘いだしつつ、重力の付与を試みていた。
刀の騎士まであと1メートルのところで、騎士は左手で将文に斬りかかった。
その隙に寛人は飛び掛かったものの、それは右手で防がれたが、それでも両手を塞ぐことができた。
「楽間さん、今だ。」
将文が合図を出すとスキルで力を強化した菫は、まずは右肩のコアを破壊し、そのあとガラガラのボディを狙って、騎士を上へ打ち上げた。
それに追い打ちをかけるように、寛人は左膝のコアを斬撃で狙った。
騎士は刀で防ごうとしたが、斬撃の威力が勝り、コアごと左足を切り落とした。
「これで後は腕か。」
騎士が地面に着くころには、切り落とした左足はすでに再生していた。
だが、将文のスキルを2重で付与していたので、流石に騎士の動きは鈍くなっていた。
寛人は続けざまに攻撃を仕掛けに行くと、刀の騎士は刀をカチャカチャと鳴らし、合図の様なものを出した。
それに呼応するように他の騎士も武器を鳴らし始めると、4体は高く飛び、1つの塊になった。
「どうしたんだいきなり。」
「なんか気味が悪い。」
うねうねと脈を打つ塊は晴花の言う通りとても気味が悪かった。
メンバーは一か所に集まって、その様子を眺めていると、塊から足や腕が生えてきた。
それは次第にケンタウロスの様な姿に変わり、最終的には腕は8本になって、それぞれの騎士が持っていた武器を構えていた。
「合体しちゃったよ。」
「4体相手するよりは楽だろ。」
「そんな単純ではないだろ。」
「いづれ分かる。」
リーダー四人で話していると、ケンタウロスは距離を取り、遠距離から矢を乱れ打ちしてきた。
盾部隊で壁を作り、弓部隊が応戦したが、こちらの攻撃は軽く躱された。
「コアの位置が変わってる。今は、人体の中央とそれと下半身に2個ある。」
美郷が改めてスキャンすると、コアの配置も数も変わっていた。
だが数が減っていたので、それは素直にラッキーだと感じていた。
「聖也このまま弓で攻撃を続けてくれ、何名かで奴に近づく。」
「こっちは任せろ。」
寛人は遠距離攻撃ではダメージを与えるのが難しそうだったので、何名かで接近して攻撃を仕掛けることにした。
「彰、秀吉、竜輝、省吾、近づいて攻撃するぞ。」
「分かった。」
「私たちはどうすればいい?」
寛人が近づくメンバーに声を掛けると、晴花が残りのメンバーはどうするのかを尋ねた。
「合図を出したら、他の近距離メンバーも来てくれ。」
「分かった。」
五人は盾を飛び越えて、ばらけてケンタウロスに近づいて行った。
ケンタウロスは五人に狙いを絞ってきたが、後方からの矢の支援で難なく残り数メートルの所まで近づいた。
だが、ケンタウロスは距離を保つように走って逃げていった。
その速さは馬並みだったので、人間の足で追いつくものではなかった。
「逃げんじゃねーよ!」
「キレても仕方ない。」
「でもどうする、あの速さには追い付けないぞ。」
竜輝はキレていたが、他のメンバーは冷静にどうやって近づくかを考えた。
「ここはまずい。いい的になる。」
距離を取ったケンタウロスはすかさず五人に狙いを定めてきた。
背中を見せると射抜かれそうだったので、前を向いたまま、ゆっくりと下がっていった。
漸くみんなのもとに辿り着くと、再び盾の後ろに身を隠した。
「で、どうやって近づくんだ。」
「走っても追いつかないから、罠でも張るか。」
「罠っていっても、そんなものに引っかかるとは思わないが。」
寛人と彰と竜輝はどうやってケンタウロスに近づくのかを話し合っていた。
ケンタウロスはこちらの様子を窺っているようだった。
「もう四方から囲って、追い込むしかない。」
「そもそもどうやって囲むんだ。それこそ逃げられるだろ。」
「翔太のスキルを使えば、あるいは。」
寛人はすぐに翔太に近づいて、作戦の相談をした。
「翔太のスキルでは最大何人まで移動させることができる?」
「やったことはないが、俺に触れているなら何人でもいけるかも。」
「試してみるか。俺が合図を出したら魔物を取り囲むように瞬間移動してくれ。
最終的には四方から囲むようにしたい。」
「了解。でも矢は1本ずつしか出せないから、1回しか回れないぜ。」
寛人は全員に同じように伝えた。
だが、翔太が何名一緒に連れて行けるか分からなかったので、B班以外のリーダーと弓と盾の計9名で最初に移動することにし、先行メンバーがケンタウロスを引き付けている間に、他のメンバーは移動するように指示した。
すぐさま移動するメンバーは翔太の近くに行った。
「みんな掴まったか。…翔太頼んだ。」
「はいよ。」
翔太は時計回りに瞬間移動を始めた。
最初の地点で彰と美郷と純を降ろした。
次は竜輝と巧太と実久を降ろし、最後に寛人と翔太と将文が位置につき、ケンタウロスを囲った。
到着してすぐに弓部隊は攻撃を開始し、聖也を除くリーダーと聖也の所から省吾がケンタウロスに突っ込んでいった。
「どうやら的を絞れずに戸惑っているみたいだ。」
寛人の眼からはケンタウロスがどこを攻撃しようか迷っているように見えた。
やがて、竜輝の方へ向かって突進していった。
「こっちへ来たか。返り討ちにしてやる。」
「竜輝、合流するまで無茶はするなよ。」
寛人たちはそれを追って竜輝の方へ向かった。
巧太は寛人と彰と竜輝のコピーを出現させ、竜輝とコピー三人でケンタウロスと戦闘を開始した。
だが四人だと二刀流の分、ケンタウロスの方が手数が多いため、凌ぐのがやっとであった。
漸く寛人と彰と省吾も追いつき、七人体制での反撃が始まった。
「なんとか中央まで押していくぞ。」
七人でもお互いに致命傷を与えることは出来なかったので、寛人は中央までケンタウロスを押し戻し、なるべく包囲網から逃げられないようにすることにした。
その間に聖也の近くにいた他のメンバーは、最初の指示通りにそれぞれの地点に移動していった。
「他のメンバーの移動は完了したみたいだ。」
「中央に飛ばせばいいんだろ。俺に任せろ。」
寛人がみんなの移動完了を確認すると、竜輝はスキルで人体部分を強打した。
攻撃は盾で軽減されたが、それでもケンタウロスの体は軽く浮き、中央まで戻っていった。
そのタイミングで後ろから大輔がスキルでケンタウロスを掴んだ。
だが、それはすぐに破壊されたが、その後ろから出てきた楓が、スキルで動きを止めた。
「琉堂、合図を出したら盾を落としてくれ!」
寛人は楓に指示を出すと、人体にあるコアに対して斬撃を放ち、更にケンタウロスに近づいて行った。
その後に竜輝と彰と省吾、更にコピー三人も続いて行き、下半身のコアを目指した。
寛人の斬撃が楓のスキル圏内に入ってから寛人は楓に指示を出した。
楓は指示通り盾を落とすとケンタウロスは刀で斬撃を抑えたが、その刀は折れて人体のコアを破壊した。
更にケンタウロスに近づいて行った七人は下半身のコアを狙ったが、ケンタウロスが振り回した鎌に吹き飛ばされた。
「凄い力だな。」
「そう簡単には取れないか。」
「琉堂、上だ!」
ケンタウロスが刀で楓を斬りつけようとしていたのを寛人が気付いたが、寛人では手が届く位置ではなかった。
だが灰島の蔦が間に合い、その手を絡めとった。
その隙に楓は撃ち落とした盾を取って、ケンタウロスと距離を取った。
ケンタウロスは蔦を引き千切ると鎌を回し始めた。
するとケンタウロスを中心に竜巻が発生した。
「何だこの風、吸い寄せられる。」
「耐えろ、あの竜巻は絶対に危険だ。」
近くにいた七人はズルズルと竜巻に引き寄せられていった。
聖也はそれを止めようと、下半身のコアに向けてスキルを放ったが、敵の矢で威力を削がれ、竜巻で完全に相殺された。
「聖也のスキルが吸収された。」
「もう持たねーぞ。」
「あの鎌を止めないと…。」
寛人は自分の目の前に<Rボール>を投げると、出現したブロックで何とか耐えた。
他のメンバーもそれをまねて目の前にブロックを出現させた。
だが、道具を持っていないコピーはそのまま竜巻に引き込まれていき、遂には飲み込まれてしまった。
飲み込まれたコピーはそのまま竜巻に乗って上昇し、抵抗できないまま地面に叩きつけられていた。
その間もケンタウロスは弓で無作為に攻撃をしていた。
それは竜巻に巻き込まれるように軌道が変わるため、その軌道を読むことができずにガードが難しくなっていた。
「このままだとジリ貧だぞ。」
「でもあれどうやって止めんだよ。」
「誰か俺の体を支えてくれ、スキルで鎌を狙うが、次のスキルで体力が尽きる。
失敗したら栄養食を食べる前に竜巻に巻き込まれてしまう。」
「分かった。俺がやる。」
省吾が寛人に近づき、寛人の体を支えた。
その状態で必死に体勢を崩さないように踏ん張り、寛人は集中して鎌を回す2本の腕を狙った。
斬撃を放った瞬間、寛人の全体重は省吾の腕にかかったが、省吾は竜巻に巻き込まれないように必死に耐えた。
寛人が放った斬撃は見事鎌を振り回す腕を切り落とした。
「彰、やつの胴体を凍らせてくれ、そこを狙う。」
「分かった。」
竜輝に言われて、彰はケンタウロスの下半身をスキルで凍らせた。
その部分を竜輝はスキルで爆発させ、見事コアを破壊した。
更に残りのコアを攻撃しようとしたが、ケンタウロスは飛び跳ねて暴れ回ったため、再び近づけなくなった。
「奴はどうなった。」
「どうもこうも狂ったように暴れてる。」
省吾に栄養食を食べさせてもらい復活した寛人が状況を聞くと、竜輝は呆れたように答えた。
暴れていたケンタウロスは落ち着くと、手そのものを鎌に変形させていた。
すぐに竜輝たちを襲ってきたので、近くにいた四人は必死でその攻撃を凌いだ。
「手が足りない、誰か援護を頼む!」
寛人がそう叫ぶと、近距離組が一気に集まり、ケンタウロスを円で囲むように陣をとった。
ケンタウロスは狂ったようにグルグル回りながら鎌を振り回していった。
パワーは寛人と互角以上だったため、ほとんどは武器を弾かれて、反撃に転じれなかった。
「灰島先生、蔦を二重にして絡めてください。」
「言う通りにしよう。」
彰に言われて、灰島は2回スキルを使って、ケンタウロスを頑丈に絡みつけたが、それもすぐに引き千切る勢いだった。
だが、さらに彰がその蔦ごと凍らせると、ケンタウロスの右半分はびくともしなくなった。
その状態から菫がパワーを強化して背の部分を強打すると、ケンタウロスの全体の骨が砕ける音がした。
へたったケンタウロスに残りのメンバーが飛びつくように剣や槍を刺したが、それでもコアには届かなかった。
「もう十分だ。俺に任せろ。」
寛人が最後の力を振り絞り、ケンタウロスのでん部を串刺しにすると、その剣はコアごと貫いていった。
漸く西門の門番を倒すことができた。