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グレースネヘス  作者: たつG
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40 12日目:包囲網の始まり

40 『12日目:包囲網の始まり』


王国軍は前線基地を<ナンベグ荒野>の中央まで進めていた。

基地の周りは岩山で囲まれており、その高さに合わせた見張り台も設置し、防衛機能は十分に整っていた。


「たった一日で、あんなのどうやって準備するんだ。」

「完成品を運んできたんだろう。」


前線基地の四方に設置された見張り台を見て、聖也と寛人はそんなことを話していた。

ここ数日は戦線が上がる度に基地を移動していたため、軍の兵士たちも疲れが溜まっているように見えた。


「軍の士気はやばそうだな。」

「ここ2,3日の戦いで、4割近くの被害が出てるし、戦いの後の移動疲れもあるのだろうな。」


<ウィザラー>たちは進むにつれて順々に力が付いて来ていたので、あまり雑魚戦では苦労を感じるようなことはなかったが、確実に雑魚も戦闘力が上がってきているため、一般の兵士たちは1対1では五分以下となっていた。

そのため、日に日に戦死者や負傷者は数を増やしていき、街まで運べないものは<ケイローン橋>手前の基地に収容されていた。

ここまで英雄や隊長たちが鼓舞して何とかやって来たが、それも限界に近づいていた。


「何もたもたしてんだ。会議に行くぞ。」

「分かってる。」


軍の状況を観察しながらゆっくりと進んでいた寛人と聖也にイラついた竜輝が、二人を急かした。

二人は仕方なく会議室に急いだ。

会議室は基地の中央に設置されており、入り口の手前でロベルトが待ち構えていた。

ロベルトは寛人を見つけると近づいてきた。


「どうしましたか。第18部隊との接触は禁止されてるのでは。」

「お前たちの行動はほとんど筒抜けだ。もっと慎重にするべきだったな。」


近づいてきたロベルトに寛人が話しかけると、ロベルトは残念そうな表情で告げると、テントの中へ入っていった。

それの聞いた四人は表情が固まった。


「昨日のことがバレてたのか?」

「どうすんだ寛人。」

「どうするって、今更逃げるわけにも。」

「なんか罰でもあるのか。」

「鉱山から資源を採っただけだぞ。」

「ほとんどって言っていた。どこまでバレているのかは分からない。」

「質問は俺が全て答える。みんな一言もしゃべんなよ。」

「分かった。」


四人はテントの影でコソコソと相談をし、恐る恐る中に入っていった。

中に入ると全員がこちらを見ていたが、四人には罪人をとがめるような視線に感じ、いつも以上に緊張が走った。


「よく来たね。<ウィザラー>諸君。今日は欠員無しなんだね。」

「お陰様で。昨日はお世話になりました。」


入って早々にアンドリューが声を掛けてきた。

寛人は多少ぎこちなく、昨日の救援についての感謝を述べた。


「全員揃ったようだな。それでは本日の作戦会議を始める。」


昨日のことについての話はなく、自然に作戦会議が始まったので、四人は安堵した。

マーティンは作戦をつらつらと告げていった。

<ナンベグ荒野>を抜けるとすぐ魔王城の城下町になる<ブランフ街>がある。

街には東西南北に4つの門があるので、それぞれの門から英雄3部隊と<ウィザラー>で攻める作戦であった。

その中で<ウィザラー>は一番奥の西の門からの進行となった。

街の中には各区画に1つの封印石があるため、その破壊が目標となった。


「作戦は以上だ。」


マーティンの号令で一同解散となった。


「<ウィザラー>諸君。少しだけいいかな。」


立ち去ろうとした四人をアンドリューが引き留めた。

4人は心臓がバクバクとした。


「…何でしょうか。」


そんな状況で寛人は深呼吸して返事をした。


「昨夜、戦いの前に荒野を北上して行く人影を見た者がいる。

君たちは何か知らないか。」

「(人影と言っているが、俺たちの誰かだと確信しているはずだ。)

うちのメンバーの数人が岩山がどこまで続くのか偵察してました。」

「偵察してどうだったのだ。」

「どうって、何もなかったので、その後は戻ってきました。」


寛人はあまり動揺を気取られないように、アンドリューの眼を見つめて話した。


「そうか。それなら聖域が荒らされていたことについては知らないのだな。」

「…聖域とは。」

「荒野の北側に王国の聖域がある。何者かがそこに侵入していたらしい。

君たちは何も知らないのだね。」

「私たちには何のことかは…。」


竜輝は聖域について寛人たちには話していなかったため、寛人は本当に知らなかったが、何となく想像は出来た。


「そうか。君たちも知らないか。

もしこれが軍の人間の仕業であれば、それなりの処罰が必要となる。

…話は以上だから、もう行っていいよ。」


アンドリューに退室を促されたので、四人は外に出ようとした。


「そう言えば、君たちの装備また新しくなったね。」

「昨日の戦いで手に入れた宝飾品で…。」

「そうなのか。どれも稀少な鉱石でできているように見えるから、羨ましいよ。」

「…すみません。私たちはこれで。」


部屋を出るところで装備について言われたため、四人はかなり動揺した。

まさか装備品で<ペテルス鉱山>への侵入がバレるとは思ってはいないが、恐ろしくなって四人は逃げるように部屋から出ていった。


「俺たちが鉱山から鉱石を持ち出したのバレたか?」

「バレてたら無事には帰してくれなかっただろう。」

「まだ向こうも確信が持ててないのかも。」

「戦いもあと2,3日で決着すると思う。それまでは大人しくしよう。」


四人は急いでメンバーの元に戻ると作戦の内容と、王国軍が自分たちの行動に感づいていることを告げた。


「戦いも終盤に来てる。このまま向こうが仕掛けてくるまでは、俺たちは大人しく作戦通りに任務をこなす。」

「もし仕掛けてきたら。」

「もしそうなったら、すぐに洞窟に逃げ込もう。人同士の争いはしたくない。」


寛人の意見にみんなは大きくうなずいた。

それからすぐに城下町の西門を目指して馬を走らせた。

荒野の中央を抜けると目の前は街なのだが、街は結界内にあるためまだ全容は見えなかった。

とりあえず結界の縁に沿って、西を目指していった。

地図上ではある程度の位置が分かっていたので、数十分移動して、西の門があると思われる場所まで到達すると、開戦まで待機をした。


「思ってたより街は広そうだな。」

「城が丸々1つあるんだから、Dランドぐらいはあるだろ。」

「それぐらいのアトラクションであれば、きっと楽しい旅行なんだけどな。」


寛人と聖也が冗談を言い合っていると次第に<ラテラ>の日が昇ってきた。

待機場所は西の門の真正面だった。

街は高さ10メートル以上の壁に囲まれていて、街の中は全くうかがえなかった。

だが、その奥にはかなり高い城が頭を見せていた。


「あれが魔王城なのか。」

「すげーきれいだな。魔王がいるとは思えない。」

「普段はどっかの領主が使ってんだろう。」


見事な城を見ながら二人で話していたが、門の内側から魔物があふれ出てきた。


「みんな、とりあえず門を確保するぞ。パターンYでいく。」


寛人の号令と共にみんな一斉に門へ向かった。

門の前は攻撃が激しく、上からも中からも容赦ない攻撃がみんなに浴びせられた。

弓部隊は後ろから門の上にいる魔物を狙っていった。

盾部隊は相手の体制を崩しながら前進していき、近距離部隊でとどめを刺していった。


「今だ門の中に<Mボール>を投げ込め。」


門まである程度近づくと、寛人は近距離部隊に<Mボール>の使用を指示した。

近距離部隊は一斉に<Mボール>を門の中に投げ込んだ。

数秒もすると中からの攻撃は落ち着いてきたため、その隙に一気に門に近づいて行った。

門まであと数メートルの所で中からすごいスピードで矢が飛んできた。

寛人はそれを何とか剣で防ぐと、前進していた近距離組は足を止めた。


「今の攻撃は。」

「あぁ、今までの中でもかなり強力だった。」


門をジッと見つめていると3体の魔物が現れた。

それは首のない騎士で、それぞれ弓と盾と刀を持っていた。

しかも刀持ちはは二刀流だった。


「ヤバそうな敵だな。」

「かなり強そうだね。」


彰と秀吉は見た目でその強さが伝わっていた。

みんなも同様に今までの敵とは次元が違うことを感じ取った。

そうこうしていると弓の騎士は矢を構えて再び寛人を狙ってきた。

騎士が放つと同時に後ろから聖也がその矢を狙て放った。

矢は寛人の目の前でぶつかり相殺した。


「矢は俺たちに任せろ。みんなは刀と盾を頼んだ。」

「分かった。お前たちを信じてる。」


聖也が後ろから矢の騎士を任せろと伝えたので、寛人たちは二手に分かれて刀と盾の撃破に専念することにした。

弓は相変わらず近距離組を狙っていたが、弓部隊をそれを阻止していった。

更に本体へと攻撃をして行ったが、本体への攻撃はほとんど貫通することなくコアにも全く届いていなかった。


「弓使いのくせになんて硬いんだ。」

「コアも凄い数だよ。手に肩に膝にくるぶしに…。」


騎士の硬さに聖也が嘆いていると、コアのスキャンが終わった美郷が話しかけた。

美郷の言う通り、体の大きさは自分たちと変わらないが、コアの多さは今までの敵の中で最多だった。

そんな中、本体を狙われた弓の騎士は、ターゲットを弓部隊に変えてきた。

初めは1本だった矢も2本3本と増えていき、最終的には5本の矢が一斉に飛んできた。

流石にすべての矢をみんなと息を合わせて落とすことができなかったので、矢を避けながら、落とせるものを落とし、基本的には本体を狙う作戦に変えていった。


「巧太、俺たちの火力では奴のコアを壊せない。

寛人を出してくれ。」

「分かった。」


聖也は巧太に寛人のコピーを出すように指示した。

巧太はすぐに寛人のコピーを出現させると、弓の騎士への攻撃を開始した。

だが、近距離の5本の矢を寛人のコピーは躱しきれずに足を負傷してしまった。


「マジか。寛人があっさりと…。」


聖也たちは動揺したが、寛人のコピーが直ぐに体勢を立て直したので、弓部隊でコピーの攻撃を援護するように弓の騎士を狙っていった。

その後も攻防が続き、何とか寛人のコピーが右ひざとくるぶしのコアを破壊したが、胸を貫かれ、時間よりも前にコピーは消滅していった。


「咲田くんの力で漸くコア2つか…。」

「とりあえず俺のスキルで4つ潰す。」


巧太は寛人の力をもってしてもコアを2つしか破壊できなかったことに衝撃を受けていた。

聖也は士気を落とさないために、自分のスキルでコアを潰していくことを伝えると、スキルで狙い打ちしていった。

初めの2本は順調に騎士の左足のコア2つを破壊したが、その段階で、弓の騎士は青白い矢を構えるようになった。

聖也は気にせず3本目のスキルで左肩を狙ったが、その矢は騎士の青白い矢で撃ち落とされた。


「俺のスキルと同等の威力かよ…。」


聖也は自分の矢が撃ち落とされたことにショックを受けた。

そんな中でも弓の騎士は容赦なく進化した矢で攻撃を続けてきたが、幸い矢は1本ずつしか打てないようだった。

それでもその矢を打ち落とせるのは聖也のスキルのみだったため、聖也たちが不利な状況であることには変わりはなかった。


「俺たちだけでは難しいぞ。」

「そうだろうと思った。」

「省吾。」


聖也の後ろから省吾が現れた。


「剣と盾はどうしたんだ?」

「もう1体、鎌を持った奴が現れて、作戦が変わった。

弓はB班で受け持つことになったから、他のメンバーは自分たちの班に戻ってくれ。」


他のB班メンバーも集まっていた。

省吾の指示通り、美郷・翔太・巧太は、自分たちのチームのもとへ行った。


「俺たちもさっさと首なしを倒すぞ。」

「あぁ、俺がリーダーだけどな。」


弓の騎士との第2ラウンドが始まった。

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