04 1日目:戦いの始まり
04 『1日目:戦いの始まり』
洞窟を出る前に中島と伊丹の様子を菊池が確認したが、
中島は依然体調が芳しくなく、伊丹は中島の看病で残りますと告げた。
一同は、洞窟から一旦街へ転移し、そこから更に北西に向かって進んだ。
街から砦までの道は整備されており、迷うことも魔物に出くわすこともなく、
30分ほどで目的の<オベルウィンク砦>にたどり着いた。
砦について早々、灰島は近くにいた兵士に<ウィザの洞窟>から来た義勇兵だと伝えた。
それを聞いた兵士は第17番隊のところへ一同を案内した。
「君たちが例の<ウィザラー>ですか。私は第17番隊隊長のマルギットです。
出陣の前にまずは説明を行いますので、食事の後テント前に集合するように。」
マルギットと名乗る男性は、部下たちに食事の準備をさせ、テントの中に消えていった。
久しぶりのまともなご飯に一同喜んだ。
食事中他の兵士も一緒だったので、聖也は兵士たちに話を聞いた。
「すいません。<ウィザラー>って何ですか?」
「あぁ、<ウィザの洞窟>から来た義勇兵をこの辺りではそう呼んでいる。」
「昔から魔王討伐戦になるとどこからともなく現れて、
<ウィザの洞窟>を拠点に義勇兵として参加しているそうな。」
「俺たち以外にも<ウィザラー>はいたんですか!?」
「いたと言っても、魔王討伐戦は次の魔王が現れるまで数十年は空くから、
見るのはお前たちが初めてだ。」
「だが歴史書によると、前回は50人ぐらいいたらしい。」
「(前回はそんなにもいたのか。でも明らかに部屋数も残っていたベッドの数も足りないが。)
数十年空いたってことは、前回は魔王討伐が上手くいったんですね。」
「あぁ、魔王は討伐できたが…、最後まで生き残った<ウィザラー>は5人だけだったらしい。」
最後は聖也にだけ聞こえるように小声で伝えた。
それを聞いた聖也は顔色が変わった。
「まぁ英雄様が3人もいるし、王国軍もそこまであんたらを頼りにしてはいないから、
そう気張んなくてもいいさ。」
そう言って他の兵士は食事が終わると、そそくさと準備に戻った。
「(50人中5人ってことは今回は…)」
「聖也、どうした。顔色悪いぞ。」
食事が止まっていた聖也に気づいた寛人が声を掛けた。
「いやっ、何でもない。考え事をしていた。
(前回はまともに機能を理解できた奴がいなかっただけだろう。
今回は純のおかげで大体の機能を把握したし、十分準備もしてきたから問題ないはずだ。)」
「そうか。ならいいが。」
寛人はそれでも気にはなったが、こんな時の聖也は押しても話さないこと分かっていたから、
この場は一旦あきらめた。
「いつまで話をしている。準備をしてテント前に集合すること。」
翻訳機能は使っていなくても、怒られていることは分かった。
「今は彼の指示に従うしかあるまい。」
灰島は冷静に判断し、生徒たちへの戒めも込めて口にした。
生徒たちはしぶしぶ準備に取り掛かり、あの隊長むかつくと口々に小声で文句を言った。
テント前に行くと他の兵士はすでに隊列しており、
一同が並ぶとすぐに説明が始まった。
「今日は<フェルベル丘>を越え、<ハンデウィーズ森林>で奴らを迎え撃つ。
<ハンデウィーズ森林>では1~6番隊が北東から敵を囲い込み、
我が17番隊は13~16,18番隊とともに南東から敵を囲い込む。
7~12番隊は<フェルベル丘>での残党狩りと、砦周辺の警護を担当する。
敵はまだ小手調べとして雑魚しかよこさないが、気を抜かず必ず勝利すること!以上だ。」
「ウィー!」
隊長の言葉に王国軍は結束を固め、士気を高めた。
「それと今日から我が隊に<ウィザラー>が合流した。
彼らはこの戦争について何も知らないだろうから、出発までに基礎を教えてやれ。」
「はっ」
マルギットに指示され、隊長の側近であろう人物が説明を始めた。
「コホン。まず魔王軍だがやつらは<シアタ>の日の下では活動することができない。
そのため戦いはいつも日が沈んでから次の日が現れるまでと決まっている。
時間は決まってはいるが、その間奴らの猛攻は止むことなない。
それとやつらには我々の心臓に当たるコアが必ず存在する。
コアを破壊するまで襲い続けてくるので、必ずコアの破壊を確認すること。
あと王国軍には3名の英雄様が此度の戦争に参加されており、
アンドリュー様は1~6番隊、アレクサンドラ様が7~12番隊、ブライト様が13~18番隊を統括している。
3名とも各大隊の前線で戦われるので、お前たちが目にすることはないだろう。
最後に第18番隊についてだが、そこは隠密を兼ね特別な訓練を受けた特殊部隊なので、
基本我々とは別の指令で行動をしているため、消して近づかないように。
私からは以上だ。解散!」
長い説明が終わり少し休憩をはさむと、すぐに移動が始まった。
義勇兵はまとめて隊列の後方に配置され、その後ろには見張り役として数名王国軍が配置されていた。
各隊は各々の配置に向けバラバラに進行したが、それでも一つの隊で1000名は超えるので、
先頭が見えないほど長い行列となった。
砦から30分歩いたところで、<フェルベル丘>に到着した。
<フェルベル丘>は草木も少なく、地面がむき出しとなっている箇所が多かった。
「だりぃ。まだ着かねぇのかよ。」
「しっ、渡瀬さん聞こえちゃうよ。」
愚痴をこぼす実久に楓が注意を促した。
適性のおかげで武器類は見た目より軽く感じているが、
それでも洞窟からだとかなりの長旅となっているので、
疲労を感じている生徒も少なくなかった。
「純くん、何か探してるの。」
頻りに周辺を見回す純に巧太が質問した。
巧太は美術部の色白で気弱な青年であり、巧太と仲がいい。
「新しい素材がないか、周りを一通り写してるんだ。」
「徹底的にゲーム志向なんだね。」
巧太は純に笑いかけ、純は気にせず撮影を続けた。
丘到着から更に40分歩き続け、漸く目的の<ハンデウィーズ森林>に到着した。
森林に着くと何人かの生徒は地面にへたり込んだ。
すぐさま隊長が声を荒げた。
「お前たち気を抜くな!ここからはいつ魔物が現れてもおかしくない!
気を引き締めろ!」
へたり込んだ生徒たちはいやいや重い腰を上げた。
森の中はシーンとしており、虫一匹も鳴いていなかった。
静寂が数分続いたのち、前方から兵士が駆け寄ってきた。
どうやら伝令兵のようである。
「マルギット隊長殿、ただいま第16番隊が魔物との戦闘を開始しました。」
「そうか。隣か…。よく聞け!たった今16番隊が戦闘を開始した。
我々は北西の方向へ敵を包囲しながら進軍する。全員続け!」
「ウィー!」
隊長の号令に王国軍一同雄たけびを上げ、隊は再び進行を始めた。
間もなくして、別隊が魔物と戦っている戦場に合流した。
そこでは仮面を被った幽霊と手足の数がバラバラなゾンビが暴れており、
地面にはやられた兵士の死体が転がっていた。
「<ヴィーゴ>と<レンプス>か。また厄介な奴らだ。
みな<ペラ>を探し出し優先的に排除しろ!まだこの近くにいるはずだ!」
マルギットが叫んだが、異様な怪物と死体を目の当たりにした生徒たちの多くは、
怖気づき、涙目で震えていた。
そんな中でも運動自慢の男子たち数名は何とか必死に恐怖と戦っていた。
「やはりこの選択は間違っていた。みんな安全な場所まで走って逃げろ!」
灰島は生徒たちに向けてそう叫んだ。
その瞬間、背後を魔物に切り付けられた。
灰島は血を吐き倒れ、やがて息絶えた後は光の粒となって消えた。
その状況を見ていた生徒たちは叫びながら、蜘蛛の子を散らしたようにバラバラに逃げていった。
「<ウィザラー>のやつら逃げましたが、隊長どうしますか。」
「捨て置け。やつらは元々頭数に数えていない。」
逃げていった生徒たちも魔物に追い詰められ、無残にも殺されていった。
中には恐怖に抗いながら武器を構える者もいた。
「寛人どうするんだ、このままだと全滅だぞ。」
「逃げても捕まって殺されるだけだ、抗うしかない。」
寛人と聖也はお互いの背を向けあい、周囲を警戒していた。
近くで彰と秀吉も同様に武器を構えていた。
「咲田くん、助けて!」
魔物に追われた晴花がこちらに向かってきた。
「聖也助けるぞ!」
「助けるったってどうやって。」
「とりあえずお前の弓をあいつに当てて、注意を引いてくれ!
俺がこの剣でとどめを刺す!」
「…ふぅ、分かった。失敗しても恨むなよ。」
「当然だ。」
そう言って寛人は晴花の方へ駆け寄った。
聖也が弓を引くと、白い気を纏った矢が具現化され、それを魔物に向けて放った。
矢は仮面を破壊し、仮面の下にあったコアらしきものがむき出しになった。
寛人はそこをめがけて剣を振り下ろしたが、破壊までには至らなかった。
その隙に魔物は晴花を切り裂いた。
「篠宮っ!」
「さ、ぎ、だ、ぐ…」
晴花はすぐに息絶え消えていった。
「うぉー!」
寛人は魔物の追撃をかわし、二撃目でコアを破壊した。
「くそっ、救えなかった…。」
「寛人、立てまだ終わっていない!それにみんなまだRPがあるから消滅してはいない。」
「それでも…。」
寛人が後悔で膝をついている後方で、彰たちが魔物と戦闘していた。
しかし秀吉がやられると彰もあっさりと倒れていった。
「彰たちもやられた。寛人立て、まず隊に合流するぞ!」
「(ぱしっ)分かった。追いつくぞ。」
寛人は頬を叩き気合を入れなおした。
隊とはすでに200メートル近く離れており、二人はダッシュで駆け寄った。
隊の後ろが見え出したところで、ゾンビが2体現れた。
「寛人、やるぞ。」
「あぁ。でもこいつらはコアの位置が分からねぇ。」
「とりあえず顔や手足を狙って矢を打ち続けるから、お前も手数で攻めろ。」
「分かった。」
寛人はゾンビに向かって走り出し、聖也は援護するようにゾンビを射続けた。
寛人は先ほどの仮面幽霊と同じように顔面を切りつけたが効果はなかった。
続けて胸、鳩尾、腹部を突いていったが、こちらも効果はなかった。
「くそっ、コアはどこにあるんだ。」
最後に袈裟斬りで斬りかかったところ、右肩の部分にコアがあり、
漸く一体目を倒すことができた。
「よしっ、一体倒したぞ。次は!」
聖也の方を振り返ると、聖也は2体目のゾンビに襲われていた。
「寛人…助け…」
「聖也!」
寛人は再びゾンビに向かって走り寄り、コアを切りつけた。
だが、時は遅く聖也はすでに息絶え、消えかかっていた。
「聖也…すまん…」
聖也の亡骸に抱きつく寛人は、背後から仮面の幽霊に斬りつけられ、最後はあっけなく倒れた。
寛人は自分の血が流れ出る感覚と、意識が薄まり視界が消えていく感覚を感じながら、
ゆっくりとその場に倒れこんだ。