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グレースネヘス  作者: たつG
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39 12日目:嫌疑の始まり

39 『12日目:嫌疑の始まり』


―<ケイローン橋>砦のマーティンたち―


寛人たちが洞窟に戻った後、いつも通り参謀・英雄・隊長で集まって戦況報告を行っていた。


「新たに現れた4体の<イーボ>はそれぞれの隊で倒すことは出来た。

そして、荒野中央の封印石も破壊することができた。

しかし、今回もまた未知の強敵を1体倒し損ねてしまった。」


アンドリューの報告通り、今回各ルートの先には書物に載っていなかった<イーボ>が待ち構えていたが、それらすべてを打倒することは出来た。

その後はアンドリューとアレクサンドラで未知の強敵と対峙しながら、なんとか封印石は破壊できたのであった。


「過去にはいなかった敵が出現するようになった。

当初は歴史に基づき対策を取ることは出来たが、今はその場の判断で対応していくしかなくなった。

そのため犠牲も増えてきているが、兵士として最後まで名誉のために戦うように。

会議は以上だ。」


マーティンの締めで報告会議は終わった。

隊長たちを退室させてからは、四人で更に状況の確認を行った。


「ブライト殿、鉱山はどうだったのだ。」


マーティンは<ペテルス鉱山>に向かわせたブライトに、詳細を聞きだした。


「時間がなくほとんど調査は出来なかったが、やはり鉱石はほぼ取り尽くされていた。

もちろん<カグチ輝石>も見つからなかった。

それと妙なことだが、道中も洞窟内も魔物1体も現れなかった。」

「1体もかい?それは妙な話だね。」


ブライトの話を聞いて、アンドリューは不思議に思った。

鉱石は取り尽くしていたとしても、重要な拠点の一つであることには変わりないので、そこに何も待ち構えていないことは怪しかった。


「魔物も荒野の戦いに駆り出されていたんだろう。

それより<カグチ輝石>無しで、どうやって魔王を倒す。」


部屋の隅で空を眺めていたアレクサンドラが口を開いた。


「決戦までは捜索を続けるが、なければ<ウィザラー>に全てを掛けるしかないだろう。

せめて王が前回の戦い後に<ジョヘイン洞窟>に奉納したものが見つかれば…。」

「だが、厄介なものだ。我々は<カグチ輝石>を身に付けなければ、魔王城にすら入れんとはな。」


アンドリューもブライトも<カグチ輝石>の入手はほとんど諦めていた。

四人の報告会も終わり、解散していった。

アレクサンドラが外に出ると、柱の陰から第18番隊の隠密が現れた。


「アレクサンドラ様、お耳に入れたいことが…。」


隠密はアレクサンドラに耳打ちした。


「やはりそうか…。もういい。下がれ。」


話を聞いて少し深刻な趣になったが、そのまま自分の部屋に帰っていった。



―<ウィザラーの洞窟>の寛人―


寛人が目覚めるとまだ朝の8時だった。

いつもは4時に戦いが終わり、そのあと報告会と水浴びなどして寝ていたため、起きるのは12時近くが多く、朝目が覚めたのは久しぶりのことだった。

聖也と将文はまだ熟睡していた。


「もう体も大丈夫だな。」


立って屈伸したり、背伸びをしてみたが、痛みは完全に引いていた。

体温も平穏に戻って、頗る快調な朝だった。

昨日ベッドに運ばれた後に解毒剤を飲まされたのが効いていたようだった。

寛人は部屋を出ると中央部屋には誰もいなかったが、朝の匂いがし、新鮮な気持ちがした。

お湯を沸かし外に出てお茶を飲んでいると楓が洞窟から出てきた。


「咲田くん、目が覚めたんだね。」

「琉堂か。いつもこんなに早いのか?」

「こっちの世界でも目が覚めてしまうので。」


楓は寛人とは背中を向けるように座ってお茶を飲んだ。

楓はどんなつらい戦いの後でも、いつも朝早くに起きていたようだった。


「昨日の戦いがどうなったか知っているか?」


寛人は昨日の鴉戦の結果が気になっていたので、楓に聞いてみた。


「すみません。私も熱で倒れていたので。」

「そうか。」


寛人はお茶を飲むと<スウェイトル湖>で水浴びをし、部屋に戻った。

部屋の中では聖也と将文が目を覚ましており、いつもの日課中だった。


「戻ってきたか。どこ行ってたんだ?」

「水浴びに湖に行ってた。」

「誘えよ。俺も汗でベタベタだって。」


洞窟内は涼しいので汗は掻かないが、聖也も昨日の戦い後に水浴びできなかったので、気持ち悪そうにしていた。


「二人は昨日の鴉がどうなったか知っているのか?」

「俺は最後まで見届けれなかった。」

「僕も見てはないけど、軍に助けられた後、倒したという話は聞いたよ。」


将文は比較的幻覚のダメージが浅かったので、王国軍の介抱で目を覚ますことができていた。

将文の報告を聞き、寛人はほっとした。


「それより僕も二人を部屋に運んでから、すぐに寝たから、水浴びがしたい。」

「しょうがない。もう一回行くか。」

「じゃあ早速行こうぜ。」


三人は部屋から転移で<スウェイトル湖>まで行った。

水浴びは砦でもできるが、なるべく王国軍と関わらないという気持ちが働いたからだ。

湖に着くと、そこには彰と秀吉と竜輝がいた。


「お前たちも来たのか。」


寛人たちに気付いた彰が声を掛けてきた。


「おっ、なんか初めの頃を思い出すな。その時は竜輝はいなかったけど。」


聖也は1日目の準備で五人で<スウェイトル湖>に水汲みに来たことを思い出した。

その頃は竜輝は野球部員と距離を取っていたため、彰たちと行動を共にはしていなかった。


「まぁ、こいつも漸く改心したからな。」

「あんま触るな。」


彰が竜輝の頭をワシワシすると、竜輝はその手から逃れるように離れた。

六人はパンツ一丁になると湖に飛び込んだ。

朝の水はまだ冷たいが、とても気持ちが良かった。


「水の中見てみろ。」

「うまそうな魚だな。」

「勝負するか。」

「望むところだ。」


水中に潜ると魚がたくさん泳いでいたので、それを素手で捕まえる競争が始まった。

部屋同士の3対3に分かれて開始したが、やはり魚は中々素手では捕まらなかった。

30分の格闘の末、彰たちが三人掛でブリサイズの魚を捕まえて決着がついた。

そのあと湖から出てまったり、風に涼んでいた。


「竜輝、稀少石は採れたのか。」


話は昨日の成果についてになり、寛人は竜輝に<ペテルス鉱山>のことを聞いた。


「俺を誰だと思ってる。当然だろ。」

「お前見つかってないよな?」

「それ、お前の彼女には言われたぞ。」


似た者同士のカップルをみんなでいじった。

久しぶりに旅行っぽい感じがしたので、それをみんなで楽しんだ。

昼近くになったので、洞窟に戻ると、さすがに全員起きて活動を始めていた。


「六人でどこに行ってたの?」


戻ってきた六人に千佳が話しかけた。


「水浴び。」

「本当仲いいね。」

「二人ほどじゃないって。」「二人ほどじゃないよ。」


聖也が返すがそのやり取りを見てからの寛人と晴花のいじりがハモった。

そこはすかさず全員からいじられた。

昼食を食べて、竜輝たちが持ち帰った稀少石を見ると、全員分の武器を加工する量は確保できていた。

純はすぐに武器の強化に取り掛かった。


「戦いも終盤って気がしてきたな。」

「あとは王国軍の出方をみるだけだ。」


現在手に入る素材の中で最上級の物を手に入れたので、ゲームでいうクライマックス感があった。

寛人と聖也が気になるのはやはり、いつ裏切り者の英雄が仕掛けてくるかであった。

魔王城までは<ナンベグ荒野>を越えると、後は城下町の<ブランフ街>があるだけだ。

順調にいけばあと2,3日の決着なので、その間までには必ず英雄も仕掛けてくるはずだと予想ができた。

純は武器の強化が終わると全員に完成品を配った。

その姿は人を魅了するくらい美しい見た目であった。


「咲田くん。これを。」

「なんだこれは。」

「漸く万能薬ができたのですが、これ1本しか材料が集まりませんでした。」

「そうか。大事にしないとな。」


寛人は万能薬を受け取ると、右のポーチにしまった。

新しい武器を受け取った男子たちは、その威力を試しに洞窟の外に出た。

想像以上の切れ味と使いやすさにみんな感動した。

その後はいつもの訓練をこなし、少しでもステータスの向上を計った。

寛人は余った時間で聖也と共に街で散歩をしていたら、偶然晴花たちと出くわした。


「奇遇だな。」

「そうだね。」

「ここからは別行動にしますか。」


寛人と晴花が照れ臭そうにやり取りをしていると、聖也がニヤニヤしながら別行動を提案した。

二人は反対したが、晴花と共に来ていた美郷と胡桃も聖也に賛成だったので、聖也たちは二人を置いて、どこかへ行ってしまった。


「あいつら…。」

「二人で出かけるのは久しぶりだね。」

「…そうだな。小学生振りか。」


小さい頃はよく一緒にいた二人は、よく近所の商店街に二人で出かけていた。

この町の露店も当時の雰囲気を思い出させるものがあった。

街にもだいぶ慣れ、<ウィザラー>に気さくに声を掛けてくれる人もいた。


「あの人、肉屋のおじさんに似てるよね。」

「そうだな。昔はよくあそこのメンチを一緒に食べたな。

こういう服屋もなかったか?」

「あぁ、金物屋の隣の服屋だよね。

あそこはおばあちゃんが引退して、もうずっと閉まってるよ。」

「そうだったんだ。最近はコンビニかイオンだったからな。」

「私はちょくちょく親の手伝いで。」


二人は近所の商店街の話に花を咲かせながら、街を探索した。

聖也たちは隠れながら二人を尾行していた。

露店の土産物を見たり、カフェのようなところでお茶を飲んだりして、あっという間に時間が過ぎていった。


「そろそろ戻るか。」

「寛人。」


立ち上がった寛人の袖を引っ張って、晴花が寛人に口づけをした。

寛人も突然のことに驚いて、数秒間見つめ合った。

当然尾行していた聖也たちも驚いて、声が漏れてしまった。


「お前ら…。ずっと見てたのか?」

「何のことかな?」


寛人は耳を赤くして、聖也に確認したが、聖也はとぼけて答えた。


「晴花って大胆なんだね。」


美郷が晴花に近づいて、耳元で囁いた。

晴花も恥ずかしくて耳を真っ赤にした。


「それよりお二人さん。そろそろ時間なので帰りましょうか。」

「分かってる。」


五人は揃って洞窟に戻っていった。

洞窟に戻ると夕食の準備のため、女子たちは調理場へ向かい、寛人と聖也は他の男子たちがいる休憩所に向かった。


「街でのことは何も言うなよ。」

「何のことかは分からないが、そんな野暮なことはしないって。」


寛人は聖也に街でのことを口止めした。

休憩所に行っても聖也はそのことに触れなかった。

いつものように楽しい夕食の時間も終わり、一同は今夜の戦いの準備を始めた。

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