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グレースネヘス  作者: たつG
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35 11日目:自己防衛の始まり

35 『11日目:自己防衛の始まり』


「みんな、明日みんなに話したいことがあるから、昼食後にバス付近に集まってほしい。

今日は色々あったが、とりあえずは十分な休息をとってくれ。」


戦いから戻ってきた寛人は、みんなに招集の話だけし、今は休息をとるように指示した。

アンドリューが倒れて以降、<ウィザラー>は常に最前線で一日も休みなく戦っていたが、栄養食のお陰で肉体的疲労は感じなかったが、精神的疲労は蓄積されていた。

特に地下で戦ったメンバーは、持ち出した資料が気になり心が休まらなかった。


「あの資料の中身は読まないのか。」

「明日みんなに話すために、今から目を通す。」


寛人は胡桃が持ち出した資料に目を通すと、半信半疑だった<ウィザラー>の人体実験について記載されていた。


「(こんなことを明日みんなに話さないといけないのか…。)」


寛人はこの話をすることは気が進まなかった。

それでも時は進み、昼近くにはみんな起床して活動を開始した。

一同は寛人に言われたとおり、中央のバス付近に集まった。

寛人は中心に立ち話を始めた。


「今から話すことは、俺たちと王国軍との関係を変える話になる。」


一同に緊張が走った。今までも寛人に招集され色々と話を聞いたが、王国軍との関係が変わるようなことはなかった。

それを寛人がはっきりと関係が変わると言い切ったため。


「まずは第18番隊の存在についてだが、あの部隊は王直属の隠密部隊で、俺たちの監視が主な任務であった。

しかも隊長のロベルトは前回の<ウィザラー>の子孫になる。

そんな彼から1通の手紙を受け取った。」


みんなは<ウィザラー>の子孫が軍にいることは驚いたが、それより自分たちが王国軍に監視されていることにショックを受けた。


「これがその手紙だが、中身は前の<ウィザラー>は世間と隔離され、人体実験を強制されていたことが書いてある。

さらに王が覚醒した<ウィザラー>の体や賢者の石に興味を持ち、英雄の中に俺たちを狙ったやつがいるとのことだ。」


この話はとてもショックな内容だった。


「その話は嘘じゃないのか?」


彰が寛人に質問した。


「俺も人体実験や英雄に狙われているという話は半信半疑だった。

でも、昨日橘が持ち出した資料には人体実験の内容が事細かく書かれていた。

王国軍は毒ガスや細菌の類の研究をして、その威力を地下室にあった装置で<ウィザラー>で試していたようだ。」

「毒ガスや細菌に更には人体実験とは、非人道的な…。」


寛人の話を聞いて、先生たちは憤っていた。


「実験の話が本当だったので、英雄の中に俺たちを狙ったやつがいることも本当だと思う。」

「それは誰だよ。」

「あのアレクサンドラってやつが怪しいって。」

「ブライトさんは俺たちに優しいし違うんじゃないか。」


みんなざわつき始め、どの英雄が裏切り者なのか憶測が飛んだ。

もちろん誰が裏切り者なのか確たる証拠など1つもない。


「みんな聞いてくれ。俺たちに残された道は、このまま王国軍とともに進むか、俺たち独自で進むかの2択になる。

もちろん後者を選ぶと王国軍から狙われるようになり、街も使いにくくなるだろう。」


寛人はみんなに選択を与えたが、この選択はみんなを悩ませた。

王国軍と共にいる間は、進行は楽で街も安全に利用できるが、常に誰かに狙われていることを意識しなければならなく、それを王国軍に悟られないようにしなければならない。

反対に決別する場合は、気は楽になるが、王国に頼っていた金銭と情報収集や街での買い物に不自由が生じてしまう。


「どの道、最終的には俺たちを狙う英雄と戦うのだろ?」

「きっとそうなる。」


多数決を取ったが、中々みんな決めきれなかった。

だが、結局街を自由に使えなくなることは今後も大きく影響が出るため、王国軍と形式上は共闘することに決まった。


「今の戦力で行くと、英雄と互角で戦えるのは俺と聖也と彰ぐらいだ。

個別に狙われたらたぶん敵わないだろう。特に攻撃手段の乏しい回復部隊は一溜りもない。」

「みんな英雄より強くなるしかねぇな。」

「簡単に言うが、いつ狙われるか分からないから、今すぐにでも強くないと。」


竜輝の言う通り、みんなが英雄を倒せるレベルになれば命を狙われていることに対して、身の危険を感じる必要がなくなる。

だが、今の聖也や彰レベルまでみんなを引き上げるのは1日2日では困難であった。

ましてや寛人のレベルまでとなるとほぼ不可能である。


「みんな、今後も王国軍と共にすることになるが、決して気を緩めることも悟られることもないように気を付けて欲しい。」


寛人は一同を解散させ、純の指示で宝飾品の組み合わせ調査の続きを始めた。

強化については全員集まって話をするのは時間の無駄であったため、再びリーダーと純を集めて話し合いをした。


「純、強化について良い案はないか。」

「今みんなでやっている宝飾品の組み合わせで、なにか有能な効果が出るのを祈るか、あとは危険ですが…。」

「なんだよ。話してみろよ。」


寛人が純に案を聞くと、宝飾品の効果とあと何かをあげようとして言い留まっていた。

それを彰が言うように急かした。


「魔王城の北まで一気に向かって、稀少な石を収集して装備を強化することです。

それだけで半分のメンバーが今の咲田くんに追いつきます。」


前に見つけた<ガールバーン鉱>で装備を整えるだけで、寛人並みのステータスになり、更に他の稀少石を見つけることができるとそれ以上の効果も見込めるとのことだった。


「稀少石を採りに行くとして、全員で前線から抜けると怪しまれるから、人数を絞らないといけないな。」

「あと残るメンバーもそれなりに戦力を残さないと。」

「魔王城の近くの敵は強さが未知数で、向かうメンバーはかなり危険に晒されることを覚悟しないといけません。」


みんな誰を向かわせるのが良いのか悩んでいると竜輝が手を挙げた。


「俺の班で行く。比較的俺の班はみんなRPが残ってるし。

だが、菊池は置いて行く。やっぱ教師は苦手。」

「竜輝が良くても、他のメンバーがどう言うか。」

「心配すんな。みんな俺に従順だから。」

「はぁ、ちゃんとみんなに聞けよ。」


一旦竜輝たちD班が稀少石の採集に向かうことが決まった。


「純に聞きたかったんだけど、昨日の靄に取り込まれた奴が、めっちゃ強くなってたけど、あれって仕組みは分かるか?」


聖也が昨日の戦いを振り返って気になったことを純にぶつけてみた。


「それは魔物のコアにあるのかもしれません。」

「なら昨日の靄ってスマホをコアみたいに使ってたんだろ?

俺たちも同じように強くならないのかな。」

「それはおススメできないです。あれは明らかに暴走して魔物化していたました。」


靄と同じ原理で自分たちも簡単に強くならないのかと聖也は期待したが、純のゲーム脳ではあれは良い進化ではないので、聖也に対して忠告した。


「純、それって俺たちも魔物化する危険性があるってことか?」

「それはどうでしょうか。今までの<ウィザラー>に魔物化したって話は1つもありません。」

「じゃあなぜあの靄は発生したんだ…。」


ここで1つ新たに靄の発生原因という謎が浮かんだ。

地下室に陳列してあった他のスマホには問題はなさそうだったが、どうしてあの1つだけが魔物化したのかは見当が付かなかった。


「今俺たちで考えることができることはこれくらいか。」

「そうだな。」

「じゃあ解散だな。竜輝はちゃんとメンバーに確認しとけよ。」

「分かってる。」


解散後は昨日と同様に持ち回りで宝飾品の作業を実施しながら、訓練を続けた。

寛人のもう1つの悩みは、昨日から参加した中島と伊丹で、二人とも今までほとんど何もしていなかったため、大して経験値が溜まっておらず、みんなと倍以上の力の差が開いていた。

しかも成長が難しい盾と回復なのも悩みの種だった。


<ケイローン橋>砦のマーティンたち―


<ケイローン橋>の砦を解放した王国軍は<アイグネル草原>の野営地を前進させ、橋の東側の入り口付近に展開していた。

更に砦内に機能を移し、3階の中央の部屋を次の会議室として整えた。


「アレクサンドラ、地下室の状況はどうだったのだ。」

「報告書の通りだ。」

「本当に報告書通りなのか。」

「あぁ、そうだ。」


マーティンがアレクサンドラに地下室の状況について問い詰めていた。


「だとしたらなんと残念なことだ。大事な研究結果の3割を失ったことになる。

王になんと報告すればよいのか。」

「仕方ないですよ参謀殿。激しい戦闘があって損失が3割にとどまったことを喜びましょう。」

「…そうだな。」


落ち込むマーティンをアンドリューが慰めた。


「それより紛失した<ウィザラー>の所持品について、お前はどう思う。」

「別に何とも。魔物が興味持って出したのだろう。」


アンドリューはアレクサンドラに紛失したスマホについて聞いてみた。

アレクサンドラはいつものように素っ気なく答えた。


「まぁ、魔王が討伐出来るまでは、研究のことは置いときましょう。」

「僕もそう思うね。」


ブライトは魔王討伐が優先だと主張し、それについてはみんな同意見であった。


「それにしても<ウィザラー>って強いんだね。

僕たち難題を次々と攻略してくれる。」

「あいつらには芯があり、仲間を心から信頼している。」

「最早<ウィザラー>無しでの魔王討伐は不可能だろう。」

「そうだな。」


英雄たちはみな<ウィザラー>の力を認めていた。

だがそれは、王国軍にとっての脅威でもあったが、それは誰も口にしなかった。



―<ウィザラーの洞窟>の寛人たち―


夕食前に純が今日の作業の報告をしていた。


「みなさんのお陰で、全組み合わせの8割が完了しました。

それに新たに経験値増の組み合わせも見つけることができました。

それでも用意できたのは14名分だけです。」

「そこでリーダーで話し合って、今日稀少石の採集に行くD班全員に付与し、残りを3班で分けることにした。

A班とB班は3個、C班は2個と割り振ったので、班内で誰に付与するか決めて欲しい。」


寛人はそう言って経験値増の宝飾品をリーダーに渡した。

A班は彰と秀吉と美郷に付与することに決めた。

B班は聖也と省吾と楓、C班は将文と晴花に決めた。

まずは攻撃陣を集中的に上げる考えで共通していた。


「さっきも話したが、D班は今日別行動をとるため、砦には残りのメンバーで向かい、馬を受け取ったら橋の西側でD班と落ち合う。

そこで馬3頭だけ渡して、D班は魔王城北にある<ペテルス鉱山>を目指してもらう。

みんな王国軍にメンバーの事聞かれたら、病気だと言うように。」

「あと今日だけ、菊池先生はC班なんで。」


最後に竜輝が大事なことを付け加えて、メンバーは夕食を取った。

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