30 9日目:隠し扉の始まり
30 『9日目:隠し扉の始まり』
「次の敵が来るぞ。みんな落ち着いて行くぞ。」
寛人たちの前には純のスキルから解き放たれた氷の<イーボ>が現れた。
その姿は狐のような見た目に白鳥な羽が生えていた。
<イーボ>が羽ばたくと前方に強烈な冷気が流れ込んだ。
「うわっ、寒っ。さっさと倒して暖まろうぜ。」
「そうできればいいけどな。来るぞ。」
空中で<イーボ>は羽を強く羽ばたかせ、冷気の刃を飛ばしてきた。
その威力は地面を砕くほどではあるが、将文と大輔はその刃を受け切った。
「とりあえず、空から引きずり降ろさないと。」
「向こうとは違い、攻撃は当たるぜ。」
A班とD班が戦っている火の<イーボ>は触角で攻撃を探知して避けていたが、氷の<イーボ>はそのような器官はないので、聖也と翔太の攻撃は普通に命中していた。
だがどこを狙っても全て羽でガードされた。
矢が当たる度に<イーボ>は羽をばたつかせ、空中で耐えていた。
やがて<イーボ>は空中を跳ねるように移動し、その下には羽根を落としていた。
「なんか綺麗。」
その光景に感動した、玲奈が羽根に手を伸ばした。
「無闇に触るな!」
「えっ。」
寛人が注意したが遅く、羽根に触れた玲奈の右手は氷に覆われた。
命には関わらないが、玲奈の利き手は当分使えなくなった。
地面に落ちた羽根は地面を凍らせ、寛人たちが立っている場所が氷に覆われた。
「めっちゃ滑る。」
「これだと踏ん張りが。」
氷の上はつるつるとしていて、足を滑らせた者も舞い落ちる羽根を避けれず止む無く装備の一部でガードした。
そのコンディションで<イーボ>は再び氷の刃を飛ばしてきた。
将文は盾でガードしたが、踏ん張れず後ろに倒れ、一発モロに食らってしまった。
「大丈夫か将文!?」
「なんとか鎧で止まった。」
将文の鎧には亀裂が入っており、次は耐えるのが難しそうであった。
「とりあえず足場が悪い、みんな<Rボール>で足場を作れ。」
寛人の指示でみんな<Rボール>を投げ、1平方メートルのブロックの上で構えた。
「寛人、今はスキルを温存する余裕はないぞ。」
「そうだな。一気にやるか。」
ここまでの戦いで少人数で多くの敵を相手にしてきたため、スキル回数もギリギリで、純が稼いでくれた時間で1つ回復したぐらいであった。
今後の展開を考え、寛人たちはスキルを温存していた。
だが、今一方的にやられている状況を打破するためにはスキルに頼らなくてはならなかった。
「俺があいつを打ち落とす。聖也はすぐに頭のコアを狙ってくれ、近距離組は翔太に掴り、すぐに落下地点に移動する。」
寛人は少し距離は遠かったが、<イーボ>に向かい斬撃を飛ばした。
<イーボ>はそれに合わせて氷の刃を飛ばしてきたが、寛人の斬撃にはかなわず羽でガードした。
勢いを削がれた寛人の斬撃はなんとか羽を切り落とした。
そのまま<イーボ>は地面に落ちていき、聖也はすぐに頭のコアを狙い撃ち、翔太は<イーボ>の付近に中継の矢を放った。
寛人と省吾と晴花と菫は翔太の腕に掴り、近くに瞬間移動した。
「一気にとどめだ!」
寛人たちは<イーボ>に飛び掛かったが、<イーボ>は周りに氷の壁を作り攻撃を防いだ。
「私に任せて。」
そう言って菫はスキルで強化すると、氷の壁を殴った。
その壁は脆く崩れ、壁諸共<イーボ>を攻撃し、<イーボ>は呆気なく消滅した。
「戻るか。」
置いてきた聖也たちのもとに戻ると、A班とD班がすでに集合していた。
「お前たち遅かったな。」
「こっちは所見なんだよ。」
彰に煽られたので、聖也は所見のせいだと言い放った。
全員揃ったので、封印石を壊し、王国軍が来るのを橋の外で待った。
砦はそこまで広くなく、王国軍も数千人投入していたので、攻略にはあまり時間がかからないと思っていたが、<イーボ>を倒して1時間近く経つが、一向に王国軍は現れなかった。
「遅すぎないか。」
「中で何かあったのかもしれない。」
「様子を見に行くべきじゃないか。」
「暇だから俺は行くぞ。」
「全員ここを開けるのはまずい。」
「なら俺と彰のチームで待ってるから、お前たちで行ってこいよ。」
「俺はそれで。」
「あぁ、問題ねぇ。」
「決まったな。じゃあC班とD班で砦の様子を見に行くぞ。」
リーダー4人で話し合って、A班とB班は封印石付近の防衛を行い、C班とD班で砦に援軍として向かうことにした。
C班とD班は馬を呼んだが、馬は現れなかった。
「まだ砦内に敵がいるから近づけないのだろう。」
「仕方ねー。歩いて行くか。」
一行は歩いて砦に向かった。砦に近づくとマルギット隊と魔物が戦っていたが、ブライトや他の隊は見えなかった。
それ以上に砦の中から嫌な空気が流れていた。
寛人はすぎにマルギットに近づき戦況を聞いた。
「マルギットさん、他の隊はどうしたのですか。」
「お前たち戻ってきたのか。」
「もう橋出口の封印石は破壊しました。」
「そうか。俺の隊は地上の敵の撃破を任され、残りは砦に入ったが、中に入ってから何も連絡が来ていない。」
「分かりました。私たちも潜入します。」
「いや待て…。(仕方ない、これは緊急時だ。)…頼んだぞ。」
マルギットは寛人を引き留めようとして悩んだ末、寛人に砦の潜入を任せた。
寛人はマルギットと別れると仲間を引き連れて砦の中に入っていった。
砦の中では二手に分かれ捜索をした。
砦内には大きな黒いシミが至る所にあり、その近くでは重症の兵士や遺体が転がっていたが、それでも潜入した数に比べると明らかに少ない。
1階から順に上へ行き、寛人は3階で別れた竜輝たちと合流した。
「何かあったか?」
「こっちは何もなかったぞ。」
2班ともなにも見なかったのは明らかにおかしい。
それに砦の前で感じた嫌な空気は今の途絶えていない。
しかもそれは3階の中央の部屋から一番強烈に感じていた。
「この部屋に何かが。」
そう言って寛人は中央の部屋の扉をゆっくり開けた。
中央の部屋は周りを本棚に囲まれ、中央に4つのテーブルが置いてあり、資料室のようだった。
だが、中には遺体1つも転がっていなかった。
「部屋に仕掛けがあるかもしれない。」
寛人たちは部屋の中に入り、仕掛けがないか探し回った。
寛人は晴花と共に中央の本棚を探していた。
「本がスイッチになってる仕掛けって、よく映画で見るよね。」
「そんなイメージあるな。」
「なんかスパイになったみたい。」
「楽しそうだな。」
「そんなんじゃないよ。」
傍から見ると図書室でイチャイチャするカップルのようだった。
部屋の中央では巧太と勇樹がテーブルを調べていた。
「変な模様だね。」
「この形どっかで見たことがある気がするんだよな。」
テーブルの上には変な模様が描かれており、勇樹はそれをどこかで見た気がしていた。
その模様はテーブルごとに少し違っていた。
「見て、地面にも何か書いてあるよ。これって…、そうだ砦とかにあった旗の模様だよ。」
「そうだ、そこで見たことあったんだ。」
4つの中央のテーブルには砦などで掲げられている王都の旗の紋章の一部が描かれていた。
それに二人は気付いた。
「この掛けている部分て、テーブルの模様を合わせるようになってるのかも。」
勇樹はそう言ってテーブルを回して、地面の模様と合わさるようにした。
それを見習って、巧太も別のテーブルを回した。
全てのテーブルを回し終え、地面と合わせて紋章が完成すると、寛人たちが探していた中央の本棚が動き出した。
「おっ、何だいきなり。」
寛人は驚いて晴花と後ろに下がった。
本棚は右側に動いて行き、反対側から扉が現れた。
寛人が恐る恐るその扉を開けると通路があり、その奥から感じていた嫌な空気が流れていた。
「おそらくこの奥にブライトさんたちがいるはずだ。」
寛人に続てみんな通路に入っていった。
通路は左右に分かれていて、どちらを進んでも螺旋階段になっていった。
階段を降りていき、2階分降りたところで、戻って来ていた王国軍と出会った。
先頭には第15番隊隊長のカイがいたが、左足を引き摺り、兵士に肩を借りながら上っていた。
寛人はカイに状況を尋ねた。
「カイさん。砦の中はどうなっているのですか。」
「お前たち、来たのか…。今ブライト様が少数の兵を連れて殿を務めてくださっている。
頼む、ブライト様を助けてくれ。」
「分かりました。」
寛人たちは階段を下って行ったが、ぞろぞろと兵士が上がってきていた。
1階よりも下まで来るとそこには広い空間があり、実験装置のようなものが点在していた。
その中でブライトたちが黒い靄と戦っていた。
ブライトは後ろからやって来た寛人たちに気付いた。
「お前たちなんで来た!」
「ブライトさんを手伝いに来ました。」
「他の兵士たちは!」
「みんな逃走完了しています。」
「もう夜も空ける。俺たちも逃げるぞ!」
寛人たちは合流も束の間、ブライトたちとすぐに出口に向かった。
すると靄は影を分裂させ、こちらに向かわせてきた。
分裂した影を寛人たちの後ろにいた兵士が踏んでしまった。
地面の影は兵士の足を捉え、黒い靄の元まで引き戻した。
靄は兵士を吸収していき、終いには跡形もなく中に取り込まれた。
すると次の瞬間、靄の中からマネキンの様な魔物が現れた。
「マジかよ。兵士が魔物になった。」
「お前たち急げ、奴はこの部屋からは出れない。」
かなり衝撃的な瞬間であったため、みんな驚いて声が漏れた。
ブライトとともにすぐに部屋の外まで行くと、追っていた影は引き返していった。
その後は階段を上がり3階の中央の部屋まで戻ってきた。
「ここまでくれば一安心だな。」
「いや、まだだ。」
「でもこの部屋に来る間に敵なんていませんでしたよ。」
寛人たちがこの砦に入って下の大部屋に行くまでの間に、他の魔物は1体たりとも見ていなかった。
だがブライトたち王国軍は慎重に武器を構えて中央の部屋を出ていった。
すると兵士の叫び声が部屋の中に響いてきたので、寛人たちはすぐに部屋を出た。
「何で魔物がいるんだ。」
「おい、あの黒いシミ。」
部屋の外では王国軍がマネキンと戦っており、翔太が黒いシミを指さすとそこから骸骨が次々と出てきていた。
寛人たちは王国軍と共に無限に湧いてくるマネキンを倒しながら、漸く砦を出ることができた。
「なんでいきなり敵が溢れてきたんだ。」
「お前たちが入った時は、私たちが地下であいつと戦っていたから、魔物の召喚が止まっていたのであろう。」
ブライトが推測を言ったが、多分そうなのであろう。
砦を後にし全員で<アイグネル草原>の野営地に戻った。
橋の封印石は破壊することができたが、砦を制圧することはかなわなかった。
リーダー四人は報告のため会議室に向かったが、そこで今回の討伐戦で初めて隊長クラスの犠牲が出たことが報告された。
それは第14番隊隊長のトビアスだった。
〔寛人RP6〕
〔聖也・彰RP12〕
〔将文・菊池・楓RP13〕
〔秀吉・巧太・千佳・梓紗RP15〕
〔竜輝・省吾・純・勇樹・翠・深琴・美郷・晴花・胡桃・玲奈RP16〕
〔大輔・翔太・菫・寿葉RP17〕
〔灰島・実久RP18〕




