28 9日目:苦悩の始まり
28 『9日目:苦悩の始まり』
八夜の戦いが終わり数々の強敵に打ち勝ってきたが、昨日の戦いで大きな課題が上がった。
それは寛人と他のメンバーの戦力の差であった。
相性関係なく敵に確実にダメージを与えられているのは寛人のみで、ステータスも他のメンバーの倍近い開きがあった。
当初から一緒に戦っていた聖也とも差が生じていた。
そのため寛人に掛かる負担は大きく、寛人のRPもみんなに比べて大きく消耗していた。
「寛人、お前には前線に出るなと言いたいが…。」
「分かってる。」
「支援人が言ってた経験値の差がここまで大きくなるなんて。」
寛人と聖也と将文は自室で話し合いをしていた。
以前支援人が現れた時にRPが経験値の量に関係するという話をしたのを思い出していた。
他のメンバーも寛人並みにRPを減らさなければ、寛人の領域まで追いつくことは実質不可能ではあるが、当然むやみに命を落とすようなことは絶対に許されることではない。
「せめて金野のスキルはお前のためだけに使ってほしい。」
「いや、命に差をつけるべきじゃない。いつかそれが歪を生む。」
「みんなも分かってくれるよ。」
「ダメだ。この話はよそう。」
聖也と将文は寛人のことを心配して、身代わりのスキルを覚醒した梓紗の力を寛人のためだけに使うべきだと主張したが、寛人はそれによって不平不満がたまり、クラスの関係がぎくしゃくすることを懸念した。
「根本的にみんなの力が飛躍的に上昇する方法がないか考えよう。
それには純に聞くのが一番だと思う。もちろん純にもさっきの話は振るなよ。」
「分かってる。」
寛人は戦力の底上げをする方法を純に聞きに行くことにした。
純は巧太と勇樹と共に部屋にいたので、三人で純たちの部屋に向かった。
「ついに僕だけになっちゃった。」
「大丈夫だよ。いつか巧太くんも…。」
純たちも何か申告そうに話をしていたが、その時扉がノックされた。
「純、入るぞ。」
「咲田くん?いいよ。」
「二人とも、僕が悩んでることは言わないでね。」
「分かったよ。」
純は扉を開けて三人を招き入れた。
「純、効率よく短時間でみんなの能力を上げる方法はないか。」
「そうですね。それだと一番は昨日街で見た<ガールバーン鉱>を集めることですが、あまり現実的ではないですが。」
<ガールバーン鉱>を1つ買うのに一夜の報酬を全てつぎ込む必要がある。
しかもそれを全員分集めようとすると、お金もそうだが、そもそも市場にそこまでの数は出回らない。
「純くん、ゲームだと経験値補正のアイテムとかあるんじゃないの。」
「僕もそれを考えていたけど、見たことがないです。」
「状態耐性みたいに装備に付与されるとか。」
「合成によって発生するかもしれないけど、作って初めて分かるから、どの素材で付与さるのかは分からないし、そもそも無いのかもしれない。」
勇樹や寛人が経験値補正があるのでないかと考えたが、ここまで合成装置を使って色々と実験をしてくれていた純が無いと言うので、間違いはないのだろう。
だが支援人を付けるぐらいなので、どこかに救済的な措置があるのではないかと考えていた。
「パワーアップの薬とかあればな。」
聖也が何気に言うと、純の顔は少し曇った。
「薬なら作れます。でも…。」
「でもどうしたんだ。」
「素材自体が中毒性の強い葉を使っていて、その葉はこの世界の阿片の様なものです。
そのため、できた薬は効果がありますが、中毒性がそのまま残ると記載されていました。」
「中毒か…。あんま使いたくはないな。」
「僕も使う事はお勧めしません。」
たとえ別世界のことだと分かっていても、倫理的観点からダメなことは流石に拒否反応があった。
そうなると合成で該当の効果が出ることを願うことが一番現実的に思えてくる。
「魔物から取得した宝飾品って、身に付けたことあるか?」
「そう言えば、僕は付けたことないです。」
「支援人が憑いていた時に、そんな情報はなかったです。」
「あいつが全部説明するわけじゃないでしょ。」
「誰かが身に付けて効果が出たけど、気付いてなかった可能性もある。
身に付ける行為自体はあったから説明がなかった。」
「その可能性はあるな。試しに行かないか?」
「そうですね。まだ売ってないものが合成室に保管されています。」
六人は宝飾品装備で何か効果はないかが出ないのかと期待しながら合成室に向かった。
合成室には合成に使った鉱石だけ外され、穴あき状態になった宝飾品や手つかずのままのものが箱の中に入っていた。
どのタイプの宝飾品もよく見ると3つ鉱石を填める箇所が存在した。
試しに寛人と聖也が3箇所とも鉱石が残っていた宝飾品を身に付けた。
「どうだ?ステータスは変わったか?」
「えっと…。咲田くんの方はステータス向上が、聖也くんの方は毒耐性が付いてます!」
「そうか!」
「あぁ、前に手に入れた不要な宝飾品は全部売っちゃったな。」
「今から街に行って買えるだけ買おう。」
「僕は鉱石を外した箇所に別の鉱石を埋める方法がないか探します。」
「それなら街の宝飾店で聞けばいい。」
そこで六人は街に行き、純は宝飾品の直し方を聞きに回り、残りで宝飾品を買い漁った。
五人が買い物を終わると、純が遅れてやって来た。手には何かの道具を持っていた。
「お待たせしました。宝飾品の作成に必要な道具を手に入れました。
でも使うには技術が必要だと。」
「そうでもなさそうだよ。」
ライブラリのレシピ欄を見ていた巧太が言った。
そこには新たに宝飾品生成装置のレシピが追加されていた。
「残りの素材なら洞窟の倉庫に揃ってます。」
「早速戻って宝飾品を作るぞ。」
六人は洞窟に戻ると、まず倉庫から素材を引っ張り出し、宝飾品生成装置を作成した。
宝飾品生成装置は上部に蓋があり、蓋の裏側は画面が付いていた。
上部の蓋を開けそこに宝飾品を入れると、現在の付与効果が表示されていた。
下には3箇所の引き出しがあり、入れ替えたい鉱石を位置に合わせて入れるようになっていた。
引き出しに入れると画面に完成後の付与効果が表示された。
あとは蓋と引き出しを閉めると、自動で生成が始まり、上部の蓋を開ければ仕上がった宝飾品が、入れ替わった鉱石は引き出しに戻るという仕組みだった。
「こういうのは同じ石でも並びで結果が変わることがあります。」
「今手元に20種類の鉱石があるから…、8000通りか。」
今の段階でも凄い数の組み合わせだが、今後鉱石の種類が増えると組み合わせは爆発的に増加する。
そのために人数を投入したいが、装置が1つしかなく、全く足りていなかった。
寛人と聖也が再び街に行って探し回ったが、宝飾品生成装置に必要は道具は手に入らなかった。
「王都まで行けばあるいは…。」
「手紙を読む限り、あそこには近寄らない方が良い。」
「やっぱそうだよな…。逆に道具の方から作るとか。」
「レシピに載ってないから、素材が足りないか、作れないか。」
「それこそ何でできているか聞いてみようぜ。」
二人は話し合って、純が道具を購入した宝飾店へ行き、何でできているのかを尋ねた。
店主は快く教えてくれたが、1つだけ聞いたことがない素材があった。
洞窟に戻りその素材について純に聞いてみた。
「純、この<カグチ輝石>って知ってるか?」
「それなら図鑑で見たことがあります。たしか<ジョヘイン洞窟>で採れたはずです。
でもその石は合成には使えない石だったのですが。」
「これが有れば宝飾品生成装置に必要は道具から作成できる。」
「でも<ジョヘイン洞窟>って…。」
「あぁ、王国軍に入ることを禁止されている。」
純は<カグチ輝石>について覚えていたが、それは王国軍によって封鎖されている<ジョヘイン洞窟>でしか採れないものだった。
「でもおかしいよな。<ジョヘイン洞窟>で採れるなら街に出回っても。」
「<カグチ輝石>以外は街にあったので、王国軍が独占しているのかもしれませんね。」
寛人と聖也は手紙のこともありきな臭さを感じた。
「英雄の人たちにいくらか譲ってもらえないか頼んでみては?」
「あぁ、…そうしてみるか。」
手紙のことを知らない純は英雄との交渉を提案した。
寛人は歯切れ悪く賛同はしたが、あまり乗り気ではなかった。
裏切り者の英雄に感づかれて、邪魔が入る可能性もあるからだ。
「寛人どうすんだ?王国軍が独占しているような石をまともにくれるとは思わないぜ。」
「分かっているが、聞くしかないだろ…。」
二人はしぶしぶ砦に向かって、マーティンの所へ行った。
「マーティンさん、お願いがあるのですが。」
「何だ。言ってみなさい。」
「宝飾品作成のために<カグチ輝石>を少し分けていただきたい。」
「残念だが、あの石はまだ1つも採れていないと報告されている。」
「そうですか…。」
案の定、<カグチ輝石>を分けてもらうことは出来なかった。
マーティンの言う通り、石がまだ採れていないかどうかも確かめる術はなかった。
二人が会議室を出ると、英雄三人と階段ですれ違った。
「お前たち来ていたのか。今度は何の用だ?」
「道具の作成に必要な素材を分けてもらおうと…。」
「そうか、でそれはなんだ?」
「もうマーティンさんにも無いと言われたので、大丈夫です。それでは。」
「あぁ、また困ったことがあれば言いにくればいい。」
ブライトがいつものように話しかけてくれた。
少し言葉を濁すような感じになったが、二人はその場を後にした。
ブライトたちはそのまま会議室に入っていき、マーティンに尋ねた。
「<ウィザラー>たちは何が欲しいと。」
「宝飾品作成のために<カグチ輝石>が欲しいと。」
その言葉に会議室内は一瞬で空気が張り詰めた。
「そうか、<カグチ輝石>か。あれば我々も欲しいのだがな。」
すぐにブライトが話し始め元の空気に戻った。
一方洞窟に戻った寛人と聖也は、<カグチ輝石>は今まったく採れなくて、分けてもらえなかったことを伝えた。
「そうですか。図鑑でもあまり採れないと書いてあったので、仕方ありませんね。」
それを聞いて、純は納得していたが、寛人と聖也は納得していなかった。
確信はしていないが、洞窟で採れたものを秘密裏に王都に運ばれているのではと思っていた。
今日はもう時間がなかったため、二人が砦に行っている間に検証していた組み合わせの中で効果が良かったのもので宝飾品を揃えた。
「攻撃力向上や防御力向上がほとんどですが、1つだけ運気向上が作れました。
これは咲田くんに付けてもらいたいです。」
「分かった。他のはみんなに配っておいてくれ。」
純は寛人に指輪を渡した。
寛人はそれをはめると、ステータス欄に運気向上と表示された。
今日準備できることはここまでだったので、いつものようにみんなで夕食を食べた。