24 7日目:駆除の始まり
24 『7日目:駆除の始まり』
「あそこから蜘蛛は来てるのだろう。」
「高くて上の方は見えないな。」
「入り口がどこかにあるはず。」
寛人は巣と思わしき物体の周りをぐるっと回ったが、入り口の様なものは見つからなかった。
その物体は山のような形をしていた。
「もしかしたら頂上が入り口なのかもしれない。」
「登ってみるわ。」
彰はそう言うと上まで駆け上がって行った。
頂上は寛人の予想通り穴が開いていて、中は暗くてよく見えないが何かが動いていた。
「上に穴が開いてる!…っ。」
彰が叫ぶといきなり物体が揺れ、バランスを崩した彰は転がり落ちた。
頂上からは大蜘蛛とは比べられないほど大きな爆発物が発射された。
「晴花、頼んだ!」
「分かったやってみる。」
晴花は再び爆発物の着地点に行き、スキルでエネルギーの吸収を試みた。
「ダメ、大きすぎて全部吸収できない…。」
「翔太、晴花の救出を!」
「了解!」
翔太は晴花のもとに駆け寄り、晴花を連れて瞬間移動で逃げた。
半分ぐらいエネルギーを吸収された爆発物は、それでも大蜘蛛が放つものよりでかく、
地面に落ちると大爆発を起こし、爆風で100メートル近く吹き飛ばされた。
落ちた箇所には直径100メートルの窪みができていた。
「あれ、篠宮が吸収してなかったら、どんだけの衝撃だったんだ。」
「完全に吸収できないなら、もう使えない。」
「さっさとあれを壊さねえと。」
その衝撃に竜輝は唖然としていた。
寛人は晴花が吹き飛んだ方へ駆け寄ると、晴花は剣を杖にして何とか立っていた。
「大丈夫だったか?ごめん。無理させた。」
「大丈夫、それよりこれどうする。」
晴花は吸収したエネルギーを見て寛人に問いかけた。
このままぶつけるともしかしたら、先ほどの威力を見たらあの山を崩壊させらるかもしれないし、また爆発物が飛んでくる可能性もあった。
「一か八かあの山にぶつけてみてくれ。」
「分かった。」
晴花は真正面に放つと、先ほどの同程度の爆発が起きたが、山は崩壊することはなく、正面に大きな穴が開くだけだった。
その穴からは赤色の繭が見えた。それは燃える火の様に真っ赤だった。
すると繭から糸が吐き出され、寛人たちを襲った。
動ける者は避けれたが、爆風で気を失っていた数名はそのまま糸に引っ張られ、山の中に吸収された。
「くそっ、油断した。」
「また糸を吐いた。」
繭からは再び糸が吐かれ、残ったメンバーはそれを躱していった。
寛人たちは繭と距離を取りながら、他のメンバーと合流していった。
「英水、さっきの繭の分析は出来たか?」
「中心にコアが1つだけ。」
「1つだけ、でもあの頑丈さだと…。とりあえず一発撃ってみる。」
寛人は先ほどの爆発を耐えた頑丈さが気になったが、とりあえず斬撃を飛ばしてみた。
案の定斬撃は途中までしか届かず、コアにかすりもしていなかった。
そうしているうちに純が閉じ込めていた大蜘蛛が戻ってきた。
「純は!?」
「さっきの糸で吸い込まれた。」
「今いるのだと…、彰・秀吉・将文・大輔・灰島先生で倒さずに粘ってくれ。」
「任せなさい。」「了解。」
寛人から指示を受けた五人は向かってきた大蜘蛛の足止めに行った。
残されたメンバーでどう攻めるか寛人は悩んだ。
「禅野のスキルで繭を打ったらどうなる。」
「えー、あんな近くまでいけないよ。」
「俺と省吾と晴花で近くまで護衛する。橘と月下はこっちで繭の糸から遠距離組を守ってやってくれ。」
「こっちは任せといて。」
寛人は深琴のスキルが繭にどう影響するのか試すことにした。
だが、そのためには槍が届く距離まで近づかなければならなかったので、三人で護衛することにした。
「待て、俺も行く。」
「あぁ、もしかしたらお前のスキルも使えるかもしれない。」
竜輝は四人と共に繭への接近に参加してきた。
寛人も竜輝の爆発は有効かもしれないと感じていたため、竜輝の動向を許した。
五人が繭へ向かっていると何度も糸が飛んできた。
その糸を寛人・省吾・晴花の三人はガンガン切っていった。
近くまで来るとその繭の大きさに驚いた。
「遠くから見てたからあれだけど、結構デカいな。」
「なんか鼓動みたいに揺れて気味悪い。」
深琴が気味悪がるのも当然で、繭は心臓の様に音は小さいが、膨らんだり縮んだりしていた。
「禅野、やってみてくれ。」
「分かったよっ。」
深琴は勢いよく繭を下から突き上げた。すると繭の動きは止まり、心なしか糸が緩んだように見えた。
「今なら届くかもしれない。」
寛人は再び深呼吸をして斬撃を飛ばした。
今度は先ほど以上に奥まで届いたが、コアに傷がつく程度だった。
「あと少し!っ。」
するとまた山が揺れ始め、繭がだんだん赤くなってきた。
「また爆発だ!」
「みんな<Tボール>を投げて!」
晴花が指示をすると、咄嗟のことだったが、五人は繭に<Tボール>をぶつけた。
<Tボール>五個分の威力はそこそこあり、発射が一旦止まった。
「深琴、もう一回打て。」
「えっ、分かった。」
竜輝は深琴に指示をし、深琴は繭を再び突き上げた。
すると今度は竜輝が思いっきり繭をスキルで殴打した。
「お前っ!」
突然のことで寛人はびっくりしたが、間もなく繭の中で爆発が起こった。
その威力は発射された後ほどではないが、それでも近くにいた五人は爆風で飛ばされた。
コアは爆発物と別の場所のようだったので、その爆発でコアの破壊は出来なかったが、繭に大きく穴が開き、コアが薄っすらと見えていた。
「これで終わりだっ!」
寛人は再度斬撃を飛ばすと、今度はコアを真っ二つに破壊した。
繭は消滅したが、繭に支えられていた山も崩れていき、五人は埋もれてしまった。
「寛人!みんな助けに行くぞ!」
山が崩れていくのを見ていた聖也は、残っていたメンバーを引き連れて、寛人たちの救出に行った。
「俺たちも片を付けたら、助けに行くぞ。」
大蜘蛛を引き付けていた彰たちは気絶していた大蜘蛛にとどめを刺し、すぐに寛人たちのもとに向かった。
彰たちが着くと聖也たちが先に土を掘り返していた。
「みんな少しどいてくれ。」
大輔はそう言ってスキルを発動し、大きな手で、ガンガン掘っていった。
あっという間に中から五人が姿を現し、体を起こしてせき込んだ。
「お前ら無茶するなぁ。」
安心した聖也は寛人の肩を叩き言った。
「竜輝、お前いきなり爆発させんなよ。死ぬかと思った。」
「倒せたんだから良いだろ。」
前触れもなく爆発を起こした竜輝に寛人は文句を言ったが、竜輝は全く悪びれる様子もなかった。
深琴もたまらず「死ねっ」と言って竜輝をどついた。
寛人たちを掘り起こしてから少し経つと、繭に吸収されたメンバーがブライトたちと共に戻ってきた。
「<ボカノス>は討伐できたようだな。」
「漸くです。」
「次の封印石まであともう一息だ。お前たち行けるか?」
「はい。もう大丈夫です。」
寛人たちは馬に跨り、封印石へ一気に駆け寄った。
封印石の周りは、数は多いものの、今まで見慣れた魔物ばかりだったので、王国軍含め数で攻め入って一気に封印石の破壊まで完了した。
「こちらの目標は完了ですね。」
「あぁ、後は<ジョヘイン洞窟>に向かったアレクサンドラ部隊が上手くやることを待っておこう。」
ひと段落着いた寛人たちは、新たに破壊した封印石の近くでアレクサンドラ部隊の合流を待った。
―<ジョヘイン洞窟>のアレクサンドラ―
洞窟の中央の穴でアレクサンドラは仁王立ちしていた。
洞窟内は小人しかいないので、こちらも圧倒的な数の差であっという間に洞窟内を制圧した。
「…あれは見つからないのか。」
「今しばらくお待ちください。」
アレクサンドラは洞窟内で何かを探していた。
第11番隊隊長のパウロはアレクサンドラの指示通りにその捜索を部下に行わせていた。
「隊長見つけました。」
「でかした。」
パウロは部下から鉱石を受け取るとそれをアレクサンドラに渡した。
「これが例の石か。パウロ分かってるだろうな。このことは他言無用だ。」
「かしこまりました。アレクサンドラ様。」
アレクサンドラは手に取った紫色の石を眺めていた。
―<アイグネル草原>の寛人たち―
「ブライトさん、この先には何があるのですか。」
「この先には<セイルザツ川>があり、魔王がいる城は川を越えなければならない。
川を越えるためには<ケイローン橋>という巨大な石橋を渡るのだが、その手前には2体の巨大な石像が待ち構えている。」
「どれぐらいの大きさなのですか。」
「砦の中央塔より高い。なので、前回も<ウィザラー>の手助けなしでは全く歯が立たなかったらしい。」
「そうなんですか。」
中央塔以上の高さとなるとビル4階建てに相当する。
今までとは全くスケールの違うデカさなので、かなり作戦を練らないと倒せないと感じた。
「おい寛人、こっち来い。」
ブライトと話していた寛人を聖也が呼んだ。
呼ばれた寛人はブライトに断りを入れて聖也の近くまで行った。
「どうした聖也。」
「分かってると思うが、あんま英雄と仲良くなるなよ。」
「分かってる。この先の敵の情報を聞いていただけだ。」
「ならいいが。」
まだ誰が<ウィザラー>を狙う英雄か分かっていなかったので、聖也は全ての英雄を警戒するべきだと思っていた。
もちろん寛人もそのつもりだが、あまりに不自然な避け方はやらないようにと心掛けていた。
暫くするとアレクサンドラ部隊が合流したとの合図が届いた。
「お前たち、この場は王国軍で防衛するので、リーダー以外は帰っていいぞ。
リーダーは一緒に会議室に来てくれ。」
リーダー以外は過ぎに砦に戻ると、いつものように訓練所にある水浴び場で体を洗うと、報酬を受け取ってから洞窟へ戻っていった。
四人のリーダーはブライトたちと共に砦の会議室に行き、戦況の報告を行った。
「<ウィザラー>諸君ご苦労だった。君たちでなければ<ボカノス>を殲滅させることは出来なかった。」
「出来ることを下までです。」
マーティンは寛人たちを褒め称えたが、寛人は相変わらず謙遜していた。
「それで、英雄アレクサンドラ、<ジョヘイン洞窟>の制圧はどうだ。」
「完全に制圧した。」
「そうか、明日にでも部隊を出して、資源の探索に行かせる。
探索は…、ステファンとアンナ、お前たちの隊に任せた。」
「かしこまりました。」
ステファンとアンナの隊はアンドリュー部隊に配属されており、以前のアンドリュー負傷時に半数以上壊滅した隊の1つである。
その後は砦での待機が多かった二人は、マーティンの指令を快諾した。
「明日は今まで以上の山場を迎えることになる。
しっかり休んで、万全に準備をすること。以上!」
寛人たちは敬礼をすると四人で水浴びに行った。
「明日この塔より高い敵が出るらしい。」
「マジか!?そんなのどうやって倒すんだ。」
「俺が全部爆発させてやんよ。」
「お前威勢だけはマジでいいな。」
大変な戦いの後だが、四人は和気藹々と水浴びを楽しんだ。
それはまるで修学旅行の一時を切り取ったような感じだった。
〔寛人RP8〕
〔聖也RP13〕
〔彰RP14〕
〔将文・秀吉・菊池・楓RP15〕
〔竜輝・玲奈RP16〕
〔省吾・巧太・千佳・美郷・晴花・胡桃・梓紗RP17〕
〔大輔・翔太・純・勇樹・翠・深琴・菫RP18〕
〔灰島・実久・寿葉RP19〕




