21 6日目:窮地の始まり
21 『6日目:窮地の始まり』
寛人はすぐに煙が上がっているところへ向かおうとしたが、まだ十分回復していないものもいたので、人数を絞ることにした。
「パターンZの七人でまず様子を見行く。こっちは英水・千佳・篠宮・渡瀬に任せた。」
選抜の七人はすぐに馬に乗って煙の方へ向かった。
馬を走らせ500メートルも進むと、煙の元が見えてきた。
煙の下には地面に大きな窪みが出来ており、その中で大量の王国軍が倒れていた。
窪みの周りでは王国軍が戦っており、その中でも背中に山のように盛り上がった大蜘蛛がひときわ目立った。
その大蜘蛛をブライトとアレクサンドラが抑えていた。
状況は大蜘蛛の方法がやや優勢で、ブライトたちは力負けしていた。
「蜘蛛気持ちわりーな。」
「とりあえず、ブライトさんたちを援護するぞ。」
「さっきの爆発音は何だったんだ。」
七人はすぐさまブライトたちのもとに駆けつけた。
二人とも大蜘蛛の足攻撃を捌くのに手一杯な感じであった。
押されているブライトの背後から、寛人は大蜘蛛の足を斬った。
堪らず大蜘蛛は後ろに戻った。
「お前たち来てくれたか。」
「爆発音を聞いて、駆けつけてきました。」
「気を付けろ、こいつ赤くなると背中から馬鹿でかい爆発物を発射する。」
後ろに下がった大蜘蛛は力を貯めているように見え、次第に背中の山が赤くなっていった。
発射を阻止しようと、寛人と聖也が顔目掛けてスキルを使ったが、二人のスキルと同時に大蜘蛛も爆発物を上空へ噴射させた。
爆発物は寛人たちの方へ向かって来ていた。
「とりあえず逃げろ!」
「分かってるって。」
寛人が叫ぶ前にみんな着弾想定地点から4,50メートル離れた。
爆発物は着弾すると大爆発をし、爆風で更に数メートル吹き飛ばされた。
「なんて威力だ。」
「まるで噴火だな。」
彰が感心していると、その足に大蜘蛛が糸を巻き付けた、彰はそのまま振り回せれ、最後は地面に叩きつけられた。
「彰、大丈夫か!」
「あぁ…。何とか…。」
次は将文に向かって糸を吐いてきたが、将文はそれを盾でガードした。
大蜘蛛は凄い力でその盾を引っ張り、将文は懸命に引っ張り返していたのを、横から省吾のその糸を斬った。
「あの糸、切れないことはなさそうだな。」
糸を吐くことを辞めた大蜘蛛は、次はそこら中に糸の網をまき散らした。
「あの蜘蛛、何やってんだ?」
「蜘蛛の巣だから、粘着性のトラップじゃないか?」
「だとしたら、あいつに近づけねーぞ。」
網は大蜘蛛を一周囲み、その中でまた発射のために力を貯めていた。
そこで秀吉は<Tボール>を大蜘蛛目掛けて打ち放った。
4箇所大蜘蛛の背中に張り付くと、稲妻と共に大蜘蛛の動きが止まった。
「秀吉よくやった!」
「でもどうやって近づく。」
そう言っていると竜輝が<Fボール>を網に向かって投げた。
すると網は普通に燃えていった。
「普通に燃えるなぁ。」
「これで行けるぞ!」
七人とブライトたちは燃やした箇所から大蜘蛛に向かっていった。
それぞれで8本の足を破壊すると、最後は竜輝が背中の山をスキルで殴った。
中に爆発物の種が残ってたのだろうか。大蜘蛛は体の中で爆発を起こし、木っ端みじんになった。
「うっへー。汚ねぇ。」
竜輝は大蜘蛛の体液まみれになった。
大蜘蛛撃破に安心していると、奥の方から大蜘蛛が更に4体出てきた。
「あの数は、今のままでは対応できんぞ。」
「ブライトさん、一旦王国軍を引いてください。
あの数相手だと、たくさんの兵が爆発に巻き込まれてしまいます。」
「だがあの敵をここで止めないと、また侵略されてしまう。」
「あいつらは俺たちがここで引き留めます。」
「分かった。兵は下げるが、俺とアレクサンドラは残るぞ。」
「それは心強いです。」
寛人は自分たちが大蜘蛛を引き付けるうちに、王国軍の立て直しのため一旦下がることをブライトに提案すると、
ブライトはアレクサンドラとアイコンタクトを取り、提案を承諾した。
「王国軍よ!隊の立て直しのため、一旦先ほどの封印石の所まで後退せよ!
私たちがこの場を抑えている間に早く行け!」
「ウィー!」
ブライトの号令とともに王国軍は撤退していった、だが、その後ろを戦っていた魔物たちが追っていった。
「あの雑魚程度ならあいつらでも問題ない。」
「うちの残っているメンバーも大丈夫だと思います。」
「それより…。」
遠くの方から大蜘蛛が爆発物を発射していた。
―<アイグネル草原>中央の千佳たち―
「聖也からの連絡で、向こうは大型と戦っていて、こっちに小型が大量に向かって来てるらしい。」
聖也と連絡を取っていた千佳が、みんなに伝えた。
「あっちの援護は良いの?」
「今のところ援護が欲しいとわ…。」
「まぁ私たちはこちらの守りを任されたのだから。」
「うわぁ、大量の兵が戻ってきてるよ。」
各班のサブリーダーとして任されていた、千佳と晴花と美郷と実久が話していると、寛人たちが消えていった方向から、大量の王国軍がこちらに戻ってきていた。
その後ろからは兵の倍近い数の魔物が後を追っていた。
「あれ、多すぎでしょ。」
「文句は言わない。」
「動ける人で対応しましょう。」
「本調子じゃない人を壁の後ろに連れて来て。」
実久が壁を作ると、まだ気分が優れないメンバーを壁の後ろに隠した。
すぐに千佳たちも乱戦となり、動ける数名で魔物と戦った。
「くそっ、弱いのはいいけど、多すぎ。」
「しかもこんなにゴチャゴチャしてたら道具も使えないじゃん。」
翠と深琴は文句を言いながら、実久の作った壁の周りを守るように戦っていた。
実久の壁も敵の攻撃で少しずつ削れていった。
「全然、手が足りないって。」
「翠、横!」
「おいっ!」
実久の壁の横から魔物が壁の後ろで倒れていた楓を攻撃しようとしていた。
深琴に言われて、なんとかその攻撃を抑えることができた。
「弱ってるやつを狙ってんじゃねーよ!」
「ありがとう、月下さん。」
「いいって別に。私はもっと前からお前たちに助けられてたんだから。」
楓のお礼に返事している間、遂に実久の壁が破壊されてしまった。
チャンスと見ていた複数の魔物が一気に壁の中を攻撃しようとしていた。
「しまった!」
「実久!」
巧太を狙った敵は深琴が、実久を狙った敵は翠が倒したが、楓と寿葉を狙った敵は手が足りなかった。
「させるかー!」
翠がその敵を吹き飛ばそうした時に、翠の後ろから2本の剣が現れ、楓と寿葉を狙った敵を倒した。
「おっ、剣増えた。」
「翠、後ろ来てるぞ。」
「えっ。」
翠が振り返るよりも先に、剣が自動で敵を撃破した。
「これ自動かよ。めっちゃ便利。」
「すげぇ。ってお前たちもう大丈夫なのか?」
覚醒を喜んでいた翠の後ろで、休んでいたメンバーが立ち上がった。
「私たちはもう大丈夫です。」
「そうか。なら私も壁だけじゃないとこ見せないとな。」
楓が大丈夫と伝えると、実久も立ち上がり、練習していた盾を使った体術を披露し、翠・深琴の三人で連携を取って魔物を倒していった。
千佳たち残り組の方は、みんなで力を合わせて、粗方魔物が片付いた。
寛人たちの方からは相変わらず爆発音がしていた。
「聖也、こっちは落ち着いたけど、そっちはどうなってるの。」
「こっちは…。ヤバっ…。」
「聖也、聖也?」
千佳は再び聖也に連絡を取ると、会話の途中で聖也の声が聞こえなくなった。
「竜輝、どうなってんの?」
「何人か…。捕まった…。」
実久の連絡に竜輝は息を切らしながら返答をした。
大蜘蛛たちと戦っている竜輝たちはかなりのピンチだと察した。
寛人と連絡を取っていた晴花も、彰と連絡を取っていた美郷も同じ反応だった。
「助けに行かなくちゃ。」
「待って、千佳!」
美郷の手が届く前に千佳は馬に乗って寛人たちの方へ向かった。
「私たちも行くよ。」
美郷はみんなに声を掛けて、千佳の後を追った。
千佳は道の途中で立ち止まってぼーっと何かを眺めていた。
追いついた美郷たちがその方向を見ると、戦っている人の周りに繭の様なものがいくつか落ちていた。
「何あれ。」
「聖也がいない、野上くんも賀来くんも馬宮くんも…。」
千佳の言う通り、寛人と彰と竜輝とアレクサンドラの四人は3体の大蜘蛛と戦っていたが、他のメンバーは姿が見えなかった。
晴花はすぐに寛人のもとに駆け寄り応戦した。
それを見て近距離部隊はそれぞれのメンバーのもとに散り、応戦していった。
「聖也くんたちはどうしたの。」
「来たのか!?みんなそこら辺の繭の中にいる。」
「あの中に!?」
「近距離組で蜘蛛を止めているうちに、遠距離組で繭を安全な場所まで下げてくれ!」
援軍に気づいた寛人は、みんなに指示を出した。
千佳はすぐに繭の近くへ行くと、繭を手で引き千切ろうとしたが、ビクともしなかった。
「伊藤、とりあえず運ぶぞ。手伝え。」
「分かった。」
そう言って翔太は千佳の前の繭を担ごうとしたが、重くてなかなか持ち上がらなかった。
「どんだけ重いんだよ。将文か?」
「それでも重過ぎる。」
何重も巻かれた繭はバイク並みの重さで、二人掛で持ち上げるのがやっとだった。
それをほぼ引き摺るように後ろに下げていった。
「<Tボール>を赤くなっている蜘蛛に投げてくれ!」
1体の大蜘蛛が力を貯め、ドンドン赤くなっていった。
寛人たち先に戦っていたメンバーはすでに<Tボール>も<Fボール>も使い果たしていた。
咄嗟のことでメンバーがもたついているうちに、大蜘蛛は発射させた。
「爆発物が飛んだ!みんな逃げろ!」
爆発物は繭を運んでいた千佳たちの方へ飛んでいった。
「こっち来やがった!」
「させるか!」
他の繭を運んでいた大輔が駆けつけ、巨大な手で爆発物を空中でプッシングした。
その衝撃で爆発物は空中で爆音をあげた。
高度が足りなかったため、大輔は爆発に巻き込まれ重傷を負った。
「大輔!絶対に助けるぞ!」
翔太は大輔を抱え込み、再び繭を引き摺り始めた。
その時、翔太のもとに通知が来た。
「(通知が来た。このスキルは…。)
伊藤、こっちは任せて他のフォローに行ってくれ。」
「でも、1人じゃ無理だって。」
「このスキルなら問題ない。」
そう言って翔太は逃げようとしている方向に青色の矢を放つと、繭と大輔を抱えたまま瞬間移動していった。
「えっ!?」
一瞬の出来事に千佳は言葉を失ったが、すぐに別の遠距離組に合流して繭運びを手伝った。
その後も翔太は中継ポイントの矢への瞬間移動を利用して、あっという間に爆発物の射程圏外に全ての繭を運び出した。
「回復と盾部隊は私にと一緒に繭を壁があったところまで運ぶをの手伝って、弓部隊は近距離組の援護をお願い。」
千佳が支持すると回復部隊と盾部隊で馬の上に繭を乗せた。
さすがにその上に人が乗ると馬も動けなくなるので、馬を引いて封印石の所まで向かった。
弓部隊はすぐに寛人たちのもとへ向かった。
「捕まった人の糸は過ぎに切れ!罠は<Fボール>で燃やすんだ!」
「寛人どうする。ほとんどスキルが使えないぞ。」
寛人の指示のもと近距離組は奮闘していたので、大蜘蛛は2体に減っていた。
しかし有効なスキルはほとんど使い果たしており、更に長期戦で栄養食も食べきっていたので、回復しても再びスキルを使い切ることは出来なかった。
「(道具は後どんだけ残ってるんだ。この状況だと数えることもできない。)」
寛人はいい案が浮かばず、今は敵の攻撃を躱しながら足への攻撃を繰り返していた。
幸い糸の罠は時間がたてば溶けていくので、周りが罠だらけで八方塞がりになることはなかった。
そこへ弓部隊が応戦を開始した。
「繭は運んでくれたか。」
「えぇ、もう無事よ。」
寛人は弓部隊の援護と美郷の答えに安堵した。
近距離だけだと大蜘蛛は糸と足の攻撃しかしかけてこないが、遠距離攻撃があると発射攻撃で隙ができるため、一気に攻めるチャンスが生まれる。
しかし終了の時間はすぐそこまで来ていた。
「お前たち、そろそろ下がれ!<ラテラ>の日が落ちる!」
「みんな、日が落ちる前に逃げるぞ!」
アレクサンドラが叫ぶと寛人はすぐに後退の指示を出した。
だが、結界の境まで1キロ近く離れていたが、大蜘蛛が追ってきたので馬を呼ぶことが出来なかった。
「足が速いやつはここで時間を稼ぐぞ!あとは<Tボール>を投げてすぐに逃げるんだ!」
寛人・彰・竜輝・翔太・菊池の五人が残り、あとは残っていた<Tボール>を大蜘蛛に向かって投げて境界まで走っていった。
1体は電撃で動きを止めたが、もう1体は少しだけ動きが止まったが、すぐにまた暴れだした。
五人はその1体に絞って、足止めをした。
寛人を後ろを見ると先に逃げた者は、だいぶ姿が小さくなっていた。
「俺たちも逃げるぞ!」
寛人たちは再び逃走を始めた。
残り約200メートルの辺りになると<ラテラ>は完全に落ち、結界内は真っ暗になった。
五人以外は結界の外で帰りを待っていた。
「くそっ。」
「どうした寛人!?」
「何でもない早く出るぞ!(糸か。)」
寛人は足を糸に掴ってしまいすぐに糸は切ったが、暗闇で敵を見失っていたため、後ろからの大蜘蛛の足に気付かず足の裏を刺されてしまった。
「(これだとまともに走れねぇ。)」
「やっぱり何でもないわけなかったな。翔太こっちにいたぞ!」
寛人を見つけた彰がマッチで翔太に位置を知らせると、翔太が直ぐに来た。
その後ろでは大蜘蛛が再び足で攻撃を仕掛けようとしていた。
翔太は寛人と彰の手を握ると瞬間移動した。
先に外に出ていた翔太は外に一旦出た後、矢を刺してから再び結界の中に潜り込んでいた。
「ありがとう。命拾いした。」
「当然だって。」
寛人と翔太は笑顔で握手を交わした。
〔寛人RP8〕
〔聖也RP13〕
〔彰RP14〕
〔将文・秀吉RP15〕
〔竜輝・菊池・楓・玲奈RP16〕
〔省吾・美郷・晴花・胡桃RP17〕
〔大輔・翔太・巧太・千佳・翠・深琴・梓紗・菫RP18〕
〔灰島・純・勇樹・実久・寿葉RP19〕




