20 6日目:攻落の始まり
20 『6日目:攻落の始まり』
6日目の昼前、寛人たちが起きると、王国軍がすでに<Rボール>の素材を届けに来ていた。
早くに起きていた灰島が受け取ってそのまま合成室まで運んでいた。
寛人は昼食を食べると、みんなに昨日の参謀たちと話し合った壁攻略の作戦内容を説明した。
「王国軍があの壁一辺の距離を測ると約300メートルだったらしい。
そこで正面の壁の上を全てブロックで埋めて、中央に幅10メートルで3段の階段をブロックで作成する。
階段まで作り終わったら、ブライト部隊の内3部隊が階段を登り、壁沿いを一周して弓兵を相手する。
残りの部隊は下で壁以外の敵の出現に備える。
俺たちはその後に登って、壁の本体を相手する。
アレクサンドラ部隊は壁の向こう側に先行して、敵の増援を相手する。」
寛人は大きく図を描きながらみんなに説明した。
「それだと単純に<Rボール>が360個は必要ですね。」
図を見ながら純が計算した。
「そうだ。予備の分も含めて400個分の素材を王国軍に送ってもらった。」
「そんな量どうやって持ち運ぶんだ。」
「素材と一緒に馬に掛けるカバンを預かってるから、1人15,6個ずつ運べばいい。
今日砦に付いたら、まず馬を取りに行ってくれ。」
400個という大量の<Rボール>を運ぶために、寛人は事前にカバンも用意してもらっていた。
「それで俺たちの作戦だが、本体は天井部分を自由に移動していて、いつどこで姿を現すか分からない。
なので天井を4つに区切り、左上をA班、右上をB班、左下をC班、右下をD班で対応する。」
「4つに区切るって言っても、それでも150メートル平方はあるぞ。」
「それは各チームでフォローし合ってくれ。
それと最後に、昨日火と氷と地の<イーボ>が現れた。
2日で復活するとなると、今日は雷の<イーボ>が出現する可能性が高い。
だが、その相手は王国軍がするから、俺たちは始まったら真っすぐに壁に向かってブロックを用意する。」
寛人の説明が終わると純は早速盾部隊と回復部隊で<Rボール>の作成に取り掛かった。
攻撃部隊は少しでもステータスの底上げをするために、訓練を行った。
そのメニューの中に、彰が提案した覚醒胡桃による武術指導が入った。
自由時間はあっという間に過ぎていき、夕食を食べ、砦に向かった。
砦に着くとリーダーたちは会議室へ、それ以外のメンバーは馬を取りに行った。
リーダーたちもほとんど計画は決まっていたため、ものの数分で戻ってきた。
「早速草原へ向かう。作戦は昼に話した内容と変わらない。」
みんな合流すると、寛人たちはすぐに昨日と同じ開始地点へ向かった。
そこにはすでに第18番隊が到着しており、隊長のロベルトが近づいてきた。
「手紙を書いてきた。今日の戦いが終わってから読め。」
「分かった。」
寛人はロベルトから手紙を受け取ると、ロベルトはすぐに隊の元に戻った。
寛人もその手紙を誰にも見られないようにポケットの中にしまった。
「また18番隊の隊長だろ。今度はなんて?」
「戦いの後に話す。今は壁攻略に集中だ。」
寛人とロベルトのやり取りを見ていた聖也が話しかけてきたが、寛人は戦い前だったので、手紙のことは黙っておいた。
昨日よりも早く着いたため、待ち時間も長くなったが、<ラテラ>の日が差し込み、戦いが始まった。
開幕で寛人たちの前には雷の<イーボ>はいなかった。
「よし、すぐに壁に向かって、ブロックの準備をするぞ。」
寛人たちは壁まで真っすぐに向かっていった。
南の方を見ると雷が落ちたので、どうやらアレクサンドラ部隊の所に雷の<イーボ>が出現したようだった。
ブライト部隊も真っすぐ壁の方へ向かっていた。
今日は昨日と違い壁周辺にも魔物が出現していた。
「俺たちは魔物に構うな。」
その敵は王国軍に任せて、壁まで数十メートル近づいたところで馬を降り、<Rボール>を投げまくった。
A班は左端、B班は右端、C班とD班は中央から壁の上を埋めていった。
1分も経たないうちに壁の上が埋まっていった。
「階段はC班とD班で作成するから、他は雑魚の対応を頼んだ。」
C班とD班はすぐに階段の作成に取り掛かった。
階段はずれて足がはまらないように、一つ一つ整頓しながら置いて行った。
そのため壁の上を埋めるよりは時間がかかったが、階段は綺麗に仕上がった。
階段が終わると寛人は上空へダイナマイトを投げ、ブライト隊に完了を知らせた。
「王国軍が通る、A班とC班は階段の左側、B班とD班は階段の右側で敵を押さえてくれ。」
言われたとおりにメンバーは散らばって、王国軍が階段を上る邪魔となる敵を排除していった。
最後の王国軍が登りきると、寛人は再度みんなに合図を送り、寛人たちも上に登った。
上では王国軍と弓の彫刻が大乱闘をしていた。
「みんな所定の位置に向かってくれ!」
事前に取り決められた位置にみんな向かった。
地面を移動している影は早速C班の所に向かって来ていたので、寛人は早速その影を斬った。
案の定全く効果はなさそうだった。
その後は影から頭を出すのをじっと待ったが、C班の所では頭を出さずにA班の所に向かった。
「A班の方へ向かったぞ!」
「任しとけ!」
A班の所に向かった影は真ん中あたりで頭を出した。
近距離では届かない位置だったので、美郷が矢を放った。
矢は頭をかすめ、また天井に潜って今度はB班の方へ向かった。
「B班そっちに行ったぞ!」
「了解!」
B班のもとにやって来た影は、今度は千佳の足元で頭を出した。
驚いた千佳はその頭を踏んづけた。当然効果はなくすぐに潜ってD班の所へ向かった。
「竜輝、行ったぞ!」
竜輝は影が現れると頭を出すとか構わず地面を殴打した。
勘所が良い竜輝の攻撃は本体には届いてはないだろうが、影を確実に打っていた。
影は頭を出すことなく今度は中央へ向かった。
竜輝をそれを負って中央へ向かった。他のリーダーたちも中央へ向かっていった。
中央に着いた影は頭を出したので、チャンスとばかりにリーダーたちは攻撃を仕掛けたが、本体は悲鳴を上げた。
「何だこの声。」
「力が入らない。」
本体の悲鳴で近くにいたリーダーたちは金縛りの様に体が固まった。
更に、本体が天井を叩くと天井は水を叩いたように波打ち、本当に波に乗っているような感覚に陥った。
巧太や楓は乗り物酔いをするタイプだったので、気持ち悪くなってしゃがんだ。
それを確認した本体は、楓の方へ向かっていった。
「B班、そっちに影がいったぞ!」
影は一直線で楓の方へ向かい、しゃがみ込んでいた楓の足を掴むと、天井の中に引っ張り込んだ。
省吾と大輔が手を掴んで引っ張ったが、楓はそのまま引きずり込まれた。
「楓!楓!」
千佳は天井を叩いたが、何の反応もなかった。
暫くすると影はまた現れ、今度は巧太の方へ向かった。
「今度は巧太の所に行ったぞ!」
狙いが分かっていたので、翠と深琴が巧太のもとに行き、影から手が出た瞬間に、その手を切り落とした。
すると本体はまた怒り狂ったように悲鳴を上げ、両手をばたつかせた。
D班の領域全体に激しい波が立ち、それにはD班の全員がバランスを崩した。
すると本体は翠の手を掴むと天井に潜っていった。
近くにいた勇樹が反対の手を引っ張ったが、またも連れ去られてしまった。
「翠!翠を返せ!」
深琴は槍を振り下ろして地面を打った。やはり反応はなかった。
怒りに満ちた深琴は更に地面を叩いていくと、今度は深琴が叩いた地点から水紋が発生した。
すると本体が気絶したかのようにC班の所に浮かんできた。
初めて全体を現した本体は、まるで人魚のような姿だった。
更に楓と翠も捕まった地点に浮かんできたので、すぐに心臓マッサージをすると気絶していただけのようで、すぐに息を戻した。
浮かんできた本体はすぐに正気に戻ると、また天井に戻り、今度は高速でグルグルと回り始めた。
「やべー。渦だ!」
「みんな端に寄れ、飲み込まれるぞ!」
天井の中央には大きな渦が発生していた。
みんなはすぐに四隅に退避したが、渦の中央で本体が悲鳴を上げると、隅まで辿り着けなかった数名が渦に飲み込まれていった。
やがて渦も収まると本体はまた高速で回り始めた。
「深琴!もう一度地面を打って!」
「分かってるよ!」
竜輝の指示で深琴はさっきより強く地面を打った。
すると高速で泳いでいた影は止まり、今度は灰島の目の前に浮かんできた。
灰島はすぐにスキルで本体を拘束した。
そして近くにいた彰と秀吉と共に本体を攻撃し、人間サイズだった本体はすぐにコアも破壊され消滅していった。
「やったぞ!」
彰が叫ぶと、周りの王国軍も叫び、それはぐるっと伝染していった。
本体がいなくなると壁も消滅していき、その後には封印石と渦に飲み込まれたメンバーがいた。
飲み込まれたメンバーは同様に心臓マッサージをすると意識を戻し、寛人は封印石を破壊した。
「終わったか。」
「はい。」
後には雷の<イーボ>を撃破したアレクサンドラが合流していた。
壁攻略を確認すると、アレクサンドラ部隊はすぐに次の封印石の方へ向かっていった。
「お前たちよくやった。」
「王国軍が弓を押さえてくれたおかげです。」
「作戦だからな。だが本体はお前たちでなければ倒せなかった。」
「いいえ、それもたまたまです。」
「謙遜するな。」
ブライトは大笑いをしながら寛人の肩を叩いた。
「俺たちはアレクサンドラ部隊を負って、次の封印石に向かう。
お前たちは少し休んでくるといい。」
「ありがとうございます。」
ブライトはそう言うと、すぐに部隊を引き連れてアレクサンドラと同じ方向へ向かった。
本体との戦いでは結局誰もやられなかったが、単純に酔いが残って気分が悪い者もいた。
怪我ではなく酔いなので、治療はなくただ回復するのを待った。
20分もすると漸く全員復帰した。
「よし。王国軍を追うぞ。」
「もう少しゆっくりしていこうぜ。」
復活してすぐ出発しようとした寛人を聖也は引き留めた。
「そうだな。(ちょっと焦りすぎたか。)」
寛人はみんなの顔を見ると、まだ疲れが顔に出ているものもいたので、素直に従った。
再び全員で寛いでいると、ドカーンと大きな爆発音がし、ブライトたちが向かった方で煙が上がっていた。
「何ださっきの爆音は。」
その衝撃にメンバー一度唖然としていた。