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グレースネヘス  作者: たつG
18/41

18 5日目:再試合の始まり

18 『5日目:再試合の始まり』


砦に到着した寛人たちは、例のごとくリーダーだけ3階の会議室に向かった。


「竜輝、粗相はすんなよ。」

「分かってる。俺も場はわきまえるって。」


隊長の中には高圧的で態度のデカい人もいるので、彰は喧嘩っ早い竜輝がガンを飛ばさないか心配だった。

竜輝は口では大丈夫というが三人は扉の前で更に念を押した。

中に入ると包帯を巻いた細身で小柄な男性がアレクサンドラの横に座っていた。


「やぁ、君たちが<ウィザラー>だね。話は聞いているよ。」

「よろしくお願いします。」


その男性はすごく気さくな感じで話を掛けてきた。

雰囲気からして3人目の英雄アンドリューである。


「小さくて驚いたかい。実際はこの二人がデカいだけだよ。」


アンドリューは冗談っぽく笑いながら話した。

アンドリューの言う通り、隊長の中でもブライトとアレクサンドラ並みにデカい隊長は一人もいない。

反対にアンドリューが平均的な体型だといってもいいぐらいだった。


「アンドリューもういいだろう。時間が惜しい。君たちも座り給え。」

「いや、悪い。久しぶりに話すもんでね。」


四人はまたブライトに促されて席に座った。

アンドリューがいるせいか、昨日より会議室の雰囲気が明るく感じた。


「おっほん。では今日の会議を始めるが、昨夜の戦いで戦線を二日前の状態まで戻した。

前の戦いでこちらは戦力を4割失い、敵は守護獣の<イーボ>を失った。

傷みは五分と言っていいだろう。」

「だが気を付けて欲しい。」


会議を進行するマーティンを遮って、アンドリューが発言を始めた。


「私は雷の<イーボ>との戦いで奴と互角にやり合い、封印石の方へ追い込んだ。

だが、石の周りは霧が濃く、しかも数百メートル四方の高い壁に囲まれていた。

確認しようと近づいたその時に何者かに不意打ちを食らい、その隙を見逃さなかった<イーボ>が追い打ちをかけ、今の状況だ。

壁には何か隠されている。十分に気を付けろ。」


アンドリューは二日前の状況を説明した。

<イーボ>と互角にやり合う英雄に不意打ちを食らわせることができる何かが潜んでいるらしい。

この説明だけで壁を警戒することは必須であると一同気を引き締めた。


「そこで壁の内側への進行をブライト部隊と<ウィザラー>で。

アレクサンドラ部隊は壁の周りに出現する魔物の対応を。

隊の編成は昨夜と同じとする。」


ただ壁を越えて封印石を破壊するだけなので、寛人たちは今までの戦いよりは楽な気がしていた。

気になるのはアンドリューを攻撃した正体だけである。


「今回は封印石を囲う壁もそうだが、敵が前回の討伐戦では使っていなかった戦術を出し始めた。

そこで慎重を期して壁の攻略を目標とする。達成後に単独で深追いすることがないように。以上だ。」


隊長たちと一緒に寛人たちも英雄と参謀に敬礼をして会議室を後にした。

今日は呼び止められることはなかった。

四人はみんなが待っている訓練所に向かった。


「壁の中の封印石を破壊するだけなんて、楽勝じゃねーか。」

「アンドリューさんに不意打ちを食らわせた正体が気になる。」

「霧の中で壁の上からの攻撃に反応が遅れたんだろう。」

「多分そうだろうな。」

「それよりアンドリューさんは気さくでいい人だったな。」

「そうか?アレクサンドラの様なクールな男がいいに決まってんだろ。」

「ブライトさんは…。」

「あの人は見た目マフィアのボスじゃん。怖すぎる。」


訓練所に向かう途中に四人は、今日の会議について雑談をしていた。

訓練所に戻るとみんなもワイワイと話をしていて、雰囲気は初日を思い出す。

みんなの雑談を止めて、寛人は今日の作戦について説明を始めた。

メンバーの表情は一気に真剣になり、それは初日にはなかったものだった。


「…ということで、今日の目標はその壁の中になる封印石の破壊になる。

早速草原まで向かうので、今から馬を取りに行く。」


そう言って、寛人たちは馬小屋まで向かった。

そこにブライトが馬を取りに来ていた。


「お前たち。そう言えばさっき言い忘れていたことがあった。

今日の初期配置だが、お前たちは一番右端になる。」

「分かりました。」

「ちゃんとした位置は向こうで、それでは私は先に向かう。」


寛人たちに初期配置の場所だけ伝えると、ブライトは馬に跨って、部隊を引き連れていった。

寛人たちも馬を受け取ると、そのまま<ハンデウィーズ森林>と<アイグネル草原>の境界に転移した。

そこから草原にある結界の端まで馬を走らせた。当然ほかの王国軍は到着していなかった。

とりあえず馬を逃がし、寛人たちはブライトの到着を待った。

すると一番早く到着したのは、隠密部隊でもある第18番隊だった。

隊長のロベルトは寛人たちに気づくと、こちらにやって来た。


「私は第18番隊隊長のロベルトだ。そして<ウィザラー>の子孫である。

お前たち<ウィザラー>に1つ忠告しておく、こっちの世界の人間をあまり信用するな。

詳しくはいつか話す。」

「何だそれ、ってオイ!」


ロベルトは伝える事だけ伝えるとそそくさと南の方へ離れていった。

間もなくブライト隊が到着した。部隊には歩兵もいるので、とりあえず騎兵隊が先に到着したようだった。

ブライトも寛人たちに気づくと近づいてきた。


「お前たちの方が早かったか。ここから1キロほど中に進むと例の壁がある。

お前たちはここから500メートルほど北に向かった地点で待機してくれ。」

「分かりました。」


ロベルトに言われたことはかなり気になったが、寛人たちはブライトの指示通り北へ向かった。

初期配置は南から第18番隊・アレクサンドラ部隊・ブライト部隊・<ウィザラー>となった。

歩兵含めて全員揃うと、やがて<ラテラ>の日が上がってきた。

そして薄っすらと時の姿が見えてきた。


「嘘だろ!?あいつって…」

「あぁブライトさんがこの前戦っていた…。」


寛人たちの前に現れたのは2日前にブライトが戦っていた二頭の恐竜、地の<イーボ>だった。

恐竜は確かに2日前にブライトたちによって討伐されたことを寛人たちはその目で見ていた。

復活したのか別の個体か分からないが、恐竜はうずくまって寝ているようだった。

王国軍はすでに戦闘に入り、寛人たちの近くにいた部隊は恐竜の所へ駆け寄っていた。


「寛人、俺たちも行くぞ。」

「分かった。みんな<イーボ>との戦いになるので、パターンYで行く!」


みんな返事をすると、4チームで別れていたメンバーはすぐさま武器ごとに整列しなおした。

整列しなおしたころには先陣を切っていた部隊が恐竜を攻撃し始めていた。

恐竜は目を覚ますと立ち上がり、雄たけびを上げた。全長は7メートルを超えるほどあった。

その長い首をしならせ地面を叩き、それによる地響きは少し離れていた寛人たちの所にも届いた。


「まるで地震だな。」

「だが立ってられないほどじゃない。

盾と近距離で恐竜に近づく、弓は頭を狙ってくれ!」


そう言って盾と近距離で恐竜に近づいていくと、恐竜は器用に地面を尻尾でえぐると、その土の塊を寛人たちに向かって投げてきた。

威力はないが、大量の土に何名かが埋もれたので、みんなで掘り起こしていた。

すると後ろの弓部隊から叫び声が聞こえた。


「上だ!上に気を付けろ!」


手を止めて上を見上げると、恐竜が飛び込んできていた。

掘り起こしていたメンバーはそれを避けたが、恐竜は投げた土をプレスすると先ほどの首以上の揺れが発生した。

近くにいた盾と近距離組は立つこともできない状態だった。

プレス攻撃あとの恐竜は数秒動かなかったが、近くにいた者も同様だった。

それでも聖也のスキルで長い首のコアは破壊できたが、他はデカい体の中に入り込んでいるため、威力が足りなかった。

揺れが弱まると近距離組も攻撃を始めたが、恐竜が地団太を踏むとバランスをとることがやっとであった。


「近距離組が体勢を立て直すまで、頭を集中して狙え!」


聖也の指示のもと弓部隊は攻撃を仕掛けていた。

すると後方から馬が駆ける音が聞こえ、蘇生した寛人たちが馬に乗って戻ってきた。


「みんな戻って馬に乗れ!人間のスピードだと躱せない!」


そう叫ぶと寛人はスキルで恐竜の前足を狙った。

前足は切断され恐竜は体勢を崩したので、そのすきに近くにいた者は後方に戻って馬を呼んだ。


「ブライトさんの応援を呼びたいがどうする。」

「この地震で増援がないのだから、向こうにも<イーボ>が出現したのかも。」

「俺たちでやんなきゃダメか。」


聖也は以前に地の<イーボ>を倒したブライトの支援を期待したが、寛人の言う通り<イーボ>が複数出現したのなら、その可能性はゼロに近い。


「奴のコアは残り3箇所だが、どこも硬くて俺のスキルでは届かない。

多分寛人のスキルしか中まで届かないんじゃないか?」

「近距離で安定して攻撃できれば、他にも通用するかもしれない。」

「でも近づくのは簡単じゃないぜ。」


そう話しているうちに恐竜は再び立ち上がった。寛人が斬った足も再生していった。


「<イーボ>は相変わらず再生するのか…。」

「これは一気に仕留めないと、削ってもコアに届く前に回復される。」

「寛人、あれ使って見ようぜ!」

「あれ?」

「<Sウェーブ>ってやつだよ。」

「そうだな。今はそのタイミングかも。」


恐竜の足元で王国軍が交戦している間に寛人たちは体勢を立て直し、作戦について話した。


「みんな。今から近距離組で恐竜の近くまで行き、新兵器の<Sウェーブ>を使う。

威力ははからないが確実に敵の足止めはできると思うから、首の根本付近のコアは鎚部隊、

尻尾付け根付近のコアは槍部隊、そして一番深い中心のコアは剣部隊で一気に攻撃する。

仕留めきれなかった場合に備えて、大輔も一緒に来て奴をできるだけ押さえつけてくれ。」

「了解」「分かった」


みんなは作戦を確認すると合図をした。

近距離組は恐竜に近づいていくと、5メートル手前で寛人は<Sウェーブ>を投げた。

すると<イーボ>は完全に動きが止まり、その場に倒れた。


―鎚部隊―


「どいてろ。」


竜輝はみんなを下げると、首の付け根に立ちスキルで攻撃した。

肉は抉れたが、まだコアは見えなかった。もう一度スキルで攻撃するとコアが見えてきた。

そこで竜輝は再度スキルで攻撃するとコアは砕けた。


「ざまーねーな。」


竜輝単独でコアを破壊した。


―槍部隊―


「さてどうしたものか。」


彰はどうやってコアを破壊するか悩んでいた。

すると後ろから覚醒した憑依モードの胡桃が声を掛けた。


「私がジャンプしたら、この地点で交わるように十字に切り付けて欲しい。」


そう言うと胡桃は高くジャンプした。

彰と楓は言われた通りタイミングを合わせ、十字に交わるように斬りつけると、その交わった部分に胡桃が真っすぐ槍を突き立てた。

更に槍の上を飛んで踏みつけることを繰り返していくと、ドンドン槍は埋まっていき、半分くらい埋まった地点で、胡桃の槍がコアに届いた。


「破壊したのか。」

「えぇ。」

「お前凄いな!なぁ後で戦い方をみんなに教えてくれないか。」

「考えておく。」


槍部隊も難なくコアを破壊した。


―剣部隊―


「コアは俺に任せて、みんなは恐竜が意識を戻しても、過ぎに立ち上がれないように足を攻撃してくれ。」

「分かった。」


寛人以外は指示通り足の方へ向かい、寛人は上段構えで集中力を高めていた。

深呼吸して気を高めると、思いっきり剣を振り下ろしスキルを発動した。

恐竜の体はコアごと真っ二つになり、恐竜は消滅していった。


「寛人、お前やっぱすごいよ…。」

「俺もこれほどの威力が出るとは思ってなかった。」


間近で見ていた省吾は感動して声を漏らした。

寛人も自分の攻撃威力に驚いていた。


斯くして地の<イーボ>を倒した寛人たちは壁に向かって突き進んだ。

一緒に戦っていた王国軍はブライトたちの方へ戻っていった。

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