17 5日目:支援人の始まり
17 『5日目:支援人の始まり』
あの悪夢の初戦から4日目にして、再びクラス一丸となって戦うことになった。
覚醒したメンバーも日に日に増えていき、すでに半数を超えていた。
昨夜の徹夜で強力な道具を完成させた純は、早速休憩所近くにいた寛人に報告した。
「咲田くん、言われてた攻撃用の道具ができたよ。」
「そうか、早速どんなものか見せてくれ。」
純が寛人の所に様々な道具を持っていくと、興味津々の男子たちが集まった。
純は6種類の道具を完成させていた。
「それでは1つずつ説明していきます。まずこの赤の球は<Fボール>です。
投げて何かに接着すると、その1秒後に炎が発生します。」
純がそれを木に向かって投げると、球は木に接着し、炎を上げた。
「次のこの緑の球は<Tボール>です。これは接着すると電流を放出します。」
次は隣の木に向かって投げると、球は木に接着し、稲妻が発生した。
「次のこの黄色の球は<Rボール>です。地面に落ちると岩のブロックを発生させます。」
次は適当に放り投げると、球は地面に落ちた瞬間、1メートル四方のブロックが出現した。
「次のこの青の球は<Mボール>です。スイッチを押して投げると、5秒間に魔物にとって毒となる霧を発生させます。」
また適当に放り投げると、球から白い霧が発生した。試しに純がその霧を吸ってみても人体に影響はなかった。
男子たちはおーっと声を上げ、不思議なボールに感動した。
「ちなみにこの4つは威力がさほど高くないので、雑魚敵には効果がありますが、
大型の敵や強敵にはあまり効果は期待できません。
でも街や採取可能な範囲の素材で作れるので、量産はできます。
次は強力ですが、素材が高価だったり、敵の一部が必要なものを説明だけします。
まず1つ目は昨日ライオン頭に使用した<Eクラスター>です。
これはスイッチを押して5秒後に半径3メートルの円の下方向にエネルギー弾を50発撃ち込みます。
もう1つはまだ未使用ですが、<Sウェーブ>と言って、地面に叩きつけて割ると、25メートル以内の魔物に対して気絶効果のある音波を発生させます。強敵でも隙を作る程度はできます。
<Eクラスター>はお金があれば量産できますが、<Sウェーブ>は<イーボ>の中にある結晶が必要なので、この3つが最大です。」
「<Eクラスター>の素材はいくらするんだ。」
純の説明が一通り終わると、寛人は強力な道具の作成に必要な金額を聞いた。
「1つ7,000グロスします。」
昨夜の報酬が84,000グロスの報酬で、解毒剤1つ30グロスなので、そこそこ高額ではあった。
28名分の食料と生活に必要な資源の金額を引いたら、最大7つは買えるが、全てを使うのは得策ではない。
「とりあえず<Eクラスター>は盾役の分で計4つ、<Sウェーブ>は今はまだ貴重だから、まだ温存しておきたい。」
「1つぐらい試しに使って見ようぜ。」
慎重派の寛人に対して、行動派の聖也は1つ今夜の戦いで使うことを提案した。
これについては周りの意見は聖也側が多く、純も実際に使って見た方が良いという意見だったため、
寛人も折れて、今夜使うことになった。
「ただし、俺が持って、俺が必要だと思った時に使うぞ。」
「それは構わない。でも絶対に使えよ。」
聖也は寛人に念を押した。
純による道具のデモンストレーションが終わると、今まで各々で何となくやっていた訓練を、しっかりとメニューを組んでやることになった。
剣は寛人、槍は彰、鎚は秀吉、弓は美郷、盾は将文を中心に訓練を実施した。
回復役はケガ人の治療をしながら、敵と1対1になった場合を想定した護身術の訓練をしていた。
グローブでは殴ってもダメージは少ないものの、急所に当たれば時間が稼げるので、支給される攻撃道具の性能を踏まえ的確に判断する能力を培っていた。
「今日は初日だからここまでにしよう。」
訓練から1時間立つと寛人が終了の合図を出した。
早くから戦場に出ていたメンバーは全く息も乱れていなかったが、参加が遅くなるにつれて息も荒くなり、立つのがやっとの人もいた。
運動部や文化部関係なく、経験によるステータスの差が顕著に現れていた。
寛人は訓練の後、くたくたになっていた純を捉まえて、休憩所に連れて行き、改良装備の性能について聞いた。
「純、昨日の戦いで、ローブが雷に強かったり、近距離の防具が幻覚に強かったりと効果が違ってたんだが、そういう特殊な効果って狙って改良できるのか?」
「そんな効果があったのですか!?」
純は驚いてライブラリを確認したら、防具の性能に記載があった。
「合成前ではステータスの上昇値しか確認できなかったで、作ってみないとどんな効果が付くのかは分からないです。
ローブと胸当てでは改良に使用できる鉱石が違ったので、鉱石によるパターンはあるかもしれません。」
「そうか。なら片っ端から合成していくしかないか。」
「こういうのは大体後半にいい効果を持った素材が手に入るので、今は単純にステータスの上昇値をみて改良していけばいいと思います。」
「純がそう言うならそうする。」
自由時間は刻々と過ぎていき、久しぶりに戦場に出るメンバーは緊張を隠せなかった。
その中で今日は通常時のチーム分けや特殊時のフォーメーションを話し合うため、夕食前にみんなで集まった。
そこには体調が回復しつつある中島が久しぶりに顔を出した。
「中島さん、もう体の方は大丈夫なのですか。」
「いえいえ、まだ本調子とはいきませんので、戦うことはできませんが、当事者として状況は聞いておきたいと思いまして。」
菊池が中島に尋ねると、割とはきはきと受け答えができていた。
その横には伊丹の姿もあったが、難しい表情をしていた。
「今日から26名で戦場に行くので、チームも4つに分けることにした。
リーダーは引き続き俺と聖也と彰、そして新たに竜輝もリーダーとしてみんなを引っ張ってもらう。」
「今までは迷惑をかけたかもしれないが、これからはお前たちを守る。」
寛人が新リーダーを紹介すると、竜輝はさっと立って意気込みを言うとすぐに座った。
みんなは軽く拍手をした。
「それで肝心なチームだが、すでにリーダーで話し合って決めた。
武器・相性・ステータスを踏まえて分けてあるが、今後も戦う中で変わる可能性はある。」
そう言って寛人はポケットから紙を出して、事前に決めたチーム分けを発表した。
「まずはA班。リーダーが彰でメンバーは、秀吉・純・英水・橘・新山と灰島先生。
B班。リーダーが聖也でメンバーは、省吾・大輔・千佳・赤司・琉堂。
C班。リーダーが俺でメンバーは、将文・翔太・篠宮・金野・楽間。
最後D班。リーダーが竜輝でメンバーは、巧太・勇樹・渡瀬・月下・禅野と菊池先生。」
「咲田。昨日みたいに洞窟が敵に侵入される可能性があるので、私たちは洞窟に残るぞ。」
チーム分けを聞いた灰島は、昨夜の事があったので、菊池と二人で洞窟内の防衛をすると提案した。
「その心配はありません。今朝の報告で、洞窟付近に警備兵を置いてもらうことになりました。
何かあれば中島さんか伊丹さん、連絡をお願いします。」
「あぁ、構わない。」
「ではモニタールームを使うと良いです。」
寛人は洞窟に警備が付くことを報告すると、灰島は納得した。
中島も快く何かあった時の連絡係を引き受けた。
「次に個別部隊だと難しいと判断したときの陣形変更について説明する。
まずパターンXは大型が複数出現した場合などで、A班とB班、C班とD班が合流する。
パターンYは<イーボ>のような強力な範囲攻撃をする敵が現れた場合は、盾・近距離・弓・回復の順番で並んで様子を見ながら戦う。
パターンZはそれよりも強力な敵が現れた場合、リーダー四人と秀吉・将文・省吾の七人で敵を相手し、他のメンバー距離を大きくとって、周辺の敵の討伐に当たってもらう。
その際リーダーは他のメンバー誰かと常に連絡を取っている状態にし、負傷者の援護やスキルによってメンバーの変更を行う。」
みんなは寛人が伝えた作戦を隣と確認しながら覚えていった。
「とりあえず作戦については以上で、何かあれば各チームのリーダーに聞いてくれ。」
寛人の説明も終わり、みんな夕食の準備をしようとしたら、勇樹が呼び止めた。
「みんなに言っておきたいことがあります。」
そう言って勇樹は中央に進んでいった。
「僕は支援人です。君たちが初日にあった案内人の双子の弟です。
と言ってもこの高島勇樹という器を少し借りているだけなので、彼の意識も当然あります。
君たちがこちらの世界に飛ばされた夜、一番に気が付いたのが高島勇樹で、そこで私は彼と契約を結び、意識を間借りしていました。」
突拍子もない勇樹の発言にみんな驚いたが、その話をしっかりと聞いていた。
「契約とは何ですか?」
契約と聞いて少し不安を感じた菊池が尋ねた。
「私が皆さんの支援のために教える情報を代わりに伝えてもらうことです。
皆さんへの通知も彼に送ってもらっています。」
寛人たちも思い返せば勇樹発信で発見した場面がいくつもあったので合点がいった。
支援人は案内人の様に嫌な顔することなく答えてくれた。
「何で今出てきたのですか?」
今度は単純にタイミングが気になった楓が質問した。
「本来僕の仕事は皆さんを戦場に立たせるためのサポートなのですが、
こうやって皆さんが戦場に出る意思を見せてくれているので、最後に伝えることを伝えて去ろうと思っています。
安心してください。高島勇樹はそのまま残ります。」
勇樹が解放されるということに、先生たちはとりあえず安心した。
「気付いている人もいるかもしれませんが、この世界の行動は全て経験値として積み重なります。
それとRPが低い人の方が経験値が上がりやすくなっています。
それと本来なら魔物はこの洞窟を見つけることは出来ないのですが、封印石は欠片でも魔物を寄せ付ける力があります。
なので持ち帰るのは最後にして、すぐに加工した方が良いですよ。」
行動については純の予想通りだったが、RPが上昇率に関係することは考えていなかった。
だから、ほぼ同じタイミングで出た寛人と聖也に、今でも差が出ていることに納得した。
封印石については、そんな危険な物なら事前に教えろと多くのものが思った。
ここまで支援人がひとりでしゃべっていたが、
寛人は今までモヤモヤしていたことがあったので、支援人に質問をぶつけた。
「覚醒は元の世界に戻るための条件なんですか。」
「あぁ、こっちとしては条件では無かったのですが、魔王が城に入る条件にしちゃいました。
魔王の城で魔王討伐の証を授けないと戻りません。」
「じゃあ覚醒する条件は。」
「多くは語れませんが、有名な言葉に『苦難が最大の場合、救いの手も一番手近にある』というものがあります。」
「それじゃ分からないです。」
「私から言えるのはこれくらいです。ほかにありますか。」
寛人が黙ると、支援人は他にないか確認を取った。
「これ以降はあなたと連絡を取る手段はないのですか?」
「ないです。あなたたちはもう元の世界に戻る条件をすべて理解しているはずです。
あとはあなたたちの手でその権利を手に入れてください。それでは…。」
支援人がそう言うと、勇樹は一瞬意識が飛んだように見えたが、すぐに目を覚ました。
「高島なのか?」
灰島が確認すると、勇樹は頷いた。
支援人が立ち去って行った後、純はすぐに封印石を使ってリーダーたちの武器を加工した。
その武器は封印石の様に青白い光を放った。