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グレースネヘス  作者: たつG
16/41

16 4日目:拠点侵入の始まり

16 『4日目:拠点侵入の始まり』


―30分前<ウィザの洞窟>の灰島―


「(この生活はいつまで続くのだ。いっそのこと終わらせてしまいたいが、残りの回数死に続けることには耐えられない。)」


モニタールームで灰島は今の不遇を嘆いていた。

灰島を除くと生徒は四人しかいなかったため、洞窟の中はいつも以上に寂しく感じた。

女子生徒は部屋の中でおしゃべりをし、純は合成装置で実験を続けていた。


「(菊池先生に覚醒しないと戻れないといわれたが、今の私には立ち上がる気力がない。

いっそこちらの世界で余生を過ごすのも悪くない…。)」


灰島はモニターを見ながらそんなことを考えていると、洞窟の入り口に影が見えた。


「(誰か戻ってきたのか?)」


モニターを眺めているとその影はどんどん洞窟に近づき、斧を持ったライオン頭の魔物が姿を現した。

モニター越しなので見られているわけではないが、灰島は咄嗟にしゃがんで隠れた。

恐る恐る再度モニターを見ると、ライオン頭は一つ一つの部屋を覗いて行き、

鏡の部屋は誰もいないが、次の部屋では純が実験をしていた。


「(ダメだ、猪瀬がやられてしまう!すぐに知らせないと…。)」


そう考えてはいたが、身を裂かれた時の恐怖が頭を支配し、灰島は硬直してしまった。

その間にもライオン頭は純のいる部屋に近づいて行った。


純は外の異変にまだ気づいていなく、黙々と素材の分量を量っていた。


「これが出来上がれば、後はダイナマイトと合成すると…」


純は強力な攻撃道具の完成間近まで来ていた。

だが、入り口の方から荒々しい鼻息が聞こえたので、純は装置の後ろに身を隠して覗いた。

扉が開くとライオン頭が入ってきて部屋を一望した。

純は息を殺しながらその様子を見ていたが、やがてライオン頭は引き返していった。


「(どうしよう。魔物が侵入してきた…。装備は部屋に置いてるから今手元には…。)」


ライオン頭の鼻息が聞こえなくなるまでジッとし、完全に聞こえなくなってから道具の完成を急いだ。


その様子を見ていた灰島は、純の無事にホッとした。


「(猪瀬はなんとかバレずに済んだか。だがこのまま階段を下りてくると私の部屋になる。)」


階段を降りると左が武器庫で右がモニタールームであった。

灰島は何とか鎚だけを握ってベッドの下に隠れ、ジッとしていた。

ライオン頭は斧を引きずりながら階段を降りると、バスの中を覗き込み、何もいないことを確認すると、モニタールームの方へ向かった。

ベッドの下からその様子を見ていた灰島は息を吞みこんだ。

その時外の物音に気付いた寿葉が洞穴から顔を出した。


「きゃーーー!」


寿葉は悲鳴を上げると部屋に戻り扉を閉めた。


「寿葉ちゃんどうしたの?」

「そっ…外に…魔物が…」


寿葉を心配した梓紗と菫が声を掛けると、寿葉は肩を震わせながら答えた。

すると外からこちらに近づいてくる足音が聞こてきた。


「みんなベッド!ベッドで扉を!」


菫がそう言うと三人は急いでベッドを扉の前に並べていった。

そのあと部屋の隅に行き、武器だけ持って三人で固まって座った。

扉の前に来たライオン頭は扉を片手で押した。

ベッド三台分はそう簡単に動かせなかったが、そうなるとライオン頭は斧で扉を破壊し始めた。

扉を壊す音と女子たちの叫び声が洞窟内にこだました。


その様子はモニターからは見えなかったが、灰島の耳にも女子たちの声は聞こえていた。


「(生徒たちがピンチだというのに…。私は今まで全くいい先生ではなかった。

成績だけを考えて、全く生徒たちに寄り添ってこなかった。その結果がこの惨めな姿か…。)」

「先生…。」


女子たちが泣き叫ぶ声の中で、先生を呼ぶ声も交じっていた。


「(まだこんな私を頼りにしてくれているのかっ。)」


灰島はベッドから出ると頬を二回叩き鎚を強く握って外に出た。

そのまま女子たちの部屋がある洞穴に向かい、扉に夢中だったライオン頭を一発殴打した。


「来い化け物!生徒には手を出させん!」


ライオン頭にはほとんどダメージはなく、灰島が洞窟の外へ逃げ出すと、それを追いかけた。

灰島は洞窟の外に出ると鎚を両手で強く握って構えた。


「(これで生徒たちの逃げる時間が多少は稼げるだろう。)」


ライオン頭はゆっくりと洞窟の外に出てくると、灰島を確認し近寄ってきた。


「このままやられてたまるか!」


灰島が鎚を振り下ろすと同時にライオン頭も斧を振りかぶった。

灰島の攻撃はライオンの鼻先をかすめ、地面を強く打った。

反対にライオン頭の斧は灰島の頭を捉えようといていた。

灰島も死を覚悟した瞬間、地面から蔓が生え、ライオン頭の手足を捉えた。


「何だこれは?」

「先生下がってください!」


洞窟から純が出てきて灰島に叫んだ。

灰島は純に言われた通り後ろに下がると純は何かを投げた。

それはライオン頭の頭上で止まると、下方向に大量のエネルギー弾を飛ばした。

その猛撃が終わるとライオン頭は地面に倒れた。


「先生止めをお願いします!」

「(はっ。)分かった。下がっていなさい!」

 

純が放った道具の威力に圧倒されていたが、純の言葉を聞いて、ライオン頭を力一杯殴打した。

それでも消滅しなかったので、鎚を引きずりながら、首、胸、鳩尾と順に追撃し、最後臍の辺りを殴打するとライオン頭は絶命した。

その様子を洞窟の影から見ていた梓紗と寿葉が灰島に駆け寄った。


「先生ー。」

「君たち大丈夫だったか。」

「怖かったよ、先生。」

「先生が来なかったら、私たち…。」


梓紗と寿葉は灰島にしがみついて、わんわんと泣いた。

その後ろから来ていた菫は純に近づきお礼を言った。


「猪瀬くんもありがとう。」

「僕は道具を投げただけで、助けてくれたのは灰島先生だよ。」

「それでも、ありがとう…。」

「みんな楽間さんが元の元気な姿に戻るのを待ってるよ。

将文くんも言ってたよ、部活をしている時の楽間さんなら、きっとすぐに克服するよって。」

「野上くん、そんなこと言ってたんだ。」


灰島が梓紗と寿葉を連れて純たちの所へ来た。


「先生。私も明日から戦いに出ます。」

「僕も研究は終わったので、行きます。」

「そうか。私も行こうと決めた。折角希望が見えたのだ。みすみす手放す訳にはいくまい。」


菫と純が戦いに行くことを伝えると、灰島も決心して、戦いに出向くことにした。

菫は梓紗と寿葉に二人はどうするのかを確認した。

寿葉は梓紗にアイコンタクトをすると、梓紗は頷いた。


「私たちも行きます。」

「先生を見て勇気をもらいました。」


寿葉と梓紗も戦いに行くことを決意した。

そこへライオン頭を追いかけていた王国軍が洞窟前に到着した。


「みなさん、大丈夫でしたか。魔物は来ませんでしたか。」

「あぁ問題ない。魔物なら討伐した。」


軍の隊長らしき人物が尋ねると、灰島が答え戦利品を見せた。

それを確認した隊長はお礼を言うと、すぐ引き返していった。


「討伐、感謝します。私たちは緊急時以外で<ウィザの洞窟>に近づくことを禁止されているので、ここで失礼します。」


五人は揃って洞窟に戻ると、援護に駆けつけていた菊池たちが中央の部屋にいた。


「灰島先生、大丈夫でしたか!?連絡が通じなかったので心配しました。」

「すまない。菊池先生。突然のことで携帯機器を忘れていた。」

「いいえ、無事で何よりです。それよりこちらに魔物が向かっていると聞いて駆けつけたのですが。」

「凄いんだよ菊池先生!灰島先生が私たちを助けてくれて、そのまま怪物を退治してくれたの!」


寿葉が少し興奮気味にさっきまでの状況を話した。


「それでは灰島先生…。」

「あぁ、私たちも明日から戦いに参加することを決めた。」

「楽間さん、もう大丈夫なの?」

「野上くんに変な心配かけたみたいだね。もう大丈夫!いつもの私だから!」


いつも通り明るい姿に戻った菫を見て、将文は安心した。


「咲田くんたちには私から連絡します。みんな突然のことで疲れていると思うので、休んでください。」

「大丈夫です。このままみんなを待ちます。」

「そうだな。これからの生活リズムを合わせるためにも皆を待とう。」


菊池は休憩することを提案したが、純が待つというと、灰島も賛同し、みんなで帰りを待つことにした。

菊池は寛人に連絡を取り、みんなの無事を伝えた。

菊池が連絡をしている間に、洞窟に残っていた組は今度は急襲に対応できるようにきっちりと装備をして中央の部屋に集まった。

途中で純は灰島たちにも栄養食を渡し、深夜のティータイムを過ごした。

ライオン頭以降は魔物が侵入することはなく、灰島たちは聞いたことはなかったが、洞窟内に角笛の音が微かに響いた。


「今日の戦いが終わりました。みんなもうすぐ帰ってくると思います。」


菊池がそう言うと寛人、聖也、彰のリーダー三人以外は文字通り飛んで帰ってきた。

メンバーは互いに無事を確認し喜んだ。


「乾、咲田、檜山はどうしたのだ。」

「寛人たちは戦果の報告と戦況の確認で招集されたので、暫くしたら帰ってくると思います。」

「そうか。彼らもだいぶ信頼されているのだな。」


灰島の質問に千佳が答えると、灰島は初めて今の状況で頑張る生徒たちを誇らしく思えるようになった。


「みんな疲れているだろう。今日はもう休みなさい。話はまた明日起きてからでも遅くない。」

「灰島先生の言う通りです。みんな休憩して。」


中央部屋に先生二人を残して、生徒たちは部屋に戻って休息に入った。

30分もすると寛人たちが帰ってきた。


「灰島先生!強敵を倒したって聞きました!凄いっすね!」

「いや、漸くスタートラインに立ったばかりだ。

乾、咲田、檜山。今まで私たちの分諦めずに戦ってくれていたことをあらためて感謝する。

君たちも疲れているだろう。休んで、話はまた起きてからにしよう。」

「分かりました。灰島先生。」


寛人たちは部屋に戻った。


「それでは私たちも休みましょう。」

「そうだな。」


菊池が灰島に声を変えると二人はそれぞれの部屋に戻っていった。


〔寛人RP9〕

〔聖也RP14〕

〔将文・彰RP15〕

〔秀吉・菊池RP16〕

〔竜輝・美郷・晴花・楓・玲奈・胡桃RP17〕

〔省吾・大輔・千佳・翠・深琴RP18〕

〔灰島・純・勇樹・巧太・翔太・実久・寿葉・梓紗・菫RP19〕

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