15 4日目:仇討ちの始まり
15 『4日目:仇討ちの始まり』
寛人と晴花がB班の所へ行くと、ちょうど千佳がA班からも出来るところだった。
聖也たち弓部隊は苦戦しているA班を中心に援護を行っていた。
美郷はカメレオンのコア特定の機会を窺っていたが、全身を現すことがなかったため、困難を極めていた。
胡桃と玲奈は弓部隊に向かってくる雑魚たちの相手をしていた。
千佳に寛人を預けた晴花は胡桃たちの援護に行った。
「胡桃、玲奈、援護に来たよ!」
「助かる。数は少ないけど、私たちまだ戦い慣れてなくて。」
「私もそうだよ。」
「なんか晴花嬉しそうじゃん。」
晴花の生き生きとした表情に胡桃が気付いた。
胡桃は晴花が寛人の事を慕っていることを知っていたため、
晴花は寛人に思いを告げたこと、寛人がそれに答えてくれたことを照れながら伝えた。
「良かったよ。一時はこのまま話さずに終わると思ってたし。
でもこんな状況でもカップルってできるんだね。」
「胡桃がちゃんと私の話を聞いてくれたからだよ。私もかなり諦めていたし。」
「そんなことないよ…。次変わるのは私の番かな。」
「また言ってる。」
「そんな気がしただけ。」
胡桃は演劇部の練習で私は変わるというのが口癖だった。
戦いに慣れてきた二人は、漸く周りを見ながら動けるようになっていた。
すると左側から彰の叫び声が聞こえた。
「B班避けろ!カメレオンがそっちに行った!」
彰たちの方を向くとカメレオンの口からでた刃がすでに発射していた。
急なこととその醜い見た目に反応が遅れ、避けることはできなかった。
幸い刃は晴花の脛当てを掠り、小さい切り傷で済んだ。
カメレオンを追いかけて彰と秀吉がこちらに向かって来ていた。
「すまん。早いし、どこから出てくるか分からないから、手こずってる。」
「しかもあの煙、刃だけではなく、針、砲弾と変化するから。」
今度は秀吉の前方にカメレオンは現れ煙の針を吐き出した。
針はダメージは小さいが広範囲のため、完全に避けることはできなかった。
次はゾンビと戦っていた胡桃の前に現れて煙の砲弾を吐き出した。
砲弾はゾンビを吹き飛ばし、胡桃に直撃した。
「(全然だめだ。私だと力不足だよ。槍使いの役なんてやったことなかったしなぁ。
みんなすごく頑張てる…。晴花なんか言ってる…。ダメだ意識が遠のいてきた…。)」
倒れこんだ胡桃に晴花や玲奈は戦いながら声を掛けた。
20秒ぐらい反応はなかったが、いきなり胡桃が立ち上がった。
槍の構えが明らかに変わったが、次の瞬間胡桃は彰の前方に駆け出した。
するとその方向にカメレオンが現れ、胡桃の攻撃がカメレオンをかすめた。
初めてカメレオンに攻撃が当たった。
「橘のやつ人が変わってないか。」
「うん。スイッチが入った胡桃だ。」
彰たちは豹変した胡桃に唖然としていた。
胡桃はまたも何もない方へ走り出すと、今度は飛び跳ね槍を突き立てた。
そのタイミングでカメレオンは頭を出し、串刺し状態になった。
槍ごとカメレオンを引き抜き打ち上げた。
その瞬間を見逃さなかった弓部隊は一斉にカメレオンを打ち抜いた。
カメレオンは地面に落ちるとそのまま横たわり、胡桃が追撃でしっぽの付け根を突き刺すとカメレオンは消滅していった。
胡桃はその場に意識を失ったように倒れこんだので、晴花と玲奈が駆け寄った。
「胡桃大丈夫?しっかりして!」
「…あれ、私こんなとこで倒れてたっけ?」
「もう、覚えてないの?カメレオン倒したんだよ。」
「えっ?私が?…夢かと思ってた。」
カメレオンの砲弾で肋骨にひびが入っていた胡桃は、まともに立つことができず、
晴花と玲奈に連れられて千佳のもとに運ばれた。
敵をほぼ一掃した寛人たちは封印石を破壊した。その破片は洞窟に転送した。
振り返ると一人の犠牲も出すことなく指令を完遂させたメンバーは、戦いにかなりの手ごたえを感じていた。
「封印石は破壊した。次は<アイグネル草原>で敵を迎え撃つぞ!」
封印石から少し歩くとすぐ草原だった。草原には木も岩も全くなく、地平線が見えた。
地平線の中にぽつぽつと黒い塊が見えた。だがどの塊も全く動く気配がなかった。
「攻め込むか?」
「いや、ここで来た敵だけを対応しよう。」
聖也はじっれたくて少しうずうずしていたが、冷静な寛人は無謀に攻めるのではなく、
これ以上魔物が森林へ入っていかないように、牽制することに努めると決めた。
暫く草原の入り口付近で待機をしていると、小人の軍勢が向かって来ていた。
<ペラ>は見当たらないので、向こうも牽制で送ってきたのかもしれない。
寛人たちは連携を取り、余裕で小人たちを一掃していった。
「向こうは小競り合いで時間でも稼いでるのか?」
「森の中が落ち着けば、ブライトさんたちも合流するかもしれいない。
それまでは相手の出方を見よう。」
またも先ほどと同等の小人軍団がやってきた。
先ほどと同じように対応をしていると、前方から急接近で来るものがいた。
「なんか速いのが近づいて来てるよ!」
「弓で狙ってくれ!」
一番に気づいたのは後方で弓を引いていた巧太だった。
寛人に言われ巧太は駆けてくる何かを射ったが、そいつは勢いそのままでサラッと躱した。
二発目を狙ったころにはすでに小人たちの真後ろまで近づいていて、
そのまま小人たちを巻き込んで、戦っている者を突き飛ばした。
突き飛ばしの威力は弱いが、時間差で落雷が発生した。
雷に直撃した者は失神し、打ち所が悪かった者は絶命した。
「くそっ、たぶんあいつが雷の<イーボ>だ!
事前に聞いてたように、通り道に落雷があるから、しっかり避けるんだ!」
雷の<イーボ>は見た目は狛犬のようで、尻尾は二つに分かれ、それぞれに目が付いていた。
魔物たちが近づいてこないのは、<イーボ>の攻撃に巻き込まれないためだった。
動きがとても速く、目で追うのがやっとのため、避けて止まる瞬間を狙っていた。
「きっと隙はある!今は回避に専念するんだ!」
「寛人、後ろからもう一匹来てるぞ!」
「えっ!?」
寛人が振り返るともう1体狛犬が猛スピードで近づいてきた。
聖也はスキルで狙おうとしたが、速すぎてロックする前に外されてしまう。
近距離組は咄嗟に避けたが、反応が1体目以上に遅れたため、被害は拡大した。
狛犬2体は寛人たちの中央で揃うと雄たけびを上げた。
そして1体は遠距離組に向かい、もう1体は近距離組の所へかけていった。
「みんな僕たちの後ろに隠れて!」
将文が叫ぶと、盾部隊が狛犬の前に壁を作った。
だが、狛犬はそれを飛び越えて行き、その後に落雷が発生した。
盾部隊は何とか耐えたが、弓・回復部隊は改良したローブが属性攻撃に強かったため、さほどダメージを負わなかった。
「寛人、こっちは雷問題なさそうだ!気にせず戦ってくれ!」
聖也は叫んだが、寛人は躱すことに精一杯で、返事が出来なかった。
雷を耐えられた狛犬は尻尾の目を動かし、その目で聖也たちを睨みつけた。
尻尾と目が合った者は、気が抜けたように武器を落とし、膝から崩れた。
その隙に狛犬は再び駆け抜けていった。
ダメージを食らうと気が抜けいた者は意識を取り戻したが、反撃をする余裕はなかった。
「雷に耐えれても、睨みでやられてしまう!」
「このままだとジリ貧だよ。」
聖也と将文は反撃のできない圧倒的に不利な状況を嘆いた。
すると森林から1発目にやられた竜輝たちがチェックポイントから戻ってきた。
「あのくそ犬、ぶっ殺してやる!って2匹いるじゃねーか!」
「あんたがやられているうちにもう1匹来たんだよ。」
竜輝はだいぶ狛犬に対してキレていたが、実久が説明した。
すると狛犬はまた尻尾の目で睨みつけてきた。
「あの目を見るな!気を抜かれるぞ!」
「あぁん!?」
聖也は復活してきたばかりの近距離組に指示したが、竜輝たちは咄嗟の事で目を見てしまった。
目が合った遠距離組がまた武器を落としていく中、再び狛犬が駆け寄ってきた。
狛犬が竜輝の横をすり抜けていく瞬間、竜輝は狛犬の顔を殴打した。
意識を失っていると油断していた狛犬は、回避できなかった。
「ちょこまか鬱陶しい!」
近距離組の胸当てには状態異常への耐性があり、竜輝たちは一瞬意識が飛んだだけで、すぐに正気に戻った。
殴打された狛犬は後方へ吹っ飛んだが、くるっと周り体制を直すと、雄たけびを上げ、もう1体を呼び寄せた。
2体に揃った狛犬は遠距離組の周りをグルグルと回り始めた。
中にいた者は突進してきたときにいつでも対応できるように構えていたが、
突然円の中だけ狛犬の足元から発生した高電流が地面に放出された。
突進の時より強い電流だったため、遠距離組でも失神する者がいて、近距離組は一溜りもなく倒れていった。
だが狛犬も魔力的なものの消費が激しいようで、すぐに寛人たちから距離を取った。
その間に寛人たちは1か所に集まり、治療の実施と対策を考えた。
「寛人、遠距離組には雷の効果が薄く、近距離組には睨みの効果が薄い。」
「それだと遠距離と近距離で分けるより、一緒にいた方がチャンスが生まれる。」
「あの大技は発生まで時間があるから、囲まれたら無理矢理でも止めるしかない。」
「だが竜輝の攻撃は当たったが、油断させなければ躱されてしまう。琉堂は?」
「さっき気を失ったまままだ起きない。」
「琉堂のスキルがキーになるのだが…。」
「話はここまでだ、またあいつらが来た。」
聖也と寛人が作戦を立てていると、回復した狛犬たちがこっちへ駆け寄ってきているのを彰が気付いた。
「A班とC班にB班が半々に合流して、2班になってくれ!今いない奴はまた後だ!」
「英水と翔太はA班に、俺と巧太と千佳はC班に合流してくれ!」
寛人と聖也の指示のもと、みんなは2班に分かれて狛犬を迎えた。
突進は弓部隊がギリギリまで引き付け近距離で狙い撃つが、それでも躱され掠るだけだった。
睨みの最中に近距離組が接近するが、近づく前に突進された。
そのうちやられていた近距離組が戻ってきて、それぞれに分かれていった。
未だ楓と胡桃と玲奈は失神から起き上がっていなかったが、幸い狛犬が失神した者を襲うことはなかった。
「速すぎて捉えられない。琉堂もいつ復帰できるか分からない…。」
寛人たちは打開策が見つからずに焦りが見えていた。
その中でも特に盾部隊は耐えてはいるが、役に立てていない現状に焦りを感じていた。
「(こんなに俺は役に立たないのか。てかキーパーがこんなに抜かれてダサいんだよ。)
うおおおおお!」
大輔は気合を入れると突進してきた狛犬に飛びついた。だが、狛犬はそれを避けていった。
「(くそ、あと少し足りない!)」
その後も大輔は果敢に飛び掛かっていったが、何度やっても躱された。
周りもだいぶ体力を使い、避けるのも精一杯になってきた。
だが、狛犬は手を緩めることなく再び突進してきたので、再び大輔は飛び掛かったが、狛犬はその横をすり抜けようとしていた。
「あと少し、届いてくれー!」
大輔が叫ぶと巨大な岩の手が現れ、狛犬を掴んだ。
「寛人、今だ!」
多少の衝撃に慣れた寛人は大輔が掴んだ瞬間にすでに攻撃のチャンスだと判断し、スキルをぶっ放した。
遅れて聖也もスキルを放ち、狛犬に大ダメージを与えた。
堪らず狛犬は距離を取り雄たけびを上げ、今度は寛人たちの周りをグルグル回った。
「お待たせしました。」
そこに漸く気が付いた楓が駆けつけ、スキルで狛犬の動きをスローにした。
大輔は狛犬の進行方向に手を構えると、楓は狛犬たちに足払いをし、
スキルが解けると狛犬はそのまま滑っていき大輔の岩の手に掴った。
「放すんじゃねーぞ!」
駆け寄ってきた竜輝が岩の手ごと爆発させ、大ダメージを負っていた1体は消滅した。
生き残ったもう1体は距離を取り下がったが、動きを呼んでいた覚醒胡桃が押さえつけ、そこを弓部隊が一斉に矢を放った。
もう1体の狛犬もそのまま消滅していった。
寛人たちは2日続けて難敵<イーボ>の討伐に成功した。
<イーボ>討伐以降は魔物が寄ってくることはなく、待機していると森林から王国軍が現れた。
1人単独で向かって来ていたが、少し慌てているようだった。
「取り逃がした魔物たちが<ウィザの洞窟>の方へ向かったらしい。」
「それはいつですか!?」
「もう30分は経つ。何体かは確認できていない。」
洞窟には戦闘経験も戦闘意欲も低いものしかいなかったため、寛人は悪い予感しかしなかった。
「俺たち洞窟に戻ります!」
「すまないが草原を完全に開けるわけにはいかない。もう少しで援護が来るから待ってくれ。
それと1個小隊がすでに向かっている。」
「(向かった敵の規模が分からないし、今は王国軍より俺たちの方が強い。)
では何名かだけ絞って向かうのは。」
「3名までなら問題ないが、隊長クラスの者は残ってもらう。」
「ありがとうございます!」
寛人はすぐに向かわせる者を人選した。
「菊池先生、将文、省吾、頼んだ!」
「分かったわ。」「了解」「頼まれた」
寛人の指示に三人は承諾し、洞窟へ向かった。




