14 4日目:強行軍の始まり
14 『4日目:強行軍の始まり』
寛人たちが砦に着くと、中央の建物の前に案内された。
「ここからは代表者のみでお願いします。」
参加者が21名になってから、砦に着く前にチームを3つに分けることにしていた。
だが今回まだ回復役が2名しかいなかったので、役割によるチーム分けは難航した。
そこで今回はチームごとに役割を決め、メンバーを割り振った。
A班は彰を中心とした接近戦で雑魚の引付役。(彰、秀吉、竜輝、勇樹、実久、翠、深琴)
B班は聖也を中心とした遠距離で見方をサポートする役。(聖也、巧太、翔太、千佳、美郷、胡桃、玲奈)
C班は寛人を中心とした<ペラ>などの大型の討伐役。(寛人、将文、省吾、大輔、菊池、楓、晴花)
そのチームの代表が案内に従い、階段を上がっていった。
他のメンバーは1階にある訓練場の中で待機した。
3階に着くと寛人たち三人は昼間のブライトたちと話した部屋の中へ入っていった。
中にはブライトとマーティンと今回初顔合わせとなる英雄アレクサンドラ、
そして、マルギットやトビアスなどの各部隊の隊長がテーブルを囲って座っていた。
「初めてになる者もいると思うが、彼らが今回の<ウィザラー>だ。」
ブライトが紹介すると隊長たちが一斉に注目した。
鋭い眼光と重苦しい雰囲気に少し身震いしたが、三人はグッと堪え軽く会釈をした。
「君たちも座り給え。」
ブライトに促されて三人は席に着いた。
寛人たちが最後だったので、席に着くとマーティンの挨拶と共に作戦会議が始まった。
「皆の耳に届いていると思うが、昨夜の戦いで英雄アンドリューが負傷し、5日ほど養生が必要となった。
そこでアンドリューの代わりに<ウィザラー>を最前線に配置することに決まった。」
「それは我々が<ウィザラー>の下に付くということですか。」
マーティンの決定を聞いて、元々アンドリューの配下に所属していた隊長が確認を取った。
「そうではない、<ウィザラー>には独立した隊として前線で戦ってもらう。」
「そこで戦闘可能な隊員数を踏まえて、編成を大きく変更する。
まず、イヴリン、ゲルハルト、ローラ、ジョナサン、フィリップ、マルギット、以上6部隊はアレクサンドラ指揮の下、北部からの進行を。
次に、フローリア、パウロ、スザンナ、トビアス、ブリジッタ、カイ、以上6部隊は私と共に南部から進行を行う。
昨夜の戦いで被害の多かったマンフレッド、ピーター、アンナ、ステファン、マークスは砦の防衛を任せる。
最後にロベルト、君たち王直属の部隊は、英雄の配下ではなく独立した部隊として活動してもらう。
編成については以上となるが、質問のある者はいるか。」
ブライトの問いに対して、誰も何も口にしなかった。
それを確認したマーティンが詳細事項について説明を始めた。
「今夜は新たに森に張られた結界を突破し、再び<アイグネル草原>に到達することを目標とする。
昨夜の戦いで勢いが増した魔王軍は、今日数を増やして一気に畳みかけてくる可能性がある。
そこでアレクサンドラ部隊は<ハンデウィーズ森林>入り口付近の封印石を破壊し、以降は森林から魔物が丘まで出てこないように境界の死守を。
ブライト部隊は森林中央の封印石を破壊し、森林内の魔物殲滅を。
そして、<ウィザラー>には森林と草原の間にある封印石の破壊と草原にいる敵の牽制を頼んだ。
最後に昨夜討伐し損ねた雷の<イーボ>は今夜も必ず現れる。
決して油断することなく、確実に討伐すること。作戦は以上だ。」
隊長たちは英雄と参謀に敬礼をし、会議室を後にした。
寛人たちも続いて出ていこうとしたときに、ブライトに呼び止められた。
「アレクサンドラとは今日が初めてらしいな。」
「アレクサンドラだ。話はブライトから聞いている。」
アレクサンドラはブライトと同じくらい大柄な男性で、盾と三叉槍を手に持っていた。
アレクサンドラは三人と握手をすると早々に立ち去った。
「寡黙な奴だが、タフで心強く、いいやつなんだ。
それとは別に、君たちには大変な役割を任せることになってしまった。」
「大丈夫です。覚悟の上です。」
「そう言ってくれるとありがたい。そこで君たち1人に1頭ずつ馬を用意した。」
「馬なんて誰も乗ったことないので、乗りこなせるかどうか…。」
「それなら問題ない。馬具に特殊な技術を使用しているから、君たちならすぐ乗りこなせるだろう。
馬小屋は砦の南側にいる。係に声を掛けて馬と馬笛を受け取るといい。」
「馬笛ってなんですか。」
「馬を呼ぶ笛のことだ。降りて尻を叩くと勝手に安全な場所へ逃げてくれるので、
また乗りたいときに笛で呼べば、笛ごと違う音が鳴るから、その音を聞いて馬が戻ってくる。」
「ありがとうございます。大切に乗らせてもらいます。」
「それと森の中心まではともに行くので、馬を受け取ったら門の前で待っていてくれ。」
「分かりました。それでは失礼します。」
三人はブライトにお礼を言って、みんなが待っている訓練所に戻った。
訓練所に戻ると、今夜の作戦を説明し、早速馬を受け取りに行った。
南の方へ行くと大きな馬小屋があり、入り口に兵士が立っていたので、寛人が声を掛けた。
「<ウィザラー>です。ブライトさんに言われて、馬を取りに来ました。」
「あぁ、話は聞いている。ただ15名と聞いていたが…。」
「すみません。今日から人数が増えて、21名になりました。
足りなければ用意されている分のみで構いません。」
「数は問題ない。21名だと分かればいい。」
メンバーは兵士から馬の乗り方の説明を聞いて、馬と馬笛を受け取り、早速馬に跨った。
ブライトの言う通り、誰も苦戦することなく馬に乗りこなすことができた。
寛人たちは馬に乗ったまま、ブライトに言われたとおりに門に向かうと、すでにブライトが待っていた。
「お待たせしました。」
「無事に乗れたようだな。では行くぞ。」
ブライトそう言って一気に馬を駆けらせた。寛人たちも必死に追いついていった。
馬のスピードは速く、あっという間に結界の際になる<フェルベル丘>の頂上に辿り着いた。
次第に<シアタ>の日が落ちていき、<ラテラ>の日が差し込んでくると、
ブライトは兵士たちに号令を掛け、また一気に駆けだした。
ブライト率いる部隊は入り口近くの魔物はほとんど無視し、中央を目指して強行した。
中央の封印石の数百メートル手前の所で、ブライトが足を止めた。
「一緒に行くのはここまでだ、あと少し走れば封印石に辿り着く。
だがその前は多くの敵に囲まれているはずだ。
君たちは北側に迂回して、次の封印石に向かってくれ。」
「それでは気を付けてください。みんな行くぞ!」
寛人はみんなに指示し、ブライトに言われたとおり、森の北側へ大きくと遠回りし、目的の封印石を目指していった。
序盤は後ろから魔物が追いかけてきていたが、別部隊の王国軍が対処し、後ろからの追手はいなくなった。
道中は三人のリーダーを先頭に進んでいき、前から敵が現れだしたところで馬を降りた。
「作戦通り、A班とC班で前を進むので、B班は後ろからの援護を頼む。」
「OK」「任せとけ」
事前に決めていた通りの陣形で雑魚どもを蹴散らし、封印石までは問題なく辿り着いた。
だが、封印石の周りには数えきれないほどの敵が待ち構えていた。
その中には今まで見たことのない、一角のイノシシとその大型、竜輝たちが戦った小人の<ペラ>、
それと地面からは何かのしっぽが生えていた。
「英水は作戦通り新しい敵の分析を頼む、A班は左端から、C班は右端から討伐していく。
分析が終わり次第、戦闘を開始する。」
英水は事前の作戦の通り、新しい敵を発見したら、大型優先にコアの特定を行っていった。
間もなく分析が終わったが、しっぽの敵は特定できなかった。
コアの位置を共有するとA班とC班は左右に分かれて、位置に着いた。
スタートの合図として秀吉がダイナマイトを打ち込み、爆発と共に両側から戦闘が始まった。
―A班―
「俺たちの最初の相手は小人の<ペラ>だ。やつは頭と腹にコアがある。一気に方を付けるぞ。」
彰の掛け声とともに近距離武器の五人は目の前の小人を蹴散らせながら、一気に<ペラ>の所に駆け寄った。
その時<ペラ>が手を叩くと木の上に隠れていた小人が頭上から攻撃をしていた。
上からの攻撃は無防備だったため、多少のダメージを受けたが、出てきた小人を一掃した。
するとまた今度は手を2回叩いた。
上を警戒すると、次は草むらに隠れていた小人が一斉に矢を放ち、すぐ隠れ移動していった。
また無防備な所を攻撃され、致命傷に放っていないが、ダメージが大きかった。
「一旦渡瀬の壁の後ろに隠れて、治療するぞ。」
また彰の掛け声で五人は後ろに下がった。
「あの小人、かなり統制が取れている。」
「洞窟の中ではバラバラだったがな。」
「氷漬けにして一気に倒すぞ。」
軽い止血だけ終えると、実久の防壁の外に出た。
すぐに彰が槍を投げると、今度は手を3回叩いた。
すると<ペラ>近くにいた小人が壁となり、槍が<ペラ>に届くのを防いだ。
「なんて奴だ。遠距離は味方を壁にして防ぐなんて。」
「もう突っ込んで、直接殴るしかねえな。」
「上は木のないところを通ればいいが、矢をどうするかだ。」
「近くまで行けば俺が一発で仕留める。お前らは矢をどうにかしろ。」
竜輝が彰たちに無茶ぶりを言ったが、他に手立てはなかった。
「分かった。俺と月下、秀吉と禅野のペアで草むらの敵を狩っていく。
上からの敵は互いに注意しろ。竜輝は構わず突っ込め。」
「分かりやしい。鬱陶しいは任せろ。」
合図とともに彰たちは草むらに駆け寄り、竜輝は<ペラ>一直線で走った。
<ペラ>が1回手を叩き、上からの攻撃が来たが、全員見切っていたため、問題なく捌いた。
次に2回手を叩くと、彰たちの近くに姿を現した小人はすぐに討伐したが、2体別の場所から竜輝狙って矢を放った。
その内1本が竜輝の肩に刺さった。だが、竜輝は足を止めることなく<ペラ>に突っ込んでいった。
「調子に乗んじゃねぇ。」
竜輝は<ペラ>の頭上から鎚を振り下ろし、一発撃破を有言実行した。
その爆発は地面を少し揺らした。
「あいつの技こえーな。」
彰が竜輝のスキルの威力に驚いていると、地面から何かが近づいていた。
だが、それには誰も気付かず、小人の残党処理をしていた。
すると翠が悲鳴を上げた。翠の前にはゾッとする見た目の巨大なカメレオンの頭が地面から生えていた。
次の瞬間、カメレオンは口から煙の塊を吹き出すと、それは刃となり翠の右足首を切断した。
「あああー!」
翠はその激痛に泣き叫び、次第に気を失った。
翠を攻撃したカメレオンは再び地面に潜っていった。
「気を付けろ!地面を移動する敵がいる!禅野、月下を勇樹のもとに!」
「翠!すぐ助けるから!」
彰の言葉よりも早く、深琴は翠のもとへ行き、勇樹の所に担いでいった。
竜輝の爆発で地面に潜っていたカメレオンが目覚め、活動を始めたのであった。
勇樹の所へ連れていくと千佳も応援で駆けつけていた。
翠は大量の出血で瀕死状態であったため、千佳のスキルで時間を遅らせ、2人掛で止血を行った。
「(止血が終わっても片足がない状態だとまともに戦えないぞ…。
仕方ないまだ覚醒するつもりはなかったが…。)
後藤さん止血をお願いします。僕は足の複製をします。」
「えっ?分かったけど…。」
千佳は少し不思議に感じたけど、勇樹に言われた通り、止血に専念した。
一方勇樹は目を瞑り、頭の中で足首の形をイメージして、翠の足に手を添えた。
すると翠の右足首がゆっくりと再生されていき、ものの数分で元に戻った。
「これで月下さんも目を覚ませば普通に動けます。」
「血も止まったよ。私は戻るね。」
「ありがとう後藤と高島、翠を助けてくれて。」
勇樹のスキルを間近で見て多少は驚いたが、深琴はただただ感謝を伝えた。
一方彰たちは現れては消えるカメレオンに翻弄されていた。
―C班―
「ゾンビは粗方片付いたが、あの巨大イノシシは厄介だ。」
「突進は昨日の蝙蝠並みだし、角から出る球の爆発で体制が崩れてしまう。」
「その爆発で折角のゾンビ人形が一発でやられた。」
女性陣と大輔に雑魚狩りを任せていた寛人は、将文と省吾の三人で巨大イノシシの討伐に挑んでいた。
イノシシは強烈な突進と一角から発射される爆発する球に苦戦していた。
話しているうちにまたイノシシは球を発射してきた、球はそれほど速くないので三人は避けたが、
後ろの木に接触すると爆発し、その爆風で体制が崩れた。
そこにイノシシが突進してきて、将文を吹き飛ばした。
「将文大丈夫か!」
「あぁ、まだ行けるよ。」
鎧で防御力を上げた将文だったので、何とか耐えているが、他のメンバーが直撃すると、無事ではいられない。
先ほどからのこのコンボに足を止められ、反撃のタイミングを逃していた。
「それとさっきの防御で漸く重力を与えることができたよ。」
「でかした!」
爆風で体制を崩してからの咄嗟の防御なので、スキルを使うタイミングも難しかったが、
将文はやっとイノシシに重力を与えることができた。
そんな中、イノシシはまた球を発射してきた。
今度は寛人たちの手前の地面で爆発させ、寛人たちは後ろに吹き飛んだ。
次は寛人に狙いを定めたイノシシが突進してきた。
寛人は避けようとしたが、真後ろで晴花たちが戦っていたため、寛人が避けると晴花たちに被害がでてしまう。
寛人は踏ん張って、剣で突進をガードした。
重力の分速さは抑えられていたが、それでも寛人は押し返され、晴花の手前で漸く止まった。
「咲田くん、しっかりして!」
「篠宮、今度はちゃんと守れた。」
寛人はゆっくり立ち上がると剣を構えたが、突進のダメージがまだ残っていた。
その目の前でイノシシがまた球を発射してきた。
寛人は死を覚悟したが、晴花が寛人の前に立って剣でそれを受け止めた。
晴花の剣に球は吸収されていき、晴花が剣を振ると吸収した球がイノシシ目掛けて飛んでいき、
イノシシは後方へ吹っ飛んだ。
「寛人、今度は私が守る番だから。」
「お前今寛人って…。」
吹き飛んだのを見ていた晴花と省吾は巨大イノシシに飛び掛かり、コアを破壊していった。
残り一か所となったところでイノシシは立ち上がり、最後の力で寛人に突進してきた。
寛人は最後の力を振り絞り、一角の付け根に剣を突き立てた。
イノシシは悲鳴を上げ消滅していき、寛人もその場に倒れた。
「馬宮くんと野上くん、先生たちを手伝って!私は咲田くんを千佳の所に連れていく!」
「分かった。寛人を任せた。」
晴花は省吾たちに伝えると、寛人を担いで千佳の所へ連れて行った。
晴花の肩で気が付いた寛人は話しかけた。
「さっき、寛人って呼んだか?」
「本当はずっと前からそう呼びたかった。でも高校に入ってから、寛人の態度を見て、
私はただの幼馴染だったんだなって思うと、全然言い出せなかった。」
「俺も意識しすぎて少し避けてた。」
「それって…。」
「…俺、いつの間にか篠宮の事を好きになってた。」
言った寛人も言われた晴花も耳を赤くし、二人の間に少し沈黙が流れた。
「嬉しい。そう思われているって、考えたことなかった。」
「でも今はまだこの試練を乗り越えるのが先だ。」
「分かってるって。」
告白してしまったことが恥ずかしくなった寛人は、無理矢理戦いに話を戻した。
晴花は少し笑って、寛人を千佳のもとへ連れて行った。