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グレースネヘス  作者: たつG
13/41

13 4日目:秘密の始まり

13 『4日目:秘密の始まり』


―<オベルウィンク砦>の寛人と聖也―


前線で戦うことと引き換えに王国軍の参謀を紹介してもらう予定の寛人と聖也は、

昼食が終わってすぐに砦へやって来た。


「そう言えば砦の建物内に入るのは初めてだな。」

「そうだな。」


門を入ると中央に高い建物があり、その周りに各部隊のテントがある。

寛人たちは、いつもテント周りでやり取りをしていたので、

中央の塔を眺めながら、その威圧感に少し緊張していた。

聖也は建物の入り口の番をしていた兵士に声を掛けた。


「すみません。ブライトさんはどこにいますか?」

「あぁ、君たちか。話は聞いている。ブライト様は中央の階段を上って、3階の突き当りの部屋にいる。」


言われたとおりに進んでいくと、重厚な扉があった。

階段の両サイドには7部屋ずつと後ろに4部屋あり、そこは各隊長たちの部屋となっていた。

重厚な扉をノックすると、中からブライトの声がした。


「誰だ。」

「<ウィザラー>です。指南役の件で来ました。」

「おう、来たか。入れ。」


寛人が扉を開けるとブライトと一人の老兵が食事をしていた。

部屋の内装は建物の見た目同様に無機質な感じで、飾り物はほとんどなかった。


「お食事中にすみません。」

「いいや、構わない。君達も食べるか?すぐ用意させるぞ。」

「我々は食べてきたので大丈夫です。」


寛人とブライトがやり取りをしていると老兵が立ち上がり近くに来た。


「これが今回の<ウィザラー>か。まただいぶ幼いのう。」

「紹介が遅れた。彼が参謀役のマーティンだ。」

「よろしくお願いします。」


ブライトに紹介されて寛人はマーティンに一礼した。

マーティンは寛人たちの顔を見ると席に戻った。


「お前たち、わしに聞きたいことがあってやって来たのだろ。

食事が終わるまで待ってなさい。」


寛人たちは目の前の椅子に座ってい待っていると、ブライトたちは昨日の戦いについて話をしていた。


「まさか<イーボ>がもう出てくるとは思ってなかった。」

「前回では橋を越えるまでは現れなかったのだが、大誤算だ。」

「昨日の被害は兎に角ひどい。特に倒れたアンドリューが率いていた第1~第6部隊は半数がやられた。

それにアンドリューに不意打ちを食らわせた雷の<イーボ>が、まだ討伐できていない。」

「アンドリューの容態はどうだ。」

「すでに話せるまで回復したが、戦場に出るには少なくとも5日いる。」

「5日か。かなり空くな。」

「それについては問題ない。ここにいる<ウィザラー>が最前線で戦ってくれる。」

「そんな<イーボ>に不意打ちを食らっても生き残る人と比べたら…。」

「そんな謙遜するな。君たちも<イーボ>を倒したではないか。」

「ほう。<イーボ>を倒したのか。それは心強い。」


ブライトとマーティンの会話は食べ終わるまで永遠に続いた。

会話の途中で<ウィザラー>の功績を称えられたが、寛人は控えめに答えた。

二人がそれぞれボトルのお酒を空にすると、漸く食事が終わった。


「それで、お前たちは何が聞きたいのだ。」


マーティンは寛人たちに尋ねた。


「前回の魔王討伐戦に参加した<ウィザラー>について聞かせてください。」

「前回の<ウィザラー>か。あれは不思議な存在だった。

戦いの最初は私と同様に一兵卒として参加をしたが、日を追うごとに戦闘技術を上げ、

魔王城に着くころには誰よりも強い存在になった者もいた。

前回は英雄と呼ばれる存在が現国王のミハエル様だけだったから、<ウィザラー>に掛かる負担は今回以上だった。」

「その時は50人全員参加していたのですか。」

「いや。全員が参加することは一度もなく、<ヒンテウィック>で暮らし一度も戦いに参加しないものもいた。」

「街で暮らしていた<ウィザラー>はどうなったのですか。」

「魔王討伐後に帰還の証を手に入れた者は元の世界というものに戻っていったが、

戦わず街にいた者は証が貰えず、こちらの世界に取り残された。

しかもその者たちは魔王討伐後に突然会話が通じなくなり、街での生活が難しくなった。

それを見兼ねた現国王が<オルメグ>に連れて帰り面倒を見た。」

「<オルメグ>というのは。」

「<オルメグ>は国王がいる城の城下町だ。

そこで取り残された<ウィザラー>は語学の勉強を行い、特殊部隊として鍛えられていた。

その子孫が今も第18番隊で戦っておる。」


<ウィザラー>が城下町で暮らしていたことに驚いたが、その子孫が特殊部隊で戦っていることに更に驚き、二人は顔を合わせた。


「寛人、18番隊って。」

「あぁ、決して近づくなと言われた部隊だ。」

「そいつらに会えないか。」

「聞いてみるか。」


二人はコソコソと相談して、前回の<ウィザラー>の子孫たちに会うことができないか尋ねることにした。


「すみません。その第18番隊にいる<ウィザラー>の子孫とお話しすることはできますか。」

「第18番隊は私の配下にいるが、王直属の部隊なので、私たちでは会わせることはできない。」

「そうですか。分かりました。」


ブライトは第18番隊が王直属部隊で自分に権限がないことを伝えると、寛人と聖也は残念そうな顔をした。


「他に聞くとはないか。」

「では、魔王との戦いについて教えてください。」

「魔王との直接対決については、わしら一兵卒は場外で戦っていたので、詳しいことは知らない。

城の中に入ったのは、15名の<ウィザラー>と現国王の16名だ。

彼らが中に入って数時間立つと戦の終わりの時間となったが、誰も出てこなかった。

しかも魔王城の周りは結界で守られていたため、外で戦っていた王国軍は慌てて結界の外に引き返した。

それから更に数時間、国王たちが城に入って8時間ほど経とうとしていた時に、

魔王城を守っていた結界が破れ、中から5名の<ウィザラー>と国王が戻ってきた。」

「戻ってこなかった10名がどうなったのかは聞いてませんか。」

「守護獣または魔王との戦いで命を落としたと聞いておる。

中に入っていった<ウィザラー>はみな特別な技を授かり、国王の力に匹敵するほどの強い戦士だった。

そのほとんどが命を落としたと聞き、戦いの過酷さが窺える。」


寛人と聖也は覚醒した15名の<ウィザラー>のうち5名しか戻ってこれなかったと聞き、生唾を飲んだ。

果たしてそのような過酷な戦いで、全員生きて帰ることができるのか。

今の自分たちには不可能に近いことだと感じていた。


「戦いに出たが、最終戦で城に入れなかった<ウィザラー>はいたのですか。」

「特別な技を授かれなかった<ウィザラー>は魔王城の門を通ることができず、そのまま外で戦った。

その多くは砦で王国軍と過ごした者たちで、そいつらも最終的には元の世界とやらに戻ることが出来ず、国王と共に城下町で暮らした。」


マーティンの話をまとめると、魔王城の中で何かしらの証を授かった者だけが元の世界に戻れるが、

魔王城に入るためには覚醒していることが条件らしい。

更に洞窟の外で生活していた者は覚醒する確率が著しく低く、

死ななくても証を受け取れなかった者は言語機能を失い、この世界に取り残されるということだった。


「色々とありがとうございました。最後に雷の<イーボ>について教えてください。

もしかしたら今夜戦うかもしれないので。」

「<イーボ>については私から話そう。

見た目は四足歩行の獣のような成りで、足に雷を帯び非常に動きが素早い。

やつが移動した道には雷が落ち、奴の睨みは幻覚を見せると言われている。」

「参考になります。今日はありがとうございました。私たちは洞窟へ戻ります。」


寛人と聖也はブライトとマーティンに一礼をして、洞窟へ戻っていった。

洞窟に戻ると二人は純のもとに向かった。

純は相変わらず合成装置の部屋に籠って、必需品の作成をしていた。

純を見つけると聖也が声を掛けた。


「純、ちょっと時間大丈夫か。」

「ちょっと待てて、すぐに行きます。」


作業を止めて純が寛人と聖也の所へ来た。

寛人は先ほどマーティンから聞いた前回の魔王討伐戦について、純に説明した。


「やはり覚醒が元の世界に戻るキーとなってましたか。」


寛人の話を聞いた純は、深刻な顔をし少し俯いた。

現在覚醒している人数は半分にも届いておらず、その方法も解明できていない。

少なくとも戦いに参加しないと覚醒する確率が著しく低いことは想定できた。


「そう言えば、気になってたんだが、今まで戦っていなかった奴が、いきなり戦いに参加して、

しかも普通に敵と戦えるレベルになってんだが、その仕組みは分かるか?」


寛人は彰たち後発組が戦いにすぐ順応出来ていたことが少し気になって、純に尋ねてみた。

純は少し考えて答えた。


「ゲームでよくあるのは、メンバーの誰かが敵を倒すと、他のメンバーにも多少成長したり、

あとは単純に行動すること自体で経験値が増えたりすることはある。」

「じゃあ生き抜くために行動してたことは無駄じゃなかったんだな。」

「そうだと思いたいね。」


純の仮定を聞いて、聖也は少し嬉しくなった。


「昨日の栄養食って今日もあるか?あれ凄く効いた。」

「それは良かった。毎回必要になると思って、一人二個ずつ用意してます。

万能薬はまだ完成してないので、解毒剤を持っていったください。

毒以外にもマヒや混乱にも効くと説明には書いてあるので。」


聖也が昨日の栄養食をお願いすると、すでに準備をしていた純は、

栄養食と解毒剤が詰められた箱を寛人たちに見せた。


「あと盾や回復役のために攻撃用の道具を用意してほしい。

昨日勇樹がダイナマイトを持ってきてくれていた。」

「勇樹くん、そんなの作ってたんだ。万能薬の研究と同時に使える道具がないか探しておきます。」


勇樹がダイナマイトを作っていたことは、純は知らなかったらしい。

純と話が終わると寛人と聖也は合成装置の部屋を後にし、階段付近で話をしていた。


「純に道具を作ってもらうはいいけど、どうやって持たせるんだ?」

「物を入れる場所はポケットぐらいしかないからなぁ。」

「ちょっと武器庫でいいものないか探してみようぜ。」

「そうだな。」


聖也に誘われて寛人は武器庫に向かった。

階段を降りていると下から将文が上がって来ていた。


「将文、今暇か?」

「暇だよ。」

「武器庫で探し物するから手伝ってくれ。」

「分かった。」


聖也のお願いを将文は承諾し、三人で武器庫に入った。

武器庫には初期性能の装備品しか置いていないので、最初に装備品を手にしてからは、

街の店の方が品揃えが良いので、入ることはなかった。


「携帯品を持ち歩くのに便利な物がないか探してみよう。」


寛人の指示を皮切りに三人は武器庫の中を探索した。

武器庫内はコンビニぐらいの広さなので、目当てのものは簡単に見つかり、聖也が声を上げた。


「これいいんじゃないか?」


聖也のもとに二人が近づくと、聖也はポーチの様なものを手にしていた。

そのポーチはベルトが付いて腰に装着することができ、両サイドの二個ずつ袋のようなものが付いていた。


「これなら動きを制限されることは少なそうだから、大丈夫そうだな。」


寛人も確認して問題なさそうだったので、三人は部屋を出ようとすると、

鎧を見て聖也が二人を止めた。


「最初はあの鎧着て全く動けなかったけど、今ならいけるんじゃないか。

寛人も将文も着てみようぜ。」


聖也に促されて、みんなで鎧一式を身に着けてみた。


「着ることはできたが、これだと少し動きづらいな。」


鎧を着て寛人が剣を振る動きをとってみると、大体の動きは問題なさそうだったが、

細かい部分でぎこちなさが現れた。

このぎこちなさは戦いでは大きなマイナスになると感じた。


「僕は、すごく防御力が上がった気がするから、今日はこれで出てみるよ。」

「盾にはちょうどいいかもしれないな。」


三人は鎧を脱ぐと寛人と聖也は元に戻し、将文の鎧を持って部屋に戻った。

そのまま夕食の時間になるまで部屋で休んでいると、千佳から連絡が入ったので、休憩所へ向かった。


「彰たちは何してたんだ?」

「男子数名連れて、鉱石拾いに行ってた。だいぶ集まったぜ。」

「そりゃ良かった。」

「飯の後に純が防具の改良してくれるから楽しみだ。」


聖也と彰が話していると夕食の準備が整い、みんなが席に着いた。

そのタイミングで寛人が立ち上がった。


「夕食の後にみんなに話がある。片付けが終わったら集まってくれ。」

「僕からも、食事の後にみんなの装備の改良をするから、装備一式あとで合成装置の部屋に持ってきてほしい。」

「じゃあ装備の改良が終わった人からここに集まってくれ。」


寛人と純の報知が終わると、夕食が始まった。


「あの話をするのか。」

「もう話しておかないと、遅くなるごとに可能性が下がっていく。」


夕食が終わると、みんな言われた通り装備を合成装置の部屋に持っていき改良を済ませ、

再び休憩所に座って寛人の話を待った。

みんなが集まったところで、寛人が今日マーティンから聞いた話をみんなに話した。


「…というわけで、元の世界に戻るためには覚醒がキーになっている。

今はまだ覚醒の条件は分からないが、戦うことが今のところ一番の近道になっている。

最終決戦がいつになるか分からないが、少しでも多く戦いに出てその機会を増やして欲しい。」


寛人の話に一同どよめいた。当然まだ覚醒できていないものには焦りがあった。


「今日すぐにとは言わないが、みんな覚悟を決めて欲しい。俺からは以上だ。」


その後も各々でどうするのか話し合いをしてしていた。

最終的には純・寿葉・菫・梓紗以外の生徒は参加することにした。

灰島はあの夜以降ほぼ部屋に籠っており、伊丹は相変わらず中島の世話をしていた。

三人には菊池から話をしたが、誰も参加はしなかった。


「純は行かないのか?」

「僕は今の研究を終わらせてから行くことにする。もうすぐだから。」

「分かった。期待してる。」


参加する21名のメンバーは砦に向かった。

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