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グレースネヘス  作者: たつG
12/41

12 4日目:和解の始まり

12 4日目:和解の始まり


―3日目の戦い終了2時間前<スウェイトル湖>の省吾―


「(くそっ、何でこんなところに魔物が現れるんだ。)」


寛人と言い合いをした後、省吾は湖まで来ていた。

1時間もしたら洞窟に変える予定であったが、畔で星空を見ながら転寝をしてしまった。

物音に気付いて起き上がると、対面に2体の仮面の幽霊が見えた。

仮面の幽霊は省吾を見つけた様子ではないが、湖の上を移動してきたので、咄嗟に木の後ろに隠れた。


「(レーダーの中にいるから、転移も出来ねぇ。あいつらがどっかに行くのを待つしかねぇ。)」


省吾はレーダで敵の位置を確認しながら、息を殺していた。

仮面の幽霊は省吾に気づかないまま、その内レーダーの範囲内から消えた。


「(今のうちだ、洞窟に戻るぞ。)」


その隙に洞窟に転移しようとしたら、森の中から男性の悲鳴が聞こえた。

省吾が木の陰からのぞき込むと、遠くの方で漁師たちが魔物に襲われていた。

この湖は魚介類が豊富に取れるため、漁師たちが網を仕掛けに来ていたのだ。


「(なんだよあいつら。武器も防具も装備してないし、今は助かることが優先だ。)」


省吾は漁師たちを見捨てて逃げようとしたが、その時昔父親に言われた言葉が頭を過った。


~「お前では咲田くんのように強くなれん。お前は心が成長していない。

勝てないとわかると諦める癖がついてしまっている。だからお前では勝てないのだ。」

「咲田くんのような後継ぎがいれば安心できるのだが。」~


中学の終わりに寛人に剣道で勝てないことを嘆いていた省吾に父親が放った言葉だ。

この言葉を言われて以降父親とは疎遠で、寛人を敵視するようになった。


「(心の成長って何だよ、ダメだとわかったら逃げちゃダメなのかよ!)」


あの日の父の言葉と寛人に勝てなかった悔しさがフラッシュバックした。

居た堪れなくなった省吾は、気付いたら落ちていた石を拾って、敵の近くへ駆け出していた。


「こうなったら自棄だ!仮面野郎俺が相手だ!」


省吾は仮面の幽霊に石をぶつけた。敵は標的を省吾に切り替え、向かってきた。


「(飛び出したはいいもののどうする。せめて武器がないと…。)」


省吾が見回すと、漁師たちが網を打ち付ける杭が目に入った。


「おい、そこの漁師!杭をこっちに投げてくれ!」


漁師は分かったとジェスチャーすると杭を投げた。

杭は省吾の元まで届かなかったので、省吾は敵の攻撃をかわしながら杭を拾いに行った。


「(前は動けなかったが、今は敵の攻撃が躱せる。)」


杭を拾った省吾は剣道の構えで仮面の幽霊に対峙した。

敵の攻撃は単調だが、1体の攻撃をかわしても次の攻撃が来るので、躱す事で精一杯だった。


「(やっぱりだめだ。ここまで来ても手が出せない。)」


ピンチを脱する一手が見つけられない省吾は次第に心が折れ始めていた。


~「だからお前では勝てないのだ。」~

「いや俺はか勝つ!勝って親父を認めさせるんだ!」


覚悟を決めた省吾は、仕掛けてきた仮面の幽霊に対し、仮面に突きを食らわせた。

杭では攻撃力が低くコア破壊には至らなかったが、貫いたコアに省吾の手からエネルギーのようなものが注がれていった。

後ろからは2体目の攻撃が繰り出されていた。


「もう避けられないが、満足だ。」


2発目を防げないと分かったが、一歩を踏み出せたことに省吾は満足げな表情だった。

その時、コアにエネルギーを注がれた仮面の幽霊がその攻撃を防ぎ、もう1体の敵を倒した。

省吾にも例の通知が届いた。

省吾は通知を確認すると、残った1体を消滅させた。



―<ウィザの洞窟>の寛人たち―


「今日はよく頑張ってくれた。今夜からはもっと過酷な戦いになる。しっかり休んで…。」

「お前もう、ザ・隊長って感じだな。」

「いいから、しっかり休めよ。」


みんなを励ます寛人を聖也が少しいじった。寛人は少し照れ臭そうにした。

一同は中央の部屋で解散し、各々の部屋に戻っていった。

寛人は省吾の事が気になっていたが、休憩の方が優先だったので、そのまま眠りについた。



―3時間後<ウィザの洞窟>の純たち―


「五人にお願いがあります。湖の先に<ベルガル鉱山>というのがあります。

そこの採掘場に行って、鉱石をいくつか採集してもらいたのです。」


純は朝食の後に竜輝・翔太・実久・翠・深琴を集めて、鉱石採集の依頼をした。

前日に寛人から渡された鉱石の図鑑を読み、湖の近くの鉱山に合成できるかもしれない鉱石がいくつかあることを突き止めていた。


「何で俺がそんなことしなきゃいけねんだよ。」


純の依頼に竜輝は嫌そうな顔をしたが、他も同じで率先してやろうと言う者はいなかった。


「他のみんなは戦ったり、生活の基盤を作ったり…。」

「あぁ!」


キレる竜輝に恐縮して、純はぼそぼそと口にしたが、それに対して竜輝がさらに息巻いた。


「みんな…。みんな生き抜くのに頑張っているのに、傳馬くんは何もしてないじゃないか!

いきってるだけで、何もしない、何もできない傳馬くんに手を焼いてるんだ!」


純は顔を真っ赤にしながら竜輝に対して声を荒げていった。

他の作業をしていた女子たちも白い目で竜輝を見ていた。


「ふざけんな、このオタク野郎が!」

「止めなよ竜輝!もういいから行こう。」


キレた竜輝が純を殴りかかろうとしたのを実久が制止した。

他の三人にも今は仕方ないから従おうと打診し、五人は鉱山へと向かった。


「猪瀬くんありがとう。こっちもスカッとした。」

「傳馬くん怖いから、私たちからは何も言えなくて。」


五人が出ていった後に寿葉と菫が純の所に来てお礼を言った。

寿葉は純と同じ文芸部で、部の女子メンバーで同人サークル活動をしている。

菫は将文と同じ柔道部で、普段は明るいぽっちゃり系女子だが、魔物にやられて以降、大人しくなった。


「梓紗もそう思うでしょ。」

「私は…。その…どっちでも。」


寿葉は素材を倉庫へ運んでいた梓紗に同意を求めた。

梓紗はあまり興味がなさそうな感じで返答をした。

梓紗は晴花と同じバレー部で、背が高いが大人しくあまり目立たない。


「みんなには万能薬と栄養食のストックを作っていくから、手伝ってほしい。」

「それぐらいは任せて。」


純は寿葉・菫・梓紗の三人に必需品の生産を行うための手伝いを依頼し、三人は快諾した。

純は素材の分量を量って合成装置で作成していき、寿葉は出来上がった生成物の整理と保管をしていた。菫と梓紗は純に言われた素材を集めに街や洞窟周辺の探索をしていた。


―<ベルガル鉱山>の竜輝たち―


「マジで鉱山あるんだな。」

「中暗くて怖いんだけど。」

「たいまつあるし大丈夫だろ。それより早く集めて帰ろうぜ。」


湖を西の方へ10分歩いたところに<ベルガル鉱山>があった。

鉱山から漂う暗い雰囲気に竜輝と翔太は臆することはなかったが、

女子たちは妙な雰囲気に若干の恐怖を感じていた。


「お前らも早くいくぞ。」

「竜輝。ちょっと待ってよ。」


実久たちは洞窟に入るのをためらっていたが、竜輝と翔太がガンガン進んでいくので、

覚悟を決めて採掘場の中へ進んでいった。

採掘場の中は薄暗く、たいまつの光がないとお互いの顔も認識できないほどだった。

道幅はそれなりに広く、横三人が並んでも余裕なぐらいの幅があった。

入り口付近は狩りつくされていたようで、鉱石らしいものを見当たらなかった。


「なんもねぇ。奥行くか。」

「ちょっと待ってよ。奥不気味すぎ。」


採掘場の奥は光が全く届かないので、真っ暗だった。

竜輝たちの話声以外は風が通り抜ける音しか聞こえなかった。


「めんどくせえ。俺は行くから怖けりゃそこで待っとけ。」


実久の言葉を尻目に竜輝は翔太と共に奥に進んでいった。

女子たちは躊躇ってその場にとどまった。


「うわー!」


竜輝たちのたいまつが見えなくなって数分のちに、採掘場の奥から翔太の叫び声が聞こえた。


「竜輝、どうしたの!竜輝、返事して!」


実久は叫んだが、竜輝の反応は全くなかった。

実久は立ち上がり声がした方へ走ろうとしたが、後ろから翠が手を掴んだ。


「実久どこ行くの?私たちが言っても無駄だよ。」

「翠の言う通りだよ。戻ろ?」

「私は行くから!」


実久は翠に掴れた手を振り払って採掘場の奥へと走っていった。

途中まで進むと、横道から突然武器を持った醜い小人が現れた。

昨夜の戦いで南東に勢力を伸ばした魔物のうち、はぐれた者が<シアタ>の光を避けるためにこの洞窟に逃げ込んでいた。

実久は絶叫し、その場に腰を抜かしてへたり込んだ。

小人は動けなくなった実久を手に持った武器で攻撃しようとした。

実久は咄嗟に盾で防いだが、2匹目が後ろから現れた。


「てめえら鬱陶しいんだよ!」


実久の叫びに竜輝が駆けつけ、小人を後ろから鎚で殴打した。

よく見ると竜輝もけがを負って、その後ろには翔太が足を引き摺って付いて来ていた。


「実久大丈夫か、俺たちも突然襲われた。」

「竜輝後ろ!」


先ほど殴打した小人が立ち上がって、後ろから竜輝に飛び掛かっていた。

実久の叫びに間に合わず、竜輝は頭を殴られその場に倒れた。


「(純の言う通り俺には何も出来ねえのかな。周りに虚勢だけ張って、反発だけして…。

そう言えばあの時もそうだったな。)」


竜輝は2年の初めに野球部の先輩に暴力を振るった時のことを思い出していた。


「(あの時も見た目だけで、野球の実力がないと笑われたことにカッとなって、殴ったけど、

言い返すことができなかったから、完全に八つ当たりだった。)」


竜輝は諦めて立ち上がろうともせず、実久の方を見つめると、

実久は必死に小人たちの攻撃を盾で防ぎながら竜輝に声を掛け続けていた。


「お願い竜輝起きて、目を覚まして!」


竜輝は落ちた鎚を握りなおして立ち上がった。

実久を襲っていた小人2体を思いっきり殴打し、吹き飛ばした。

2体は立ち上がり竜輝の方へ向かってきた。


「お前ら図に乗んなよ!」


竜輝が鎚をバットのように構えると先端が熱せられたように赤くなった。

そのまま向かってきた小人に対してフルスイングをすると、殴打点で爆発した。

その勢いで小人2体は消滅した。だが、竜輝も意識を失って倒れた。

後方で様子を見ていた翔太が竜輝の肩を担ぐと、実久は反対の肩を担いで入り口の方に向かった。

負傷者2名の状態では進むのもやっとで、後ろからの小人の援軍にすぐ追いつかれた。


「翔太、竜輝を頼む。私が盾で時間を稼ぐ。」

「置いて行けるか!」


翔太の声と同時に竜輝が実久の肩を掴んだ。


「降ろせ。今なら何でも倒せそうだ。」

「私も同じ。今なら何でも守れそう。」


そう言って実久が盾を構えると周りに落ちていた物質が実久の下へ集まり、壁のように形成されていった。

竜輝はその壁を乗り越え小人たちのなかで暴れまくった。

翔太は壁の後ろで竜輝の援護をした。

やがて小人たちは全滅したので、実久が盾を下すと壁も崩れていった。


「この石って…。」


崩れた壁の中から翔太が鉱石を見つけた。

更に探ると袋一杯の鉱石が集まり、すぐに洞窟に転送した。


「これ怪我の功名ってやつか。」


竜輝は笑いながら翔太と実久に言った。二人も笑った。

三人は揃って翠と深琴の元に戻った。二人は怪我をして戻ってきた三人を見て驚いた。


「実久どうしたんだよその怪我!」

「もう終わったからいいんだよ。」

「竜輝と翔太もボロボロじゃん。」

「いった。触んなよ。」

「翠と深琴は翔太を頼んだ。私はこいつを連れていく。」


実久は二人にアイコンタクトを送った。

二人ともそのアイコンタクトに気づき、ニヤニヤしながら快諾した。


「了解。洞窟で待ってるからあまり遅くなるなよ。」


翔太を預かると翠と深琴は洞窟へ転移した。


「なんだあいつら。俺たちも戻るぞ。」

「…ちょっと待って。」


洞窟へ転移しようとした竜輝を実久が引き留めた。

少し躊躇ってから覚悟を決め、竜輝に胸の内を開けた。


「ずっと…、ずっと竜輝のことが好きだった。」

「なんだよ、いきなり」

「1年の時に先輩に絡まれてたところを助けてもらった時からずっと見てた。

竜輝が先輩を殴って退部になった後も隠れてバットを振り続けてたのも見てた。」

「おまっ、見てたのかよ。」

「でもずっと言えなくて、こんな状況になって、いつ最後になるか分からないと思うと、

今度はこの気持ちが不安に埋もれていった…。

でもさっきまた助けられた時に、絶対に伝えたいと思った。

竜輝、好きです!この世界の中だけでもいいから、ずっと一緒にいて!」


実久の告白を聞いた竜輝は、そっと実久に近づいて、実久をやさしく抱いた。

そして実久の耳元に口を近づけて伝えた。


「絶対に元の世界に戻って、これからも一緒に思い出を残すぞ。」


実久は竜輝の胸の中で涙を流した。

少し時間がたって実久が泣き止むと、二人は洞窟へ転移した。

洞窟に戻ると戦闘組も起きていて、心配した彰が竜輝に近づいた。


「魔物が出たらしいな、遅いから心配したぞ。」

「彰。俺も今夜から戦いに出る。」

「いきなりどうしたんだ。」

「元の世界に戻る理由が増えた。」

「そうか。俺たちはいつでも歓迎だぞ。」


彰と竜輝は拳を合わせた。

その裏で省吾が寛人に歩み寄っていた。


「寛人、話がある。」

「あぁ、俺もお前と話がしたかった。」


二人は洞窟の外へ出ていった。

洞窟近くの日曜大工をしていた広場に着くと、省吾が口を開けた。


「俺は親父の一番を奪ったお前が憎かった。いや今も憎い。

寛人が後継者だったら良かったと言われたことは今でも本当に腹立つ。」

「お前そんなこと言われてたのか。なんかすまん。」

「お前が謝ることじゃない。実際に俺はお前より圧倒的に弱かった…。

でも昨日戦って、何か掴めた気がする。」

「やっぱり、戦ってたのか。」

「寛人、俺も今夜から参加する。」

「あぁ。俺はずっと待ってた。」


寛人がすっと手を伸ばすと、省吾は応じて握手をした。

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