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グレースネヘス  作者: たつG
11/41

11 3日目:死闘の始まり

11 『3日目:死闘の始まり』


二頭の恐竜は森から出たところで立ち止まり、その場で頭を地面に打ち付けていた。

その度に軽い地響きが発生した。

寛人たちが蝙蝠の火球から逃げ回っていると、マルギットが第17番隊を引き連れてきた。


「お前たち大丈夫か!一旦戻って来い!体勢を立て直せ!

盾部隊防御を展開しろ!弓部隊その後ろに構え!…打て!」


逃げ回るので精一杯だった寛人たちはマルギットの近くまで後退した。


「隊長あの敵は。」

「あれが砦で話した<イーボ>だ。

魔王の守護獣の使い魔のような存在で、その中の火の守護獣<レピーコア>の<イーボ>だ。

1体で一個中隊に相当すると言われているのが、2体も同時に。」


その時彰から連絡が入った。


「寛人すまん、やられてしまった。今どこにいる。」

「今マルギット隊長と合流して蝙蝠の事を聞いていた。」

「分かった。すぐに向かう。」


連絡が入って数分で彰たちと合流した。

蝙蝠の攻撃は盾部隊が何とか耐えているが、いつ崩壊してもおかしくないぐらいの猛攻だった。


「とりあえず飛ばれていると厄介だ。どっちでもいいから羽を落とそう。」

「分かった。俺のスキルで右を狙うから、寛人は左を狙ってくれ。」

「次の隊長の号令に合わせて撃つぞ。」


寛人と聖也は武器を構えて、隊長の号令と共にスキルを放った。

だが、寛人の斬撃は躱され、聖也の必中の矢は当たったが部位破壊には至らなかった。


「俺のスキルが躱された。」

「無駄玉は止めとけ。頭の触角で空気の流れを察知するから、単純な攻撃は躱される。

こっちは数で対抗しているが、当たって数発だから消耗戦になる。」


マルギットが寛人に教示した。

だがそうなると、聖也の攻撃だけが頼りになるが、威力が足りない。


「(どうする。こう状態だと全滅の可能性もある。)」


打開策が見えず悩んでいた寛人の下に、勇樹がやってきた。


「咲田くんこれは使えないかな?」


そう言って勇樹はダイナマイトを差し出した。


「勇樹これは?」

「回復だけでは心許無いから、合成装置で作ってました。」

「(聖也の矢に取り付けられればあるいは…)勇樹、ありがたく貰っておくよ。」


寛人は勇樹からダイナマイトとマッチを預かると聖也の近くへ行った。


「聖也。これを矢に付けることはできないか?」

「これってダイナマイトじゃん!」

「勇樹が合成装置で作ってた。」

「そうか。試してみる。」


聖也が弓を引いて、具現化した矢に寛人がダイナマイトを付けようとしたが、

実体がないので取り付けることは不可能だった。

あーだこーだやっているとこに秀吉がやってきた。


「これ俺に貸してくれないか?」

「どうすんだ秀吉?」

「俺のスキルで吹っ飛ばして、物は当たんなくても、爆発でどうにかならないかと。」

「…やってみる価値はありそうだ。」


秀吉はに火を付けると、蝙蝠目掛けて打ち放った。

ダイナマイトは分裂していき蝙蝠の目の前で爆発した。

爆発は羽でガードされたが、蝙蝠の動きは数秒止まり、爆風で空気の流れが乱れ、

王国軍の矢をまともに食らっていた。


「よし!秀吉、もう一発イケるか?」

「次が4回目だから、あとは任せる。」

「任せろ!合図をしたら打ってくれ!」


寛人はそう言うと集中をはじめ、自分のタイミングで秀吉に合図を送った。

合図を確認した秀吉はさっきと同じようにダイナマイトを打ち放ってその場に倒れた。

寛人は蝙蝠が爆発をガードするために羽を動かした瞬間を見計らって、斬撃を飛ばした。

爆発をガードした右翼に寛人の斬撃がヒットし、羽を破壊した。

蝙蝠はその場に落ちていった。


「よしっ!片翼を潰した!これで飛行は防いだ。」


蝙蝠が落ちるのを確認したマルギットが一斉攻撃の合図を出したが、その瞬間、

蝙蝠がこちらに向かって叫ぶような仕草をすると、音は聞こえないが体が硬直した。

硬直はすぐ解けたが、すでに蝙蝠は発射体制を整えて、こちらに時速100キロぐらいの速さで体当たりしてきた。

これには盾部隊も耐え切れずに吹き飛ばされ、後ろで構えていたメンバーも吹き飛ばされた。


「…みんな…大丈夫か。」


辛うじて寛人は耐えたが、他は反応が薄く、気絶をしていた。

その後も蝙蝠は後ろに跳ねて戻ると、火球を飛ばしてきた。

それには盾も間に合わず、王国軍にも寛人たちにも被害が出た。

耐え抜いた弓部隊が再び蝙蝠への攻撃を始めたが、

地面に這っている状態でも、触角が健全のため、蝙蝠は躱していった。


「(ダメだ、防ごうと思っても叫びにやられ、攻めても触角で躱される…)」


寛人が項垂れていると、蝙蝠はまた叫んだ。

盾で火球をガードしていた将文と大輔は耐え切れず盾を落とした。

その後ろには女子たちが恐怖でしゃがんでいた。

蝙蝠はそちらをロックオンすると体制を整えていった。


「避けろ!そっちに行くぞ!」


蝙蝠の体制に気づいた寛人が女子たちに叫んだ。

すると楓がおもむろに立ち上がり、蝙蝠に向かって槍を構えた。


「(千佳ちゃんのように諦めないで戦い抜こうと決めて、勇気を出して参加したのに、

また何もできないまま、誰も守れないまま…。)もうそんなのは嫌だー!」


楓は叫ぶと向かって来ていた蝙蝠に対して、目を瞑って思い切り槍を突き刺そうとしたが、

蝙蝠に届く前に地面に刺さった。

だが、楓が目をゆっくり開けると、周りの動きがスローモーションになり、

蝙蝠の頭がゆっくりと近づいて来ていた。楓はその光景をぼんやりと眺めていた。


「琉堂!触角を斬れ!」


寛人の叫びで、楓は我に戻り、槍を抜くと触角を斬り落とした。

その瞬間スローモーションは解け、蝙蝠は体勢を崩して楓たちの横の地面を滑っていった。

一同突然の出来事に呆然としていたが、寛人は立ち上がると琉堂に近づいていった。


「よくやったな。琉堂。」


寛人が楓の肩を叩くと楓は安心して涙を流した。

蝙蝠は起き上がろうとしていたが、彰はそれを見逃さず、残った羽に槍を投げつけ、地面と張り付けた。

彰も4発目を放ったのでその場に倒れこんだ。


「後は頼んだぞ!」

「任せろ!」


彰の叫びに寛人は答えた。


「動ける者は武器を持て!やつにとどめを刺す!」


寛人は声を掛けると、雄たけびを上げ蝙蝠に近づいた。

楓と共に盾の後ろにいた晴花、玲奈、胡桃も寛人に続いた。

更にその後ろを王国軍の兵士数名が続いて行き、藻掻く蝙蝠に一斉にとどめを刺した。

蝙蝠は断末魔の叫びを上げ、消滅していった。

兵士一同勝ち鬨を上げ、その勝利の余韻に浸った。


「今回はお前たちに助けられた。」


マルギットは寛人にすっと手を伸ばした。

寛人もそれに応え、手を掴み握手をした。


「私たちだけの成果ではありません。

王国軍の人が守ってくれたから落ち着いて考えることができました。

本当に感謝しています。」

「次の敵が向かってくるまでは、ここで待機だ。ブライト様の方も<イーボ>を倒したようだ。」


二頭の恐竜の方を見ると、地面に伏せ、次第に消滅していった。

<イーボ>2体が消滅したことで、森もかなり静かになった。

寛人たちは一旦集まり、けが人を千佳と勇樹が治療した。

動けないままの彰と秀吉は盾ペアが運んできた。


「マジで動けねぇ。指動かすのがやっとだわ。」

「それは大変そうだね。」


動けない彰を美郷がツンツンして、それに対して彰が「止めろって」と笑いながら二人でじゃれ合ってた。


「楓さっきのすごかったね。私感動したよ。」

「必死だったからあまり覚えてないけど、胸のつっかえが取れたみたいだった。」


称賛する玲奈に、楓は恥ずかしそうに答えた。


「終わりまでまだあるけど、純がくれた栄養食でも食べるか。」

「賛成ー。私お腹減ってきた。」


寛人の提案に千佳が一番に飛びついた。

荷台に置いていた純から受け取った袋を取りに行って開けてみると、

中には親指ぐらいの大きさの焼き菓子が入っていた。

1人ちょうど2個ずつあったので、全員に配るとみんなで一斉に食べた。


「…これすごく美味しい。」

「栄養食だって言ってたから、あまり期待はしていなかったが、なかなかいける。」


その焼き菓子は、蜂蜜のような甘さと柑橘系のさわやかさが口に広がり、

疲れが吹き飛んでいくようだった。


「すげー…。普通に体が動く。」


さっきまで指を動かすのがやっとだった彰が立ち上がった。


「もしかして、スキル使用回数が回復したのか?」

「…いや。ゼロのまんまだ。」


寛人に言われて彰が確認したが、手のマークは変わっていなかった。

気分だけでなく実際に体力回復の効果があったが、スキルの使用回数は変わらなかった。


「それでも全く動けなくなるよりはかなりいい。」


焼き菓子の効果に感動していると、ブライトが寛人たちの下に来た。


「ブライトさん。」


聖也の言葉を聞いて、みんなブライトの方を向いて起立した。


「君たちが火の<イーボ>討伐の立役者らしいな。

聞いていた通り、<ウィザラー>は闘いのセンスがいいのだな。」


ブライトは寛人たちの健闘を褒め称えた。

そのあとブライトは息を入れて、話を続けた。


「…聞いていると思うが、英雄といて担がれていた一人、アンドリューが重傷を負った。

彼は数日は戦場に戻ってこれまい。だが、今回の戦において彼の穴は大きすぎる。

それと今回の戦いで、各隊に多大な被害が出ている。

…そこでお前たちのセンスを見込んで頼みがある。アンドリューの代わりに最前線で戦ってほしい。」


ブライトは頭を下げ、寛人たちにお願いをした。

突然のことにみんな騒然としていた。


「ブライトさん、頭を上げてください。私たちに英雄の代わりなんてできません。

まだ戦闘もこの世界の知識も乏しいし、王国軍の兵士たちをまとめ上げることもできません。」

「知識については指南役を付けよう。それと王国軍のことは気にしなくていい。

君たちは君たちの仲間だけで好きにしてくれればいい。」


寛人はブライトの提案を断ったが、ブライトは食い下がった。

寛人が答えに悩んでいると、聖也が後ろから肩を叩いた。


「最前線で好きに戦えばいいのなら、今までと変わらない。

それに俺たちは魔王を足すだけの力が必要なんだ。遅かれ早かれこうなる。」

「私たちも覚悟は決まってるよ。」


聖也と千佳の言葉に背中を押されたように、一同覚悟の眼差しで寛人を見つめた。


「(聖也の言う通り、俺たちには魔王を倒す力が必要なんだ。これぐらいの壁は越えないと…。)

分かった。ブライトさん、その依頼引き受けます。」

「ありがたい。本当に助かる。」


寛人とブライトは握手を交わした。


「それで指南役っていうのは。」

「それなら明日の昼にでも砦の私の下に来ればいい。

前回の魔王討伐戦に参加していた者が今の参謀を務めているので紹介する。」


ブライトはそう告げると寛人たちの下を立ち去って行った。

ブライトと入れ替わるようにマルギットがやって来た。


「話は聞いた。最前線に出るんだな。」

「はいっ。」

「ならもうお前とは言えないな。」

「そこは今まで通りでいいですよ。」

「ならいい。では第17番隊は砦の防衛のため帰還することになった。

お前たちと急いで戻るように。以上だ。」


寛人は再び乗ってきた荷台に乗り込み、馬車は砦に戻っていった。

荷台で寛人と聖也は覚醒について話した。


「今回の戦いでは琉堂しか覚醒しなかった。」

「やっぱり戦場に出たら必ず覚醒するわけじゃないんだな。

それと妙なことに省吾が覚醒してんだ。」

「省吾が?」


彰に言われて省吾のステータスを確認すると、省吾に覚醒スキルが表示されていた。


「あいついったい何を。」

「戻ったら話聞こうぜ。」


話をしているうちに砦に到着し、寛人たちは元々いた塁壁の上に戻った。

前日までは森の中で戦っていたため気付かなかったが、

西の空が明るくなってくると角笛の音が鳴り、鳴りやむころに朝の光が差し込んできた。

こちらの世界で初めて見る日の出だった。

誰に言われることなく、みんな日の出にくぎ付けだった。


〔寛人RP9〕

〔聖也RP14〕

〔将文RP15〕

〔彰・秀吉RP16〕

〔美郷・菊池RP17〕

〔千佳・晴花・楓・玲奈・胡桃・大輔RP18〕

〔勇樹・巧太RP19〕

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