10 3日目:防衛戦の始まり
10 『3日目:防衛戦の始まり』
砦に着いた寛人たちはテントの前で今日の作戦についての説明を待っていた。
マルギットが現れれると、早速説明を始めた。
「本日は<アイグネル草原>の中間地点到達が目標である。
だが今回は1番隊~12番隊が進行し、我々は後方支援を任された。
具体的に、14,16,18番隊は<ハンデウィーズ森林>、13,15<フェルベル丘>、
我々17番隊はここ<オベルウィンク砦>での待機となる。
砦内の配置については小隊ごとに位置を記した図をテント前に張っているので、
各自確認すること!以上だ。」
「ウィー!」
寛人と聖也で早速配置図を見に行った。
「俺たちは…北西の壁に<ウィザラー>ってあるから、ここだな。」
聖也が地図を配置図を指でなぞっているとすぐに見つかった。
「壁の上か。見晴らし良さそうだな。」
「魔物を見つけたらいつでも飛んでいけるな。」
そんなことを話していると、後ろから別の小隊の兵士がやってきた。
「お前たち待機は初めてだよな。
ここまで敵が来ることはまずないから、今日は休息日だと思えばいい。
安心しろ、警備代として多少の報酬は出る。」
「分かりました。」
寛人が挨拶をすると、その兵士は自分の持ち場を確認し、戻っていった。
寛人たちもみんなの元に戻り、寛人が自分たちの配置を説明した。
「俺たちの配置は北西の壁だった。付いて来てくれ。」
寛人について行き、一同は塁壁の上まで登っていった。
塁壁の上からは<フェルベル丘>の頂上まで見渡すことができ、
ロケーションはかなり良かった。
「凄い綺麗だね。」
「こっちの世界に来て一番感動したかも。」
女子たちは景色を見てはしゃいでいた。
砲台が等間隔で並んでいて、男子はそっちに夢中だった。
気を取り直して、寛人は全員を集めて話をした。
「さっき他の兵士にここまで攻められることはないから、休息日だと思えばいいと言われたけど、
念のため三人交代で監視する。」
組み合わせは、適当にあみだくじをし、
寛人・勇樹・晴花組、聖也・大輔・美郷組、将文・巧太・菊池組、彰・千佳・胡桃組、秀吉・楓・玲奈組に決まった。
ルールはそれぞれが30分ずつ見張りを行い、あとのメンバーは壁上で自由に過ごすと決めた。
「あとは戦闘になった場合、さすがに15人全員に指示をするのは難しいから、
二チームに分ける。これは色々踏まえてきっちり決めるから、聖也と彰集まってくれ。
まずは秀吉たちが見張りを頼む。その後は先生たちで頼みます。」
秀吉チームは了承し、塀から外を見張った。
寛人と聖也と彰は集まって、チーム分けについて話し合った。
「まず昨日戦った八人については経緯とか相性を考えて、
俺・聖也・将文・千佳と彰・秀吉・美郷・先生で分かれればいいと思う。」
「俺もそれでいい。」
「じゃあこっちのチームは俺がリーダーか。」
「元より俺より彰の方がリーダーに向いてるとずっと思ってる。」
「今の状況ではお前が一番だと思う。」
寛人は普段のクラスの様子を考えて、彰がリーダーが良いと常々考えていたが、
聖也と彰は今は戦闘経験やポテンシャル的なものが大事だと考えていた。
「じゃあ残りの七人だけど…。」
「こっちのチーム、回復役と盾がいないから、勇樹と大輔はこっちに欲しい。」
「そうだな。こっちも近距離が寛人だけだから、…って思ったけど女子は全員近距離か。」
「女子は部屋分けと同じように、琉堂と赤司がこっちで、篠宮と橘をそっちにするか。」
「なんか丁度武器もばらけたな。」
「あとは巧太はこっちの方が少ないから俺たちのチームで。」
「意外とあっさり決まったな。」
見張りが将文チームに代わる前にチーム分けが決まった。
メンバーを招集して、チーム分けを発表した。
聖也は同じ弓使いの巧太に話しかけた。
「巧太よろしくな。弓の事で分かんなければ聞いてくれ。」
「乾くんよろしく。」
巧太は笑顔で答えた。
「寛人は楓と玲奈にやさしくしろよ。」
千佳が冗談っぽく寛人にくぎ刺した。
「分かってる。琉堂と赤司、俺がフォローするから、思いっきり戦えばいい。」
「はい。」「よろしくね咲田くん。」
寛人は楓と玲奈に挨拶し、二人は返事をした。
チーム内でのあいさつが終わったところで、将文チームに見張りが交代となった。
その後何事も起きることなく、5番目の寛人チームの見張りになった。
「咲田くん。こうやって話すの久しぶりだね。」
見張りを始めてすぐ晴花が寛人に声を掛けた。
「そうだな。」
「高校に入ってから、全然話しかけてくれなくなったし。」
「新しい仲間が増えたし、部活も忙しかったからな。」
少し沈黙が続いた。
「…この前はごめんな。」
「えっ?」
「初日、助けられなかったこと。」
「いいよ。寧ろ助けに来てくれたのすごく嬉しかったよ。」
「コホン。…僕もいますからね。」
「…大丈夫だ。」
二人の話の展開に少し気まずくなった勇樹がアピールをし、
寛人は少し耳を赤くし、何が大丈夫か分からないが大丈夫だと返した。
その後は三人で他愛もない話をしていると、あっという間に30分経ったので、
また秀吉チームに声を掛けた。
「さっきのは本当だから。」
「はっ?」
別れ際、晴花はそう言って寛人が聞き返す間もなく、美郷の方へ行った。
砦の外は静かで、今戦いの最中であることを忘れるぐらいであった。
空は満点の星と<ラテラ>という元の世界にはない大きな星が輝いていた。
寛人たちの番が2週目に入り、少し経ったところで、
丘の方から砦に走ってくる兵士がいることに気づいた。
兵士はそのまま砦の中に入り、中央の建物へ入っていった。
そのあとすぐに隊長の号令がかかった。
「聞け!<アイグネル草原>で<イーボ>が複数体出現し、
不意を突かれアンドリュー様が重傷を負った。
アレクサンドラ様と別部隊で応戦しているが、敵の数が予想以上に多く、
何体かが<ハンデウィーズ森林>に流れ込み、<フェルベル丘>まで到達する可能性がある。
<フェルベル丘>は何としても死守するので、第17番隊は数名を砦に残し、
他はブライト様と共に<フェルベル丘>へ急行する!」
「ウィー!」
寛人たちは防衛隊に組み込まれ、馬車の荷台に乗って、急いで<フェルベル丘>に向かった。
丘の頂上までは10分もかからないうちに到着し、兵士たちは防衛態勢に入った。
寛人たちは隊の一番端に着き、武器を構えた。
<フェルベル丘>は障害物が少ないので、森林との境がよく見えた。
森林からは魔物の頭や飛行している魔物の姿が見え、その姿は徐々に境界付近まで近づいてきた。
まず寛人たちの前に現れたのは仮面の幽霊の集団で、二刀の鎌を持った幽霊が率いてた。
「英水奴の弱点を!」
「分かった。」
寛人の指示に美郷はすぐにスキルを使って弱点を調べた。
その間に秀吉が開幕とともに集めていた手頃な石でスキルを放った。
仮面の幽霊は数体消滅し、先制攻撃として十分な成果だった。
「仮面の後ろとそれぞれの鎌にコアがある。」
調べ終わった美郷は叫んだ。
それを聞いた寛人は鎌の幽霊の仮面に向けて斬撃を放ち、仮面とコアを破壊した。
それに激高した幽霊は鎌を投げてきた。
投げを想定していなかった寛人は咄嗟に剣でガードしたが、弾かれた。
「危ない!伏せろ!」
寛人が叫んだが、間に合わずすぐ後ろにいた楓と玲奈がダメージを負った。
鎌は幽霊の手の元に戻っていき、二発目を投げようとした。
その手を彰が槍を投げ止めたが、もう1体鎌の幽霊が現れ、彰たちの方へ行った。
「二人とも大丈夫?」
「千佳ちゃん大丈夫だよ。」「もう大丈夫。」
治療をしていた千佳の声に二人ともちゃんと答えた。
傷は浅く大事には至ってなかった。
「あの距離から投げられると太刀打ちできない。
俺と将文で一気に近づくから、聖也と巧太は援護を頼む。
琉堂と赤司は千佳の周りで近づいてくる敵をやってくれ。
落ち着いて仮面を狙えばできる。」
メンバーがそれぞれの役割を確認すると、寛人は将文を連れて鎌の仮面に走って近づいた。
体制を直した幽霊は2投目を投げてきたので、それは普通に躱した。
その時、鎌は投げたのではなく、腕が鎖のように伸縮しているようだった。
寛人はその腕を咄嗟に切ったが、実体がなく斬り落とすことができなかった。
幽霊まで攻撃の届く距離まで近づいたところで寛人が将文に聞いた。
「将文、今の攻撃防げるか?」
「やってみる。」
幽霊が3投目を投げてきたところで、聖也は固まっていた方の腕の鎌をスキルで狙い、鎌1つを破壊した。
投げた鎌は将文がガードで弾き、また元の体制に戻っていった。
そのタイミングを狙っていた寛人は、鎌に一撃を加えコアを破壊した。
「やったー!」
後ろで見ていた玲奈が喜んでいると、横から仮面の幽霊が近づいていたが、
それに気づいた聖也が矢を放ち討伐した。
「気を抜くなよ。」
「ごめん。」
咄嗟の聖也のカバーに玲奈は見惚れた。
「私の彼氏に惚れんなよ。」
「大丈夫、先輩の方がまだカッコイイ。」
千佳の冗談に玲奈も冗談で返した。
「玲奈ちゃんまだ来てるよ。」
楓の声で切り替えて、玲奈は再び集中した。
彰たちの方は、彰がスキルを使って両手を封じ、秀吉が凍った鎌を破壊しに近づいていた。
美郷は持ち前の弓の腕で、正確に仮面とコアを破壊していった。
寛人たちの撃破後まもなく、彰たちも鎌の幽霊を撃破した。
それぞれ残った仮面の幽霊を討伐していったが、森の方から何かが飛びあがると、
彰たちの方に火の塊が飛んでいき、成す術もなく数名がやられた。
「なんだ今のは…。」
一瞬のことで呆気に取られた寛人たちが森の方を見ると、
2メートル以上の赤い蝙蝠が羽ばたいており、それは森の方に見えていた飛行物体だった。
更に爆発音とともに地響きがした。
「今度は地震かっ!」
寛人が音がした方を見ると、二頭の恐竜が100メートル近く離れた場所に出現していた。




