01 0日目:始まりの始まり
01 『0日目:始まりの始まり』
「こちらはトンネル落盤事故の現場です。
事故は県境付近の山中で午後五時頃に発生し、全長200のトンネルが全壊したもようです。
トンネル内には修学旅行中の不二見高校の生徒を乗せたバスが生き埋めとなっており、現在も県警の捜査隊が懸命に救出作業を行っております。」
―――――
「ひろ…、ひろ…、…きろ…」
「(…聖也の声、なんか頭がぼーっとする…)」
「ひろと…、寛人起きろ!目覚ませよ!」
「はっ!」
聖也の呼びかけに漸く反応し、寛人は瞬きをした。
「俺どうしてた。」
聖也に問いかけた。
「分かんねぇ。俺もちょっと前に目が覚めたばっかだ。
今ほかのやつも起こしているから、お前も手伝ってくれ。」
寛人と聖也以外にも何名かの生徒が目を覚まし、
周りのクラスメイトを起こしていた。
「どこなんだここは…」
寛人が起きて見渡すと、確かにバスの中ではあるが、
外は白い靄が立ち込めており、
水滴が滴る音だけが聞こえていた。
「あ痛たたっ…、灰島先生…大丈夫ですか…」
副担任の菊池が目を覚まし、
隣に座っていた担任の灰島の肩をそっと揺さぶった。
「…あぁ…大丈夫だ…。それより生徒たちは。」
「今確認します。」
菊池はふらつく体を押さえて、後ろを振り返った。
「みんな大丈夫?」
「はい」「なんとか」「大丈夫です」
菊池の問いに対して、何名かが思い思いに返答した。
「点呼をするから、呼ばれたら返事をして」
「赤司さん」「はい」「乾くん」「はい」「猪瀬くん」「はい」
「英水さん」「はい」「賀来くん」「はい」「金野さん」「はい」
「後藤さん」「はい」「咲田くん」「はい」「篠宮さん」「はい」
「禅野さん」「は~い」「高島くん」「…あっ、はい」「橘さん」「はい」
「珠野くん」「はい」「筑摩くん」「はいっ」「月下さん」「は~い」
「傳馬くん」「うぃ」「新山さん」「はっ、はい」「野上くん」「はい」
「檜山くん」「はい」「馬宮くん」「…はい」「飯塚くん」「はい」
「楽間さん」「はいっ」「琉堂さん」「はい」「渡瀬さん」「は~い」
「みんな無事のようね」
菊池がほっと胸を撫で下ろした束の間、
「中島さん大丈夫ですか!しっかりしてください!」
運転席の方からバスガイドの伊丹の緊迫した声が響いた。
「どうしました!」
菊池が運転席に駆け寄り尋ねると
「運転手の中島が胸を押さえて苦しそうで…、呼吸も弱く返事がないんです…」
伊丹が泣きそうな声で答えた。
伊丹言う通り、中島はとても苦しそうに胸に手を当て、
ハンドルに寄り掛かっていた。
「大変!だれか手を貸して!」
「分かりました」「はいっ」
菊池の呼びかけに前の席に座っていた、
寛人、聖也、千佳、楓が返答し、
5人で中島をバスの通路に移動させた。
「この状態ではバスを発信させることもできない。
一旦外の様子を確認しよう。
ガイドさん扉を開けてもらってよろしいでしょうか。」
「わかりました」
6人の様子を見ていた灰島に声をかけられた伊丹が、
バスの開閉ボタンに手を伸ばした。
その瞬間大きな耳鳴りがし、どこからか声が聞こえてきた。
「闇に迷いし人間の子よ、
汝らに黄泉がえりの試練を与えよう。」
声が消えてすぐにみんなのスマホが一斉になり始めた。
各々が自分のスマホを手に取り、中身を恐る恐る確認した。
「なんだこの画面」
「ホームボタンが反応しない」
「めっちゃキモイし」
みんなが騒ぎ立てているとバスの窓一面がモニターのように切り替わり、
目がクリっとした男の子のマリオネットが現れた。
「やぁ、僕は案内人だよ。
今から黄泉がえり試練の説明をするね。
説明は後からでも確認はできるけど、
これも仕事なのでみんな静かに聞いてね。」
案内人と名乗るマリオネットがそう告げると、
今まで大人しくしていた竜輝が声を上げた。
「いきなりごちゃごちゃうるせんだよ!
それより黄泉がえりってなんだ!
まるで俺たちが死んでるみたいじゃねーか!」
竜輝がそう怒鳴ると案内人は答えた。
「静かに聞いてと言ったんだけどなぁ。(ため息)
まぁ死んでるみたいというか、半分死んでいるというか…」
案内人はやれやれと小ばかにするような顔で話を続けた。
「あなたたちの元の世界では、あなたたちはまだ生き埋めの状態で、
外から見れば半分死んでいて、半分生きているようなもの。
まさにシュレーディンガーの猫のような状態なんだ。」
「…うっ、嘘よ。だって私たち、普通に息しているし、
そっ、それに外は土砂で、埋まっているようにも見えない」
今度は寿葉が泣きそうな声で、案内人の言葉を否定した。
案内人は再びため息をつくと、また小ばかにするような顔で返答した。
「子供というのは本当に五月蠅いなぁ。
仕事だから説明しているのに、こうも話の腰を折られるのなら、
説明はここまでにするよ?」
「待ってください!」
案内人の言葉に対し、菊池がすぐに反応した。
「みんな怖いのは分かる。私もすごく怖いよ。
でも一旦説明を静かに聞こう。
その後にいろいろと確認すればいいから。」
菊池がそう言うと、みんなは口を閉じ、
じっと案内人を見つめた。
「大人の人がいて助かるよ。これで説明に集中できる。
まぁ気付いていると思うけど、ここは君たちがいた世界とは別の世界で、
君たちのコピーみたいなものをこっちの世界に移している状態だよ。」
案内人は楽しそうに説明を始めた。
「まず試練の内容だけど、君たちにはこっちの王国の義勇兵として、
魔王討伐の全面戦争に参加してもらうよ。
そこで魔王の討伐と奪われた賢者の石の奪還することが、君たちの試練だよ。」
戦争と聞き一瞬でみんなの顔が蒼白した。
「安心して、王国軍の方が魔王軍よりもはるかに多いし、
王国軍には英雄といわれる人が何人かいるんだよ。
(けど魔王どころか側近の足元にも及ばないけどね。)
あと君たちも最初は一般兵並みの戦力しかないけど、
うまく成長すれば魔王討伐できるレベルまでいくはずだから。
(まぁ本当にうまくいけばの話だけどな。)
それに君たちにはRP<リバイバルポイント>があり、
20回まで蘇生が可能だから、バンバン強敵に挑んでね。」
案内人がそう言うと、みんなの左手甲に20という数字が浮かび上がった。
「蘇生箇所はこの拠点か各チェックポイントから選ぶことができるよ。
チェックポイントは接近すると自動で追加され、
君たちの端末から確認できるよ。
あとチェックポイントは転移ポイントとして使えるから。
あとRP0で死んじゃうとその人はゲームオーバーで試練終了だよ。
元の世界でも死んだことになるから。
それと残りのRPによっても元の世界に戻った時の損傷率に変化が出るから。」
死という言葉はみんなを激しく動揺させ、
中には泣き出す女子もいた。
「資金は自分たちで工面してね。
とりあえず敵を倒せば、討伐数に応じて王国から報酬が出るから。
それと君たちが持っている端末だけど、
当然元の世界との連絡はとれないけど、
君たち同士の連絡は取れるようになってるから。
さっき言ったチェックポイントの確認だけじゃなく、
あとはみんなの状態確認や百科事典としての機能もあるよ。
それにこの土地の魔力で動いているから、
半永久に使えるようになってるよ。」
スマホを除くとさっきの画面に<マップ>,<ステータス>,<ライブラリ>,
<マニュアル>のボタンが追加されていた。
「おおよその説明はこれで終わりかな。
あとは端末から確認するなり、自分たちで試行錯誤するなり、
頑張って試練を乗り越えてね。
信じれば正しい道に導かれるようになっているから。
最後に君たちにこの言葉を贈るよ。」
そう言って案内人は窓から消え、
代わりに文字が浮かび上がった。
『Bis das letzte Feuer erlischt, Wir werden niemals aufgeben』
「これはドイツ語のようだ。
『最後の 灯が 消えるまで、 我々は 決して 諦めない』」
灰島が冷静に読み上げると、
周りの靄が一気に晴れ、たいまつに一斉に灯がともった。